tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

恒産なくして恒心なし

2019年07月10日 23時12分40秒 | 経済
恒産なくして恒心なし
 「生活の安定がなければ、安定した心は得られない」と教えるこの言葉は、性善説の提唱者孟子の言葉だそうです。
 日本人にはこの言葉はしっくりくるようで、よく使われますが、日本文化は基本的に性善説的だからでしょうか。

 こんなことを書いたのも、最近の日本社会では恒産を持つことが大変難しくなっているように思うからです

 サラリーマン社会で「恒産」にあたる最も大事なのは「安定した職場を得る」ことでしょうが、かつての日本は多くの人にそれが可能でした。
 ピーター・ドラッカーが驚嘆したように、日本の企業の寿命は諸外国に比べて圧倒的に長く、戦後日本の経営者は身分制を廃して全員を原則「社員」とするといった従業員重視政策をとってきました。

 しかしこれも今は昔、「企業の寿命30年説」が広まり、企業が存続してもリストラで何時どうなるか解らないよ、などと言われます。
 それに追い打ちをかけるように、政府は「働き方改革」で、欧米流の職務中心の雇用制度(日本はもともと人間中心)を導入しようと躍起です。

 もう一つの恒産は貯蓄でしょう。この必要性は、例の「老後資金2000万円報告書」事件で国民の将来不安を一層あおることになったようです。
 人間は大体、本当のことを言い当てられると慌てるもののようですが、安倍さんの慌て方(マスコミの表現は「激怒」)、麻生さんの受け取り拒否で、国民は「真実には報告書がより近い」とはっきり解ったようです。

 そこで困ったのが、どうすれば貯蓄が「恒産」になるかです。お金のある人にとっては、一番信用できるはずの国債は「政府の債務過剰でそのうち紙屑に」等といわれ、銀行預金も1000万円以上はペイオフの適用です。タンス預金や金塊も振り込め詐欺やアポ電強盗の危険があり、大体利回りはゼロ金利政策で、すべて殆どゼロです。
(まともな利回りを付けたら、国債費の大幅膨張で財政がもちそうにありません)
 
 物価上昇で減価しますから、減らさないためには貯蓄の追加が必要です。高利回りを求めるとインチキが横行、元も子もなくなることもありますし、株や投信は、素人では損が普通です。

 今からお金を貯めようとする人にとっては、政府推奨のNISAやIdecoがありますが、NISAで損をし、Idecoは、拠出額は決まっていますが、積み立てた結果がいくらになるかはわかりません。それでは「恒産」とは言えないでしょう。
(Idecoはアメリカの真似ですが、アメリカは基軸通貨国で、国際情勢不安の中でも株価が史上最高になる国ですからこそ成り立つのでしょう)
 
 それでも日本人は貯蓄志向で「恒産」を持とうと努力しているのが現実ですが(平均消費性向低下の現実を見てください) 国としての仕組みが、恒産を持ちにくくし、持とうと努力すれば、消費不振で経済成長が阻害されるというどうにもならない状態にあるという事のようです。
 そんなわけで世の中「恒心」が失われ、不安が募るように感じられます。

 もしかしたら、孟子様も、天の上から、「今の日本じゃ庶民が「恒産」を持つのは難しいよ」と教えてくれているかもしれません。