tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

雇用の危機

2014年05月10日 13時46分56秒 | 労働
雇用の危機
 失われた20年を通じて「雇用」大きな社会問題でした。国際的に見れば低いと言っても、日本としてみれば危機的と認識される失業率の5パーセントを超える状態、就職氷河期と言われた新規学卒者の就職難、雇用者の35パーセントを超えるまでに至った非正規従業員の著増、安定した働き口が見つからない人々が増加することによる社会の不安定化、そうした状態が生み出していく社会の劣化現象、従来では考えられないような犯罪の増加などなど。雇用の不安定は多様な形で社会の歪みを生んできました。

 かつての日本社会は、企業に安定した就職口を得ることを出発点とした社会人の教育訓練システムを作って来ていましたが、就職難、雇用の不安定化は、この社会人としてのオリエンテーション、社会人として成長する方向づけ、動機づけのシステムを破壊したようです。

 企業が雇用しようという意欲、あるいは能力を失うのは、企業が人件費の支払い能力を失うからです。
雇用には必ず賃金がついていなければなりません。雇用能力の喪失というのは、賃金支払い能力の減少というのが真の姿(原因)なのです。

 解り易く「賃金」と言いましたが、正確には「人件費」で、その中には社会保険料や福利厚生費、さらに前述の社会人、あるいは職業人として従業員を育成する教育訓練費も入っているのです。

 正直に言えば、企業は失われた20年の中で、日本経済最大のコストである人件費をぎりぎりまで削ることを強いられ、企業が破綻して、雇用だけでなく付加価値生産(GDPへの貢献)が根こそぎ失われるという悲劇だけは回避しようと努力してきたのでしょう。

 しかし考えてみれば、1990年代から2010年代までに及ぶ「失われた20年」は長すぎました。
 今企業を支える中堅世代は、この悪夢の時代の中で社会人生活を始め、今に至っているのであって、かつて日本経済が「ジャパンアズナンバーワン」といわれ、人間を大事にする日本的経営が世界から注目された時代を経験していないのです。

 こうした状況の中に、私は、これからの日本経済社会における雇用についての危機感を感じています。

 幸い日銀の政策変更で昨年4月、20円幅の円安が実現し、日本経済はデフレ不況に苦しんだ「失われた20年」からの脱却のきっかけをつかみました。
 最近発表の2014年3月期の主要企業の決算は40パーセント以上の増益を記録したようです。しかしこれは大部分が円安によるウィンドフォールプロフィットです。
 これを、安定した経済成長と企業の収益増につなげていくのには、新たな努力が必要です。残念ながらアベノミクスの第3の矢は、あまり期待できないようです。

 日本企業が新しい健全成長の路線を実現するためには、日本人の新たな努力が必要です。
 この努力を引き出し生かすのがこれからの企業の雇用戦略ではないでしょうか。企業の成長は、トップの誤りない判断と指示、それを実現する従業員の力によるしかないのです。

 劣化した雇用を立て直す、明日を見据えた企業労使の誤りない雇用政策への取り組みが、これから本格的に必要とされるように思われます。(以下次回)