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tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

おカネの貸し借り、個人の場合、国の場合

2010年10月29日 14時45分13秒 | 国際経済
 個人の生活の中でも、収入を使いきらずに使い残して、お金が溜まった人と、収入を全部使ってなお足りず、他人から金を借りる人がいます。
 金融機関が発達していない頃は大変でした。小判にして縁の下に埋めて置くといった事が貯蓄の手段でした。それを盗まれたことをつゆ知らず、あると思ってニヤニヤしていたという守銭奴の話などは有名です。

 勿論個人間でも金の貸し借りは、相対関係でやるわけですが、通常これはトラブルのもとです。踏み倒し、夜逃げもあれば、高利や厳しい取り立てで、身売りや一家離散などにもなります。

 日本でも、明治以降、金融機関、具体的には銀行の発達は見ましたが、昭和恐慌で多くの銀行が潰れて、財産を失った人も多かったようです。戦争中の貯蓄は敗戦とインフレでタダ同然になりましたが、その後は金融行政は確りして、銀行にお金を預けておけば絶対安心になりました。

 近年はペイオフ制度などが導入され、安心という面では退化していますが、それでも、まあ、安心でしょう。
 
 ところで、国と国の貸し借りの場合はどうでしょうか。今に至る、銀行制度の発達する前の状態ではないでしょうか。
 今でも個人間では、金を貸すなら「呉れてやるつもりで貸せ」などといいますが、国家間で貸し借りした金は、なかなか取り立てられないことが多いですね。

 しかも、貸し借りの手段が「国債」といった債券ですから、マーケットでの売買の状況、金利の水準、為替レートの変動などで、価値が変わります。国家間の金の貸し借りは、個人間の金の貸し借りのように不安定極まりないのが現状です。

 グローバリズムがここまで進展してきた今日の世界です。IMFや世界銀行のような組織が、SDRのような共通な価値を持つものを使って、個人間の貸し借りが、銀行を通じて安全かつ合理的にできるようになったのと同じように、リスクを最小限 にする国際間の預金と融資の機能を果たすようなシステムを、いずれは作るべきなのでしょう。

 金融の役割というのは、本来そういうもので、国際投機資本がキャピタルゲインを求めて跋扈するような状態は、「国際金融制度が未開の時代のものだった」と、何時の日か言えるようにしたいものです。


経常赤字、経常黒字のインパクトと対応策

2010年10月27日 10時10分25秒 | 国際経済
経常赤字、経常黒字のインパクトと対応策
 アメリカは、中国の経常黒字が、GDPの6パーセントにも達している、これは如何にしても大きすぎる、だからアメリカが赤字になるのだ、と考えているようにみえます。
 しかし、サブプライム問題発生以前のアメリカの経常赤字は、5パーセントを越えていました。

 しかも、中国のGDPは大きくなったといっても、アメリカに比べればまだまだ小さいわけです。ですから経常黒字の絶対額、経常赤字の絶対額を比べてみると、最近時点でアメリカの経常赤字が5,095億ドル(2010年上半期、年率)、中国の経常黒字が2、971億ドル(2009年)ということで、それぞれの赤字と黒字が世界経済に与えるインパクトは、アメリカのほうが絶対額でずっと大きいというのが実態です。

 これでは、中国の黒字を減らして、アメリカの赤字を消そうといっても、それはとても不可能でしょう。無理にやれば、今や世界の大きな市場でもある中国の経済力を「オーバーキル(over kill)」することになり、世界経済にとって大変なマイナスになるでしょう。

 日本に、プラザ合意で大幅な円高を強いて、日本経済に「失われた10年、20年」をもたらし、世界経済の発展の貢献するべき日本の経済力を弱め、日本社会の健全性まで毀損しましたが、日本の経常黒字もアメリカの経常赤字も基本的には変わらなかったというのが現実です。

 加えて、大きな問題は、国際金融資本の行動です。今の世の中、実体経済に関わる取引とは比較にならない巨大な金融資本が、高いレバレッジ、多様なデリバティブ、ノーベル賞級の金融工学を駆使して、世界経済のためではなく、自らの キャピタルゲインの実現を狙っています。
 「神の見えざる手」とは、およそかけ離れた金融マーケットでしょう。

 なぜなら、こうしたマネーゲームで、大きなキャピタルゲインを得るためには、金利や為替レートの変動は出来るだけ大きくなければなりません。市場が安定していたら彼らにビジネスチャンスはありません。過大な振幅を求める金融資本主義と安定した持続的発展を求める実体経済とは、全く相容れないものなのです。

 世界経済の安定的発展は、金融規制をどこまでやるかという問題と直結しています。 アメリカの金融規制法案、IMFの国際金融通貨委員会 などは、どこまでのことを考えているのでしょうか。
 本来、実体経済に奉仕することが金融の役割だったはずです。にも関わらず、資本主義の鬼子 、国際金融資本は、資本主義が危殆に瀕するまでに大きく育ってしまいました。

 こうした現実の中で、今、G20は、IMFは何をすべきか、関係各位に本気で、世界経済、資本主義の将来を見据えた論議をして欲しいものです。


通貨切り上げで経常黒字は減るのか?

2010年10月25日 22時00分37秒 | 国際経済
通貨切り上げで経常黒字は減るのか?
 この問題は大変難しい問題です。しかし、いろいろ考えてみますと理論はそうでも現実は違うように思います。日本の経験で見ますと、プラザ合意で大幅な円高になっても、今回のリーマンショックでの更なる円高でも、日本の経常収支が赤字に転落するような様子は見えないようです。

 逆に、通貨が切り下げられた国で経常黒字が増えているかというと、最近の韓国、ドイツなどで見ても、必ずしもはっきりした相関関係は出ていません。

 アメリカの経常赤字が減ったのも、ドルが安くなったからというよりは、住宅価格の下落で、モーゲージローンが使えなくなり、消費が落ちたという事によるようです。
 さらに、最近のドル安の中でも、経済の回復と共に経常赤字は増加の様相が見えています。

 こうした状況から考えられることは、
・通貨が切り上がって、国際競争力が弱まれば、経常黒字が減少(赤字が増大)
・通貨が切り下がって、国際競争力が強まれば、経常黒字が増加(赤字が減少)
といった図式的な事には、この世界の現実はなっていない、ということではないでしょうか。

 つまり、経常黒字国になるか、経常赤字国になるかを分けるのは、為替レートよりも、その国の国民が、
・自分たちの稼ぎの範囲で生活をしようとするか
・借金をしてでも、稼ぎより良い生活をしようとするか
という生活習慣による度合いの方が大きいという事ではないでしょうか。

 例えていえば、これはメタボになるかならないかといった生活習慣病と同じで、給料が下がったら生活習慣病が治った、とか給料が上がったからメタボになった、というよりは、その人のまさに「生活習慣」による度合いが圧倒的に大きいのと同じではないでしょうか。
 
 そして、もしそうであるならば、経常黒字国と経常赤字国との不均衡を解消しようとして、為替レートの引き下げ競争に走るのは、全くとはいいませんが、ほとんど意味がなく、直接、経常赤字、経常黒字の是正に向けて、「国民の生活習慣」を直すことに知恵を絞ることこそが、まともなアプローチということになるのでしょう。

 今回の慶州のG20が出色の出来だったと前回書いたのはその意味です。
 アメリカはどうすれば過剰消費社会から脱出できるのか、日本は何故GDPが減っても減っても、その減ったGDPをさらに使い残して、経常黒字を出し続けるのか・・・・・。 そうした現状の原因の究明と、対策を考えることが、これからの、世界経済の安定に必要になるのでしょう。


慶州G20: 過度な経常収支の不均衡の是正

2010年10月23日 22時11分16秒 | 国際経済
 韓国の慶州で開かれていたG20は、このところのG20の中では出色の出来だったのではないでしょうか。

 世界中が、通貨の切り下げによる国際競争力の強化は怪しからんといいう論調で一致するといった状態が、アメリカのドル安政策と共に起こり始め、アメリカ自身、中国の人民元切り上げをいいながら、ドルの切り下げをすることの評判の悪さを悟ったのでしょう。
 
 「近隣窮乏化政策」などという古い言葉まで持ち出されては、為替レートで議論することは難しくなったようで、新しく考え出されたのが「過度な経常収支の不均衡の是正」でした。
 マスコミの中には、これも人民元切り上げを別の形でいっているといった論評をしているところもあるようですが、これは本質的に違う展開になると考えるべきでしょう。

 GDP比4パーセント以下にするという数値目標は合意されなかったようですが、ご都合主義の見え隠れする4パーセントといった数字よりも、各国は万年黒字、万年赤字といった経済運営を是正する努力をしようという基本的なメッセージは極めて大事だと思います。

 このブログでも「 アリとキリギリス」にたとえて、以前からその点を指摘していますが、キリギリスの大親分のアメリカの経常赤字は、2008年まではGDPの5~6パーセントでした。これがサブプライム・リーマンショックで住宅バブルが崩壊し、住宅担保の消費支出が剥げ落ちて、2009年には2.7パーセントに激減し、2010年上半期でも3.5パーセントです。

 アメリカがGDP比4パーセント以下という数値目標を出したのは、この数字を前提としたからでしょうが、みんなが望むようにアメリカの雇用や景気が早期に回復すれば、すぐにまた5パーセントに近づく可能性は大きいと思います。

 経常収支の対GDP比を問題にすることになると、アメリカ経済も大きな枠をはめられることになりそうです。まともに考えればアメリカの回復は遅れます 。しかしアメリカ経済が健全になり、世界経済に迷惑をかけないようになるためには、これは必須のプロセスでしょう。

 「経常収支の対GDP比を中・長期的にゼロに近づける」という経済運営のアプローチは、世界経済を安定させるためには大変優れたアプローチだと思います。
 日本の場合、今年度の政府経済見通しでは、この数字は3パーセントほどですが、今まで書いてきましたように、これを減らしていくことは日本にとっても大変重要 なことでしょう。

 ということで、このアプローチについて、次回から、少し考えてみたいと思います。


賃上げと円高の共通点と相違点:その3、日本の場合

2010年10月11日 12時46分43秒 | 国際経済
賃上げと円高の共通点と相違点:その3、日本の場合
 今朝のニュースでも中国人民銀行」の周小川総裁は、ワシントンで「人民元を上昇させるだけで世界経済の問題は解決しない」と述べ、人民元の大幅な引き上げを否定しています。
 食べすぎで下痢を起こし、体力を消耗しているアメリカが、中国に「お前も絶食(減食)して体力を落とせ」といっているようなものですから、本当の問題解決の方法が別であることは自明でしょう。

 ところで、日本は、プラザ合意の際、中国と違い、「ハイ、ハイ」と円高を容認した結果、極端な円高を強いられ、「失われた10年」を経験することになりました。
 問題は2つあって、1つは円高容認の前に、「アメリカも双子の赤字をきちんと治してくれれば」という条件をつけること、もう1つは、例えば、「$1=¥190程度までの円高なら容認する」といった明確な意思表示をすることだったのでしょう。

 無条件で「ハイ、ハイ」と言ったので、アメリカのキリギリス 生活は是正されず、ついにはサブプライム・リーマンショックで世界経済を混乱に陥れることになり、一方、円は限度を超えて大幅に上昇し、日本経済は壊滅的な打撃を受けて、世界経済に貢献する力もか弱いものになりました。

 何度も繰り返しますが、プラザ合意後の2年間で円は2倍に切り上がり($1=¥240→120)、賃金も物価も(それ以外のコストも)例外なしに2倍になり、日本は、世界一の高賃金・高物価国になったわけです。

 もし日本がプラザ合意の円高の代りに「2年間で2倍」の賃上げをしていれば、賃金コストに関する限り、2倍の円高と同じです。しかし賃金以外のコストはそこまで上がりませんし、物価は後から賃金コストプッシュでじりじり上がることになり、しかし十分には上げきれず、多分、ヨーロッパのようにスタグフレーション気味になっていたでしょう。

 一方、円高の場合は、賃金以外の国内コストも、物価も同時に2倍になります。国内では、物価が上がった意識は全くありませんが、国際的には物価が2倍ですから、国際取引に曝されているところから「デフレ圧力」で物価が下がり始め、賃上げもしなかったのに賃下げ圧力となり、やがてそれはタクシー代や旅館の宿泊代、新聞料金、理髪料などなど、全経済分野に及びます。これが失われた10年です。
 
 賃上げも円高も、結果的に起こるのは、同じ賃金コストアップですが、その先は、賃上げなら「インフレ」か「スタグフレーション」に、円高なら「デフレ」に、という事になります。
 そして、デフレのほうが、経済・社会にずっと 悪影響が大きいことは、経験で明らかです。


賃上げと人民元高の共通点と相違点:その2、中国の場合

2010年10月10日 15時15分59秒 | 国際経済
賃上げと人民元高の共通点と相違点:その2、中国の場合
 欧米の為替戦略に対する対応のやり方については、中国は日本と真反対のようです。日本は、欧米から言われれば、素直にハイ解りましたと円切り上げに応じたり(プラザ合意)、マーケットは原則まともなものと判断し、マーケットの動きにあまり抗わないようです。

 一方、中国は、欧米からいくら切り上げろといわれても、人民元のレートは外国に決めてもらうものではない、「自分で判断する」と譲りません。プラザ合意が日本の「失われた10年」をもたらしたという日本の大失態を見て、十分に勉強しているからと言われます。

 もちろん中国は、基本的には共産党一党独裁国家で、為替の自由化もしていない、つまり体制の違う国だという事もあります。しかし、体制の違いを別にしても、中国の対応のほうが、日本の対応より余程国益に適っているといえましょう。

 日本の場合も、プラザ合意の時$1=¥240を$1=¥190ぐらいと思っていたようですが、国際投機資本もあり、120円までいってしまいました。120円などは予想していなかった、190円ぐらいにしておいてくれといっても、誰もそんなことは構ってくれません。

 中国の場合は、まだまだ巨大な低開発部分を内蔵した経済で、人民元高で大いに儲けようと手ぐすね引いている国際投機資本に勝手にやられたら、過度の切り上げで中国経済が破滅しかねないという危惧を当然持っています。例え中国元がいくら高くなっても、それはマーケットのせいだと誰も責任を取ってはくれません。

 それならば、と中国は、人民元切り上げと同じコストアップ効果を持つ「賃金の水準の引き上げ」でインフレを起こし、何年か後には、中国の国際競争力は、「もうそんなに高くないよ」「インフレで物価が上がったから」という方向を選んでも不思議はありません。(表題の「共通点」)
 そのほうが、コスト上昇、インフレ高進の裁量権は自分が持つことが出来、中国経済を破滅させるような危険は犯さずに、国際的な調整をやることが出来ます。

 その上、デフレの経済・社会への悪影響を考えれば、自主的な政策によるインフレ経済と共存するほうが、政治も企業も社会もずっと楽で、経済・社会の健全性も維持出来ます。(表題の「相違点」)

 世界経済の安定や繁栄などにはまったく関心がなく、自分がいかに多額のキャピタルゲインを上げるかしか考えない国際投機資本が闊歩する今日の世界経済の中では、この判断のほうがずっとまともという事かもしれません。
 かつて、アジア経済危機の時、マレーシアのマハティールさんが、為替管理を導入して、ヘッジファンドに対抗したのが思い出されます。


賃上げと円高の共通点と相違点:その1

2010年10月09日 13時29分42秒 | 国際経済
賃上げと円高の共通点と相違点:その1
 前回、国際的なコスト水準の比較においては、賃上げをしても円高になっても、結果は同じ事で、ただ、円高のほうが徹底した形になるという事を書きました。
 そのあとの詳しい説明を省いてしまったので、ここできっちり説明しておきたいと思います。

 賃上げの時はどうなるかといいますと、労働組合の要求や、政府の最低賃金に引き上げ方針などで賃金が上がります。
 これは企業にとっては、コストアップですから、企業は何とか対応策を講じて、上がった賃金によるコストアップを防がなければなりません。

 そうした時、企業のやることは大きく2つあります。
 1つは、5S、カイゼン、QC活動、技術革新など始め、あらゆる合理化策を動員して生産性を上げ、人件費コスト増を吸収する努力です。これは「賃上げ吸収策」と言うものです。
 賃金を10パーセント上げても生産性が5パーセント上がれば、賃上げのコスト圧力は半分の5パーセントに減ります。

 もう1つは、製品価格を引き上げることです。しかし、競争相手があることですから、これは簡単ではありません。インフレムードでみんなが賃上げをして、賃上げコストアップで困っていれば、さみだれ式に物価が上がり「 賃金コストプッシュインフレ」になります。みんなが示し合わせて一緒に上げれば、談合、カルテルで捕まります。

 外国の物価が安く、それが入ってくれば、物価引き上げは困難です。前述の残りの5パーセント分の賃金コストアップをカバーしようと思っても、2パーセント分しか物価が上げられなければ、残りのコスト3パーセント分は利益が減ることになります。

 こうして、毎年の賃金の上昇が生産性向上でも、製品価格引き上げでもカバーし切れない状況が続くと、物価は毎年だらだらと上がるので、インフレ傾向ですが、企業利益も毎年減って不況になります。
 これが「 スタグフレーション」で、かつて、1980年代、イギリス病、フランス病、ドイツ病などといわれたものです。

 サッチャー首相は、労働組合対策で、高すぎた賃上げを抑え、サッチャー改革を成功させました。大陸諸国は労働組合が強く(というより行動が合理性を欠き)常にコストアップに呻吟し続けてきましたが、今回思わざる幸運、ギリシャのソブリンリスクによる「ユーロ安」で救われたというのが本音でしょう。
本来は、無理な賃上げはやめて、自主的に経済のバランスを取る努力で解決すべき問題です。為替レートでの解決は安易な逃げ道でしかありません。

 生産性の向上を超える賃上げは必ず「インフレ」か「スタグフレーション」(グローバル化の中で競争相手国がいるとき)をもたらすことになります。グローバル経済の中では、それぞれの国の「賃金水準と、生産性水準のバランス」が国際経済関係の太宗を決することになります。

 無理な賃上げで、経済運営に失敗し、国際競争力が失われるといった問題の責任は、それぞれの国の労使(あるいは政府)にあるわけで、本来は自国の努力で是正すべき問題です。
 競争力の強い国の通貨を切り上げさせて、問題を解決しようとするのは、自らの失敗の責任を他人に転嫁して済まそうとする、大変にずるい方法です。

 次回はこうした視点で、今の中国のケースを見てみましょう。


低賃金という武器:途上国発展の構図

2010年10月04日 14時40分32秒 | 国際経済
低賃金という武器:途上国発展の構図
 たまたまバングラデシュにいってきたことと、バングラデシュがアジアで最も低い賃金レベルの国と自認しているということで、こんな問題を考えてみました。

 バングラデシュの労働大臣は、バングラデシュの賃金水準はアジアで最も低いレベルで、しかも真面目によく働く。是非バングラデシュの労働力を活用してほしいという趣旨の発言をしていました。

 特にバングラデシュは、海外への出稼ぎ労働が多く、その多くはイスラム教という共通の宗教を持つ産油国に出ていて、その送金収入は総輸出額に対比してもその7割程にもなり、それで経常国際収支は黒字になるという状況で、バングラデシュにとっては大変重要なもののなっているようです。

 ところで、海外に出稼ぎに行けば、原則その国の最低賃金法で最低の賃金が決まりますから、バングラデシュの賃金水準で働いてもらうわけではありませんが、バングラデシュに企業進出すれば、バングラデシュの賃金水準で働いてもらうことが出来ます。

 ということで、高度技術を持った先進国の企業(工場)が、途上国に出て行けば、生産性は、先進国のレベルで、賃金水準は、途上国のレベルという事もありうるわけです。

 もちろん、先進国並みの生産性を上げるには、社会インフラも先進国並でなければなりません。交通、通信とか、人々がルールや約束、時間を守るといった種々のインフラの整備が必要ですが、空港の整備や携帯電話の発達で、以前に比べれば、インフラ整備は格段に容易になっているのではないでしょうか。

 日本企業がアジアに 5S活動やQCサークルを持ち込んだのは、人間行動の面のインフラの改善に大きな効果があったようです。

 途上国が自力だけで経済発展をしようとしても、生産性は簡単には上がらず、ようやく生産性が2倍になったときには賃金コストは2倍以上、3倍ぐらいになっているというようなことで、先進国になかなか追いつけないでしょう。賃金水準が10分の1でも、生産性も10分の1だったら、競争力はありません。

 しかし今は、技術を持った先進企業の進出で、賃金10分の1、生産性5分の1とか3分の1といったことが可能になります。競争力は圧倒的です。
 これが途上国の急速な経済発展を可能にするわけで、同時に、先進国の企業にとっても、大きなビジネスチャンス、大きな進出メリットになるわけです。

 それではその影の部分、どこでマイナスが生じるかというと、先進国で行われるべき生産活動が途上国に移転し、先進国の経済成長が停滞し、雇用が失われるという点です。

 しかし長い目で見れば、途上国の経済レベルの向上が、必ずグローバルな意味でのマーケットの拡大、人類全体の生活水準の向上、平和の増進につながるということでしょう。

 今、アジア諸国はそのための大きな歴史的実験のさなかにあります。この動きのマイナス面をいかに少なくし、成果をいかに大きくするかが、APECやASEMの基本的課題でしょう。


資源価格の高騰と円高

2010年09月15日 13時10分45秒 | 国際経済
資源価格の高騰と円高
 中国は、世界のレアアースの90パーセントを供給しているといわれます。その中国が、今年に入ってレアアースの大幅な輸出削減を打ち出しました。その結果、ネオジムをはじめ、レアアースの価格は軒並み高騰、関連業界は大変な状態と報道されています。

 折しも、一方では円高が進行、口先介入もたやすく見破られて、$1=¥82台まで来ました。今日は介入で少し戻しましたが、単独介入でどこまで出来るのか、予断を許しません。
 資源価格が上がったら、円高で多少対抗できるといった理屈も成り立ちますが、資源価格の高騰と円高と比べたら、円高の方が圧倒的に恐ろしいようです。

 資源価格の高騰は、世界の富(実質GDP)が、資源の消費国から資源の生産国へ移転するという効果を持つもので、これはかつてのオイルショックの結果、広く知られることになりました。

 ところで、ここではっきり認識しておくべきことは、原油が高騰しても、レアアースが高騰しても、こうした資源価格の上昇は世界の消費者・消費産業に共通だという事です。たとえ産出国の企業でも、使うときは通常、国際価格で買うことになります。
 
 さらに、過去の経験から見れば、日本の場合は資源高騰に対抗する2つの得意技を持っているようです。
1つは、海外インフレを国内インフレに転嫁しない ための労使をはじめとした社会的ノーハウ
2つは、価格の高騰した資源を節約するための技術開発力や社会的適応力です。

 1つ目は、第1次オイルショックの後の失敗に学んで第2次オイルショックを賢明な対応で乗り切ったことで実証されています。対応に失敗 してスタグフレーションに苦しむ欧米を尻目に「ジャパナズナンバーワン」と言われました。
2つ目は、オイルショック後の省エネの徹底のように、対応する技術を徹底的に追及する真面目さです。すでにネオジムの使用量を数分の1にする技術開発に向かっている企業もあります。
 資源価格の高騰は、世界共通の問題で、日本は、他国より優れた対応力を発揮して、ピンチをチャンスに変えてきた経験済みの問題です。

 一方、円高は、日本だけが差別的に不利になり、他国はその分有利になるもので、対応策は企業のコストダウンに任されてしまっているのが現状で、日本経済社会に大きなマイナスをもたらしている全く未解決の問題です。

 今、日本が真剣に、しかも早急に対応策を考えなければならない問題は、円高にいかに対応するかという「社会的」あるいは「経済政策的」な技術開発でしょう。政府か、学者か、官僚か、労使組織か、・・・・・、日本人の知恵が問われています。 


頑張るだけ円高になる日本

2010年08月23日 11時45分27秒 | 国際経済
頑張るだけ円高になる日本
 世界経済はサブプライム/リーマンショックを一応抜け出したように見られています。
 不良債権を高い格付けをし、世界に売って、挙句の果ては世界の多くの金融機関に巨額の穴があくという事態を演じたアメリカ発の世界金融危機は何とかなったのでしょうか。

 1929年の世界恐慌の研究者のバーナンキさんもおられて、政府の力で金融機関の救済をすれば何とかなると世界中が協力して「経済の血流」である金融を持ちこたえさせました。
 しかしこれは 当時指摘しましたように、いわば、火事の火を消し延焼を食い止めたに過ぎません。さてこれからなにをやるかです。

 さいわい実体経済は、アジアを中心に成長過程にはいっており、EUも一部にソブリンリスクといった問題をはらみつつも、そのためのユーロの下落を奇貨として好調です。

 問題はアメリカです。今回の金融危機まで、アメリカも、その代表的企業のGMも 、借金でやりくりをして、実力以上の規模を保っていました。
 GMは国有化され、年金負担などの負債を切り離して、「小ぶり」になって再上場を目指しています。アメリカ自体も、消費過剰のキリギリス生活 をやめれば、借金で遣り繰っていた部分は剥がれ落ち、「ひと回り小さくなって」健全な経済の国になるのではないでしょうか。

 アメリカ経済は、今そのプロセスに入りつつあると考えるべきでしょう。アメリカ経済の成長を待望する意見は多いのですが、相変わらずの経常赤字でキリギリス型の成長してもらっても、またどこかで世界に迷惑をかけるという繰り返しにかなりません。

 世界は、アメリカが一回り小さいが、健全な経済の国になることを望むべきでしょう。アメリカの借金による需要ではなくて、アジアの若い旺盛な需要を育てることに目を向けるべきでしょう。必要なのは頭の切り替えです。そして、健全になって戻って来るアメリカを歓迎すればいいでしょう。

 さて日本はどうかというと、アジアの中という好条件、日本企業は真面目に品質のいいものを作り続け、政府は赤字ですが、国としては万年黒字で健全という大変結構な評価です。

 これは大変結構なことですが、この万年黒字というのが国際投機資本に目をつけられ、何かというと円が買われ円高になります。
 私は、プラザ合意の円高を克服すれば、そこからは正常にやれると思っていましたが、今度はマネーゲームの世の中になり、巨大な投機資本のご意向で、「健全経済を目指して頑張れば、 頑張るだけ円高」という事になったようです。
 これに対して日本は何も対応策がありません。そこに日本の最大の問題があります。


貿易依存度考

2010年08月04日 15時17分26秒 | 国際経済
貿易依存度考
 貿易依存度という指標があります。一国の輸出額と輸入額を足して、それをGDPで割ったものです。つまり輸入依存度と輸出依存度の合計で、その国の経済が、どのくらい国際的な経済関係に依存しているかの指標という事ができるでしょう。
 
 貿易依存度の数字は、その国の経済の状況、貿易先の国の経済状況などによってかなり変動します。
 日本でも従来の推移から見て、高い時は30パーセント低い時は20パーセント程度とかなり差がありますが、世界的に見れば、国際経済環境の整備が進み、貿易依存度は上昇というのが基本的なトレンドでしょうか。

 もちろん貿易依存度には、国によって大きな違いがあります。
 大変大雑把な数字ですが、ドイツやフランスが50~70パーセント程度、北欧諸国が60~70パーセント、オランダやベルギーになると100パーセントを越えるといったところでしょうか。
 一方、アメリカは25パーセント程度、ヨーロッパもEUを一国と見れば、20パーセント程度ですが、中国はそれより大変高くて60パーセント超となっています。

 かつて、戦後日本の高度経済成長について有名な下村理論を打ち立てた下村治博士が、「貿易依存度というのは、その国の人口規模に関係しているように感じている」と書いておられたのを記憶しています。当時私は、この考え方に共感し、第1次オイルショックによる日本経済へのショックをからの回復の目安の1つに、貿易依存度の復元を使ったことがありました。

 今でも、この下村博士の説は合理的だと思っています。例えば、EUの国々は、国別に見れば、数十パーセントから100パーセント以上の貿易依存度ですが、EUをひとつの国とすれば、貿易依存度は20パーセントと程度に下がります。
 極端なことをいえば、世界が1つの国になれば、貿易依存度はゼロです。

 これで説明できないのが、今日の中国の高い貿易依存度です。中国の研究者の中でも、研究はある様ですが、下村博士の仮説から考えてみると、中国の13億の人口のうち、国際経済に晒されているのはその1部で、その人口をベースにすれば、高い貿易依存度は説明可能という事になるのではないでしょうか。

 もしその見方が正しければ、中国全体が国際経済に晒されるようになったときの中国経済の規模は超巨大で、そのときは、いかに巨大な輸出入であっても、貿易依存度は10パーセントとかそれ以下になるのかもしれません。
 中国の経済発展の可能性は、今の常識をさらに大きく越えたものになるようにも感じます。


中国の所得倍増計画を読む: 4、為替レートと国際経済秩序

2010年07月26日 12時39分07秒 | 国際経済
 前々回指摘しました様に、日本の所得倍増計画でも、多少のホームメイドインフレの進行はありましたが、日本経済に、問題を発生させたのはホームメイドインフレよりも「外的要因」でした。
 具体的にいえば、ニクソンショックによる固定相場制の崩壊、オイルショックによるエネルギー問題の発生、そして最後に致命的な打撃を与えたのはプラザ合意による極端な円高 でした。

 中国は日本のプラザ合意後の「失われた10年、20年」という失敗に十分に学んでいると思います。そう明言する中国の方にも何人かお会いしました。人民元の大幅な切り上げをやって、それを持ちこたえるだけの力は今の中国にはない、とはっきり言う中国の方も居られます。

 すでに書いてきていますように自国通貨の切り上げは、「自国の国内コストの同率の上昇」を意味します。つまり国際為替市場に円レートを(円高を)任せるという事は、「国内コストの水準の決定を(コスト上昇を)国際為替市場に任せる」という事なのです。

 戦後の各国経済の歴史が示すように、経済成長を阻害する主要な要因は基本的には「 ホームメイドインフレだ」と書いてきました。それを避けるために、労使交渉があり、所得政策があり、その環境整備のために財政政策や金融政策が行われるのでしょう。

 こうしたホームメイドインフレ回避のための(経済の安定発展のための)政府や労使の努力は、為替レートの切り上げによって、全く意味を持たなくなります。

 日本はプラザ合意で円を2倍($1=¥240から¥120)に切り上げられ、その結果 「日本の労働者の賃金はドルベースで2倍になって、日本の賃金水準は世界一」 になりました。しかし同時に物価も2倍になったわけで、高くなった物価を国際水準まで下げるために、20年近くデフレ を経験したわけです。

 そして今回、さらに2007年以降、円は$1=¥120から80円台半ばへ、30パーセント以上の切り上げです。春闘賃上げ率はゼロでも、日本の労働者の賃金は、国際的にはパートや派遣も(最低賃金も)含めて、この3年で、3割以上も上がっているのです。

 多分、円建ての賃金はますます上がらなくなり、製品価格も下げざるを得ないでしょう。更なるデフレです。税収は伸びず、財政再建も進まず、それでも国民は消費税アップも仕方ないと諦め、我慢するのでしょう。日本はどこまで円高デフレを耐え忍ばなければならないのでしょうか。

 国際投機資本の思惑や、強国の圧力で為替レートが決まり、真面目な経済運営が影響を受けるのが今日の現実なのです。国際経済はこのままでいいのでしょうか。


中国の所得倍増計画を読む: 3、人民元切り上げ回避策

2010年07月23日 11時08分24秒 | 国際経済
中国の所得倍増計画を読む: 3、人民元切り上げ回避策
 報道されていますように、中国の所得倍増計画は、「賃金の年15パーセントの上昇、5年で賃金2倍に」というのが計画の大きな柱になっています。
 何故日本のように、経済成長が第一でなくて、賃金引き上げが、特別な目標として掲げられているのでしょうか。

 賃金コストのかなり大幅な上昇が前面に打ち出されているというところから、素直に感じてしまうのは、中国はある程度のインフレ経済を考えているのだろうという事で、何故、無理してまでインフレ経済化を世界に喧伝するのかという事から、考えられるのは当然「人民元切り上げ圧力への対抗策」です。

 今中国は、アメリカやEUから、「中国は国際競争力が強すぎる、人民元が過小評価されているためだ、だから、人民元は切り上げられるべきである」という圧力にさらされています。
 丁度、1980年代前半、日本が「ジャパンアズナンバーワン」といわれ、プラザ合意で円切り上げを押し付けられたのと同じ状態です。

 中国は日本の違い、「切り上げるなら自分の意思でやる、他国から言われてやるものではない」というスタンスのようですが、すでに日本のプラザ合意という経済運営上の大失敗の経験をまさに「他山の石」として十分学んでいる中国です、その知識は確り生きていると思われます。

 ということであれば、経済的に同じ方向の効果を持つ「人民元切り上げ」と「賃金水準の上昇によるホームメイドインフレの許容」の2つを天秤にかけ、明らかに「ホームメイドインフレを選択したほうがメリットが大きい」と判断しているのではないでしょうか。

 為替レートを切り上げれば、その後に待っているのはデフレ経済です。デフレ経済ほど経済の成長発展に打撃を与えるものはありません。「 デフレ3悪」で経済は動かなくなります。

 一方、インフレは、やり方によってはコントロールが可能です。最も恐ろしいインフレはホームメイドインフレ(賃金と物価のスパイラル)ですが、これは国民(労使)の良識でコントロール可能なことは、第2次オイルショック後の日本経済が実証 して見せています。

 もちろん中国でも賃上げによる生産コストの上昇は起こるでしょう。しかしインフレによるコストの上昇は、人民元切り上げ要求の圧力を弱めるはずです。
 インフレと人民元切り上げのトレードオフ、これからどうなるか・・・・・。中国の知恵と政治的力量が問われているというところでしょうか。


中国の所得倍増計画を読む: 2、経済のレベルアップ

2010年07月21日 10時00分05秒 | 国際経済
中国の所得倍増計画を読む: 2、経済のレベルアップ
 先ず、オーソドックスに考えて見ましょう。まだまだ高度経済成長が続く環境の中で、あえて、生産性以上の賃上げをすることを宣言するという事は、おそらく、賃金コストアップ以上のメリットが中国経済全体について考えられるからでしょう。

 中国が今、抱えている問題の中で、具体的に手を打たなければならないと言われる問題はいくつかありますが、例えば、所得格差の縮小、世界の工場から世界の市場への漸進的移行、量的拡大から質の向上、それらによる新たなる経済発展の可能性の開拓、目標の周知による国民の共通意識の醸成、結果的に巨大な中国経済社会の安定的発展、などなどでしょうか。
 
 そのためには、先ず、中国は経済成長の手を緩めずに、その成果をできるだけ広く均霑していかなければならないでしょう。

 日本の所得倍増計画の時期、日本はかなりのスピードでインフレの加速を見ました。しかし実質9パーセント前後の経済成長の中で、失業率は1パーセント台を続け、先進国経済に追いつけ追い越せという国民意識の高揚も相俟って、これは,日本経済の成長にとっての決定的な障害というほどのものにはなりませんでした。
 問題を起こしたのは、ニクソンショックによる固定相場制の崩壊、そしてオイルショックなど、その後の外的要因でした。

 当時は、低失業率に加え、公共事業の推進、米価審議会や生産費所得保障方式による米価決定などによって、全国各地、農村部への経済成長の成果の均霑も進んだように思います。これらは後に問題発生につながりますが、当時は成功した政策でしょう。

 近年、最低賃金の大幅引き上げなども試みた中国ですが、国民に安定した生活向上のビジョンは与えられなかったようです。
 今回は、5年で賃金倍増計画という労働者の所得向上を柱にして、未だ明確ではありませんが、何らかの格差是正政策も含め、中国経済社会の安定的発展への広汎な国民意識の醸成を狙っているように思えるところです。

 そしてもうひとつ、中国は、さらなる大きな対外政策目標を、賃金倍増計画で狙っているのではないでしょうか。


アメリカの金融規制法案

2010年07月17日 21時07分08秒 | 国際経済
アメリカの金融規制法案
 中国の所得倍増計画に挟まってしまいますが、アメリカで金融規制改革法案(ドッド・フランク法と名づけられるようです)がオバマ大統領の署名で成立する見込みという事になったので、取り上げます。
 金融規制は、このブログの最大の関心事項の1つですから。

 ボルカールールを下敷きにして、 ロンドンG20でも論議された金融規制の問題が、アメリカで法律という形で具体的に動き出したことは、アメリカが本気であれば、特筆に値するように思います。

 GDPを生み出し社会に貢献する企業の役に立つために生まれたはずの金融機関が、自分が キャピタルゲイン(あぶく銭)を稼ぐための機関に成り下がり、儲かれば山分け、損すれば公的資金で救済といった、誰が考えてもおかしなことが現実に起こってしまいました。こうした異常な状態の発生を未然に防止するために、ロンドンG20で論議された、問題点をアメリカが率先して具体化したことになります。
 
 自己勘定取引の規制、プライベートエクイティーやヘッジファンドに対する融資の制限、デリバティブの透明性の推進、レバレッジの制限や格付け会社への規制などなど、世界金融危機の発生を演出した、さまざまな手法に規制をかけるのが目的と見受けられます。

 当然反論は出てきます。キャピタルゲイン「命」と考え、理論を構築したり行動したりする経済学者や金融業者からは総すかんでしょう。
 すでにアメリカだけやってもダメだとか、金融機関が儲からなくなったら経済が立ち行かなくなるとか、時代の流れに逆行するとか、あらゆる反論が聞こえてきます。 

 法案提出の主役の1人ドッド委員長は「われわれの金融システムのある種の防護となる機会をつくったにすぎない」といったそうで、まさに法律は運用次第、国際金融問題は国際協力次第ということでしょうが、ドッド委員長の発言は、アメリカの良心を示しているように思われます。

 さてこれから資本主義経済が生んだ鬼子「マネー資本主義」はどうなっていくのでしょうか。実体経済中心の資本主義に回帰していければ理想的と思うのですが。