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tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

中国の所得倍増計画を読む: 1、計画は多目的?

2010年07月16日 10時11分32秒 | 国際経済
中国の所得倍増計画を読む: 1、計画は多目的?
 中国が2011年からの5年間の所得倍増計画を検討していると報道されています。日本向けの情報提供記事でも、昭和34年に池田内閣が打ち出した所得倍増計画を参考にしているなどとも書かれています。しかし本当に目指すところはもう少し奥深いような気がしています。

 先ず、日本の所得倍増計画は、国民所得の倍増計画でした。当時、労働組合(左翼系でなくても)などでは、「これは国民所得を2倍にする計画で、賃金を二倍にするとはいっていない。賃金を2倍にするにはわれわれ労働組合の努力が必要だ」といった論議がされていました。

 しかし、今回の中国の計画を見ると、賃金を年に15パーセントずつ引き上げ、5年で2倍にするというのが大きな柱になっているようです。

 「所得」の意味が違うのでしょうか、それとも、本来、賃金上昇が主目的で、国民所得自体は当然従来どおり10パーセント前後の高水準を維持すると前提しているのでしょうか。
 それにしても、(実質)経済成長を15パーセントにしようと考えているとは思われませんから、所得倍増は名目値の話で、中国版は「名目所得倍増計画」なのでしょう。
 だから日本の10年倍増計画を、中国では5年倍増としているのでしょう。

 中国の所得倍増計画は、このように、名目値での倍増ですから、当然インフレ分を含みます。実質成長率を10パーセントと置けば、賃金上昇は15パーセントですから、近似的には、インフレ率は年5パーセントという事になります。

 多分、中国は、今後多少のインフレを考えているのはないでしょうか。日本の高度成長期もそうでしたが、多少のインフレの方が実質経済成長も高くなる可能性があります。(おそらく、こうした経験が、「成長を取り戻すにはインフレターゲット」といった教条主義的主張になるのでしょう)

 ところで、この中国版「名目所得倍増計画」によって、中国は何を狙っているのでしょうか。おそらく、一石何鳥というような「多目的」なものを考えているように思われてなりません。
 
 単純に日本の高度成長期のような成長を目指しているのだろうといった論調が多いようですが、もう少し、戦略的に仔細に考えてみる必要があるような気がします。

 中国は、日本の成功も失敗もつぶさに研究しているようですし、シンガポールの成功からも十分学んでいるはずです。
 かつて日本は文字、文化、宗教、政治などなど中国から多くのことを学びました。今、新しい国際経済社会の中でも、中国から学ぶことが沢山あるような気がします。


米中会談 大人の関係へ?

2009年07月29日 10時47分21秒 | 国際経済
米中会談 大人の関係へ?
 7月の27日、28日とワシントンで行われた米中会談(米中戦略・経済対話)の記事を見て、何か、世の中の流れが変わってきたような感じを受けました。米中関係を始め、世界の国際関係がこういう形で回り始めればいいなと感じたのは私だけではないと思います。

 これまでの報道では、大方の場合、アメリカが中国に対して 人民元の切り上げを要求し、中国がそれに反発するといったものが多く、これからの米中関係も大変だな、日本のプラザ合意のようなことになったら、中国経済も世界経済も、もちろん日本経済もどうなることか。中国に少し頑張ってもらわないと、といった感じで受け取っていました。

 ところが今回の会談では、アメリカ側からの人民元切り上げ要求は影を潜め、逆に中国側からアメリカの財政健全化への要望が示され、アメリカ側が、着実な個人貯蓄の増加 も含め、財政健全化の計画を説明して、それに応える姿勢を示したと報道されています。
 もちろんアメリカは、今回の経済危機に対して、未曾有の積極財政で対策を打っていますから、早期の財政健全化の方針を示さなければ、これまでの双子の赤字から見ても、アメリカ経済自体の新たな破綻の可能性が大ですから、世界の信用を得るためにも、そういわざるを得ないでしょう。

 大事なのは、アメリカがそういう発言をしたということが世界に報道され、アメリカがある意味で世界に対してそうした責任を果たす意思表示をしたことが世界に明らかになったということでしょう。これは米中間だけの問題ではなく、現在の覇権国家、基軸通貨国が、そうした意思表示をしたのですから、まさに、世界経済の安定へのプラス要因です。

 マスコミは、中国は昨年日本を抜いて米国債保有世界一になったので発言力が増したといった書き方をしていますが、もしそうなら、それまでずっと米国債保有世界一だった日本は何をしていたのかということになります。

 その問題はさておき、今回の米中のやり取りは、米中関係が、1段階上がって、大人の関係になったことを示しているように思われます。もちろん中国は既に自主的に積極的な内需拡大策を打ち、それが世界経済に好影響を与えているといった状況も背景にはあるのでしょう。それにしても、単に自国の都合で要求をぶつけるのではなく、「こうすればお互いにプラスになる」という視点で物事が話し合われるようになったとすれば、これは素晴らしいことでしょう。

 中国が立派になったからか、アメリカの政権が変わったからか、今回の世界経済危機からの学習か、理由はともあれ、こうした方向が、今後も一層本格化することを期待したいと思います。

 







GMの再生とアメリカの再生

2009年06月04日 10時23分33秒 | 国際経済
GMの再生とアメリカの再生
 GMは名実共にアメリカを代表する企業ということが出来ましょう。キャデラックが世界中で羨望の的だった頃はアメリカ経済も世界に冠たるものでした。しかしキャデラックの巨大な車体がなんだか格好悪いと感じられるようになる頃には、アメリカ経済も次第におかしくなって来ました。

 GMが世界最大の自動車会社でありながらも、収益性では日本の自動車会社に見劣りするようになった頃には、アメリカ経済も、いわゆる双子の赤字に苦しみ、経常収支の赤字を資本収支でファイナンスすることに尽力しなければならなくなりました。
 
 そして GMが債務超過に転落する頃、アメリカ自体の赤字のファイナンスも次第に 行き詰まり、とうとうサブプライムローンの証券化の見込み違いで世界金融危機演出の張本人になってしまいました。

 今、オバマ大統領はGMの再建を確信するといっていますが、それにはGMを黒字の会社にしなければなりません。同時に、アメリカの大統領としてはアメリカ経済自体を、経常赤字の国から脱出させなければなりません。

 このところ、アメリカの貯蓄率は上がってきているといいます。アメリカの経済正常化には、稼ぐより余計に使って経常赤字を出していた経済から、稼ぎの中で消費と貯蓄(投資)のバランスをとり、稼ぎの中でやっていく経済に変える必要があります。その時はアメリカの経常赤字は消えます。しかし、それが出来ないと、また借金頼みの「いつか来た道」をたどることになります。

 GMを黒字にするためには、GMをかなり小さくする必要がるようですが、アメリカ経済を経常黒字にするためには、矢張り、アメリカ経済を(とくに支出を)引き締めて、少し小ぶりにしなければならないでしょう。 ドル安で結果的にそうなってしまうという可能性も多分にあり得ます。

 アメリカ市場を当てにして来ていていた国や企業には少し厳しいことになるのではないでしょうか。日本、中国、アジアの国々も、これまでのようにアメリカ市場を当てにせず、アジア市場の拡大、アジア経済の発展の中でそれぞれの国々が繁栄する方向を、より真剣に考えるべきでしょう。

 その先に見えてくるのが、「21世紀はアジアの世紀」といわれる新しい時代なのではないでしょうか。