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tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

10月家計調査:勤労者世帯は収入減、平均消費性向上昇

2023年12月09日 10時52分31秒 | 経済
政治の行方は混乱と混沌で「日本の政治はこんな事になってしまっているいのか」と国民は皆嘆いています。しかし、経済の方は、来年は何とか「自家製デフレ」を脱出しなければという重要な節目にあります。

「自家製デフレ」脱出には、政府はあまり関係がないので、民間が確りして、民間企業の労使、それと家計の関係が順調に回り始めれば上手く行くのです。

「自家製デフレ」の原因は、企業活動と家計をつなぐ「賃金」の流れの停滞ですから、鍵は「賃金決定」、賃金水準をどこまで引き上げるかです。
今年の春闘は、掛け声はかかったけれど賃金への流れは余り増えず、物価上昇もあって、結果的には不十分なものに終わってしまいました。

しかし、もう少し賃金への流れを確り増やさなければという意識は労使の頭に強く残っていますから、この意識が来春闘でどこまで実行されるかにかかっています。

この辺りを統計数字で追って見られるのが「家計調査」なのです。そしてこれが、このブログで執拗に毎月統計数字を追いかけている理由です。

この判断に最も重要なのが毎回示している「平均消費性向」の推移です。昨日発表された10月分を付け加えたのが下図です。

平均消費性向の推移(2人以上勤労者世帯)

                 資料:総務省統計局「家計調査」

10月の平均消費性向は9月に続き上がりました。前回も指摘しましたように「上る場合」の家計の意識、皆様の家計の意識ですが、多分2つありますね。
・先行き所得の増加が期待される ・物価が上がって予定より支出が超過 でしょう。

嘗ては、所得が増えないから、将来に備えて貯蓄をという事で、平均消費性向が下がり続けた時期が続きました。これが「自家製デフレ」の元凶だったのです。

昨年からの状況を見ますと、コロナ終息の気配から5類になった過程で、外出、飲み会などが増えたという特別要因もあり、平均消費性向は上昇に転じました(青い柱より赤い柱が高い月が殆ど)。

しかし、今年の春闘が些か期待外れの一方、物価の上昇、特に食品など生活必需品の値上がりが著しい中で、「これではまた元に戻ってしまうのでは」と節約指向になりそうな面と、「来春闘はもう少し期待できるのでは」「物価も収まるのではないか」という期待もあり、「もう節約はくたびれた」との思いもあって「値上がりの中でも安売りを探してでも食卓を豊かにしよう」など、判断に迷いながら、将来を期待する気持ちが勝るという所でしょうか。

そうした複雑な情勢の中での家計の対応がこの所の平均消費性向の動き、前年同月より下がったり(7・8月)上ったり(9・10月)という動き(赤い柱と緑の柱の比較)に象徴されているように思えます。

折しも円レートは乱高下しながら円高に進む気配です。これはアメリカの金利次第、その影響も受ける日本の物価、それに加えて、政府の混乱、補助金の期限、社会保障負担の増加、子育て支援のカラクリなどなど不確かなことばかりというのが現状です。

本当に大事なのは、「来春闘の労使の決断」ですが、それを前にして、日本中の家計支出がどう動くかを毎月教えてくれる「家計調査」です。

来月は。平均消費性向の動きの背後にある家計支出の名目、実質の動きも見ながら、日本経済復活のカギを握る家計消費の動向を追い続けたいと思っています。

景気は「自家製デフレ」に後退の兆候

2023年12月02日 13時44分34秒 | 経済
今日の経済ニュースの中で2つほど気になるものがありました。
どちらも、日本経済の回復に懸念を持たせるもので、このブログが気にしている「このままで行ったら、また「自家製デフレ」に逆戻りという予測につながるものです。

1つはFRBのパウエル議長が「金融緩和の推測は時期尚早」と改めて発言している事、もう1つは内閣府から、今年の7-9月期の需給ギャップがマイナスになったと発表されたことです。

パウエル議長の発言については、パウエル議長のインフレ嫌いは知られていますが、現在の3.2%程度インフレをアメリカにとっては低過ぎる感じの「2%インフレ目標」に下げることは結構難しいでしょいう。それに固執すると金利が下がらない事になります。

アメリカの金利が下がらないと円安が続くという事で、それは日本にとっては具合が悪い事です。

理由は、(輸出企業やインバウンドには好条件ですが)円安で日本の賃金も物価も外国より大幅割安なので、経済国際化の中で、日本の物価は上がります。
これに対する日本政府の政策は、エネルギーなどの輸入企業には補助金、各家庭には給付金というバラマキ政策で、これは赤字国債を財源に支払われます。

与党も野党も補助金、給付金の額や範囲を競います。一方、国民は、赤字財政の中での補助金、給付金は長続きしないと読んでいますから、使わずになるべく貯金です。

来春闘が今春闘を多少上回る程度でしたら、物価上昇、実質賃金低下で、消費は伸びず「自家製デフレ」は継続し、今年と変わらない状態になる可能性が大です。

こうした状況は、アベノミクス以来続いていますが、コロナ明けで昨年少し変化しました。、しかし、今年の春闘の結果では、消費不振で今年に入って平均消費性向は下がり気味、四半期GDPの成長率は下がるばかりです。

こうした現状を確認する様に、内閣府の「7-9月期の需給ギャップはマイナスに」という発表なのです。
需給ギャップがマイナスというのは、供給力があるのに需要が足りない、という事で、内閣府の発表の解説では「物価高の影響で食料品を中心に「個人消費」が振るわず」とその主因を指摘しています。

「自家製デフレ」は「自家製インフレ」の反対です。
「自家製インフレ」では、賃金が上がり過ぎる「賃金コストインフレ」ですが「自家製デフレ」では、賃金が上がらないので消費者が買わない消費需要不足のデフレなのです。

賃金というのはご承知のように、企業にとってのコストで、企業はコストを上げたくないのですが、賃金は同時に需要、購買力の源泉でもあるわけです。賃金が上がらなければ需要が増えません。
賃金は、「コストと需要の二面性」を持っていますから上がり過ぎても困るし、上がらなくても困るのです。

賃金が上がらないので国民が物を買わない(買えない)日本に、「これはチャンス」と賃金の上がる国からインバウンドが押し寄せているというのが現状です。

日本:不思議な国の「賃金・物価」物語

2023年11月30日 14時12分44秒 | 経済
日本の賃金が「あまりに上らない」からでしょう、公正取引員会が、
「賃上げを価格転嫁する」ための「企業の行動指針」
を取りまとめて公表しました。

これは大変結構なことで、このブログでも、「賃上げの力のない中小企業などが賃上げをしたら、その分を価格転嫁できるようにすればよい」と指摘して来ました。

おそらく世界の先進国を含む多くの国でこの話を聞いたら、政府機関が、賃上げした分価格転嫁してよいと言ったら、たちまち経済は賃金インフレになって、結果は賃金物価のスパイラルで、ハイパーインフレが発生しますよ。そんな国は、すぐに国際競争力を失って立ち行かなくなるだけだよ、と物笑いになりそうです。

ところが、日本では、経済活動についてのレフェリーの代表である公正取引委員会が、それをやりなさいと指針まで公表するというのです。

報道による内容の主要点を挙げますと、
発注する企業に対しては、人件費の転嫁を受け入れる取り組み方針を経営トップまで上げて決定し、社内外に示すこと、といった懇切な説明があります。

受注する企業に対しては、価格交渉の際は根拠として最低賃金の上昇率や春闘の妥結額などの公表資料を利用することや、価格を提示する際には自社のみならず、下請け企業などの人件費も考慮して行うこと、とこれまた、まさに懇切丁寧な説明があります。

何で、世界の中で日本だけ、こんな事が起きるのかについては、少し先回りして、このブログの「賃上げ圧力の弱い社会」で説明し、そんなに賃上げを奨励しても日本経済は大丈夫なのかは、「日本経済活性化の鍵」以降の3回シリースで分析しています。

岸田政権の大きな間違いは、政府がカネをばら撒けば経済が活性化するという自己都合中心の経済政策(補助金、給付金は票につながるという期待感)しか見えないという事でしょう。財源は赤字国債だと国民は知ってます。

今回の公正取引委員会の政策は、純粋に「良いルールの設定」と、「レフェリー」に徹することで日本経済の活性化と図るという「本来の」経済政策の在り方の実践であるという点が素晴らしいと思います。

岸田政権が赤字財政でのバラマキでなく、この公正取引委員会の方針に最重点を置けば、効果はバラマキの何倍も大きいでしょう。

理由は、経済の現実のプレーヤーである「労使の行動」によって直接に経済活動のバランスを回復する事が可能になるからです。

アベノミクス以来、日本は「インバウンドは日本がリード」などと言われるほど、物価もそして賃金も安い国になって、しかも賃上げを皆が遠慮している国なのです。
このまま放置すれば、プラザ合意の時のように、世界で問題にされる恐れすら予見されます。

やらなければならない事は解っているのです(賃金水準の引き上げです)。
多分、日本経済の活性化は、「不思議な国日本」が、「不思議な国」でなくなるのと同時にスタートという事になるのではないでしょうか。

補正予算では「自家製デフレ」脱却は無理では?

2023年11月27日 15時29分51秒 | 経済
朝食の後、9時のニュースが5分繰り上がって、9時からは参議院の予算審議の中継でした。

立憲の辻元議員の質問が始まっていましたが、総理の答弁の基本的な柱は、来年度にかけての目標はデフレの脱却を何とか果たしたいという事のようでした。

これは、総理は勿論、国民全体にとっても望ましい事で、このブログでも、その実現にお役にたつような情報でお手伝い出来ればと、基礎データの点検から、方法論、実践目標迄いろいろな形で指摘して来ているつもりです。

総理の答弁が、官僚の書いたシナリオそのものか、それとも岸田理論が強く出ているのかは解りませんが、残念ながら、デフレ脱出はあまり巧く行かない可能性が高いという感じでした。

そう感じてしまう原因は、総理が一生懸命、政府がやりますからという態度を繰り返し強調し、その態度も言葉も異常に力が入っていたからです。
今のデフレは「自家製デフレ」ですから、国民の意識が作っているものです。国民の意識が変わり、国民が自分で直さなければ直りません。

自家製インフレの時(第一次石油危機直後)は、労使が気付き、協力して直しました。
自家製デフレはその逆の現象が起きているのですから、労使が気付いて、あの時の逆をやらないと直らないのです。

政府は、主役にはなれないので、脇役に甘んじて、環境整備に知恵を絞るのがいいのですが、(支持率低下もあるので?)何とか現政権の力でやって、「デフレを克服した」と胸を張りたいのでしょうか、異常な熱の入れ方で、余り合理的でない方法を補正予算で押し通そうとしているといった姿です。

今のデフレは、日本経済の置かれた客観情勢の中では、企業が従業員への配分を増やして行けば、容易に自然治癒する性質のものですが、労働組合は要求を遠慮し、経営側は、自らの努力を超える利益も、自分の努力の結果と見誤ったのか、従業員や社会に配分しようとしないという事に最大の原因があるのです。

残念ながら政府は、嘗て政府が手を打って不況を克服したと言われる事例を誤って解釈し、財政政策(赤字国債→補正予算)で解決できると勘違いをしているように思われます。

確かにそんな事例はありました。
戦後盛大の不況と言われた昭和40年不況は、当時の福田総理の「国債を発行します」の一言で解結しましたし、第一次石油危機の後、賃上げ率を下げ続けた時の不況は「赤字国債の発行を認める」という決定で脱出しバブル景気に繋がりました。

これで国債発行というマジックは使い果たし、後の国債発行は国民の将来負担の心配を増すだけ(土光臨調の主要テーマ)になったのです。

そういう意味では、企業が(あるいは労使が)自力で賃上げをし、国民所得の「雇用者報酬と営業余剰の配分」(労働分配率)を変えるべき所を、政府が、赤字国債を原資に企業に補助金(賃上げ減税など)を出して賃上げを勧めても効果は限定的でしょう。

この辺りは11月22日のこのブログの図表「法人企業製造業の付加価値の分配の推移」をご覧いただければ歴然ですが、「円安になった時の労働分配率低下」を防ぐために役立つ「賃上げ圧力」が極めて弱い日本の労使関係が、デフレ脱出を困難にしている要因ともいえるでしょう。

つまり、政府がプレーヤーになっても出来る事は限られていて、本質的な問題解決の手段がないのに、国会では与野党が、本来のプレーヤーである労使そっちのけで、余り役に立ちそうにない政策論を大変熱心にやっているので、途中から、このブログを書き始めたという所です。皆様はどんな風にお考えでしょうか。

2023年10月消費者物価、そろそろ転機か

2023年11月24日 22時58分04秒 | 経済
今朝、総務省統計局から10月分の消費者物価指数が発表になりました。

物価上昇の動きは収まりそうにない数字が出ていますが、客観情勢から見れば、そろそろピークを向かうのではないかと思われる要素もあるように思います。

下のグラフを見て頂きますと、まず注目しなければならないのは所謂コアコア指数(生鮮食料とエネルギーを除く総合)の動きです。

消費者物価3指数の推移(原指数)

             資料:総務省統計局「消費者物価指数」

10月は、3指数とも騰勢を強めています。エネルギー関係の補助金が半分になったことも影響していると思いますし、それに10月から4千数百品目の一斉値上げが行われたことも影響していると思います。

特筆すべきは、天候にも、エネルギー価格にも影響されない国内消費物資の緑の線が、2021春以来初めて赤い線(生鮮食品を除く総合)を抜いて青い「総合」の線に近づいて来た事です。

この緑の線は、コアコア指数と呼ばれ、国内発のインフレで、FRBも日銀も特に注目しているものです。

このコアコア指数は国内の消費不振、そしてコロナ禍の中でかつては値上げが出来ず、じっと我慢していた指数で、今年に入ってようやく値上げできる環境になり、急速に青、赤の線に追いつく態勢に入った調理食品、加工食品、飲料、外食、宿泊料、トイレットペーパーなどの生活必需品が中心です。

このコアコア指数こそが、昨年末から消費者・家計を悩ましていた物価上昇の主様な原因なのです。
昨年までの値上げ出来なかった分を取り戻そうと、年率10%を超える値上げをしてきましたが、そろそろ全体のレベルに追い付くことになりました。

という事は、これからはコアコアだけが急角度の上昇という事態は収まるのではないかと予想されます。
現に、上記のような品目でも、急激な価格上昇が買い控えを招き、最近、値上げした一方で、纏め買い・特売・ネット販売値引きなどの動きがみられます。

この辺りは対前年同月上昇率の下のグラフで見ると、もう少しはっきりします。

消費者物価3指数の対前年同月比上昇率(%)の推移

              資料:上に同じ  

今年の2月から総合や、生鮮食品・エネルギーを除く総合の上昇率は3%程度の横這いになって来ていますが、緑のコアコア指数が独歩高の上昇になっています。そして、10月は(最後の=そう願いたい!)諸企業の一斉値上げで、対前年10月比5%という大幅上昇になっています。(注):政府発表の数字では4%となっています)

世界的に見ても、エネルギー価格も落ち着き、アメリカ、ヨーロッパのインフレも収まる方向で、更には、輸入価格を押し上げた円安もこれからは円高かと言われる状況です。

賃上げしても物価上昇で実質賃金はマイナス続きと言われたこの1年半のコアコア指数の大幅上昇.が終局を迎えれば、国民生活にも、政府の経済運営にも、日銀の金利政策にも良い影響が出て来るのではないでしょうか。
11月以降の消費者物価指数の動きから目が離せないところです。
・・・・・・・・・・・・・・・・
(注)総務省統計局発表の「報道資料」では、原指数の「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の2023年10月の対前年同月比は4.0%となっていますが、同じ表の原指数から計算しますと5.0%になりますので、上のグラフでは5.0%を取りました。
2022年10月の原指数(グラフに入れてあります)と今年の10月の原指数と割り算をしてみた結果です。この違いについて、総務省統計局の担当に問い合わせてみましたが、明確な答えは得られませんでした。

政府は経済政策の誤りにに気付くべし(前2回の補遺)

2023年11月18日 14時18分09秒 | 経済
前2回、日本経済の活性化の決め手となるのは、先ず、日本の平均賃金水準を10%程度上げること事だと書きました。

賃金水準が割高なアメリカヨーロッパでも、労働組合が当然のこととして要求し、経営側が、それなりの答えを出しています。

円安で、賃金水準が割安な日本ならば、そうした状況になって当然ですが、そうなりません。 
そうした元気のなさが、日本経済不振の原因ですという趣旨も含んで書いています
どうも、日本の国民は、労使を含め政府にマインドコントロールされているようです。

少子高齢化、人口減少、年金財政を始めとしての将来不安、財政再建絶望的、ゼロ金利、ゼロ成長、賃金は上がらないもの・・・と並べられると「我々の将来は暗い」と信じ込まされるのでしょう。

そうしたことを前提に、政府は、「政府の力で何とかします」と言います。
増税はしません、子育て支援も、エッセンシャルワーカーの待遇改善も、防衛費負担も、輸入物価が上がれば補助金も、消費者物価が上れば各家庭に給付金も、研究開発には基金を作り、国土強靭化にも予算を付け、国民の生命、財産を守りますというのです。

そして、国民はやっぱり政府に頼るしかないかと観念し、選挙では現政権(自民党)に投票するのでしょう。もっとバラマキをしますという野党にも、多少の票は入ります。
これが「今の日本の姿」ではないでしょうか。

嘗てフォード・モーターは、自動車が一部の富裕層の行き渡り、「さて今後どうするか」を考えた結果、わが社の従業員が自動車に乗るようになれば、市場は爆発的に広がると考え、従業員の賃上げを進めると同時に安価な自動車の開発に注力、「T型フォード」を開発・発売、大成功し、アメリカのクルマ社会化を主導したという逸話があります。

「日本では物価も食事代も安く、品質は良いし食べ物は美味しい」とインバウンドが大挙来日するのも結構ですが、それを日本人自体がみんな楽しめるのでないと、GDPは増えない事をこの逸話は教えてくれます。

しかし、今、日本人は、政府のマインドコントロールに引っかかり、我々の未来は暗いと、食費も切り詰め、貯蓄して、将来不安・老後不安に備えるという状況です。

必要なことは全て政府がやります、政府を信頼してください。と言いつつ財源は、赤字国債です。国民は、これは将来の国民負担と解っていますから、不安は強まります。

政府がメインプレーヤーになっている社会が発展しない事は、歴史が証明しています。発展する国は何処も、国民が元気で、民間の力が経済・社会の活動を支えています。日本もかつてはそうでした。

このブログでは、政府はプレーヤーになってはいけない、プレーヤーは国民で、政府はレフェリーに徹することが重要と書いて来ています。

今回は、政府に「プレーヤーになりたがるな」という忠告と同時に、国民、特に民間労使に「元気を出そう」との呼びかけとして、前2回の「補遺」としています。

来春闘、必要な賃上げは平均賃金10%上昇程度か

2023年11月17日 14時13分45秒 | 経済
前回は、日本経済活性化のために賃上げが必要という意見が、労働組合、政府は勿論、企業経営者や経済団体にも普遍的になって来ているという現状も前提に、「日本経済活性化の鍵は賃上げにあり」と書きました。

同時に、「定昇込み5%以上」とか、「今年より高い賃上げ」という程度では、多分今年と同じような結果に終わるのではないか」とも書いてきました。

理由は、物価が沈静すれば別ですが、今の政府の補助金による物価上昇抑制がなくなり(4月まで)、円安がアメリカの事情などで続く可能性が強く、海外は何処もインフレ、インバウンド大盛況などが、ジリジリと消費者物価を押し上げる可能性が高いからです。

今春闘の賃上げでも毎月勤金統計の「平均賃金の上昇は1~2%前後」ですし、家計調査の「勤め先収入」はマイナスです。
それが多少増えても、恐らく賃金上昇は物価上昇に食われ、実質賃金はマイナスが続く可能性が大で、家計は防衛型になり平均消費性向は再び低下に向かい、消費需要低迷で日本経済の不振は変わらないというのが十分心配されなければならないと思われるからです。

こうした悲観的な予測になってしまう根本原因は、かつて円高で抑えに抑えた平均賃金水準(低賃金の非正規拡大も含む)を円安になっても殆ど復元しない企業経営の低平均賃金維持政策にあるように思います。

そしてまた今回の円安です。長期的な円安の時、円高の時と反対の賃金政策を取らないと、消費不振で経済低迷になるという単純な経済現象に気付くべきなのでしょう。

円レートが1ドル80円から120円へ、更に今150円へと変化しています。150円は行き過ぎとしても、日銀短観の企業の予測は130円台です。円安は続く気配です。

円安はドル建ての日本GDPを縮小させますが、その分日本のコストを下げ、日本の国際競争力を強めます。円ベースで生まれる円安の利得は、適正に平均賃金水準に反映されるべきなのです。

こうした視点から考えれば、日本の平均賃金水準は、かなり大幅に引き合上げる必要があったのです。
そして漸く「賃上げが必要」という認識が政労使3者に共有される事になったのですから、これは本気でやる必要があるという事になるのです。
この際(たとえは悪いですが)、兵力の逐次投入はやめて、一挙大量投入で、日本経済の景色を変える必要があるというのがこのブログの主張です。

それにしては随分控えめですが、このブログでは標記の「平均賃金10%上昇」を掲げました。これは今高騰いている食料品など生活必需品の価格上昇にもほぼ見合うという水準です。

これで、出来れば、全国の家計(家庭)のムードを中心に、国民の意識を一変させることが出来れば、日本経済活性化のきっかけになると考えているところです。

ここで問題は、わが社はそんな賃上げは出来ませんという中小企業を中心にした意見への対応でしょう。

答えは簡単で、「人件費上昇分だけ、確りと価格に転嫁してください。」「但し便乗値上げはしないでください」と政府が、明言する事です。

当然賃金インフレは起きるでしょう。日銀は喜ぶでしょう。但しそれは一過性です。多分、それで実質賃金はプラス転換でしょう。

再来年以降の賃金交渉は、改めて労使で検討ですが、消費者物価の上昇を2%程度上回る賃上げを2~3年続ければ、新しい賃金決定秩序が形成されるでしょう。

政府の出番は企業の労使がルールを守るよう「レフェリー」をするだけです。
(本来、政労使会議で議論すべきはこんなことなのではないでしょうか)
労使の、思い切った決断を望むところです。

日本経済活性化の鍵は何でしょう?

2023年11月16日 16時01分18秒 | 経済
日本は、アメリカ中国に次いで、世界第3位の経済大国ということになっていますが、IMF(国際通貨基金)の予測では、今年(暦年)ドイツに抜かれ第4位になるようです。それからまた2-3年でインドに抜かれ第5位に転落するとの予測もあるようです。

こう予測されて、「多分そうなるんだろうな」と納得するか、「抜かれないように頑張ろうじゃないか」と考えるかですが、今に日本人にはどちらが多いのでしょうか。

このブログは、後者の考え方で、本気でやれば出来るのだから、やっぱり頑張ってやりましょう!という立場です。
という事になりますが、問題は、原因の究明と、取るべき方策の方法論です。

この問題は、経済学的に見ても、経済活性化に責任を持つ政府、日銀、経済団体、労働組合(連合)一部の個別企業や経済学者、経済評論家などに細部は別として、ほぼ共有されているという状況になって来ている様に思います。

答えは「日本の賃金水準の上昇」です。

確かに理解は進んできているのですが、その根拠の把握や対策の説明が未だ不明確なために、着実な成功は難しいように思われます。

問題は、第一に、必要な賃金水準の上昇の程度、第二に、30年来の不況の中で歪んでしまった雇用・賃金構造の是正(格差縮小の視点から)についての認識、この2つについての感覚が長年の無策で鈍磨されてしまっているという事でしょう。    

この2つをどう考えるかという点で誤ると、結果はアベノミクス以来の10年の失敗の繰り返しになってしまうのですが、来春闘に向けての関係プレイヤーの発言を聞いていますと、これでは失敗の繰り返しの恐れが大きいように思うのです。

先ず水準については連合の要求ですら5%以上と今年の要求に「以上」がついただけですし、経団連会長は「ベアが有力な選択肢」と的確に位置付けていますが、数字としては4%以上(春闘賃上げ率、ベアではない)という発言もあるようで残念です。

岸田総理は、昨日の政労使会議で、「今年以上の賃上げ」というにとどまっていたようですし、日銀は、立場上待ちの姿勢です。

個別企業では既に7%という発言も聞かれますが、その程度に賃上げは出も来るところも多いでしょう。といっても一部優良企業に限られます。

一方物価は、政府のエネルギー関係の補助金で1%ポイント余2月から下げられていますが、これは来年4月まで。消費者物価のコアコア指数は上がり続け、特に食料・飲料、必需品は10%前後の上昇です。

昨年以上の賃上げでも、物価も昨年以上に上っていますから、これでは結果は、おそらく今春闘の結果と変わらない事になるのではないかと惧れます。

第二の問題、雇用・賃金構造は、非正規従業員40%という問題です。これは円高不況の時、賃金より雇用という意味で緊急避難的に発生した問題です。円高が是正された2013-4年に非正規の正規化、雇用構造の復元が為されるべきものが、今日まで持越されている問題で、所得格差、貧困家庭問題の元凶でもあります。
手抜きされた教育訓練も含めてかなりのコストがかかる問題ですが、経営側の喫緊の課題でしょう。

「今年以上の賃上げ」といっても資源輸入国日本では、円安で物価はじりじりと上昇する可能性が高いでしょう。
消費者物価は円安でインバウンドの盛況もあり、順調に下がらない可能性もあります。その中で、日本の賃金水準は国際的に見れば円安分だけ下がっているのです。

輸出関連企業は円安で労せずに差益が入り、輸入関連企業には政府の補助金が出ます。しかし雇用労働者については、物価上昇を「下回る」賃金上昇だけです。(実質賃金の長期的低下状況が示しています)

これがこの10年程、円安の実現に関わらず、円建ての実質賃金すら上がらず、個人消費の低迷で日本経済が成長しない理由だと実感していただけるのではないでしょうか。

さてどうするかですが、長くなるので次回にします。

2023年7-9月期GDP、目立つ民間需要不振

2023年11月15日 20時40分54秒 | 経済
今日、内閣府から今年度7-9月のGDP四半期の速報が発表になりました。

すでにマスコミではマイナス予想がされており、今日発表の数字でも、季節調整済みの物価上昇分を除いた実質値前期比で、マイナス0.5%、年率換算でマイナス2.1%、3期ぶりのマイナスという見出しで報道されています。コロナ終息後、動き始めたように感じられている日本経済ですが回復は思うようにはいかないようです。

指摘されているのは、物価上昇が予想より長く続き、しかも今後についても上昇が続くのではないかという見方が強く、インフレによる実質値の低下と、物価上昇が続きそうだという事で、消費者の買い控えも見える消費需要の不振です。

加えて民間設備投資の一時的とも思われる停滞、前期に伸びた民間住宅の反動減もあったのかもしれません。

このブログでは、こうした短期的な浮沈より、多少長期的なトレンドが見えると思われる対前年同期比、つまり1年前からの伸び率を中心に見ていますが、今回も、実質伸び率の対前年同期比について見ます。

特に今回は、最近の日本経済の動きが芳しくない中で、政府が赤字国債を出してまで一生懸命に補助金や給付金で景気浮揚の計るという岸田経済政策が効果をあげているのかどうかを見てみたいと思います。

下の図は、昨年7-9月期から今年の7-9月期のGDPの伸び率を民需と官需(公的需要)に分けて見たものです。

GDPと構成する民需、官需の対前年同期伸び率(実質、%)

                    資料:内閣府「国民経済計算」

青の柱は各四半期のGDPの対前年同期成長率です。
昨年の7-9月期は3.7%と順調な伸び、10-12月期は歳末商戦不調のせいもあって伸び悩みましたが、今年の1-3月も3%の実質成長です。

しかし今年度に入って4-6月期は1.7%、7-9月期は1.2%と次第に低迷です。上記の7-9月期は前期比-0.5%も効いているのでしょう。

今年度に入っての2四半期の連続成長率低下は、グラフで見ますと民需(茶色の柱)の停滞を官需(緑の柱)でテコ入れしようという意図が見えています。しかし民需の低下は深刻です。

民需の落ち込みの主因は、皆様のご想像の通りで個人消費です。グラフにはありませんが、家計最終消費支出は4-6月期0.0%、7-9月期-0.3%と減少とゼロ・マイナス成長です。
これは物価の上昇に食われているのと同時に、平均消費性向の低下によるものでしょう。

つまり、この所のGDPは、個人消費を中心に民需の落ち込みが顕著で、政府の補助金などの効果は見えて来ていないという事です。問題は、民需、特に個人消費でしょう。

岸田政権に要請されるのは、政府が国民に赤字財政のカネをばらまくことではなく、企業や、特に家計に金を使う気になる政策だという事ではないでしょうか。
経済という生き物の性格を的確に理解しないと、誤った政策を続けることになります。
些か心配です

主要3物価、それぞれの動きに

2023年11月13日 11時19分13秒 | 経済
今日、日銀から輸出入物価と企業物価の統計が発表になりました。毎月追いかけている輸入物価、企業物価、消費者物価(東京都区部)の3物価を見ますと、今月は、それぞれにばらばらな動きで、輸入物価が企業物価に影響し、それが消費者物価に影響してい来るという関係よりも、それぞれの物価に別々の要因が大きく影響しているといった感じです。

グラフで、それぞれの動きを見て行ってみましょう。
下のグラフは長期的に、今回の原油・エネルギー価格の高騰を最初から追ってみたものですが、アメリカ、ヨーロッパで10%前後のインフレを引き起こしたエネルギー価格は、すでに昨年夏をピークに下落の一途でしたが、今年の夏あたりから横ばい状態になり、この所多少の上昇傾向が見られます。

アメリカではFRBがインフレ傾向が再燃するのではないかと金利再引き上げに言及、そのトバッチリで日本では、1ドルが151円台といった円安を引き起こしています。
先行き、上がるのか下がるのか、見方はいろいろある中で、日本国内の物価はまたそれぞれの動きです。

     主要3物価指数の動き(消費者物価は東京都区部速報)

                  資料:日本銀行、総務省統計局 

この辺は、下の対前年同月比のグラフを見て頂いた方がよろしいかと思いますが、輸入物価は7月にボトムを記録した後8月、9月と下げ幅を縮め10月には9月より上昇ですが上がっているのは殆どエネルギー関連で後は横ばいか小幅低下です。

     主要3物価指数の対前年同月上昇率(%)

                    資料:上に同じ

企業物価は、御覧の通りで、今年に入って一貫して上昇率を下げて落ち着いてくる動きです、エネルギー価格の動きを4カ月ぐらい遅れで、なだらかに反映する安定した動きですが、政府の補助金の反映の状況はこのグラフからは見えていません。

消費者物価は全く違った動きをしています。こちらは一貫して上昇傾向で、特に10月は原指数で1ポインの上昇、対前年上昇率でも0.5ポイントの急上昇です。 
これは生鮮食品、加工食品、調味料、飲料その他生活必需品の10月からの一斉値上げによるものでしょう。つまりこの上昇は国内インフレという事です。

輸入物価の上昇・下降は世界共通と考えられますが、日本の場合は円レートの影響が大きい点が問題です。企業物価はその辺を上手くこなしながら安定の方向にありますが、消費者物価の場合は、円安の影響もあるのでしょうか、今のところ騰勢が収まる気配はありません。

エネルギー価格、円レートが不測の動きをする中で、消費者物価は一貫したがり続け、その原因は、いわゆるコアコア指数の上昇、つまり国内インフレだという事になると、日銀の「賃下を含む2%インフレ」超えてインフレ状態が続きそうです。
異次元金融緩和の見直しはどうなるのでしょうか。

20日過ぎには全国の消費者物価の統計が発表になりますが、その際、消費者物価についてはもう少し詳細に見てみたいと思います。

「自家製デフレ」の再来を避けよう

2023年11月10日 16時09分49秒 | 経済
丁度1年ほど前、「自家製デフレ」から何とか脱出したという思いを3回ほどに分けて書きました。

「自家製デフレ」というのはその時作った造語です。
「自家製インフレ」という言葉はあって、これは home-made inflation の日本語訳です。
インフレがあればデフレがあるはずだという事ですが、自家製インフレは、通常「賃金コストプッシュ・インフレーッション」です。

ならば賃金が上がらな過ぎる場合は、需要が不足して「自家製のデフレ」になる可能性があるわけです。しかし現実にはそんなことは通常ないので「自家製デフレ」という言葉がなかったのでしょう。
かつての日本も含めてどこの国も「賃上げ圧力の強い国」ですから、何かきっかけがあれば(たとえば輸入インフレ)賃金が上昇し、自家製インフレになるのです。この所のアメリカ、ヨーロッパの10%前後のインフレもそうです。

ところがアベノミクス以来の日本経済では、明らかに、その反対「自家製デフレ」の現象が起きているのです。
異常な円高が解消して、国際競争力が付き、生産力は回復してくるのに対し、賃金の方はほとんど上がらない状態が10年以上も続いているのです。

国民所得の過半を占める賃金(正確には人件費=雇用者報酬)が上がらなければ消費需要は増えません、当然消費者物価も上がりません。
日本の家庭の生活水準は低迷、企業は国内向け製品の価格は上げられず、増えるのは、物価の安い日本を目指すインバウンドばかりという現実がそれを示しています。

岸田政権はこの事実を知って「成長と分配の好循環」というスローガンを掲げたのでしょうか。知っていたら、多分、順序が反対になって「分配と成長の好循環」になっていたのではないでしょうか。

デフレというのは、モノやサービスがあるのに需要がない時に起きるものです。昔は資本家が富を集め庶民は貧しくて需要がなく、その結果デフレが起きたようです。
貧富の差が大きくなり過ぎても需要不足でデフレが起きるようです。

今回の日本の「自家製デフレは」企業、労働者の両方が、「また円高になったら大変」という強迫観念を持っていたのでしょう、長期の円高不況の経験から、また何時円高になって、円高不況、雇用の不安定再来の懸念から、企業は内部留保を重視し、家庭は上がらない賃金の中からでも出来る限り貯蓄を増やしてそれに備えるという日本人の真面目さからでしょう、日本は「賃上げ圧力の弱い社会」へ変化してしまったようです。

そして、残念ながら、もう円高は多分起きないという為替環境の変化にも関わらず、諦めムードで、賃上げ圧力を強めるという行動変化を起こさなかった事の結果でしょう。

この本来必要だった変化が、昨年あたりから今春闘にかけて起き始めたようです。昨年から平均消費性向に上昇傾向が見られ、今春闘では労使が共に賃上げ容認で一致しました。

しかし日本人は憶病なのでしょうか、その動きは too slow, too little で、現実に効果を生むに至りませんでした。最近の統計指標では、何か再度「自家性デフレ」に戻りそうな雰囲気も感じられます。これだけは避けたいですね。

さらに言えば、これは政府、日銀には出来ない(具体的手段がない)事なのです。直接の行動が出来るのは「労使」なのです。その事の理解のために必要なのは、適切なアカデミアからの理論的解説かもしれません。

来春闘にかけて、連合、財界諸団体の思い切った発想、発言、行動の転換が期待されるところですが、どうでしょうか。
市井の片隅から、政府、日銀のマネをして、「注視」していきたいと思っています。

2023年度上半期、経常収支黒字12.7兆円

2023年11月09日 17時20分23秒 | 経済
財務省が発表している国際収支統計によりますと今年度上期のわが国の経常収支黒字は12.7兆円と急拡大しました。

昨年度の上半期は4.2兆円でしたから正に急拡大ですが、これはワクチンの輸入がなくなったのや原油価格が下がった事からでしょう、それに第一次所得収支も急増しています。

第一次所得収支というのは、日本人(含法人)が海外に投資をして得た利子・配当などです。大部分は日本企業の海外外子会社や投資先からの受取りでしょう。

これは日本が受け取る所得ですが、国内の生産活動の結果ではないので「GDP」にも「国民所得」にも入ってきません。
入っているのは「GNI」=「国民総所得」=「国民所得+第一次所得収支」という事です。

ところで、もともと日本の経常収支は貿易収支がトントンぐらいで、第一次所得収支が年間20兆円ほどの黒字という姿が普通でしたが、この所、コロナのワクチン輸入、それに原油価格の高騰などで様子が変わりました。それが以前に戻ってきたと言えそうです。

今回、経常収支黒字が増えたという事に関連して取り上げるのは、それに大きく貢献している第一次所得収支の問題です。

下の図は、経常収支と第一次所得収支の(日銀の政策変更で為替レートが正常化して以来の)動きです。

     経常収支と第一次所得収支の推移(単位:兆円、2023年度は上期×2)

                     資料:財務省「国際収支統計」

両者の差の主要な原因は貿易収支です。当然、ワクチン輸入や原油価格の影響もありますが為替レートも影響してきます。
円高になれば輸出が減りますが輸入品は安くなります。逆に、円安になれば輸出は増えますが輸入価格が高くなるといった影響です。プラスとマイナスの影響です。

一方、第一次所得収支は利子・配当を受け取るだけですから、円安になると円安分だけ増えます。円レートが110円→150円になれば、1ドルの配当毎に40円増えるわけです。

上の図で、この所、第一次所得収支が急激に増えているのは円安の結果という事でしょう。これは投資した人・法人の所得になるのですが、この行先はどうなっているのでしょうか。
現実の動きはいろいろでしょが、企業の収益になり留保される可能性は大きいでしょう。

マクロで見ますと、第一次租特収支の黒字増加が貢献している経常収支の黒字は、「国民総所得の使い残し」という事になるのでしょう。消費や投資に使ってしまえば、黒字にはなりません。これは家計と同じです。

黒字は金融機関に預けられます。金融機関はそれを運用しなければなりません。最も安全な運用先はアメリカの国債というのが世界の常識です(中国は最近アメリカの国債を売って「金」を買っているという話ですが・・・)。

アメリカの国債の保有状況を見ますと、2010年ごろには中国が日本を抜いて第一位、しかしこの所、保有額は急速に減って、今は日本が再び1位で1.09兆ドル、約160兆円(ちなみに2位は中国で8700億ドル)だそうです。

ここで2つの問題が提起されそうです。
1、 円安で大きく膨らんだ経常収支の黒字は、円安によって日本人の所得や財産が国際的に(ドル建てで)目減りした見返りでしょう。ならば日本人全体にそれを配分すべきではないのか。
2、 万年経常黒字は日本人の頑張りの結果でしょう。その頑張りの結果をアメリカの国債にしておくメリットは?日本経済の成長発展のための活用を考えるべきではないか。
日本の政府や経済界はこの問題をどう考えているのでしょうか。

2023年9月、平均消費性向は上昇ですが

2023年11月07日 12時12分33秒 | 経済
2023年9月、平均消費性向は上昇ですが
今日、総務省統計局から9月度の家計調査:家計収支編が発表になりました。
先ず、2人以上勤労者所帯の家計収支のページの「平均消費性向」の数字に直行して確かめますと78.2%で、前年同月の77.7%に比べて0.5ポイントの上昇です。

       平均消費性向の推移(2人以上勤労者世帯、%)

               資料:総務省統計局「家計調査」

過去2か月7月、8月と平均消費性向は前年同月比で下がっていましたから、昨年来の上昇基調に復帰かと希望的観測も含めて、9月の動きの全体傾向を見ていきましたが、どうも状況はそう簡単ではなさそうです。

平均消費性向の上昇にはいろいろあって、収入が増えそう、あるいは増えたから少し財布の紐を緩めようかという感じのものから、収入は増えないけれど物価が上がったから止むを得ず支出が増えてしまったという感じのものまであるわけです。

ところで今回は、どうかですが、2人以上の全世帯の場合でも、ほとんどの世帯は実質消費支出が消費者物価上昇のためにマイナスになっていますし、収入、支出の両方の数字が取れる勤労者世帯では、春闘賃上げがあったにも関わらす収入が前年比マイナスです。

その結果でしょう、消費支出そのものも前年比マイナスで、実質消費支出は大幅にマイナスです。
勤労者世帯の具体的な数字(前年度比増減%)、(▲はマいナス)
実収入:名目▲2.4% 実質▲5.8%
可処分所得(手取り):名目▲1.3% 実質▲4.3%
消費支出:名目▲0.7% 実質▲4.2%
という事で、物価が上がっているので、収入の減少程支出を抑えられなかった。結局は物価上昇に食われて実質消費は大幅減少になっていしまった、という感じです。

統計では、平均消費性向は、上記の様に0.5ポイント上昇という事です。しかし、これは前向きな消費の活発化というより、物価上昇で、生活防衛もままならないというのが実態のように思われます。
 
9月の消費者物価の動向は、10月21日に取り上げていますが、特に食料品その他の生活必需品の対前年上昇率が10%前後まで高まっているというのが、家計への打撃でしょう。

日銀は、来年2~3月には、この上昇も先が見えるのではないかとしているようですが、大幅だったと言われている今春闘の賃上げ率も家計のサイドで見れば、家計調査の様にマイナスで(注)、物価の方は政府補助金で下げたといっても現状の通りですから、家計が安心して消費支出を増やせる段階ではなさそうです。

連合傘下のUAゼンセンが6%以上の賃上げ要求を掲げましたが、これでアベノミクス以来の「自家製デフレ」が克服可能なのか、政府は勿論、日本中の労使が本気で考える必要がありそうな気がするところです。
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(注)家計調査の勤労者世帯の場合は、毎月勤労統計の様に事業所調査ではなく、調査対象は 世帯ですから、4人以下の事業所、常用労働者でない臨時、日雇いの勤労者も勤め先があれば勤労者世帯に入ってきます。

三連休明け株価暴騰、日米景気の行方は

2023年11月06日 15時28分26秒 | 経済
ロシアのウクライナ侵攻で世界の多くの人々が、ロシアの野蛮な行為を悲しんでいる中で、今度はハマスとイスラエルの報復合戦が起き、人びとは、改めて現代世界にも未だに人類文化の進歩に遅れた部分があることを痛感し、悲痛な感覚に悩まされています。

一方紛争、戦争の文化から卒業した社会では経済の競争が人々の心の主要な部分を占めているのでしょう。
こちらの競争社会も結構熾烈ですが、破壊と殺戮のない事は人類社会がそこまで進んできている事を示していると理解すべきでしょうか。

2つの戦争に痛みを感じながらも、経済社会は多様な形で豊かさを求め競い合っています。これが今の人類社会の現実という事なのでしょう。

先週から、アメリカは足掛け2年のインフレ克服に目鼻を付け、経済安定化を期待して株価は連日の上昇、それを受けて連休明けの日経平均も700円超の上昇です。

ここからは経済の話ですが、日本の株価は、アメリカの相場を受けて動くことが多いようです。(アメリカのプレーヤーが主導権をもっているから?)

今回はアメリカのインフレが終息する気配で、当面金利の引き上げがない見通しという事がアメリカの株価上昇の原因でしょうが、それが日本経済にどう影響するかを考えれば、日本の株もアメリカと同じように上がっていいものか、些か疑問です。

アメリカの政策金利の見送りも、あくまでも引き上げないというだけで引き下げという事ではないですし、今日の日銀の政策会議の発表も異次元緩和を続ける(各方面の意見は聞く、来年1~3月頃には何か解るかかも)ということですから、円レートも149円台半ばで大きな動きはありません。

このレートでは日本の輸出産業は超快調かもしれませんから、日経平均も当面高水準維持かも知れません。
しかし、アメリカが金利を引き下げ、日本が異次元緩和を変更を見直すとなれば、円レートは忽ち変わるでしょう、方向は当然円高です。

今後日本経済として十分注意しなければならないと思われますのは、来年にかけてどの程度「円高」が進むかでしょう。

株価好調の折から、政府はNISAの枠も広げ、貯蓄から投資への掛け声ですが、来年には日米金利差の縮小が予想されますから、これは日経平均には逆風でしょう。

これから株が上がりますと、貯蓄から投資の掛け声に乗ると、「買え、買えとすすめられるのは高い時」という事になるのが、日米金利差からみた株価予測でしょう。

一方、春闘は、今年連合が賃上げ目標に付けた「以上」が、どの程度の効果を持つか解りませんが、去年今年と続いた食料など生活必需品の一斉値上げがいつになったら終息するかで、実質賃金がプラスになるかどうかが決まるのでしょう。
 
最も注意すべきは、賃上げは4%程度で、平均賃金は2%程度の上昇に留まり、物価は政府の補助金がなくなれば消費者物価で1%以上の上昇になりますので、アベノミクスから今年に至る消費不振の低成長経済から抜けられないという状況でしょう。

ここまで来たら、連合はともかく、企業サイドが本気になって、出来る限りの賃上げを、自社ではなく、日本経済の問題として、考える必要がありそうです。

その場合の着手点は、非正規の正規化で、訓練の積極化で、非正規の生産性を正規の水準に引き上げ、求人難に対応するという視点も重要になるでしょう。
企業は、政府に頼らず、自分たちの力で日本経済の正常化、健全化を達成する能力も責任もあることに気付くべきでしょう。

実は、経済活性化の力は、本来は政府ではなく、企業が持っているのです。企業が政府に頼っているような経済が活性化する事はあり得ないので、企業が自分達でやる気にならない限り日本経済の活性化は期待できないのではないでしょうか。

FRB、アメリカのインフレ鎮静化を認める

2023年11月02日 16時23分39秒 | 経済
FRB、アメリカのインフレ鎮静化を認める
昨日、今日、日経平均が大幅に上昇しています。

理由は、FRB(アメリカの中央銀行)が、一昨年来のアメリカのインフレ傾向が収まり、当面これ以上政策金利の引き上げを続けない方向に舵を切ったからです。

アメリカは、国際収支も財政収支も、いわゆる「双子の赤字」を長期に続けている国です。当然インフレになれば、アメリカ製品は割高になり、赤字状態は悪化する可能性があるわけです。

FRBのパウエル議長(日本の日銀総裁に当る)はことのほかインフレ警戒意識が強いようで、政策金利の大幅引き上げを続け、過熱した景気を冷やしてインフレ抑止に力を入れました。
しかしそこは舵取りが難しいところで、あんまり景気を冷やし過ぎて不景気になることは避けなければなりません。

最近伝えられていたUAW(全米自動車労組)の賃上げ要求のストライキも当然懸念材料ですが、経営側の意向に近いところで妥結を見ました。

そのほか、求人状況や消費者物価の上昇傾向など多くの経済指標から判断し、景気が落ち込むこともなく、この夏には物価上昇も落ち着いてきたので(日本より落ち着きが見られます)、当面は大丈夫と判断を下したようです。

アメリカでは、当面これ以上の金融引き締めはないという事で株価が上ったのですが、日本の株価もつれ高で大幅に上がりました。

日本の方は、これまでのアメリカの金利上昇で大幅円安があり、円安差益で、トヨタをはじめ輸出企業で大幅に利益が増えたという事のようですが、アメリカの金利引き上げが止まったので今度は円高の方向に動く可能性があり添いうに思う人も多いでしょう。

既に今日あたりのニュースでも円レ-トが151円台から149円台に円高になったようですが、そうなってから日経平均急上昇というのも、輸出企業にはマイナスなのに株価が上るという形です。

この辺りも実体経済の事象と株価の関係は直接的なものでは無いようなので、株価はアメリカに追随するのが自然などという見方も在ります。

株価の問題はさておいても、アメリカの金融政策の風向きが変わったという事は、更に円レートに、日本の金融政策に影響を与えるでしょう。

最大の問題は、2年前には$1=110円程度だった円レートがどこまで円高に戻るかでしょう。

日本もこの所は貿易収支は赤字の月も多く、経常収支は黒字ですが、余り円高が進むと、物価上昇にはブレーキがかかっても、企業収益にはマイナスの影響の方が大きく、株価が上がる要因にはなりにくいでしょう。

日銀は長期金利引き上げ圧力は弱くなるとしても、総ては何処まで円高が進むかが最も「注視」すべき対象となるのでしょう。

当面実体経済よりも、国際投機資本、マネーマーケットの動きに翻弄されそうな日本経済になるような気がします。