中国国内で習近平総書記(主席)に関する普通ではない動きがあるようだ。作家で中国ウォッチャーの石平氏の解説を基調に記してゆく。
平易に言えば、「李強首相が公然と”習近平排斥”(=造反)に動き始めた」事と、中国共産党内で総合的に習近平を無視した動き・流れが見られる事である。
どういうことか。
8月16日に中国で李強首相主催の国務院全体会議が開催されたのだが、これが異例に満ちた内容だったのだ。通常、この会議には中央政府各部門の責任者が出席するのだが、今回初めて各省・各自治区の責任者がオンラインで参加したのである。これは異例だ。異例とは、つまり今回の会議はとりわけ重要である、という意味である。
最初は習近平主席の右腕とも呼べる程の存在でもあった李強氏だが、ここ最近は習近平離れを示唆する発言や動きが目立ち始めていた。その李強首相がこの会議で公然と習近平離れを決定づける動きを見せたのだ。
その内容は・・・。
会議の内容は人民日報で発表された。その冒頭から李強首相は次のように言ったのだ。
「会議は党の三中総会の精神と中央政治局会議・政治局常務委員会議の精神を深く学び、党中央の精神を持って思想の統一・意思の統一・行動の統一を図るべきと強調する」
ここで重要なのは、三種類の「統一」の中心を成すものが「党中央の精神」であって、従来は当然のように出てきていた「習近平」「習近平思想」が完全に抜け落ちている事である。すなわち、主語が「習近平」から「党中央」に入れ替わった、ということだ。これは以前には無かったことでああり、以前からの伝統を知る者にとってはかなりの驚きなのである。習近平主席の独裁政権下では上記三種の「統一」の軸となるのは「習近平思想」であり、これが「党中央」を意味していたのである。つまり「習近平総書記を核心とする党中央」は絶対不可欠で標準的な表現だった、ということだ。だが、今回は「党中央」から冠となる「習近平総書記」が外されており、これは従来のあり方からすれば「あり得ない」ことなのだ。
これらの動きは李強首相先導による「習近平排斥」の流れが確実に始まった、ということを意味する。
その李強首相だが、国務院全体会議の中で一度だけ習近平氏に触れた場面があった。完全無視するのも悪目立ちしてしまうから、と思ったのであろうか。次のような李強氏の発言がある。
「改革の全面的深化に関する習近平総書記の一連の新思想・新観点・新論断を深く学習し理解し、改革の全面深化に関する党中央の方策を断固として実施していく」
これは要するに、
「習近平総書記が言ってる事を学習して理解だけはしておこう。しかしそうは言っても、国務院として実施するのは”党中央の方策”だよ」
と言っているのである。これは今後、李強首相が従うのは「党中央の方策」であって、「習近平思想」ではないことを明言していることになる。
普通に言っているが、これは李強首相の以前の発言と比較すると、かなり異常であることが判るだろう。例えば李強氏が主宰した2023年3月の第1回国務院全体会議で李強氏は次のように発言している。
「新しい政府は習近平思想を指針とし、習近平総書記び重要講話を深く学び理解し、それを真剣に貫徹させ実施に移さなければならない」
李強首相はここでは習近平思想の理解だけでなく、ちゃんと実施することを強調しているのである。今回の表現とはかなりのズレが生じていることが判るだろう。
また、2024年3月の第4回全体会議で李強首相は
「習近平総書記の重要講話は、非常に強い思想性・指導性を持ち、我々はそれを深く学び貫徹させなければならない」
と述べている。ここでも習近平氏が言っている事の指導性と、それを貫徹させることが強調されている。
ここまで記してきた事をざっくりとまとめると、今回の会議では李強首相によって、「これまで習近平氏が言ってきた事が棚上げされた」ということが見えてくるであろう。
以上が、8月16日の人民日報に記された李強首相主催の国務院全体会議の内容である。これまで習近平氏の子分と見られていた李強首相は「習近平離反」の決定的な一歩を踏み出したと言えよう。
じゃぁ、なぜ今になって李強氏は習近平離反に動いたのだろうか? ここが疑問になるだろう。ここからはその理由・動機を探っていくが、これは石平氏の推測が基調になることをお伝えしておく。
毎年夏、8月頃…まさに今月だが、この時期に2週間に渡って避暑地の北戴河で「北戴河会議」が開催される。これは共産党中央の指導者と引退した長老たちが党中央専用の「別荘団地」に集まって断続的に開く非公式会議のことである。
今年はどうだろうか。石平氏が現在得ている情報からすると、政治局常務委員の蔡奇氏が8月3日に北戴河で科学者たちを慰問している。また、習近平氏や李強氏を含めた中央指導者たちが8月に入って姿を消していた事からすると、8月前半の2週間に北戴河会議が開催されていた事が容易に推測できる。この北戴河会議では様々な政治的暗闘が行われた結果として習近平氏の力が後退して、李強首相が国務院に関する仕事の主導権をある程度は取り戻したと推察されるところだ。だが、実際に何が起きたかについては今後の動向を観察する必要があるだろう。
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