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「愛されてない」事に気付いた習主席:中国

2021-06-08 17:39:17 | 国際
イギリスのBBCニュースは6月3日で下記のような報道があった。
中国の習近平主席は5月31日に「信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージを作り、友好国の輪を拡大したい」と中国共産党幹部に伝えた。国営新華社通信が伝えたもので、習主席は党幹部との会合で「中国が国際社会に対して自らを前向きな形で語るのが大事だ」と強調。「友人を作り、大勢をまとめ、大多数の支持を獲得し、国際世論については、常に友人の輪を広げて行く必要がある」と話したということである。習主席はさらに「国際社会とやり取りをする際には、中国はオープンで自信を持つと同時に謙虚で控えめな姿勢を示すべきだ」と述べた。専門家の多くは習主席のこの発言は中国の国際的孤立を認める異例の内容だと受け止めている。この問題について、国際政治学者の藤井厳喜氏の解説があるので、それを紹介したい。なお、末尾の段落のみ筆者の意見を掲載している。


今回の習近平主席発言は喫驚すべきものである。
中国はこれまで強気でやってきたが、国際的に孤立しているのは確かなことである。その一つであり重要なファクターは「ヨーロッパとの関係」である。アメリカとの関係は元々悪かった。すなわち、トランプ政権が中国の過去のインチキを全て暴く動きを見せていたのだが、その背景には技術等を中国に盗まれていたり、国際的なルールを中国が守らないということで、厳しい制裁措置に出ていたのである。
バイデン政権誕生後については…個人としてはバイデン大統領はかなり親中的な人物であるが、もう流れができてしまっているので、表面的には中国に厳しい(ように見える)アメリカだが、実は小さな妥協はいくつもしているのである。孔子学院に甘いとか実は裏で色々あるのだが、表向きは中国にきっちり対峙していく事を言わざるを得ない情勢になっている。

ここまでは習主席も想定内であったと思われる。だが、ヨーロッパ外交が…特にイギリスやドイツは非常に親中的な外交、特に経済外交においてはそういう立場を取ってきたのだが、そんなイギリスやドイツまでもが「ウィグル問題などを看過できない」とか「世界のルールを守るべきだ」という空気になってきているのだ。その中でも注目したいのはイギリスである。

最近はイギリスが中国に冷たくなっているのだ。象徴的なのは航空母艦である。イギリスは大きな航空母艦は2隻しか持っていないが、その1隻であるクイーンエリザベスが5月22日にイギリスを出発して、あちこち回って西太平洋・東アジアに来る、と。そして中国に対する警戒ということで、日本・アメリカ・インドなどと同じスタンスを取る…という方針なのである。

それ以外にもいくつか動きがある。

例えば、サンデー・タイムズ(*1)は5月30日に「”武漢コロナウィルスは武漢病毒研究所から流出した”という説がかなり有力である、と、イギリスの対外情報局(MI6)は考えている」という記事を掲載している。その線のレポートをアメリカと協力して探っているようである。

2番目は、5月19日にフィナンシャルタイムズ(*2)が中国の劉鶴(りゅうかく)副首相のスキャンダルを掲載した。その内容は、中国ではよくある話で「息子が金融会社を作って金儲けしている」というものだが、しかし父である劉鶴氏は副首相だが担当は金融問題なのである。その息子が金融会社をやるというのはいくらなんでも中国共産党の内部規律にも反していることである。この会社は形式的には株を他人に譲っていて、代表名も他の人にしているのだが、どう見てもこの劉鶴の息子が経営しているのは明らかなのである。このような内容をFTが書いたというのも異例なことである。

劉鶴攻撃の目的は何であろうか。

劉鶴氏は習近平主席の腹心なので、要するに習近平攻撃、と言える。

現在は、以前の指導者だった江沢民氏の一派が習近平派に追い詰められて反撃している最中である。記事は江沢民派を応援するような内容になっていて、しかもFTが独自取材でこの記事を書く能力は無いと推測される(藤井氏の見方)ところから考えると、これは恐らく江沢民派からの内部リークであると考えるのが妥当であろう。

3番目に、5月22日にイギリスのデイリー・メール(*3)という新聞が、MI6をはじめとして英外務省などが「今、イギリスで動き回っている中国のスパイを摘発するようだ」という観測記事を書いている。そして中国の兵器開発にかなりイギリスの大学や研究者がコミットしている、として、(これはアメリカでもあった事案だが)…これを摘発する、ということのようである。既知の問題ではあるが、対応していなかったのである。
イギリスはしたたかな国で、表向きは「世界の情勢に合わせて中国共産党批判の方向にかなり向かってきた」と言える。これは習近平氏にとってはかなりのショックなのではないか、と思われる。


今までの習近平主席は「戦狼外交」を称揚してきた。世界中で中国の外交官は外交官らしからぬ罵詈雑言を撒き散らして、少しでも反中国共産党の人間が居たら徹底的に批判して汚い言葉を浴びせてきた。その姿勢が世界中で不評を買ってきたのは厳然たる事実である。トップから突然批判された下っ端外交官の立場で言うなら「いや、俺達は上から指示されたとおりにやってきただけなんだけど…」な筈だが、今回突然批判される側に立たされてしまった事になる。(*4)

”愛される”だけなら簡単で、現在盛んにやっている「侵略」「帝国主義」「国内の人権弾圧」などを止めればいいだけのことである。だが、中国は「止めない」だろう。例えば香港だって香港の民主政治を約束を守って回復すればいいだけのことである。しかし中国は「それはやらない」のは間違いないところである。

何はともあれ、習近平主席は”中国が孤立化している”ことは自覚しているものと思われる。

中国に面白い言葉がある。

「躺平主義(とうへいしゅぎ)」

というものだ。

「躺」は”寝そべる””横たわる”といった意味であり、「躺平主義」とはすなわち「怠ける、何もしない」という意味である。

中国の農民工のような田舎から出てきた人々が8億人くらいいるそうだが、この人達の2代目の世代に対して言っている言葉である。田舎から出てきた人たちの息子や娘の世代には「夢も希望もない」ということなのである。

「996」という言葉もある。そういう人たちは「朝時から夜時まで、週日働く」のだが、そこには出世もないし夢も希望もない。夢といっても大層なことではなく、普通に結婚して子供を作って…ということすらできない、ということだ。よほど親が共産党の幹部でもなければ、今は絶望の社会…それが中国なのである。だからもう何もしないし、する気力も無いのである。消極的抵抗とでも言うべきであろうか。中国では国民が「習近平けしからん!」と言ったら即刻警察に逮捕されてしまうが、その代わりに消極的抵抗をしているのだ、ということである。

そして、この「躺平主義」を訴えた、たった200字程度の投稿が中国国内で非常に評判を呼んでいるそうだ。同じように感じている人々が多い、ということである。潜在的な中国共産党に対する批判であり、共産党からはとっくに人心が離れていることを示す証左でもあろう。そうした社会状況が「躺平主義」にも表れているのである。



中国(中華人民共和国)の基本理念は「中華思想」の中にある。中華思想とは平易に言えば「中国は世界の中心であり、世界は中国のものである」という狂気の思想である。中国は一貫してこの路線から外れたことはなく、本気で各国と友好を結びたいなどとは微塵も考えていないのは明らかである。その証拠にチベットもウイグルも香港も南モンゴルも状況は全く変わっていないし、台湾や尖閣諸島に対する侵略の姿勢も同じで、何も変わっていないのである。習近平主席の「愛される中国」発言は(言うまでもなく)口先だけのことであり、これで世界を騙せると思っている(*5)ところが(人として)完璧にポンコツであることを自ら露呈しているようなものなのである。




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(*1)
イギリスの保守系高級紙タイムズの日曜版である。

(*2)
イギリスで発行されている経済紙である。2015年(平成27年)11月30日から日本経済新聞社傘下となった。

(*3)
1896年創刊のイギリスでもっとも古いタブロイド紙である。

(*4)
習近平主席が言う通りに戦狼外交(*4a)をやってきたのに、それでうまくいかなかった途端に現場の外交官のせいにされるのは、外交官の側からすれば「やってられない」ほど憤りを感じることだろう。これでますます習近平主席から人心が離れていくスピードが加速されることであろう。

(*4a)
作家の石平氏に依れば、中国の外交姿勢は「戦狼外交」どころか「狂犬外交」と言ったほうが正しい、ということである。なりふり構わず狂犬のように当たり散らして噛み付いていくところが正に「狂犬」であり、ぴったりな表現と言えよう。

(*5)
1989年の天安門事件の後、中国は国際的な評価を著しく落とした。そこへ手を差し伸べたのは日本である。日本が友好的な態度を示したことで中国は国際社会に復帰して、猛烈な勢いで反日活動に邁進した。日本は利用され騙されたのである。今、日本は同じ間違いを絶対に犯してはならない。日中友好とやらで、日本がせっせと中国に協力したおかげで中国は経済力を強くし、軍事力も増強することができた。そして現在、中国はその軍事力で尖閣諸島を侵略しようとしているのだ。さらには沖縄も狙っているのである。日本は二度と騙されてはいけない、絶対に。