Altered Notes

Something New.

楽器のサウンドについて

2011-01-12 21:11:05 | 音楽
楽器の音にはそれを演奏する人間の個性が思いっきり表れる。これは楽器を演奏する人なら周知の事実だが、音楽に馴染みの薄い方には余り知られていないことでもあろうかと思う。

例えば管楽器でサックス(サクソフォン)である。管楽器の中ではとりわけ演奏者の個性が出やすい楽器と言える。
但しクラシックとジャズでは事情は異なる。
クラシックではいわゆるクラシック・サウンドに収斂するように音作りがなされることが多い。従って誰が吹いても比較的似たサウンドになる。

しかしジャズの場合は個性が自由に出せる。
同じテナーサックスでもコルトレーン、ロリンズ、ショーター、はたまたデクスター・ゴードンでは全く違う音が鳴るのはジャズファンならご存じの通り。
トランペットでも例えばマイルスの音などは最初の一音を聴いただけですぐに判る。

管楽器の場合は楽器と人体の両方が総合した形で音は作られる。
ざっくり言えば、楽器の音が鳴っている時というのは肺の中から食道や口腔を通りマウスピースを介して楽器本体に入り最終的に楽器の先端部に至る気柱(空気の柱)が存在して、それが音の個性を決める鍵となるのである。細かく言えばアンブシュアの形や口腔内の形状や呼吸法の微妙な違いなども影響するであろう。

従って楽器を替えても同じ人が演奏すると同じ音になるのが面白い。
例えばウェイン・ショーターがアルトサックスを演奏してもテナーの時と同様のサウンドが鳴るのである。(もちろん音域はアルトだが)
これは楽器の作りに依る違いよりも演奏者本人の音楽的個性の方が最終的に鳴るサウンドにとっては重要なキーとなる、ということなのである。

一般的に不思議に思われるのはピアノである。
ご存じのように白鍵と黒鍵の白黒羊羹が88個並べられた大きな弦打楽器である。こんなものプロのピアニストが弾こうが誰が弾こうが、それこそ猫が鍵盤の上を歩こうが同じ音がしそうなものである。ところが実際には演奏者によって全く異なるサウンドが出てくるのである。

その辺の素人が弾いても大した音が鳴らないピアノが、とあるプロのジャズピアニストが弾いた途端に信じられないほどクリアでもの凄いサウンドが鳴り響いた実例を間近で目撃というか聴いたことがある。とても同じピアノとは思えなかった。

指が鍵盤を押す(叩く)だけの行為でありながらそこには間違いなく楽器のポテンシャルを最大に引き出す理屈で説明できないような領域のマジックが手の中に隠されているのである。

こうして人の力で最良の形で生み出された音(音楽)には温かい血の通った人間的なサウンドが感じられるものである。
音楽のあり方はここに原点があるのは間違いないところ。これはコンピュータ等で作られた打ち込み音楽では絶対に出せない魅力である。
電子音楽も否定するものではないが、上述したような領域の表現は未だ不可能といっても過言ではない。技術の進歩がいつかは人間的な味を出せるようにしてくれるかもしれないが。

音楽は基本的に人間の身体と"魂"を通して生み出されるものでありそれには自ずと説得力があり従って普遍的な価値があると私は考えている。