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実用新案法 14条の2 (18.5.19)

2006-05-19 06:05:13 | Weblog
実用新案法 14条の2

(明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の訂正)
第14条の2

 本条は、実用新案権の設定の登録後において明細書等の訂正ができることについて規定しています。
 特許法では、訂正審判(特126条)と特許無効審判における訂正の請求(134条の2)の制度があります。
 実用新案法では、訂正審判は設けておらず、実体審理をしない訂正の制度を設けています。
 なお、意匠法や商標法においては、登録後における訂正の制度は設けておりませんので、登録後においては意匠登録出願の願書や図面等の訂正、商標登録出願の願書の訂正は、一切することができません。意匠法60条の3及び商標法68条の40の読み方になりますが、無効審判が特許庁に係属していても、意匠登録出願の願書や図面の補正はまったくできませんし、商標登録出願の願書の補正もまったくすることができません。登録後の訂正の制度がないのに、登録後に願書等の補正ができるとするのは、きわめて不適切です。

第1項

 1項は、請求の範囲の減縮等を目的とする訂正は所定の期間内に1回に限り、することができる旨を規定しています。

・訂正ができる者
 訂正の主体は、権利者である実用新案権者です。
 専用実施権者といえども、訂正の主体とはなれません。
 実用新案権の消滅後に訂正をする場合には、消滅時における原実用新案権者が訂正の主体となります。
 実用新案権が共有に係る場合には、共有者が全員で訂正をしなければなりません(14条の2第13項、特132条3項)。
 また、専用実施権者等がある場合には、その者の承諾を得ることが必要となります(14条の2第13項、特127条)。

・訂正の回数
 請求の範囲の減縮等を目的とする訂正は、1回に限り、することができます。複数回の訂正を認めた場合には、実用新案権者は徐々に請求の範囲を減縮することが可能となり、第三者にとってどの範囲が有効な範囲であるのか監視負担が増大することになるからです。
 ただし、7項の請求項の削除を目的とする訂正は、回数にカウントされません。

・訂正の時期
 1項の訂正は、次の各号のいずれかの時期が到来した後は、することができません。

・第1号
 13条3項の規定による最初の実用新案技術評価書の謄本の送達があった日から2月を経過したとき。
 ただし、5項及び6項の例外が適用される場合があります。

・第2号
 実用新案登録無効審判について、39条1項の規定により最初に指定された期間を経過したとき。
 なお、実用新案権者が在外者の場合には、職権により指定期間を長くすることができます。指定期間は法定期間と異なり、裁量によって日数を増減することができます。

第2項

 2項は、1項の訂正は、所定の目的に制限する旨を規定しています。
 特許法の訂正審判の場合と同様です。

・第1号
 実用新案登録請求の範囲の減縮

・第2号
 誤記の訂正
 実用新案法には外国語書面出願制度がありませんので、誤訳の訂正は規定されていません。
 ただし、外国語実用新案登録出願については、48条の13の2で特例を規定しています。すなわち、国際出願日における国際出願の明細書等に記載した事項の範囲で訂正をすることができますので、実質的には、誤訳の訂正もすることができることになります。

・第3号
 明りようでない記載の釈明

第3項

 3項は、訂正は、新規事項の追加に該当しない旨を規定しています。

 すなわち、請求の範囲の減縮(1号)と明りょうでない記載の釈明(3号)を目的とする訂正については、願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内で訂正をしなければなりません。
 ここで、願書に添付した明細書等は、原則として、実用新案権の設定の登録時の明細書等を意味します。請求項を削除する訂正をしている場合には、訂正後の明細書等を意味します。

 誤記の訂正(2号)を目的とする訂正については、願書に最初に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内で訂正をすればよいことになります。補正をしたことにより、登録時の明細書等には記載されていない事項であっても、出願当初の明細書等に記載されている事項であれば、誤記の訂正をすることができます。

第4項

 4項は、1項の訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定しています。
 特許法126条4項と同じ趣旨です。

第5項

 5項は、1項1号の「2月」の期間については、特許法4条による延長の対象とする旨を規定しています。

第6項

 6項は、1項1号の「2月」以内に、不責事由により訂正をすることができなかった場合には、追完をすることができる旨を規定しています。
 追完ができるのは、その理由がなくなった日から14日(在外者にあっては、2月)以内でその期間の経過後6月以内です。

第7項

 7項は、請求項の削除を目的とする訂正をすることができる旨を規定しています。

・訂正の目的
 請求項の削除のみになります。
 条文上は、「願書に添付した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面の訂正をすることができる。」となっていますが、請求項の削除に伴う訂正であっても、明細書や図面についてはまったく訂正することができません。
 例えば、請求項1のみを削除する場合に、請求項2が請求項1を引用する形式で記載されているとしても、引用形式を独立形式にする必要はないとして、そのような訂正は認めていません。訂正後の請求項2の技術的範囲は、請求項1があるものとして判断することになります。

・訂正の時期
 無効審判が特許庁に係属していなければ、訂正の時期は、特に制限されていません。8項で制限されない限り、いつでも訂正をすることができます。
 無効審判が特許庁に係属したときは、審理終結の通知があったときから審決がされるまでは、訂正はすることができません。この時期に訂正を認めた場合には、審決を書き直す必要が生じてくるからです。
 ただし、審理終結通知後であっても審理が再開された場合には、さらに審理終結の通知があるまでは訂正をすることができることになります。その後、審理終結の通知がされたときは、そのときから審決があるまでは訂正をすることができません。
 なお、審決取消訴訟が裁判所に係属しているときは、無効審判は特許庁に係属していませんので、いつでも訂正をすることができることになります。

・訂正の回数
 請求項の削除を目的とする訂正は、削除する請求項がある限り、何回でもすることができます。
 しかし、すでに削除した請求項をさらに削除することは、訂正の利益がありませんので、認められません。

第8項

 8項は、訂正は、実用新案権の消滅後においてもすることができる旨を規定しています。

 1項の訂正であれば、実用新案権の消滅後において無効審判が請求された場合に答弁書提出期間内に請求の範囲の減縮を目的とする訂正をすることにより無効理由を解消する場合があります。

 2項の訂正であれば、例えば、甲の実用新案権と乙の実用新案権があって、同一考案についての同日出願であったとします。甲の実用新案権も乙の実用新案権も存続期間の満了により消滅したとします。その後、甲の実用新案権について丙から無効審判の請求があったとします。無効理由は、乙の実用新案登録出願を引用した7条2項違反であったとします。この場合、乙の実用新案権について同一考案に係る請求項を削除する訂正をした場合には、甲の実用新案登録は無効にされることがありません。このように請求項を削除するメリットは、7条2項違反の無効理由を解消すること以外には、ほとんどないといえそうです。

 ただし、実用新案登録が無効審判により無効にされた後、つまり、無効審決が確定した後は、訂正をすることができません。無効審決が確定した請求項について減縮を目的とする訂正を認めたとすれば、法的安定性を害することになります。また、無効審決が確定した請求項について請求項の削除を目的とする訂正を認める利益はありません。

第9項

 9項は、訂正をする手続として、訂正書を提出すべき義務を規定しています。
 1項の訂正をするときは、施行規則様式8の訂正書を提出することが必要となります。訂正の目的は記載する必要がありますが、訂正の理由は書く必要がありません。実体的要件については判断しないからです。
 7項の訂正をするときは、施行規則様式8の2の訂正書を提出することが必要となります。訂正の目的の欄には、「請求項の削除」と記載します。「削除する請求項の表示」には、削除する請求項に付した番号(例えば、請求項1)を記載します。
 訂正をするには、手数料の納付が日必要となります(54条別表5号)。

第10項

 10項は、1項の訂正をするときは、訂正書に訂正した明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面を添付しなければならない旨を規定しています。
 請求の範囲の減縮のみを目的とする訂正をする場合には、訂正明細書や訂正図面を添付する必要はありません。
 1項の訂正にのみ適用され、7項の訂正には適用されません。削除する請求項に付した番号が明確であれば足りるからです。

第11項

 11項は、1項又は7項の訂正があったときは、その訂正後における明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面により実用新案登録出願及び実用新案権の設定の登録がされたものとみなす旨を規定しています。
 訂正の効果は、出願時及び登録時に遡及することになります。

第12項

 12項は、1項又は7項の訂正があったときは、1項の訂正にあっては訂正した明細書及び実用新案登録請求の範囲に記載した事項並びに図面の内容を、7項の訂正にあつてはその旨を、実用新案公報に掲載しなければならない旨を規定しています。
 1項の訂正については訂正後の内容を公報に掲載して周知にする必要があります。8項の訂正については、削除した請求項に付した番号のみを公報に掲載すれば足ります。

第13項

 13項は、特許法127条(専用実施権者等の承諾)及び132条3項(共同訂正)の規定を準用する旨を規定しています。
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