◼️「スチームボーイ STEAM BOY」(2003年・日本)
監督=大友克洋
声の出演=鈴木杏 小西真奈美 中村嘉葎雄 児玉清
19世紀イギリスの風景、蒸気機関の躍動感、ありそうなのに見たことのないメカ、飛行機、疾走感。心をくすぐる面白さの要素は全編に散りばめられている。しかしながら世間の評価は今イチだし、どちらかと言えばコケた大作のように評されている。
これは「ラピュタ」になり損ねた冒険活劇だと思うのだ。
主人公レイもパズーも庶民的な現場で働く少年で、機械を扱うのは得意。蒸気で飛行する装置を改造して乗りこなす才能の高さは、初めてのグライダーを見事に乗りこなすパズーにも通ずる。人当たりもよく、アニメ作品でよくある好意的な少年像だ。どちらもクライマックスではダーティな大人たち相手に大活躍するのに、何が違うのだろう。
「スチームボーイ」はとにかく絵がカッコいい。崩れ落ちる建物からはがれ落ちる瓦、砕け散るガラス、博覧会会場に差し込む光。緻密な作画が迫力を生み、ノスタルジックな色合いの風景に見入ってしまう。そこに次々に重量感のある乗り物や建造物が現れる。スチーム城の展望台に現れるコクピットのデザインも、無数の計器にパイプオルガンのような操作パネル、ディスプレイ代わりに拡大レンズが博士の周りをグルグル回る。観ていてワクワクしてくる。これは大友克洋監督の好きがとことん貫かれているからに相違ない。だから少年向け冒険活劇としては申し分ない面白さがある。スチーム城が真の姿を現すクライマックスは、飛行石の間にたどり着いたラピュタであり、科学技術と人間の関わりも共通点のようにも思える。
一方で、「スチームボーイ」がなんか惜しいと思わざるを得ないのは、主人公レイをめぐる人間関係の複雑さだ。財団、スティーブンソン一派、英国軍が入り乱れ、さらに父と祖父の考えの違いを知って右往左往することになる。それはストーリーの展開からすれば面白い要素なのだが、結果として、レイが一本筋の通った行動をとる活躍につながらない。お高くとまった財団のお嬢様のいけ好かないキャラクターが、最後まで変わらないのも残念ポイント。ラストでレイのほっぺにチューでもしてくれれば、印象は違うだろうに。小西真奈美、いい仕事してるんだけどな。
少年が心から楽しめる要素をたくさん備えた力作。だが、ここにはジブリ好きが見入ってしまう気丈な美少女も、見守ってくれる婆さんも出てこない。機械が現れ、蒸気が吹き出し、重い機関車が吹っ飛ばされ、軍艦が凍りつく映画だ。「アキラ」のグロさがないだけで、破壊が破壊を呼ぶ。だから万人が楽しめる少年少女の成長物語を期待すると、映画は全然違う着地点を示してくる。「スチームボーイ」は「ラピュタ」になれない、独自の冒険活劇なのだ。エンドクレジット、セピア色の絵画で示されるその後の様子を見る限り、魅力的なエピソードがありそうなんだが。
これは「ラピュタ」になり損ねた冒険活劇だと思うのだ。
主人公レイもパズーも庶民的な現場で働く少年で、機械を扱うのは得意。蒸気で飛行する装置を改造して乗りこなす才能の高さは、初めてのグライダーを見事に乗りこなすパズーにも通ずる。人当たりもよく、アニメ作品でよくある好意的な少年像だ。どちらもクライマックスではダーティな大人たち相手に大活躍するのに、何が違うのだろう。
「スチームボーイ」はとにかく絵がカッコいい。崩れ落ちる建物からはがれ落ちる瓦、砕け散るガラス、博覧会会場に差し込む光。緻密な作画が迫力を生み、ノスタルジックな色合いの風景に見入ってしまう。そこに次々に重量感のある乗り物や建造物が現れる。スチーム城の展望台に現れるコクピットのデザインも、無数の計器にパイプオルガンのような操作パネル、ディスプレイ代わりに拡大レンズが博士の周りをグルグル回る。観ていてワクワクしてくる。これは大友克洋監督の好きがとことん貫かれているからに相違ない。だから少年向け冒険活劇としては申し分ない面白さがある。スチーム城が真の姿を現すクライマックスは、飛行石の間にたどり着いたラピュタであり、科学技術と人間の関わりも共通点のようにも思える。
一方で、「スチームボーイ」がなんか惜しいと思わざるを得ないのは、主人公レイをめぐる人間関係の複雑さだ。財団、スティーブンソン一派、英国軍が入り乱れ、さらに父と祖父の考えの違いを知って右往左往することになる。それはストーリーの展開からすれば面白い要素なのだが、結果として、レイが一本筋の通った行動をとる活躍につながらない。お高くとまった財団のお嬢様のいけ好かないキャラクターが、最後まで変わらないのも残念ポイント。ラストでレイのほっぺにチューでもしてくれれば、印象は違うだろうに。小西真奈美、いい仕事してるんだけどな。
少年が心から楽しめる要素をたくさん備えた力作。だが、ここにはジブリ好きが見入ってしまう気丈な美少女も、見守ってくれる婆さんも出てこない。機械が現れ、蒸気が吹き出し、重い機関車が吹っ飛ばされ、軍艦が凍りつく映画だ。「アキラ」のグロさがないだけで、破壊が破壊を呼ぶ。だから万人が楽しめる少年少女の成長物語を期待すると、映画は全然違う着地点を示してくる。「スチームボーイ」は「ラピュタ」になれない、独自の冒険活劇なのだ。エンドクレジット、セピア色の絵画で示されるその後の様子を見る限り、魅力的なエピソードがありそうなんだが。