
◼️「Mの物語/Histoire de Marie et Julien」(2003年・フランス)
監督=ジャック・リヴェット
主演=エマニュエル・べアール イエジー・ラジヴィオヴィッチ アンヌ・ブロシェ
劇伴は全くなく、時計が刻む音と会話だけが流れ続ける。集中力が続くのか不安だったが、気持ちが途切れずに完走。そういえば、同じリベット監督の「美しき諍い女」も似たようなこと考えながら観た気がする。
時計職人ジュリアンと美しい女性マリー。二人は知人のパーティで知り合って、惹かれあった仲。一緒に暮らし始めるが、マリーは突然一人になるために外泊したり、自分が口にした言葉の意味がわからないと言ったり、2階の部屋を模様替えし始めたり、謎めいた行動を繰り返す。ジュリアンが恐喝めいたやりとりをしていたマダムXの元に、ジュリアンの使者として出かけたマリー。マダムXはマリーの様子を見て彼女の素性に気づく。ジュリアンが知ることとなるマリーの秘密とは。
エマニュエル・べアールの一挙一動に意味があるだろうと思うと目が離せない。でも子猫のようにソファでゴロゴロ、寝起きにガウン着て気に入らないとか文句を言い、前の女が残していった衣類を嫉妬深く眺めたり、といろんなべアール嬢を見ていて幸せな気持ちになる。ジュリアンと抱き合いながら、謎めいた物語を二人で語る。彼女は何者なのか。
(結末に触れています)
映画後半はマダムXの妹がストーリーに絡んできて、マリーの正体が明らかになる。それは偽りの肉体で現れる死者だった。マリーはジュリアンと一緒にいることを望む。怪我をしても血が出ないマリーの身体だが、クライマックスでは傷を負った手首から血が流れ出す。それはマリーが血が通った人間になった瞬間。彼女のハートはこれから現世で鼓動を刻んでいく。ジュリアンが修理した時計のように。
流れる血が感動的な映画って、他にあるだろうか。いや、きっとない。予想していなかったファンタジーな結末にホッとする。映画冒頭ではこの150分が不安で仕方なかったのにw。