
■「地球に落ちてきた男/The Man Who Fell To Earth」(1976年・イギリス=アメリカ)
監督=ニコラス・ローグ
主演=デビッド・ボウイ キャンディ・クラーク バック・ヘンリー
デビッド・ボウイなくしてこの映画はない。このニュートン役を演じられる他の人間が想像できない。ボウイは時代と共に変貌を遂げてきた人だが、この映画は、ボウイが異星人”ジギー・スターダスト”を現実社会で演じていた少し後の時期。正直なところ、僕は”ジギー”のボウイを気味悪いとしか思えなかったが、この映画での彼の無機質な魅力は形容の言葉もない。巷にいるあんな色の茶髪オニイチャンたちも、このボウイを観たらこんな風にはなれねぇ・・・と諦められるんじゃない?。正直、カッコイイ!です。
”ロックスター = 不健康・体弱い・ナルシスト” というイメージってあるけど、この映画のボウイってそのままなのだ。エレベーターに乗ってブッ倒れたり、「水しか飲まない」一方で酒に溺れたりとか・・・。ニコラス・ローグ監督はこの異星人役はボウイしかいない!としてニューヨークまで追っかけ、8時間も台所で待たされたとか。ボウイ自身もこの映画は気に入っているらしく、後のアルバムジャケットにも写真を使用している。ほら、ナルシストでしょう?(笑)。
宇宙船が飛ぶ場面や、大した特撮がなくてもSF映画は成立する。というか低予算映画なのでチープなものにしかならないのだが、渇水した惑星から地球にやって来て、残してきた家族を救いたいという大目的があったにもかかわらず、主人公は酒に、セックスに、しまいには金にまで溺れてしまう。地球人の文明は異星人さえ堕落させるものなのだ。この辺は妙に風刺が効いている。(落ちた場所がニューメキシコだったから)アメリカに落ちたのが悪かった、イギリスならこうはならなかったんだ、とするニコラス・ローグの英国人としてのジョークだった、と考えたら深読みしすぎなのかな。
ニコラス・ローグ監督は映像美が魅力、とよく言われているようだ。本作でも他にはない世界が観られる。妙な凹凸の多い宇宙船内部だとか(これもボウイのジャケット写真に使われた)、銀色のボールを載せるオーディオ、変に日本風な家屋、ボウイが閉じこめられてていた屋敷の不思議な内装etc・・・。とにかく古さを感じさせない。
(2002年筆)