■「早春物語」(1985年・日本)
●1985年日本アカデミー賞 監督賞(「Wの悲劇」に対しても)
監督=澤井信一郎
主演=原田知世 林隆三 田中邦衛 仙道敦子 由紀さおり 早瀬優香子
原田知世ファンを公言していながら、あの頃観ていなかったもう1本・・・「早春物語」を観た。「Wの悲劇」に続いて澤井信一郎監督のいい仕事。いやぁ、もう見事に背伸びした17歳を撮っている。監督は当時のパンフレットには「私は17歳が嫌いだ」と文章を寄せている。確かにハイティーン(死語?)の頃って、主張することは主張して、キツいことも人を傷つけかねない言葉も平気で言う扱いにくいお年頃。だから監督は徹底的に17歳を痛めつけてやろう、という意図でこの映画を撮ったという。この文章を読んで納得。だって、この映画の知世ちゃんは、それまでの作品じゃお目にかかれない表情や熱演の数々。今改めて観て、ここまで頑張ってたのかと思える。薬師丸ひろ子の初キスシーンは死体役の渡瀬恒彦だったけど、知世ちゃんは(しゃべりが時々麻生太郎ぽい)林隆三おじさまと濃厚なキッス。「Wの悲劇」は薬師丸ひろ子の処女喪失場面から始まるけど、真っ暗な画面で台詞だけ。対して「早春物語」の知世ちゃんはスリップ姿で「私を抱きなさいよ!」とおじさまに叫ぶ。薬師丸ひろ子って過保護やん!と僕は病院待合室でのキスシーンを観ながら心の中でつぶやいた(笑)。食事しながら林隆三に嫌みめいたことを言う場面にしても、変に声がデカくて過剰な演技。でもそのダサさが、精一杯無理してる17歳に見えてしまうから不思議だ。
同級生の仙道敦子が大学生の彼とつきあっていることを聞かされる冒頭。80年代の当時って、テレビ番組でも恥ずかしげもなく初体験もの青春ドラマ(「毎度おさがわせします」とか見てたけどさ・汗)が放送されるような時代。"青い体験"的なお話を映画冒頭でチラつかせておいて、知世ちゃんの危機?とファンをやきもきさせておきながらも、物語は不思議な方向へ。興味を持って近づいた中年男性が、実は亡き母親の元カレだという驚くべき展開。しかも母親の知人から聞いた話で逆恨み的感情まで抱いてしまう。恋物語にして、ある種の復讐劇。しかし林隆三おじさまの母への本心を聞いて納得した知世ちゃん。心からトゲトゲしい復讐心が抜け落ちていく。残るのは恋心。
「これ、恋だと思う。」
印象的な台詞がいくつかあるけど、唐突なれど納得させられてしまうこの一言。ルパン三世ならおでこにキスして「ばーか言ってんじゃないよ」と笑いとばすところを、林隆三おじさまは思わず抱きしめてしまう。17歳の小娘に中年男が恋してしまう瞬間。
結局知世ちゃんはこの恋を通じて女性として成長する。オトナの階段を上るのは、あの頃お気楽なドラマや映画がはやしたてた"体験"ばかりじゃない。大学生とつきあってる同級生や、背伸びして大人とつきあった結果としてすべてを失う同級生(早瀬優香子、好演)と対比させて、大きな恋をひとつ失うことでひとつ階段を上ったことを示してくれる。その経験は、同級生の誰にもできないこと。
「私、過去のある女になったの」
ラストを飾るこの自信に満ちたひとこと。この台詞は見事だ。そして中年男は17歳の少女に「大好きだ」・・・。傑作ではないけど、実は心のどこかで大事にしておきたい愛すべき映画に思ってる人いるだろな。
そして澤井信一郎監督は「Wの悲劇」と「早春物語」の2作品で(聖子の「野菊の墓」は含めない・笑)、アイドルを女優に育てる名手との評判を勝ち取ることになる。「17歳が嫌い」だと言っていた監督は、「早春物語」のパンフの文章を最後にこう締めくくっている。
「でも今は17歳に夢中だ。」
恋は少女をオンナにするけど、中年男を少年に戻してくれる。
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