(前回からの続き)
ギリシャへの金融支援を重ねれば重ねるほど、同国の対外債務は膨らみ続け、ユーロ圏各国のギリシャ債権の貸し倒れ損失は増え続けるだけ・・・。ということで、目先だけの、ほんの束の間の「リスクオン」と引き換えに抱えるリスクはあまりに大きいわけです、ドイツなどの援助国にすれば・・・。
で、そうなると次は、ギリシャの要請に基づく5年間で3回目となる今回の資金援助を実行しない、という道となります。これは・・・当然ながら大混乱をもたらすでしょう。もちろん、一番苦しむのはギリシャですが、ここでは債権者サイドで予想される諸問題について思うところを記してみます。
さて、ギリシャの公的債務額ですが、今年3月末時点で3130億ユーロ。その内訳は・・・最大の債権者EFSF(欧州金融安定ファシリティー:欧州の暫定的な財政救済基金)に対して1309億ユーロ、ユーロ圏各国529億ユーロ(独29%、仏22%、伊19%、西13%など)、ECB(およびユーロ圏各中銀)が270億ユーロ、一般投資家が400億ユーロ・・・などとなっています。見てのとおり、これらのほとんどが外国に対して負っている借金です。
で、いま議論真っ最中の第3次財政支援が実行されなければ、ギリシャにはこれらの債務一切の履行が不可能なことは明白です。なぜなら先月、同国は弁済順で第一位の債権者であるIMFに対する債務15億ユーロを「延滞」してしまったため。最優先すべき支払先に借金を返せないのなら、ギリシャはそれより劣位の債権者―――ユーロ圏諸国等―――には1ユーロたりとも返済することはできません。となると、IMF以外の貸し手が持つギリシャ国債等の価値は実質的に「ゼロ」ということに・・・。
したがって、ギリシャ支援が打ち切られた場合(ギリシャがデフォルトに陥った場合)の債権国の対応としては、その債権全額の貸し倒れ損の確定と処理、つまり財政資金による穴埋め等が求められます。が・・・その損害額はトータルで3000億ユーロ、日本円で40兆円ほどにも達する巨額。はたしてそんな大掛かりな損失処理がいまのユーロ圏諸国にできるのか・・・。まあドイツや北欧諸国の一部は可能かもしれませんが、その他多くの国々―――ポルトガル、スペイン、イタリア、そしてフランスなど―――には、まず無理でしょう。彼らのほとんどは現在、厳しい緊縮策の実行を強いられているからです。これ以上のよけいな公的負担増に耐えられるわけがない・・・。
さらにあります。ECB(欧州中央銀行)が上記保有債券とはべつにギリシャに提供した流動性です。
ECB(およびユーロ圏各国の中銀)はELA(緊急流動性支援)と呼ばれるスキームを通じて、預金流出に悩まされているギリシャの銀行に1180億ユーロもの資金繰り支援を行ってきました。で、その際に差し出される担保は・・・またもやギリシャ債権(多くが国債)です。ECBはギリシャ危機の深刻化にともなってそのヘアカット率(担保割引率)を引き上げてきましたが、同国がデフォルトすればヘアカットは意味を失い、受け入れた担保は無価値、つまりこの大金はパーとなります。当然それだけ純資産は毀損するからECB等としては、ユーロ圏諸国に対して同額レベルの補償を要求したくなるでしょう。そのおカネの工面に各国はいっそう苦しむはず・・・
このように、ギリシャ支援の停止とそれが不可避的にもたらす同国のデフォルトは、巨大な財政負担の痛みを欧州債権国にもたらすことになるでしょう。