(前回からの続き)
前回、アベノミクスには「円安誘導による外需狙い」という目論見があったという見方を示しました。しかし・・・これ、こちらの記事を含めて何度も指摘していることですが、輸出に過度にシフトした経済振興策は隣人窮乏策とみなされて相手国との貿易摩擦を引き起こすし、そもそも日本はGDPに占める輸出の割合が小さいため、いくら輸出を煽ってもその景気浮揚効果は限定的にならざるを得ず、むしろ原材料インフレのようなマイナス面を差し引くと、通貨安誘導はトータルではダメージのほうが大きくなるわけです。そんな様子は、アベノミクス開始後の超マイナス成長とか国富(金融資産)の激減ぶりなどに表れています・・・って、統計を見ない?アベノミクス関係者はまったく気が付いていないみたいだけれど・・・(?)
さらに、このたび米トランプ政権が発動する輸入鉄鋼製品等への関税措置は、あらためて通貨安をテコにした輸出振興が無理筋であることを知らしめました。こちらの記事等に書いたように、アベノミクスによって失われたわが国のGDPは何と!1兆ドル(105兆円)以上にもなります。これを円安環境下で取り返すには日本は同額の貿易黒字を上積みするくらいしかありません。となると・・・世界最大の消費市場であるアメリカからはこのうちの半分(5~6千億ドル)くらいの黒字をゲットしたいところです・・・が、これ、対米黒字額で第1位の中国(3470億ドル:2016年)を大きく上回る額ですから、絶対に達成不可能だろう・・・ってことは容易に想像がつくわけです、トランプ政権のこうした強硬姿勢からすれば。
ちなみに2016年の日本の対米貿易黒字額は「たった」の688億ドル。この数字、上記の狙いとか期待値に照らせば、まったくもって不十分なことは明らかです。ではせめて、アベノミクスで後押ししたからこの額にまで達したのだろう、と思ったら、同直前の2012年の黒字額は765億ドルですから、増えるどころか70億ドルあまりも減ってしまいました・・・。つまり、わが国はアベノミクス円安でも対米貿易で利益を増やせてはいないことになります。まあこれは当然でしょう。こちらの記事等で綴ったような状況なのだから。いまさら自動車メーカーがアメリカに作った工場を全部たたんで日本からの輸出に切り替えますか?そんなこと、できるわけがない・・・(以上、データはJETROのHPより)
もっとも上記貿易黒字の円建て額は円安で膨らむことになります。2012年の年平均為替レートは1ドル約80円、2016年は同109円ですから、それぞれの年の黒字額は6.1兆円、7.5兆円となり、1兆円以上は増加する計算になります。よって、輸出企業に限ればこうして円建ての売上額や利益が増える分、その株主、経営者、従業員等は多くの円を得ることになります。とはいってもそのときの1円は1/80→1/109ドルに実質価値が下落していて、実際には1.36円(=1×109/80)を稼いでようやくアベノミクス前とトントンになることに留意すべきですが・・・