Straphangers’ Room2022

旧Straphangers' Eyeや習志野原の掲示板の管理人の書きなぐりです

間接的効果は期待できない

2012-07-05 23:20:00 | 時事
「カオスの深淵」ネタをもう一つ。
3日の記事は、新興国が投資を呼び込むために税金の減免を競う様が書かれていましたが、確かに投資が盛んになるが税収は無きに等しく国家はメリットを感じないわけです。

考えてみれば当たり前の話ですが、それが当然とされているのですからややこしいです。
企業は「外部流出」が少ないほうがメリットを感じるのは当然として、国家が直接的な収入が見込まれないのに進出を願うのはぱっと見変な話です。

これは国内でも自治体単位で見られる話ですが、なぜこんな「無償奉仕」が成立するかというと、企業の進出により雇用が生まれ、経済が発展し、それに伴う税収が期待できる、ということが「教科書通り」の答えとなっています。

しかし本当にそうなのか。事業を行う法人自体からの税収が期待できない状況ですから、結局は国民から回収することになります。進出した企業が十分な分配をその国(自治体)にもたらせばいいのですが、労働分配を極小化してくるケースが多く、結局は進出企業「だけ」が栄えて、国家や自治体は持ち出しを回収できず、結局税金で負担する、つまり、国民(住民)の負担が増えるだけに終わるケースが目立ちます。

そもそも企業が新興国や地方に投資するメリットは、特に新興国の場合はその労働コストの安さです。母国に作るよりも遥かに安い労働分配でその分を利益に出来る目論見があっての話であり、さらに税金も払わなくて済むのですから万々歳です。
言ってみれば百戦錬磨の大手資本にいいようにあしらわれているというところでしょうか。

さらに問題なのは、必要がなくなったらさっさと撤退すること。いわゆるホットマネーのように、事業自体が移転してしまうことです。企業にとっては合理的行動ですが、国家や自治体にとっては当てが外れるどころかその後の雇用や経済に大穴が開く最悪の事態です。

国内で昨今問題になったのは、税金の減免に補助金まで得ておきながら、あっさり撤退してしまい、食い逃げのような状態になることですが、これもその可能性を手当てしていない自治体が大半ということで、「武士の商法」じゃないですが、甘さが目立ちます。

こうした事態を見ると、国家や自治体の税収について、直接税ではなく間接税が主流であるべし、という議論はどうかとも思います。収入課税や外形課税を用いた直接税できちんと捕捉しないと、結局国民、住民単位で間接税を負担するだけになるわけです。

その間接税にしても、国際間取引に課税していない現状があるわけで、それを悪用した電子書籍事業がはじまるそうですが、少なくとも国内取引の隠れ蓑として仲介する国際取引については課税するという対応が必要でしょう。

さらに、5日の記事では富裕層に課税して中産階級を育てるべき、と言う意見もあると紹介していましたが、結局はネガティブな評価で、香港やシンガメ[ルのように税金の減免で産業を呼び込むほうがメリットがあるとしています。

これは減税派が常々主張する話ですが、結局「成功例」と言われる国は領土国家と言うよりも都市国家であり、多くの産業分野を「外注」し、それに従事する「国民」を持たない格好ですから、本当に領土国家でその論理が成立するかは疑問ですし、我が国をはじめとする領土国家に当てはまるかは疑問です。

こうした齟齬は実社会でもあるわけで、パイロットプラントならうまく行ったシステム、プロセスが商業化にあたり、実際の生産規模に応じたサイズにした途端うまく行かないようなものでしょう。小さな規模なら「成功」しても、大きな規模を賄えないことはよくある話ですから。

そして、中産階級が育たない、衰退することの意味を軽く見てはいけないのです。
富裕層目当ての市場がいくら伸びようとも、富裕層が全体に占める割合が大半を占めない限り、基本的にはニッチマーケットに属する話です。
「価格破壊」はさすがに有害ですが、単価は安くても数が曹ッた方が裾野は広がるのです。

足元の消費の停滞も、中産階級が衰退することで消費にカネが回らないことが原因ですから。いい年して何を青臭いことをいつも言ってる、と思う人も多いでしょうが、国内は成熟、衰退だから海外に出るしかない、と焼き畑式に進出するよりも、この1億3千万の国内マーケットをきちんと涵養したほうが結果として儲かるんですよ。