庵KM

技術屋OBの環境問題独り言

経済問題。交通問題。健康問題。そして、日本の国創り問題。快適社会問題。

政府が関与する上限設定は、官僚主導と利権政治への道。

2010-03-17 | 環境問題
「排出量取引制度」の要である「初期配分」において、入札方式のメリットを説明した。
解りやすい制度であり、効率のよい財源調達に結び付くので、今後は採り入れる国が増える傾向になる。
その一方で、初期配分を政府が関与して、業界毎や企業ごとに「排出量許可枠」の上限を決めて、キャップを被せる制度が、イギリスやEU諸国の一部で行われている。
日本の役所や政治家がイメージしている「排出量取引制度」の中身は、このヨーロッパの制度に影響されている様である。

では、政府関与の初期配分は、どのようなモノであるか、説明をしてみよう。
この方式は、「グランドファザーリング方式」とも呼ばれるように、一家の長である「家長」が家計費の配分を決めることを意味する方式である。
事例として、排出量の総枠を1億トンとして、A業界には1000万トン、B業界には500万トン、と言う様に、政府の政策として、業界毎に許可する排出枠を割り当てる。
これを、さらに細分化して、企業ごとに割り当てる制度も追加として必要になる。

では、どのような基準で、割り当ての数値がでるのであろうか。
ひとつは、実績排出量を基準にして削減量を決める設定であるが、これはA業界の前年の実績は1000万トンとした場合に、全体で5%減らそうとすれば、950万トンの割り当てになる。
同じく、B業界の実績が500万トンならば、475万トンを割り当てる。
一見、公平性がある様に見えるが、実は、大きな問題がある。
上限規制が一律でかかるとみれば、意図的に規制前の排出量を増やして、排出実績の枠を大きくしておけば、排出許可量の配分が決められる時期には有利にできる。
いわゆる「駆け込み排出」をした企業、業界が有利になり、削減努力をした企業は不利になる。
今の日本の業界において、排出削減の実績が停滞している原因の一つにもなっている。

また、すでに十分に排出削減の努力をしてきた、と言い続けている業界からは、乾いた雑巾を絞るようなモノであるから、一律の削減率は不公平だと言う不満が噴出する。
そして、あらゆる役所とのコネとロビー活動によって、少しでも排出量の上限を増やそうと努力を重ねる。
このロビー活動に、力を入れた業界が有利になる制度が、「政府による初期配分」方式である。

この方式は計画経済に近いモノで、誰でも想像出来る様に、役人と政治家の関与が活発になる。
結果としての弊害は、天下り役人の多い企業や業界が有利になり、役所の権益が増大する。
さらに、役所の口利きをする利権政治家の活躍の場を増加させる。
この批判を承知の上で実施する覚悟が、現在の鳩山政権に出来ているか、はなはだ疑問である。

この上限設定で各企業、業界に政府が関与すると、排出の総量規制が確実になるとされている。
しかし、排出許可枠を超えて排出した企業にかける課徴金の額が、相当高く設定しないと、総量の規制は守られない。
官僚主導、役人天国に戻りかねない方式を国民は理解するであろうか。

そこで折衷案として「原単位による規制」を上限設定にするべきとの議論が出ている。(次回に)