山と溪を旅して

丹沢の溪でヤマメと遊び、風と戯れて心を解き放つ。林間の溪で料理を造り、お酒に酔いしれてまったり眠る。それが至福の時間。

Mission impossble? in みずがき

2009-06-11 23:38:23 | フライフィッシング
6月上旬、瑞垣山の山腹はレンゲツツジのひときわ鮮やかなオレンジ色で彩られる。

丹沢に咲き誇るシロヤシオやトウゴクミツバツツジの純白や赤紫の高貴な花とは
一線を画す艶やかで優しい色合いもまた登山者の心を惹きつけて離さない。





午前7時をまわる頃、僕は瑞垣山への登山口『みずがき山荘』に降り立った。
平日だと言うのに駐車場はすでに20台ほどの車に占拠されていた。

レンゲツツジと時を同じくしてシャクナゲの季節を迎えているのだろうか?
北八つのシャクナゲも見事であるが瑞垣山に咲くシャクナゲに魅せられてわざわざ足を運ぶ登山者も多いと聞く。




さて、今日の僕はレンゲツツジやシャクナゲを愛でる優雅な山行のためにここに来のではない。
この森に住むヤマトイワナを探索するという『崇高なミッション』を遂行するためにここを訪ねたのだ。

昨年9月28日、この森のいくつかの沢の探索中に美しい純血ヤマトだけが棲む1本の沢に出会った。
この沢の他にも頑なに純血を保つヤマトの沢がまだあるに違いない。どうしても出会いたいと思っていた。

僕に与えられた武器は、ザックに括り付けた熊鈴とホイッスル、
釣友から貰った紙火薬のピストル、そして腰に付けた山刀と熊撃退スプレ-だけである。
ザイルやシュリンゲは使う予定はないが一応ザックの中に収めた。





今日、最初に入るのは『深森沢』
無数に流れる名もない枝沢に僕が勝手に付けた名である。

鬱蒼とした深い森には熊の気配が充ち満ちている。
障害物も多く遡行もロッドを振ることさえも難儀する。
だからこそヤマトが棲息すると目を付けたのだ。





森に入ると、沢筋にはコゴミやミズの群落が続く。





一面シドケの畑が、、、
5月中旬が摘み頃であろうか?





更に遡行する、、、

と、暗い森の中に突如として陽が差し込むお花畑が出現する。
薄紅色や白や紫の花々が咲き乱れるその空間は、この森に似つかわしくない不気味さがある。

何人かの釣友と酒を並べて宴を開くのならいいのだろうが
一人でいると何故か身震いしてしまうような妖気を感じて立ちつくしてしまうのだ。

美しいお花畑なのに一刻も早く立ち去りたい、そんな衝動に駆られて通り過ぎた。





程なく、岩魚が潜んで居そうなポイントに辿り着いた。
障害物で守られた落ち込みは一筋縄では行かない。
密かにスト-キング、ひざまずいてボウ&アロ-でフライを放つ。





着水したフライに間髪置かずに食らいついたのはヤマト、、、、、、のハイブリッドであった。





こんな狭いエリアに岩魚が棲息できるのか?
そんな疑問はフライをキャストしてみればすぐに解ける。





まさに一投一尾、ポイントには間違いなく岩魚が潜んでいた。
これは色濃くヤマトの血を残すハイブリッド、体側上部の僅かな白点が恨めしい。





遡行する行く手にはどこもかしこも倒木が横たわり心が折れそうになる。





源頭部に至ると、こんなポイントだけになる。
ロ-ルキャストもボウ&アロ-も歯が立たず、提灯釣りの世界になるが岩魚は確実にいる。

ロッドティップから30センチほどフライを垂らして右側の藪の陰にフライを置く。





難儀して取り込んだ岩魚は残念ながらこれもハイブリッドであった。
ここまでおよそ20尾、その中に純血ヤマトは一つとしてなかった。

こんな源頭部の細流でさえヤマトの純血が侵されていようとは、、、、。
やりきれない気持と徒労感を抱えてとぼとぼと山を下りた。








2本目の沢は『きのこ沢』
昨秋、きのこを探していて偶然見つけた枝沢である。
勿論、地形図にも無ければ名も知らない細流である。





先ずは燃料を補充する。
森の中でやる冷え冷えのビ-ル2本、さっきまでの疲れが吹き飛んだ。





○○や○○を酒肴に焼酎を一杯追加した。
崇高なミッションの途上にはふさわしくないので画像は抹消する。








お腹が満たされれば眠るに限る。
昔、大和の国には隠密裡に任務を果たす一団があった、忍びの者である。

忍びの者が野で眠るとき、彼らは必ず体の左側を地に着けて眠ったそうである。
不意に斬りつけられた時、右腕の自由が効くし心臓が守れるからだと言う。

僕もそれに習ってやってみたがこれはいただけない。
満杯になった胃袋からビ-ルが逆流して不快この上ないのだ。
やはり川原乞食は仰向けに大の字に眠るのが一番心地よいのだと実感した。





さあ、再び探索を開始しよう!
だがアルコ-ルの入った後は探索などどうでも良くなってしまう。

緩慢になった体で跪き、膝に圧迫されて胃袋から逆流しそうなビ-ルを押さえつけながらボウ&アロ-でフライを射る。





飛び出した岩魚はヤマトとは程遠い個体であった。
酔っぱらっていたって警戒心の強い筈の枝沢の岩魚は釣れる。
と言うことは、釣りは決して腕の良し悪しではないと言うこと、その好例である。





上流になるにつれてこんなポイントになる。





この枝沢でも15尾ほどの釣果。
でもやはり純血ヤマトは一つとしてなかった。





細流はまだまだ上流へと続いていた。
しかし純血ヤマトの棲息は絶望的であり酔いも残っている。
諦めて車に戻って二度寝に就いた。





太古の昔、おそらくこのみずがきの深い森の中でヤマトイワナは生を謳歌していたに違いない。
今日の探索で出会った30を越える岩魚に色濃く残るヤマトの血はその証左である。

一時の釣りブ-ムの陰で無差別に放たれたニッコウイワナによって
無惨にもヤマトの聖地が浸食されてもう元には戻せないところまで来てしまった。

しかし、この森のどこかに昨秋出逢ったような純血ヤマトの聖地が必ずある筈である。
それをひたすら信じてヤマトの探索を続けて行きたいと思っている。



コメント (15)
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