ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 石井哲也著 「ゲノム編集を問うー作物からヒトまで」  岩波新書

2019年04月04日 | 書評
鬼怒川の日没

第3世代のゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」によるゲノム改変がもたらす諸問題を検証する  第1回



2017年4月19日日本国際賞受賞者の3人の中で、第3世代のゲノム編集技術を開発したドイツ・マックスプランク感染生物学研究所のエマニエル・シャンパルティエ所長と米国カルフォニア大学バークレイ校のジェファニー・ダウドナ教授(両名は女性)が来日した。ノーベル賞級の新型遺伝子工学ツールである「ゲノム編集」は、遺伝子組み換え技術より圧倒的に高い効率で遺伝子を改変できる。ゲノムの狙った位置に遺伝子を導入するだけでなく、特定の遺伝子に突然変異に似た変異を起こすこともできる。複数の遺伝子を同時に改編することも可能となった。第3世代のゲノム編集CRISPR/Cas9(クリスパ・キャス9)はいまや世界中の研究者に急速に広まっている。ゲノム編集技術は農林畜産分野では従来は10年以上かかった育種の期間を大幅に短縮し、医療分野では臨床試験段階になったものもいくつかある。エイズ免疫細胞、がん細胞免疫治療、遺伝子病の治療などの新しい展望を開くことができる。こうした華やかな表の面に対して、この強力な遺伝子ツールは世界中に大きな波紋を引き起こしている。欧州ではゲノム編集を用いた育種の規制をめぐる論争が続いている。医学分野では2015年4月中国の研究グループが人受精卵で廃棄を前提とした受精卵のゲノム編集基礎研究成果を発表すると、世界中に深刻な懸念の声が広がり、ホワイトハウスは緊急声明を発表した。本書は生命倫理の観点を大切にし、ゲノム編集の技術の農業と医療への応用についての論点を提供するものである。本論に入る前に石井哲也氏のプロフィールを紹介する。1970年群馬県生まれで、名古屋大学農学研究科卒業、北海道大学で農学博士号を取得し、京都大学iPS研究所を経て、2013年北海道大学安全衛生本部特任准教授、2015年教授となった。活動分野は医療社会学 、 生命倫理学、 生殖補助医療、 幹細胞生物学、 遺伝学などです。教授の自己紹介文では「生命倫理について研究してます。バイオテクノロジーの倫理的、法的、社会的観点からの分析を通じて、社会への接続に貢献したいと考えてます。具体的には、遺伝子組換え作物、幹細胞研究、生殖補助医療、遺伝子治療などに関心を寄せてます。日本生命倫理学会、日本実験動物学会、欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)、国際幹細胞学会(ISSCR)、AAASの会員です。科学技術振興機構、京都大学iPS細胞研究所を経て、現在、北海道大学に勤務しております。」と書いています。

(つづく)