ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 日野行介著 「福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞」(岩波新書2014年)

2016年01月02日 | 書評
政府・官僚によって奪骨された被災者生活支援法と被災者支援政策のありかたを問う 第4回

2) 理念が骨抜きの「基本方針案」

参議院選挙が終わり、安倍内閣はねじれ現象を解消したので、2013年8月よりこれまで水面下で進められてきた検討会を表での議論に移すことになった。つまり2014年春に避難指示解除と住民帰還へ向けたシナリオが表面化した。2012年9月1日に発足した原子力規制委員会は3条委員会の高い独立性を持つ委員会である。同委員会は2013年9月17日より線量基準検討チームを立ち上げた。8月7日には原子力災害対策本部会議があり、避難域再編成が完了した。被災者支援団体「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」は復興庁を相手取り、基本方針案の想起策定を求める行政訴訟の準備を進めていた。基本方針の策定を規定する法律150本のうち、140本は1年以内に基本方針が策定された。1年以上も放置するのは異常である。そして8月22日東京地裁に提訴した。すると提訴から1週間後の8月30日復興庁は基本方針案を明らかにしたが、内容はお粗末でおざなりである。線量基準はあいまいなまま、施策110本はすでに他省で実施されている政策の相乗りに過ぎなかった。支援対象域を33市町村に限定した。自主避難者への配慮は微塵も見られない切り捨て方針であった。支援法の第1条は「放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないなどのため」と記されているのは、科学的に解明されていない事項でも危険を及ぼす恐れがあるときは「予防原則」により規制を加えることができるとする。低被曝線量は「健康被害が科学的に実証されていないから被害はない」というのではなく、現実的な健康リスクと捉えて対処すべきというのが欧州では常識化している。宮城県丸森町の1マイクリシーベルで「被害はあり得ない」といって「不安に過ぎない」と根本復興相がいって住民の要求があるのに丸森町を切り捨てるのは間違っている。根本大臣はグレーゾーンには「準支援対象地域」を新たに定めるというが、具体的言及はない。官僚的言いなだめに過ぎないかもしれない。この基本方針に対して9月13日までの2週間パブコメを受け付けると発表した。そして基本方針の説明会を福島県で行うことを決めた。2013年9月11日福島文化センターで基本方針説明会が行われた。住民は冷ややかにこれに対応した。また福島県の佐藤雄平知事の反応は、評価しているのかどうか曖昧である。基本方針に対する被災県福島県の反応は日野行介著 「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」に書かれたように、県民側というより国側と一緒に事態を収めようとするに態度が滲んでおり不透明である。復興庁は10月10日パブコメの内容説明会を記者向けに行った。4963件のパブコメで基本方針を可とするは2件だけで、支援地域を限定したことに対する批判は2700件もあった。最初から政府はパブコメを参考にする気はなく、環境影響評価と同じくやったというアリバイ作りに過ぎなかったようだ。そうして11日午前に予定通り基本方針を閣議決定した。

(つづく)