ブログ 「ごまめの歯軋り」

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吉田武 著 「虚数の情緒ー中学生からの全方位独学法」 (東海大学出版部 2000年2月)

2016年05月26日 | 書評
全人的科学者よ出でよ! 好奇心に満ちた健全なる精神を持った人のために 第22回

第Ⅲ部 振り子の物理学 

第12章 波と粒子ー量子力学 (その2)


干渉の数学的基礎は分かったとして、多数のスリット(回折格子)を通過した光の干渉はどうなるかというと、波の本来の進行方向に対する周辺への回り込み現象が問題となる。ここでは複素数のベクトル解析が中心となる。壁のdの範囲にn本のスリットが切ってあるとする。同じ振幅、同じ位相で正面から角度θの壁に到着する波全体は、合成波W=ae^(-iωt)Σe^(ikr n)で、隣同士の波の位相差はα=dsinθ/(n-1)である。このあとすごい巧みな演算が行われ、級数の和が求めあられる。最終的に合成波のベクトルは、φ=kαとおくと、W=a〔sin(nφ/2)/sin(φ/2)]e^(i[kr-ωt+(n-1)φ/2])、強度は2乗してI=|W|^2=a^2〔sin(nφ/2)/sin(φ/2)]^2 φ=2πdsinθ/(n-1)λ、θがゼロ付近では集中が激しく、sinφ≒φで近似すると、I≒(an)^2となる。光は波動であるという理解から。回折格子(干渉)を説明できるのであって、粒子説では隣り合った光線どうしの干渉は説明不可能である。さらに言えばこの波動説でいう光線の概念も怪しい、波動はあらゆる方向へ伝播するはずで隣からくる波動との和が一番大きく増幅されるところがいわゆる見かけ上の光の進む道ということである。このことはファイマンの量子電磁気学のベクトルにも通じることである。波の本来の進む方向に対する周辺への回り込みを「回折」という。干渉とべつに違うことではない。光に関していえば複数のスリットがあいた障壁物を「回折格子」と呼び、先ほどは透過型回折格子を示したが、反射型回折格子もある。反射型回折格子の代表にX線回折は結晶の分子構造の規則性を解析する装置である。また分光になくてはならないのが回折格子である。表面に多数の細い溝を刻んで光を反射させると、特定の角度で光の分光スペクトルを得る装置である。また音楽や映像関係でCDやDVDはビットと呼ぶ微細な凸凹にレーザ光線を照射し、特定の角度で強い信号を得る情報装置にも回折格子の原理が働いている。この節で行った多数の波の合成をオイラーの指数でと三角関数で説明したが、ここにベクトルという幾何学的な考えを紹介する。同じ位相のずれを持つn本のベクトルを順につないでゆくと、合成波の振幅を求める問題は、合成ベクトルの弦の長さを求める問題になる。円の半径Rとベクトルの長さaには、a=2Rsin(φ/2)という関係があり、求める合成ベクトルの長さAはA=2Rsin(nφ/2) よってRを消去すると、A=a〔sin(nφ/2)/sin(φ/2)]が得られる。この方が直感的に理解しやすい。次に一つの幅広いスリットを通る波を考える。先ほどの干渉も回折格子の場合も一つのスリットを通る波は一つというちょっとおかしな約束事で進めてきた。今一つのスリット(幅l)に無数の波が存在する場合、より自然な設定の下で計算したいのである。それは無限個のベクトルの足し算になる。波が無限大にあるということは、nが無限大ということで弦ではなく円周で近似できるのである。ベクトルの長さa=2Rsin(φ/2)≒Rφ 合成された波の振幅はA=2Rsin(β/2) 波の強度I=a^2〔sin(β/2)/(β/2)]~2  ここでβは両端での位相の差であるので、β=2πlsinθ/λである。I(θ)は独特の曲線になる。スリットの中心部分ではsinβ≒βであるので、I=a^2は成立する。スリットと波長の比l/λによってさまざまな強度曲線となる。l/λ=0.5では回折が大きく像はぼやけて、l/λ=2では回折はほとんど見られない。ここでヤングの実験(2つの幅を持ったスリット問題)を実際に即した設定で取り扱う。つまり一つのスリットの幅が十分であるのでそのうちに無限個の波があるとする。無限個どうしの2つの光線の干渉を考えることである。強度Iは2つの幅の狭いスリットを通る一個の波の合成はI=4a^2cos^2(φ/2)であった。一つの広い幅に無限個の波があるときの波の強度I=a^2〔sin(β/2)/(β/2)]~2 (ただしφ=β=2πlsinθ/λ)であったので、この合成強度はその積である。計算すると、d/λ=8,d/l=4においては、θ=0を中心に多数の干渉縞が出る。

(つづく)