ブログ 「ごまめの歯軋り」

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吉田武 著 「虚数の情緒ー中学生からの全方位独学法」 (東海大学出版部 2000年2月)

2016年05月18日 | 書評
全人的科学者よ出でよ! 好奇心に満ちた健全なる精神を持った人のために 第14回

第Ⅱ部 数学

第9章 虚数-全数学の合流点

e^x≒1+x+(1/2)x^2という指数の近似式において、指数の虚数乗を行う。その意味は後で考えるとして、x→±ixと置き換えるとe^(ix)≒1±ixー(1/2)x^2となる。この関数f(x)=e^(±ix)=1ー(1/2)x^2±ixは複素共役数となっており、実部は二次関数、虚部は原点をとおる直線の式である。いまこの複素共役数をA±iBとおくと、e^(ix)=A+iB、e^(-ix)=A-iBとおくと、e^(ix)・e^(-ix)=e^0=1=(A+iB)・(A-iB)=A^2+B^2=|e^(±ix)| e^(ix)・e^(-ix)=[1ー(1/2)x^2+ixi]・[1ー(1/2)x^2-ixi]=1+(1/4)x^4 つまりxが十分に小さいときにのみ1となる。x=1/1024(1/2^10)ならばe^(ix)≒0.99999952316+0.00097655625iであるが、(e^i/1024)^1024=e^iこれを数値計算するとe^i≒0.54030218006+0.84147106420iとなる。この数値計算でe^(ix)=iとなるxを求める計算を行うと(過程は本書を見てください)X=1.57079609315 すなわちπ/2に等しくなる。こうしてe^(iπ/2)=iとなり両辺を2乗すると、e^(iπ)=-1(これがオイラーの公式の一形態である。本書は何と数値計算から追い込んできたのだが、これはすべてを知っている人から見るとなんと面倒なやり方になる。)e^(it)という指数関数の虚数乗は周期2πを持つ。e^(it)の絶対値は1であったので、e^(it)のグラフは半径1の円を描く。つぎに虚数の虚数乗を求めると、i^i=[e^(iπ/2)]^i=e^(-π/2)すなわち虚数の虚数乗から実数が得られた。i^i=0.207879576・・・となる。e^(it)という単位円でtは角度になります。π/4は45度に対応し、その時のe^(iπ/4)=√i=(√2/2)(1+i)は一辺の長さが(√2/2)の正方形の対角線の長さ1になる。e^(it)は三角形と関連付けることで、その幾何学的な意味が明らかになった。このときtを角度とみると複素平面では、1を半径とする三角形の辺の長さに対応する。複素平面で、絶対値が1である複素数は Z=A+iB  |Z|=√(A^2+B^2)=1であるので、単位円周上にある数である。Zと原点を結ぶ斜線の角度をθとすると、直角三角形の関係から三角関数表示ができる、Z=cosθ+isinθとなり、複素数と三角関数が結びついた。角π/6に対してはZ(π/6)=(√3/2)+i(1/2)、角π/4nに対してはZ(π/4)=(√2/92+i(√2/2)となり、これらはe^(iπ/6)およびe^(iπ/4)に等しい。指数関数の虚数乗と三角関数が全く一致したのである。ここで「指数関数」、「虚数i」、「三角関数」、「ネイピア数e」、「円周率π」が固く結びついた。これをオイラーの公式と呼ぶ。すなわち一般形では e^(±iθ)=cosθ±isinθである。θがπ(180度)のとき e^(iπ)=-1と表現できる。「オイラーの贈り物」という本の表紙にはこの形の公式が印刷されている。そしてオイラーの公式の幾何学的表示を考えると、まず複素平面で半径1とする単位円を描く複素数、実部X軸ではcosθとする三角関数(振幅1の周期関数)、虚部Y軸ではsinθ(cosの位相をπだけずらせた)という三角関数、最後に全体としては初めに3次元像を示したように、θを軸とする螺旋である。

別法としてオイラーの公式より三角関数の加法と倍角定理が導かれる。e^(iα)=cosα+isinα、e^(±iβ)=cosβ+isinβ、するとe^(iα)・e^(±iβ)=e^i(α±β)=cos(α±β)+isin(α±β)、よって(cosα+isinα)・(cosβ+isinβ)=cos(α±β)+isin(α±β)となる。左辺と辺の実部と虚部は等しいので展開して、sin(α±β)=sinαcosβ±cosαsinβ,cos(α±β)=cosαcosβ?sinαsinβという三角関数の加法定理をえる。それから直ちに倍角定理や半角定理が導かれる。つぎにe^(ix)の接線の傾きはie^(ix)でありこれを三角関数で表すと元の指数関数e^(ix)=cosx+isinxの接線の傾きはie^(ix)=i(cosx+isinx)=-sinx+icosxとなる。つまりcosxの接線の傾きは-sinxに、sinxの接線の傾きはcosxで表される。本質的にsinx関数とcosx関数は同じ関数で位相のずれに過ぎない。このことは加法定理から導くこともできる。sin(θ+π/2)=sinθ・cos(π/2)+cosθ・sin(π/2)=cosθとなる。sin関数とcos関数はπ/2ずらせば、同じ関数なのである。オイラー公式の近似式を使って三角関数の値を四則演算から導いてゆこう。第7章虚数の章において、x^n-1=0を「1のn乗根」(または「原始n乗根」)と呼んだ。x=1はすべてのnに対して根であるので、x^n-1=(x-1)(n-1次方程式)となるので、n-1次方程式=0を「円分方程式」といった。こうして、1のn乗根は、複素平面上に正n角形を構成した。5次方程式の場合、根の一つから、360/5=72度 すなわち2π/5での実部cos(2π/5)、虚部sin(2π/5)の解が計算でき、90度でsinx ,cosxの値は知っているので、90-72=18度(π/10)での実部cos(π/10),虚部sin(π/10)の解が計算できる。こうして順序で次々と3度(π/60),6度(2π/60)・・・・・・・・・45度(15π/60)を3度刻みで解を求めてゆくことができる。次に第6章の円周率の節において、正多角形の漸化式を求めた。sin(π/6×2^n)=an/2 そしてan+1=√[2-(√(4-an^2)]であった。30度(π/6)n=0からスタートしsinxを次々と計算し、つぎにcosxを求めるのである。xが小さければsinθ≒θとなる様子がはっきり分かる。古代バビロニアの楔形粘土板に記された三角関数表(tanθ)はどのようにして求めたかは不明であるが、ピタゴラスより何千年前に「三平方の定理」は知られていたことは驚きである。虚数を介して数学の諸形式が関連しオイラーによって統一されたことを見てきたが、虚数をありえない数といって捨て去るのではなく、一段高いところから全体を見渡す余裕が、情緒というものではないだろうか。何ともいえない不可思議感に満たされて数学の実相(脳細胞の動き)に漂うことである。虚数、指数関数、三角関数という独立な数学的要素が見事に融合した美の化身それが「オイラーの公式」である。次に物理の部において、振子やばねの振動を扱うがこれもオイラーの公式の応用問題とみなせるのである。吉田氏は物理の問題を「振り子の運動法則」から始める。

(つづく)