ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 石川真澄・山口二郎著 「戦後政治史 第3版」 岩波新書

2012年01月06日 | 書評
戦後の総選挙と内閣の構図のメモ 第1回

 太平洋戦争が終ってアメリカ占領軍が日本にやってきて、有無を言わせぬ強権によってまがりなりにも日本の西欧型民主政治が開始された。戦後政治史とは日本における民主政治の歴史ということになる。「押し付けの日本国憲法」がどれだけ素晴らしいものであったか、英語のまま「日本国憲法」を教えた教師もいたくらいである。しかし形は歪な点を残しながら、民主政治はようやく幼年期に一人歩きを始めた。戦争責任を不問にした「天皇制」の残影を引き摺り、「官僚性」は戦前の「経済統制」型中央集権制を色濃く残し、刑法は明治時代をそのまま引き継ぎ、民法もいまいちの人権保護であった。しかし本書は日本政治史を論じるものではない。特に政治理念や政策の変遷を追いかけるものでもない。ただ政界の歴史をメモするだけである。これがこの本の限界であり、特徴である。それが不満なら、別の書を見ればいい。例えば、丸山真男著 「日本の思想」(岩波新書)、佐々木毅著 「政治の精神」(岩波新書)、 内山融著 「小泉政権」(中公新書)、山口二郎著 「政権交代論」(岩波新書)、菅直人著 「大臣」増補版(岩波新書)など優れた著作がいっぱいある。さらに政策に関しては分野ごとに山というほどあって、とても読みきれるものではない。ということで、別に本書の位置づけを落としいれるつもりはないが、本書はあくまで政界の構図であって、政策や思想の論議ではない。それはなぜかというと、著者の石川真澄氏(1933-2004年)が1960年から朝日新聞の政治記者としてスタートしたからである。本書の「まえがき」に書いてある通り、1995年に石川真澄著「戦後政治史」(岩波新書)が刊行され、10年が経過した時点で、2004年山口二郎氏が参加してその10年間を加筆した。これが「戦後政治史 改訂版」である。しかし石川氏は改訂版が刊行される直前に逝去された。その後6年が経過し小泉首相が退陣し自民党は混迷し、2009年ついに政権が交代した。民主党鳩山政権が生まれたが、沖縄基地問題で辞任した。2010年6月の菅直人内閣が出来た時点でさらに改訂版を出す運びとなった。それが本書である。
(つづく)

読書ノート 田中素香著 「ユーロ ー危機の中の統一通貨」 岩波新書

2012年01月06日 | 書評
欧州の通貨ユーロの将来を展望する 第17回

5) ギリシャ危機とユーロ存亡の危機 (2)

 2010年5月7日のユーロ圏緊急首脳会議はユーロ圏15カ国による800億ユーロのギリシャ支援を決定した。ほかにIMFが300億ユーロを支援するのでギリシャ支援は合計1100億ユーロとなる。5月10日緊急支援を可能とするユーロ圏金融安定化策が発表され、7500億ユーロ(約90兆円)という巨額な金融安定化メカニズムを創設した。なぜこれほど膨大な額となったのかは、市場がスペインへの飛び火を恐れ、市場の安心感を与える思い切った支援額が必要であったからだ。2009年10月にギリシャ危機が現れてから翌年5月に金融安定化メカニズムが発表されるまで7ヶ月を要した。EUという連邦制の民主主義国では何をやるにしても時間がかかるのである。IMFが1997年の東アジア通貨危機ではかえって各国の危機を増加させたという前科があり、ギリシャ金融危機ではIMFは拠出資金の1/3を負担し。融資条件の緩和、条件実施の監視を担うことになり、グローバル化した世界金融危機に対処することができた。IMFの資金援助の8割は欧州向けで、EUがそれを演出した。IMFにはアメリカの意向も加味されているので、グローバルな金融危機対応といえよう。ギリシャ危機の中でEU各国とIMFの動きに隠れて目立たなかったが、ECBはギリシャ国債の買取という危機対応措置を行なった。2010年7月までの買取額は600億ユーロとなった。ギリシャ国債の70-90%は国外の投資銀行やファンドであって、この買取策は銀行の資金繰りを助け銀行危機を防いだといわれる。
(つづく)

文芸散歩  池田亀鑑校訂 「枕草子」 岩波文庫

2012年01月06日 | 書評
藤原道隆と中宮定子の全盛時代を回想する清少納言 第95回

[265] 「たのもしきもの・・・」 第1類
頼もしいものには気分が悪いときに大勢の僧が祈祷してくれること。気分が悪いとき本当に心の通った友人が言い慰めてくれること。

[266] 「いみじうしたてて婿とりたるに・・・」 第3類
シニカルな男性論である。いろいろ準備して婿を迎えたのだが、間もなく住まなくなってしまった婿でも舅にであったらすまないと思うのかしら。ある人が時の権力者の婿になってたった1ヶ月で来なくなってしまった。女の家では大騒ぎになり、乳母などらは呪いごとを言い出す始末。それでも翌年正月にはその婿は蔵人に昇進したの。これは舅の力によるもので、人はまさかと思うがそういうものなの。6月に法華の八講があった折、その婿は派手な袴と半臂を着て、棄てた女の車に衣装を引っ掛けたのを周囲の人が見てどういうつもりなんだろうと気の毒がっていたが、当人は平気な顔をしていたものだった。やはり男は思いやりとか,人がどう思うかとかは分らないようね。

[267] 「世の中になおいと心憂きものは・・・」 第3類
世の中ですごく嫌なことは人に憎まれることでしょうね。どんな頭のおかしい人でも人に憎まれたいとは思わないでしょう。だけど宮仕えや親兄弟間でも好かれる・好かれないことがあるのは悲しいことだ。上流のひとでも中流の人でも親がかわいいと思っている子は注目され大事にされるものよ。賢い子なら当然だが、そうでもない子でも親はかわいいと思うのは人情ね。親にも主人にも、そして話し相手にも、人の愛されるということは大事なことね。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「謹賀新年」

2012年01月06日 | 漢詩・自由詩
今朝賀客在樽前     今朝賀客 樽前に在り
 
白髪欣然喜欲顛     白髪欣然 喜びて顛せんと欲す

富士霊峰呈臘雪     富士霊峰 臘雪を呈し
 
拝空称慶布新年     空を拝し慶を称し 新年を布く 


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(韻:一先 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)