ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

医療問題 「呼吸器外し」はタブーか?

2009年12月26日 | 時事問題
医療に関する提言・レポートfrom MRIC(2009年12月25日)「日米の医療の常識からみる延命措置の理念ータブーから目を離さないで」 村重直子 厚労省改革推進部(個人の見解です)より

 2008年10月亀田総合病院の倫理委員会は「ALS患者の要望による人工呼吸器の取り外しも考慮すべきではないか」という議論を出したが、今年2009年12月「川協同病院医師による呼吸器はずしは殺人である」という最高裁三行半判決が出たばかりである。ところが米国では昔から「治療しても治る見込みのない患者の呼吸器を外すことは標準的医療である」という常識が存在し、呼吸器はずしは日常的行為である。それは米国では「治る見込みもなく患者が苦しむだけの延命治療は人の尊厳に関る」という医者と患者の常識が行き渡り、倫理委員会に図る必要もなく、刑事司法や行政が介入するなどということは考えられない。延命治療行為を中止することは民事・刑事上免責されている。ホスピスや緩和病棟で「無駄な延命治療は行わない」という書類の署名しているのは、米国では79%、ドイツでは18%、日本は9%である。日本ではサインという概念がなじまないようだ。このように日米では社会的な末期延命治療の考え方が隔絶している。このような違いは日米の生命観に基づくもので、あながち日本だけが遅れているということではない。この「呼吸器はずし」問題は「脳死」問題と同じ生命観の問題である。日本の「脳死と臓器移植」臨調でもクリアーな結論が出ず、今年夏の国会でA案が法律となった。日米の表面上の差異より、その下に流れる常識(それは規定文書にかかれない)が違うことからきている。米国ではさらに「積極的に死を早める」議論(医療的自殺幇助)につながる。医師が致死量の睡眠薬を処方できる法律がワシントン州で2009年3月より実施された。ベルギー、オランダ、スイスでも医師が関与することを認めている。さらに「延命治療を拒否する権利」DNR、リヴィングウイル(治療に対する遺言状)なども議論されている。

時効寸前の逮捕は勇み足 証拠不十分

2009年12月26日 | 時事問題
朝日新聞 2009年12月26日3時2分
時効直前逮捕から一転、3人釈放 茨城・牛久の強盗致死
 茨城県牛久市で1995年1月、飲食店兼ホテル経営の男性(当時68)が腕時計を奪われ、その翌日に死亡した強盗致死事件で、公訴時効の成立を約1カ月後に控えた5日に県警が逮捕した千葉県の男性3人について、水戸地検は25日、処分保留で釈放し、発表した。 同地検の山下輝年次席検事は「現時点で起訴・不起訴を判断するだけの捜査を遂げられなかった。」という。

別件逮捕、自白中心の取調べの警察・検察の伝統的手法と証拠不十分でも拘束を許す裁判所の体質は多くの人権侵害と冤罪を生んできた。

読書ノート 岩井克人著 「21世紀の資本主義論」  ちくま学芸文庫

2009年12月26日 | 書評
グローバル市場経済の危機は貨幣経済資本主義の宿命 第3回

21世紀の資本主義論 (2)
金融危機論


 アダムスミスの理論は「投機」をあまり考えていなかった。投機をあくまで市場の見えざる手の延長線で理論ずけしたのは、自由主義の旗手フリードマンの「投機理論」である。安い時に買い、高い時に売るのは合理的であるという。この理論は投機家が生産者から物を買い、消費者に物を売るという商人的存在という想定ならば正しい。しかし投機は価格がどう動くかと予測する思惑の連鎖の上での「知力の闘い」である。そこでは実物の物の過不足ではなく、人が何を思っているからどういう手を打ってくるかという思惑の上に立つもので、そこで成立する価格は投機家の思う価格に過ぎない。これを「予想の無限の連鎖」という。現実という錨を失った思惑の連鎖は,当然実経済と著しく乖離している。2008年夏のニューヨーク石油先物価格を見れば明らかで、需要の10倍の市場で価格が高騰したのである。まさに気違い沙汰である。2008年秋のサブプライムゾーンに端を発するアメリカ金融危機は、2009年の現在でも全世界の実経済を同時不況で苦しめている。いまや金融市場は専門的投機家が支配する市場である。もともと金融市場とは時間やリスクを有価証券という形で商品化したもので、債権、株式、外国為替、商品先物市場のことを指していた。実体的経済活動が必然的に含んでいる投機的要素を切り離して商品化し、それを生産者や消費者から専門的投機家に転嫁した仕組みである。ここに金融市場のパラドックス(矛盾)が生まれた。金融市場は時間やリスクの回避を商品として売り買いするチャンスを提供し、実体的経済活動から売り買いの非効率を取り除いてくれるシステムであるが、専門的な投機家がお互い同士で売買すると、思惑で動いて価格の乱高下となり、市場は不安定化するという2律背反がここにある。さらに1970年代数理金融理論の発達によって(賭博のために統計学が生まれように)、金融先物、金融オプション、金融スワップという金融派生商品(デリバティブ)が開発された。抽象的な利益構造で専門的な投機家がうごく市場は、実体と二重、三重に乖離している。
(続く)

読書ノート 北朝鮮研究学会編 「北朝鮮は、いま」 岩波新書

2009年12月26日 | 書評
韓国の政策研究者が「金正日体制の北朝鮮」をどう見ているか 第7回

経済(2)

 1999年以来毎年平城国際展覧会が開催されているので北朝鮮は貿易に興味を持っているようだ。2000年度より貿易高は上昇し始めたが、2004年で貿易総額は2800億円に過ぎないし圧倒的に輸入超過である。北朝鮮に外貨準備金は無いのでこの差額はやはり援助というもらい物であろう。代金を物物交換で払い、不足分は援助で貰うという決済であろうか。貿易相手国の第1位は中国で総額1500億円ほど、第二位は韓国で総額1000億円ほどである。2国で貿易額の殆どを占めている。北朝鮮の輸出品は農水産物が主で鉱産物、中国からの輸入品は電子製品など工業製品である。北朝鮮の国内市場は、農産物市場と社会主義物資交流市場があるといわれるが、現在の時点で市場経済への大規模経済改革が起きている証拠は無い。国定価格を改革しない限り闇市場にすぎない。北朝鮮の消費財不足は相変わらず解消されていない。その消費財の80%は中国製である。その貿易をになっているのが瀋陽の温州商人という地方企業である。韓国にとって中国が北朝鮮に進出する事に心配する人がいる。中国が北朝鮮を安全保障の緩衝地帯とする意図があるのではないかと疑うのである。そして中国は北朝鮮の石油や鉱物資源の採掘権を買いあさっている様子も伺える。ロシアと同じく資源大国を狙った中国が、北朝鮮やチベットの開発に熱心である。ただしこの中国の狙いも政情不安な北朝鮮政権の一言でチャラにされる危険性も高い。北朝鮮は中国からエネルギーと食肉、電気・機械製品を買い、魚介類や鉄鋼・石灰を輸出している構図である。北朝鮮には魚介類以外に売るべき商品が殆どないし競争力も無いのである。経済改革や開放による経済発展を期するならば、農業法・商業法・会計法・財政法・投資銀行法などの法整備がなされていなければならない。形式的な法整備は少しは進んでいるようだが、価格自由化を実施していないとか生産手段の所有を認めないとか経済特区を全て外国の援助でやっているなど、外資を利用した経済発展の方向はまだ定まっていない。建国以来の長年の援助体質で、経済事情を知らない事の弊害は抜きがたいところがある。
(続く)