ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

医療問題  診療報酬プラス改定は医療水準の維持、医療崩壊の防波堤

2009年12月24日 | 時事問題
医療に関する提言・レポートfrom MRIC(2009年12月23日)「新型インフルエンザ難民が街中にあふれる日」 木村知 T&Jメディカルソリューションズ より

 筆者は「年中無休クリニック」を運営する医師である。そういった「とりあえず医院」の存立を危くする「診療報酬」では、医院を閉めたり、時間制限をせざるを得ない。そうすると「新型インフルエンザ患者」は行き場を失い(アクセス不能となり)、街中にインフルエンザ難民が溢れることになるという恐怖シナリオが現実のものにならざるを得ないというお話である。今朝のニュースでは「診療報酬は0.2%のプラス改定とする」と厚労大臣が「コンクリートから人へ」の政策転換への第1歩だと誇らしげに記者会見をしていた。実は「焼け石に水」に過ぎないのであるが。小泉内閣時代の財務省の医療費対策方針は、「医療費は財政の厄介者、医療費引き上げは医者を設けさせるだけで、国民負担、保険負担を逼迫させる」という論理がまかり通っていた。医療機関のなかで医者の経費的位置は、全国250万人の医療従事者の中で医師の人数比率は病院では10.8%、一般診療所で16.8%であり、人件費比率は病院で22.8%、診療所で35%と言われている。すなわち総医療費のうち医者の人件費は2%-6%を占めるに過ぎない。財務省の言い分は明らかに欺瞞である。問題を医者にすりかえる意図に満ちており、医療配分を減額した場合、医療機関は人件費の削減(人減らし、おもに看護婦・事務員)に向かい、労働時間の短縮すなわち医療機関の開業時間の縮小となり、「年中無休クリニック」はそもそも存立できなくなる。すると夜間・休日の急患のアクセスが制限される。すなわち医療費を下げると、患者さんから診療の機会を奪うことになる。

現代史日中共同研究 「南京大虐殺」を認定

2009年12月24日 | 時事問題
朝日新聞 2009年12月24日4時40分
「南京で大虐殺」認定 規模は今後の課題 日中共同研究
 日中両政府が進めてきた有識者による初の日中歴史共同研究の報告書の内容が明らかになった。1937年の南京大虐殺は「大規模な虐殺行為」との認識では一致したが、犠牲者数は今後の研究課題とした。一方、日本の途上国援助(ODA)が中国の発展に貢献したと評価。共同研究の日中両座長は「相互理解を促進する第一歩」と位置づけている。

歴史を現在の政治関係で見ると、どう見るべきなのかのお手本 この有識者というのはどんな人なのか?

読書ノート 岩井克人著 「21世紀の資本主義論」  ちくま学芸文庫

2009年12月24日 | 書評
グローバル市場経済の危機は貨幣経済資本主義の宿命 第1回


 この陰鬱な衒学者の経済エッセイ集の紹介も3冊目になった。本書は2000年1月1日筑摩書房から発行された単行本が、2006年に文庫本になったもので、含まれる内容は「21世紀の資本主義論」のみが書き下ろしで、あとのエッセイは1985年から1997年に発表された文章の収録である。本書の趣旨はあえて言えば、ソ連の崩壊による社会主義の終焉と20世紀末に起きたアジア金融危機(ヘッジファンドの資金引揚げによる)を契機として、グローバル市場経済の持つ本質的不安定さを論じた論文集といえる。特に21世紀にばら色の経済があるわけでもないし、繰り返される大恐慌を防ぐ手立てを論じているわけでもない。そんなことは無責任な経済評論家がやることである。いいことも悪いこともこの貨幣市場の資本主義の宿命である。この現実を直視せよというだけである。奇しくも2008年末にまた金融大恐慌が全世界を襲い、2009年の現在も実経済に深刻な影響を与えている。なんどやっても資本主義の不安定さは改善されるどころか、グローバルになった分だけ影響の規模が大きい。本書は大きくは「21世紀の資本主義論」、井原西鶴やギリシャ神話の経済学的解釈、ケインズと近代経済学、法人論と日本資本主義論、市民社会論からなるといえる。10頁以下の比較的短いエッセイは省略する。
(続く)

読書ノート 北朝鮮研究学会編 「北朝鮮は、いま」 岩波新書

2009年12月24日 | 書評
韓国の政策研究者が「金正日体制の北朝鮮」をどう見ているか 第5回

1、政治・外交


 北朝鮮の体制の特徴は首領唯一支配体制である。先軍体制になっていまや朝鮮労働党の立場も薄くなった。党中央委員会も1993年以来開かれていない。キム・ジョンイルの官僚政策は、忠誠心が強い者の中から実力のある者を選んで、体制や政権に反抗しない限り一生地位と生活を保障するものである。したがって、現在の北朝鮮にはいかなる政治勢力も存在しない。キム・ジョンイルと仲間達というグループしか生存を許されていないのだ。北朝鮮が体制を維持できるかどうかは、キム・ジョンイルの組織掌握力一つにかかっている。支配力は粛清というムチと地位と食糧というアメに頼っている。キム・イルソンが主唱した「主体思想」は骨董品となって、1990年代の危機的状況から生まれたのがキム・ジョンイルの「先軍思想」(思想というほどのものではないが)である。1995年ごろからいわれるようになった先軍政治とは「軍事先行の原則により、革命と建設から生じるすべての問題を解決し、軍隊を革命の柱として社会主義事業を推し進める政治である」と。ようするに、軍隊方式の「命令の貫徹精神」高揚運動であり、絶対忠誠と犠牲を要求する支配者に都合のいいデマゴーグである。党もいらない、政治化された軍隊のみが体制を守るという親衛隊方式である。この方式の欠点は、カリスマの映像が墜ちた時と死んだ時であるが、後継者を血の論理に頼っていてはソ連や中国も驚く「皇帝制」である。いまさら馬鹿馬鹿しくて論議にもならない。

北朝鮮の核開発については年譜に示した6カ国会合の動きに明らかである。現時点では、北朝鮮の核計画の検証と廃棄問題で意見がまとまらず、6カ国会合は2009年4月段階では中断状態である。1994年のクリントン合意(KEDO)を反故にして核開発に向かったのと同様に、2007年の2.13合意をチャラにする可能性はないとはいえない。北朝鮮とはそういう国だということも頭に入れておかないといけない。北朝鮮外交は米中を相手にする綱渡り外交、準癒着外交(ソ連から今は中国へ)が特徴である。米中の覇権争いの利用が北朝鮮の生きる術になっている。そのために核とミサイルというゲリラ戦法で究極打開を図ってきた。
(続く)