北一輝 ( 憲聴取6 ) 『 外部カラ蹶起部隊ニ對シテ好意的ナ助言ヲシタ 』

北一輝 
・・・前頁 北一輝 ( 憲聴取5 ) 『 二十七日午後、安藤大尉ヲ電話ニ呼ビ出シテ、「 〇ガアルカ 」 ト尋ネタコトガアルカ 』 の 続き

第六回聴取書
住所  東京市中野區桃園町四十番地
無職  北一輝事  北輝次郎
當五十四年
右ハ、昭和十一年三月十五日、東京憲兵隊本部ニ於テ、本職ニ對シ左ノ陳述ヲ爲シタリ

二十六日、岩田富美夫ノ代理ト云フテ電話ヲ掛ケタノハ西田デハナイカ
西田ガカケタノデアリマス。
實ハ西田ヲ庇フ爲ニ事實ヲ申上ゲナカツタノデアリマス。
其時、西田カラ色々ト外部ノ詳ハシイ狀勢ヲ知ラセテヨコシマシタノデ、
私カラ此方ニ來ル様ニ申シテヤリマシタ。

二十八日午後〇時半、栗原ヲ電話ニ呼ビ出シテ如何ナルコトヲ聽イタカ
前日ノ返事ガ來ナイノデ、非常ニ事態ガ面倒ニナツテ來たと西田ガ話シテ聞カセマシタ。
私ガ直接カケタノデハアリマセン。

首相官邸カラ栗原ガ呼出シテ、外部ノ情勢ヲ尋ネタ時、ドンナ返事ヲシタカ
午後四時三十分頃、西田ガ直接電話ニ出テ栗原ト話ヲシマシタ後、
私ガ代ツテ話ヲシタト思ヒマスガ、ソレハ昨日ノ話ニ就テハ
軍令部總長ノ宮様ハ本早朝拝謁シタト云フ事ヲ加藤大將ヨリ薩摩ガ聞イテ來マシタノデ、
奉勅命令ニ依テ討伐サレル様ナ事ハナイダロウ。
尚私ハ軍事參議官ノ方ハ昨日ノ眞崎説ニ就テ返事ハ來ナイカト尋ヌルト、
栗原ガ未ダ來ナイト云フノデ、軍事參議官ガ小田原評定ヲシテ居ルノダロウト云ヒマシタ。
ソレデ私ハ奉勅命令ヲ以テ討伐スルヨウナ事ハシナイト思フガ、
軍事參議官カラ早ク返事ノ來ルヨウニ督促セヨト云ヒマシタ。
併シ私ハ全国各地カラ激励電報ガ多數來テ持チ切レナイ程デアルカラ、
此ノ上モ大ニヤレト云フ様ナ事ハ云ヒマセン。
西田ハ、全国各地ヨリ激励電報ガ多數來テ居ルガ、
警視廳ヤ戒嚴司令部デ全部押収シテ居ルト云フタノヲ聞キマシタ。
西田ガソレデ此上シツカリヤレト云フタカドウカハ判リマセン。

栗原ノ述ブル処ニ依レバ、
二十八日午後四時卅分頃、首相官邸ノ栗原ヨリ中野五、五〇八番宛電話ヲカケテ、
外部ノ狀勢ヲ尋ネタルニ對シ、北ヨリ
「 海軍々部總長ノ宮ハ宮中ニ參内シ陛下ト御相談中ノ如シ。
  陸軍モ首脳部相集マリ相談中ナルモ、  小田原評定ノ如シ。
君達ハ奉勅命令ニヨリ行動スルモノニシテ、此上奉勅命令出ル筈ナケレバ、此上モ大ニヤレ。
目下全国各地方ヨリ激励電報約七千通來テ、多クテ持チ切れない程アル 」
ト答タルヲ以テ、栗原ヨリ最後ノ一兵迄モ戰フト述ベタル陳述シアルガ如何
ソレハ先程申述ベタ通リデアリマシテ、西田ト私トノ話ヲ一緒ニシ、
又其内ニ於テ間違ヒノ點アルノデハナイカト思ヒマス。

今迄ノ陳述ヲ綜合スルニ、
一、西田ヨリ二十六日詳シイ情報ヲ聞知シタル點、
二、西田ヲ自宅ニ匿ヒタル點、
三、本件ノ善後処理ニ關シ、西田ト協議シタル點、
四、其方宅ヨリ栗原、村中等ニ對シ、外部ノ情報ヲ知ラシメ、且ツ種々ノ指示ヲ与ヘタル點、
等ニ就キ、今迄否認シ居タル前後ノ事情ヨリ察スルニ、
其方ハ本事件ニ就テハ相當詳ハシク事情ヲ關知シアリテ、
西田ト共ニ蹶起部隊ニ對シ外部的幇助ヲ爲シタルモノト認メラレルガ如何
最初一ツノ僞リヲ申述ベテ事實ヲ否認シテ居リマシタ事カラ、遂ニ總テヲ否認シテ居リマシタガ、
色々御訊ネニナリ種々ノコトガ判明シテ申譯アリマセン。
其一ツト申しマスノハ、即チ二月二十七日、八日迄私ノ宅ニ西田ヲ匿シテ居リマシタノデ、
憲兵隊カラ西田ヲ探シテ來ラレタ際、西田ハ居ナイト僞ハリ述ベテ
遂ニ私ガ勾留セラレルコトニナツテカラ出發シタノデアリマスガ、
西田ハ逃ゲテ捕ラヘラレナイト思ツテ居リマシタノデ、
二十七日、八日ノ事柄ヤ、電話ニ依ツテ栗原、村中等ト聯絡シタコトモ、
自然否認スルヨウニナツタノデアリマスガ、
ソレハ西田ヲ庇フ爲メニ附帯シテ僞ハリヲ云フ様ニナツタ次第デアリマス。
今日迄ノ御取調ニ依リ、私ガ事情ヲ知リ乍ラ ( 西田カラ聞イタ後ノ事 )
外部カラ蹶起部隊ニ對シテ好意的ナ助言ヲシタ事ガ既ニ明カニナリマシタノデ
誠ニ申譯アリマセン。
北輝次郎

右錄取シ讀聞ケタル処、事實相違ナキ旨申立ツルニ附、署名拇印セシム
昭和十一年三月十五日
東京憲兵隊本部
陸軍司法警察官  憲兵少佐  福本亀治

・・・次頁 北一輝 (憲聴取7) 『 國家改造運動ノ經緯ニ就テ 』 に  続く
二 ・二六事件秘録 (一) から