北一輝
聴取書 ( 第一回 )
本籍 東京市杉並区和泉町番地不詳
平民戸主
住居 東京市中野区桃園町四十番地
無職 北一輝 事 北輝次郎
四月生五十四歳
右者昭和十一年三月十七日本職ニ對シ任意左ノ陳述シタリ
一、出生地は新潟県佐渡郡兩津町湊六十一番地
一、官公吏デハアリマセン
一、位記勲章年金恩給ハアリマセン
一、兵役關係ハアリマセン
一、前科 昭和五年十月三十日頃暴力行爲等処罰ニ關スル件違反ニ依リ大審院ニ於テ懲役三月、執行猶豫四年ノ言渡ヲ受ケマシタ
一、学歴 出生地ノ小學校高等科ヲ卒業。県立佐渡中學校ニ入學、四年級ノ時中途退學 ( 病気ノ爲メ ) 致シマシタ
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一、職業経歴 私ハ中學中途退學シマシテカラハ病気ノ療養ヲ爲シ、多少遺産ガアリマシタカラ、
二十二歳ノトキ狀況 種々ノ書籍ヲ買込ミ、或ハ図書館ニ通ヒ 獨學ヲ致シテ居マシタ。
二十三歳ノトキ著述ヲ志シ 『 國體論及ビ純正社會主義 』 ト題シテ二十四歳ノトキ自費出版ヲ致シマシタ 。
其ノ著述ノ因縁カラ當時日本ニ來テイマシタ 孫逸仙、黄興、宋教仁、張繼、
等ニ迎ヘラレマシテ當時ノ支那革命党ノ結社ノ中ニ這入リマシタ。
紹介者ハ宮崎滔天等デアリマシタ。
二十九歳ノ秋、支那に第一次革命ガ起リマシタノデ、直チニ支那ニ渡リマシタ。
上海、武昌、南京等ヲ往來シテ居リマシタ。
三十歳ノ時革命ガ終ワリマシテ以外ニモ袁世凱ノ政府トナリ、
事ヲ共ニシテイマシタ宋敎仁ガ暗殺サレタリ等ノ事ガアリマシテ
出先官憲トノ衝突ヲ招キマシテ三年間ノ退去命令ニヨリ歸京シタノデアリマス。
其後間モナク支那ニハ第二革命ガ起リ支那ノ革命巨頭等モ全部失敗ノ爲メ日本ニ亡命シテ参リマシタ。
大正四年ノ十二月第三革命ガオキマシタノデ、
當時大隈内閣デアリマシテ革命ノ本質内情が政府ノ當路者ニ判ツテ居リマセンノデ、
其多忙ノ中ニ私ハ筆ヲ執リマシテ 「 革命ノ支那及日本ノ外交革命 」 ト題シマシテ百部印刷シマシテ、
刷リ上ツタ度毎ニ二、三回ニ分ケマシテ同五年三月迄ニ朝野ノ人々ニ送リマシタ。
夫レガ大正十年頃ト思ヒマスガ、
大川周明君ガ 「 支那革命外史 」 ト題シマシテ公刊ヲシテ呉レマシタノハ此ノ印刷物デアリマス。
同年ノ夏カラ支那ニ再ビ渡リマシテ大正八年ノ十二月迄上海ニ居リマシタ。
其ノ間ニ世界ノ大戰モ終ワリマシテ、
私ハ必ズ世界ノ第二大戰ガ起ルモノト信ジマシテ、
去レニハ日本ガ戰爭中、ロシアノ如キ國内ノ内部崩壊
又ハドイツノ如キ五ヵ年間ノ戰勝ヲ續ケナガラ最後ニ内部崩壊ニ依リ敗戰國トナツタ實例ヲ見マシテ、
日本ハ是等ノ轍ヲ踏ンデハナラナイ、
即チ免カレザル世界第二大戰ノ以前ニ於テ國内ノ合理的改造ヲ爲ス事ヲ急務ト考ヘ、
「 國家改造原理大綱 」 ト題スルモノヲ書キマシタ。
之レハ大正八年八月ノ事デアリマス。
恰度此ノ執筆ガ終ラントスル時ニ、大川周明君ガ満川亀太郎君ノ紹介ヲ持ツテ上海ニ參リマシタ。
日本ノ形勢ガ今ニモ革命騒ギニデモナル様ナ危急時ヲ告ゲマシテ支那ヲ捨テテ日本ニ歸ツテ働ク事ヲ勧メマシタノデ
私ハ執筆中ノ改造案ヲ示シテ大川君ハ旅館ノ一夜夫レヲ讀了シマシテ 『 此ノ通リヤラウ 』 ト申シ、
私モ 『 夫レデハナルベク速ク日本ニ歸ラウ 』 ト約束致シマシタ。
夫レデ同年十二月末、上海ヲ立チマシテ翌大正九年一月一日長崎ニ着キマシタ。
直チニ上京、大川、満川君等ノヤツテ居リマシタ猶存社ニ居住シテ共ニ國家主義ノ啓蒙ニ勤メマシタ。
処ガ前ニ私ガ執筆シ、大川、満川君等ガ謄冩版デ出シタ改造案ハマモナク禁止處分トナリマシタ。
大正十二年 「 ロシヤ 」 ノ承認問題デ ヨツフエ ガ日本ニ參リマシテ日本ノ輿論ノ全部 ( ・・・アドルフ ・ヨッフェ )
又ハ日本思想界ノ指導者等ノ殆ンド全部ガ ヨツフエ ニ共鳴シテ
如何ニモ ヨツフエ ヲ支持スルカノ如キ風潮ニナリマシタノデ、
大川、満川君等ノ ヨツフエ ニ傾イテ居タノヲ無視シテ私單獨デ北一輝ノ署名ヲ以テ、
『 ヨツフエ君ニ訓フル公開狀 』 ト題スル小冊子約三萬部ヲ出版、全國ニ配布シマシタ。
夫レデ ヨツフエ ノ來朝目的ヲ不可能ニ致スコトガ出來マシタ。
其以前ニ就イテ私、大川、其他ノ間ニ反復離間ガ行ハレマシテ私ニ對スル感情ガ甚ダ好クアリマセンデシタノデ、
私ハ猶存社ノ表札ヲ外シマシテ其裏ニ北一輝ト書キマシテ遂ニ猶存社ヲ解散シタノデアリマス。
夫レ以來私ハ自分獨特ノ自由ナ立場ヲ以テ
政界ノ人々ニモ又時々起ツテクル問題ニモ自分ノ信念ニ於テ
或ハ敵トナリ或ハ味方トナツテ
一切ノ團體的生活トハ全然交渉ヲ絶ツテ一年々々ト世間カラ遠ザカツテ參リマシタ。
「 國家改造法案大綱 」 ハ内務省ト話シ合ヒノ上出版ヲ許サレマシタ。
「 日本改造法案大綱 」 ト題シテ全部西田税ニ与ヘマシテ
出版、配布其他一切ノ事少シモ私ハ干渉シマセンデ來マシタ。
西田税ハ大正十一年頃ト思ヒマス。
大川君カ満川君ノ紹介デ私ヲ訪ネテ參リマシタノガ始メテデアリ、
當時士官學校ニ居リ、其後二、三回訪ヅレマシタガ、
士官學校卒業ト同時ニ朝鮮ニ赴任シタトノ事デ暫クハ參リマセンデシタ。
其後二、三年過ギマシタ大正十四年春頃カニ軍隊カラ退キ上京シテ、
當時 大川周明、満川亀太郎、安岡正篤、中谷武世、松延繁次、其他ヲ知ラナイ人ガアルト思ヒマスガ、
旧本丸ニ大學寮ガアリマシタノデ其処ニ參加シタト云フ事ヲキゝマシタ。
夫レデ度々私方ヲ訪問スル様ニナリマシタ。
其内、西田ハ大學寮ノ運動ニ飽足ラン様ニナリ
私モ 「 改造法案 」 ヲ西田ニ与ヘマシテ私トノ直接關係ニナツタノデアリマス。
朴烈、文子ノ怪冩眞問題、宮内省怪文書事件等ニ依ツテ
西田ニ次デ私モ市ヶ谷刑務所ニ収容サレテ翌年ノ ( 昭和二年 )
一、二月頃保釋出所致シマシタ。
其後昭和七年ノ春 「 日佛同盟ニ關スル建白書 」 ト題シ、・・・〔 対外國策に關する建白書 〕
二、三十部秘密謄写致シマシテ陸海軍、外務、其他當局者ニ送附致シマシタ。
之レニヨツテ當時國際聯盟ニ於ケル日本ノ困難ナ立場ノ時
欧州ノ政界ナドデ日佛同盟説ノ風説ガ日本ニ電報サレタリシタノデアリマス。
更ニ昭和十年七月 「 對支投資ニ於ケル日米財團ノ提唱 」 ト題スル建白書を ・・・〔 日米合同對支財團の提議 〕
二、三十部秘密謄冩致シマシテ前記ノ當局者及財界ノ有力者ニ送附致シマシタ。
此ノ意見ハ日本ハ絶對ニ戰フベカラズ、
日本ノ實力ヲ以テ米國ノ資本ヲ支那ニ存分投資セシメテ英國ノ日米離間案、
ロシヤノ日米戰爭計畫等ヲ不可能ニ終ラシメテ、
一方支那其モノハ米國ノ力ヲ借リテ日本ヲ排斥セントスル
數十年來ノ排日作戰ヲ根底カラ不可能ナラシムルモノデアリマシテ、
自分トシテハ昨年秋頃カラ支那ニ其意志ヲ通ズル方法ヲ執ツテモアリマスシ
此ノ三月ニハ自分自身支那ニ參ル豫定デアツタノデアリマシタ。
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一、健康状態 右眼ハ 十九歳ノ時負傷致シマシテ視力ハ明暗ヲ知ル程度デアリマス、其他二十年來腸ガ惡ク一般ニ虚弱デアリマス。
一、趣味、嗜好ハ 趣味ハ田園、山野等ニ遊ブノガ最上唯一ノ趣味デアリマス。嗜好ハ煙草ダケデアリマス。
一、宗教信仰ハ 信仰ハ何宗ト限リマセンケレ共、大正五年一月 ( 三十四歳ノ時 ) 以來 法華經讀誦ニ専念シ
爾來此ノ事ノミヲ自分ノ生命トシ 一年一年ト修行ヲ致シマシテ二十年間ヲ一貫致シテ居リマス。
從ツテ日々ノ祈リノ生活ハ勿論、神佛佛閣等ノ參拝ハ私ノ眞劍ナル生活デアリマス。
一、家族ノ狀況ハ 父 慶太郎 ( 私二十歳ノ時死亡 )
母 リク 八十一歳
私
妻 ヤス 五十三歳
長男 大輝 二十三歳
等デアリマテ、母ハ本籍地杉並區和泉町ニ末弟晶ノ家族ト共ニ暮ラシテ居リ、
私ノ方ハ妻子三人、外ニ女中三人、自動車運転手一人等デアリマス。
尚ホ次弟昤吉ハ杉並區荻窪ニ一家ヲ持ツテ居リマス。
一、生活状態ハ 二年程別ニ収入ガアリマセンノデ三井ノ有賀長文氏カラ後ニ池田成彬ニ引継ギマシテ
盆暮ニ各一万円宛、支那關係カラシテ昨年末迄貰ツテ居リマシタノデ其金デヤツテ居リマス。
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二 ・二六事件
一、今回ノ事件ニ關シテハ
私ハ最初憲兵隊ノ取調ベ又陸軍法務官ノ取調ベニ對シテ
此ノ事件ハ事前ニ承知シテ居ラナイト云フ事ヲ申立テテ來マシタガ、
其理由ハ、
私トシテハ無責任ナ法ノ制裁ヲ免レタイト云フ事ノ爲ニ隠蔽シタノデハアリマセン。
私ニ對シ事件ヲ話シマシタノハ西田デアリマシテ西田は度々私ニ對シ、
「 貴方ハ此事ヲ事前ニ私カラ聞キ知ラナイ事ニシテ置イテ下サイ。 貴方ニ迷惑ガ及ブトイケマセンカラ。」
ト云フ事ヲ堅ク申シテ居リマシタノデ、
西田ガ如何ナル事ヲ申立テマシタカ判ラナイ以前ニ於テ西田ヨリ先立ツテ、
私ノ方カラ申立テル事ハ、西田ノ情誼ニ對スル途デモアリマセント考ヘマシテ、
或ル時機迄西田カラ聞カサレタ點ダケヲ隠蔽致シマシテ、
事前ニ西田カラ關知シテ居ラナカツタト申シタ次第デアリマス。
然ルニコチラニ參リマシテ
西田ガ 多クノ青年將校ガ斯ク犠牲ニナリマシタ上ハ
自分ノ責任トシテ法ノ制裁ヲ受ケルベキモノト考ヘ
逐一事情ヲ陳述シマシタ事 ヲ聞キマシテ 誠ニ當然ノ事ト存ジ、
私モ 西田ヨリ事前ニ關知シテ居ツタ事ヲ申上ゲ
包ミナク私ノ西田ヨリ聞カサレタ部分等ヲモ申上ゲ、
其他一切私ガ關与シタル點等ニ就キテモ
事實有リノ儘申上ゲタイト存ジマス。
一、先ヅ事件前ノ事ト致シマシテハ、
私ハ西田一人ノミカラ聞知シタ事デアリマス。
最初第一ニ私ガ西田カラ聞キマシタノハ 本年二月十五日前後ト思ヒマスガ、
西田ハ當時相澤公判ニ全力ヲ傾注シテ居リマシテ 多ク相澤公判ニ關スル話ヲシテ居リマシタガ、
此時 西田ガ申シマスニハ
「 公判廷ニ於テ弁護人側ヨリ申請スル證人ヲ裁判長ガ却下スル場合ニハ
青年將校ハ或ハ蹶起スルカモ知レヌ様ナ風ニ見エル 」
ト 一言申シマシタ。
其後 二月二十日頃ト思ヒマスガ西田ガ參リマシテ
「 愈々青年將校ハ蹶起スル 」
ト 申シテ、其ノ急ニ蹶起スル理由トシテ、
一師團ガ愈々満洲ニ派遣サレル事ニナッタノデ二年間モ東京ニ居ナクナル、
自分等 （ 青年將校 ） ガ居ナクナルト重臣ブロック其他ノ惡イ勢力ガ再ビ勢ヲ盛返シテ來ル、
自分等 （ 青年將校 ） モ満洲ニ行ッテ一命ヲ捨テルノダガ
セメテ君側ノ奸臣等ヲ一掃シテ 昭和維新ノ捨石ニナリ度イト云フ気持チデアル
ト云フ事ヲ話マシタ。
ソレデ西田ガ云フニハ
「 是ハモウ大勢デアル
今迄ノ様ニ吾々ノ一人二人ノ力デ押ヘルコトモ
何ウスル事モ出來ルモノデハナイ 」
ト云フ意味ノ事ヲ私ニ申シ聞カセマシタ。
其時私ハ尤モノ事デアルカラ或ハ蹶起スルデアラウカトモ思ヒ、
又ハサウナラナイノデハナイカトモ考へ、半信半疑ノ様ナ心持デ聞イテ居リマシタ。
次ニ二月二十二 ・三日頃ト思ヒマス、西田ガ參リマシテ
「 愈々決行スルコトニナッタ、
襲撃目標ハ 岡田総理 齋藤内府 高橋蔵相 渡邊教育總監 鈴木侍従長
牧野伸顕 西園寺公 ヲ殺ルト青年將校ノ方デ決定シマシタ。
西園寺公ハ豊橋ノ聯隊デ殺ル事ニナッテ居リマス 」
ト 云フ事ヲ話シマシタ。
尚話ガ續キマシテ
「 皆ハ池田成彬ヲ殺ルト云ツテ居リマスガ自分 （ 西田 ） トシテノ考ヘハ
三井ノ主人公、三菱ノ主人公ヲ殺ル方ガ至當ト思ツテ居ルガ、
主人公等ハ今邸内ニ居ルカドウカ又邸内ノ様子モ探ツテイナイノデ今色々ト考ヘテ居ル 」
ト 申シマシタ。
「 伊澤多喜男、後藤文夫等モ色々ト考ヘテ居ル 」
トノ話シデシタ。
（ 考ヘテ居ルト云フノハ未ダ決定ハシテ居ナイガ人選中ト云フ様ナ意味ニ私ハ解釋シマシタ ）
其処デ私ハ申シマシタ。
「 青年將校デ既ニ決定シタ事ハ自分ハ何モ言ハナイガ、
井澤多喜男ノ如キハ齋藤、牧野 等ト云フ大木ニヨツテ生キテ居ル寄生木ニ過ギナイト思フ
夫レ等 大木ノ重臣ヲ倒シテ仕マヘバ寄生木ノアレ等ハ モウ惡イ事ヲスル力モ無クナルノデアラウ
殊ニ後藤文夫ノ様ナ二、三流ノ者迄モ殺スニハ及バンデハナイカ 」
ト 申シ、私ハ
「 已ムヲ得ザル者以外ハ成ル可ク多クノ人ヲ殺サナイト云フ方針ヲ以テシナイトイケマセンヨ 」
ト 申シマシタ。
西田ハ返事ヲシマセンデシタガ非常ニ考ヘ深イ顔ヲシテ私ノ申ス事ヲ聞イテ居リマシタ。
確カ其ノ翌日ト記憶シテヲリマス、
西田ガ參リマシテ決行スル事ニ就テ話ガアリマシタガ多ク雑談的ニ話シマシタ。
其内ニ記憶シテ居リマスコトハ、
山口大尉 （ 山口一太郎 「 本庄侍從武官長ノ女婿 」 ） ガ週番トナッテ居ルノデ、
聯隊長代理ヲヤルノデ、出動部隊ノ行動ヲ妨害サレナイデアラウ、ト 云フ様ナ話モアリマシタシ、
又 栗原中尉 安藤大尉 香田大尉等 私ノ知ツテ居ル人ノ出動スルコトモ話シマシタシ、
又 村中君、磯部君等ノ參加出動スル事モ話シマシタ。
又 牧野ガ湯河原温泉ニ居ル事ガ瞭カニナツタ事ヲ話シ、夫レニハ東京ノ部隊カラ出動シテ行ク事モ話シマシタ。
又 何中隊、何中隊ガ出ルト云フ様ナ事モ話シマシタガ、
私ハ軍事上ノ知識ガアリマセンノデ 私ハ只 大部隊ノ出動スルト云フコトト、
前記ノ將校等ガ出動スルト云フ事ダケヲ記憶シテヲリマス。
其時西田ハ 眞崎内閣、柳川陸相 ト云フ様ナ処ガ皆モ希望シテイルシ、
自分 （ 西田 ） モ夫レガ良イト思ツテ居ルト私ニ申シマシタ。
私ハ
「 眞崎、荒木ハ矢張一體ニナラントイケナインデハナイカ 」
ト 問フテ見マシタ。
西田ハ
「 荒木ハ前ノ時 （ 陸相ノ時 ） ニ 軍内ノ肅正モ出來ズ、
只言論許リデ最早試験濟ミト云フ様ニ皆ハ考ヘテ居ル様デス
荒木ハ關東軍司令官ニナルノガ、荒木ノ 「ロシア」 知識、其他人物カラ見テ
一番荒木ノ爲ニモ、國家ノ爲ニモ良カロウト考ヘテ居ル 」
ト 申シマシタ。
又 事件勃發ト同時ニ山口大尉カラ本庄武官長ニ知ラセル事ニナッテ居ル
ト 云フ事モ私ハ聞カサレマシタ。
又此時カ前日カ判リマセンガ、
今度ノ事ハ軍人以外ノ民間人ハ一切參加シナイ事ニナツテイマスト云フ話モアリマシタシ、
二月二十日以後二、三日ノ間デ日ノ記憶ハアリマセンガ、西田カラ
『 小笠原長生子ニ會ヒマシテ
相澤公判ノ事等ヲ詳シク御話シテ或ハ青年將校ガ蹶起スル事ガアルカモ知レマセント話シテ來タ 』
ト私ニ申シマシタ。
其後二十五日夜八、九時頃ト思ヒマス、西田ガ參リマシテ、・・・
・・・其時西田ハ、明朝決行スル事ヲ私ニ話シ
又 「 豊橋部隊ノ都合上西園寺ハ止メニシマシタ 」
ト 申シ
「 又 龜川君カラ千五百圓丈ケ都合シテ貰ツタ 」
ト 申シ、
「 如何ニ金ガイラント言ツテモ矢張リ少シハイルノダカラ 」 ト申シマシタ。
其時モ前日來ノ事ヲ繰返シテ
「 貴方ハ私カラ何モ聞カナイ事ニナツテ居ルノデスカラ其積リデ居テ下サイ 」
ト 固ク申シテ行キマシタ。
西田カラ私ニ話サレタ事ハ此レダケデアリマス。
尚 村中カラ二月二十二、三日頃ト思ヒマスガ、村中ガヤツテ來マシタ。
「 吾々ハ愈々決行シマス 」
ト 只一言申シマシタ
私ハ西田カラ聞イテ居マシタノデ何モ村中ニ質問モ致シマセズ、
村中モ西田ヲ押シ除ケテ私ニ色々云フ様ナ事ガアリマセンノデ外ノ話ヲシテスグ歸リマシタ。
以上ガ事件前ノ全部デアリマス。
右録取シ本人ニ讀ミ聞ケタルニ相違無之旨申立テ署名拇印セシム
昭和十一年三月十七日
於警視庁
陳述人 北輝次郎
司法警察官特別高等警察部特別高等課勤務
警部補 関口照里
次頁 北一輝 (警聴取2) 『 仕舞った 』 に 続く
現代史資料5 国家主義運動2 から
