あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

靑年將校がみていた 當時の社會 「 兵隊に後顧の憂いがある 」

2017年11月25日 17時39分16秒 | 後顧の憂い

靑年將校がみていた
當時の社會


一、山口一太郎  
靑年將校は戰時において下級指揮官として、貧しい靑年と共に、
敵の鐵砲火の中に飛び込む役である
と 同時に、平時においても軍隊敎育者として、
兵隊を仕込む役でもある。
熱心な敎育者であればある程、被敎育者たる兵隊の困窮に深い同情を持つ。
この困窮をなんとか救ってやりたいと思い、その困窮の原因となっている社會惡に對し、
激しい憤激を覺えてくる。

第一に
この國は國民大衆の幸福のために運営されていない。
天皇様は國民が幸福であるように、お情け深くあられるが、
牧野伸顕とか鈴木貫太郎とか齊藤實とかいう君側の肝が、
特權階級に都合のよいように虚を申し上げるから政治が惡くなるのだ。
高橋是清蔵相は財閥の味方ばかりして貧乏人を苦しめている。
第二に、
戰爭で死ぬのは靑年將校と兵隊とであり、
參謀本部や陸軍省の連中は、待合で兵器工業社の重役と飲み食いし、
戰爭になっても自分たちの生命は安泰で、その上勲章や褒美の金がもらえるのだ。
第三に、
二十歳から二十三歳位の働き盛りの靑年を兵隊にとられ、
どん底生活におちいった家庭の數は數えきれない。
それなのに、
それらの家庭に邦から与えられる軍事救護金は、家の涙ぐらいしかない。
ために苦界に身を沈めた兵隊の妹もおびただしい數にのぼる。
國を思い兵隊の家庭を通じて國民大衆の苦悩を、
ひしひしと體得している純眞な靑年將校は、
純眞であればあるほど、
時の政府、時の軍當局、特に財閥が憎くてたまらなかったのである。
國民を兵隊として召集する仕事をかる役所は聯隊區司令部である。
兵隊に後顧の憂いがある。
これでは天皇陛下萬才を心から叫んで死んでいけない。
今日の政治はだめだ 
という靑年將校の聲は、聯隊區司令官を通じて陸軍省にとりつがれ、
閣議の席上陸軍大臣からしばしば政府に申し立てられた。
これは國民大衆の声が、
爲政者に強く勧告される ひじょうに都合のよいルートであったのである。
しかし、政治はいっこうによくならなかった。
純眞な人たちが自己を忘れて國民大衆の幸福になる道をかんがえるとき、
正當な意志通達のルートが閉ざされていると、
その動きはおのずから危險性を帯びてくる
・・・『 青年将校 』 山口一太郎
・・日本週報 「 天皇と反乱軍 」 所載

靑年將校は
兵の身上から社會をのぞき、
そこから
政治惡を感じとっていた


二、高橋太郎
「姉は・・・」 
ポツリポツリ家庭の事情について物語っていた彼は、ここではたと口をつぐんだ。
そしてチラッと自分の顔を見上げたが、すぐに伏せてしまった。
見あげたとき彼の眼には一ぱいの涙がたまっていた。
固く膝の上にすえられた両こぶしはの上には、二つ三つの涙が光っている。
もうよい、これ以上聞く必要はない。

暗然拱手歎息、
初年兵身上調査にくりかえされる情景、
世俗と断った台上五年の武窓生活、
この純情そのものの青年に、實社會の荒波は、あまりに深刻だった。
はぐくまれた國體観と社會の實相との大矛盾、疑惑、煩悶はんもん
初年兵敎育にたずさわる靑年將校の胸には、
こうした煩悶がたえずくりかえされて行く。
しかもこの矛盾はいよいよ深刻化して行く。
こうして彼等の腸は九回し、眼は義憤の涙に光るのだ。

ともに國家の現狀に泣いた可憐な兵は今、
北満第一線の重壓にいそしんでおることだろう。
雨降る夜半、ただ彼らの幸を祈る。
食うや食わずの家族を後に、國防の第一線に命を致すつわもの、
その心中は如何ばかりか、この心情に泣く人幾人かある。
この人々に注ぐ涙があったならば、
國家の現狀をこのままにして置けないはずだ。
ことに爲政の重職に立つ人は。

國防の第一線、日夜生死の境にありながら
戰友の金を盗って故郷の母に送った兵がある。
これを發見した上官は、ただ彼を抱いて聲をあげて泣いたという。
神は人をやすくするを本誓とす。
天下の萬民は皆神物なり、
赤子萬物を苦しむる輩はこれ神の的なり、許すべからず
・・・『 感想録 』
死刑判決三日前の七

月二日に書き殘したもの
若い隊付將校の
革新の意嚮が切々と訴えられている


三、磯部淺一 
靑年將校の改造思想はその本源は改造法案や、北、西田氏ではありません。
大正の思想國難時代にこれではいけない、
日本の姿を失ってしまうという憂國の情が、忠君愛國の思想をたたきこまれている、
士官學校、兵學校、幼年學校の生徒の間に、勃然として起ったのです。
そしてこの憂國の武學生が任官して兵の敎育にあたってみると、
兵の家庭の情況は全く目もあてられない惨但たるものがあったのです。
何とかせねばと眞面目に考え出して、日本の狀態を見ると意外にひどい有様です。
政党、財閥のかぎりなき狼藉のために、國家はひどく喰い荒されている。
これは大變だ、國を根本的に立て直さねば駄目だと氣がついて、
一心に求めているとき、
日本改造法案と北、西田氏があったのです
・・・『獄中手記』・・磯部浅一
リンク→ 獄中手記 (三) の三 ・ 北、西田両氏と青年将校との関係

これも靑年將校の國家革新への志嚮を描いたものだが、
けっきょく靑年將校は、
いずれも
「 國家惡 」
を そこにみたわけであるが、
では
彼らは國家の現狀を、
何に照らして惡とみたのか、
彼らが日本の現狀を見る眼は
なんだったのか。


四、村中孝次 
明治末年以降、
人心の荒怠と外國思想の無批判的流入とにより、
三千年一貫の尊嚴秀絶なるこの皇國體に、
社會理想を發見し得ざるの徒、
相率いて自由主義に奔りデモクラシーを讃歌し、
再轉して社會主義、共産主義に狂奔し、
玆に天皇機關説思想者流の乗じて以て議會中心主義、
憲法常道なる國體背反の主張を公然高唱鞏調して、
隠然幕府再現の事態を醸せり。
之れ
一に明治大帝によりて確立復古せられたる
國體理想に對する國民的信認悟得なきによる
・・・『続丹心録』
リンク→ 昭和維新・村中孝次 (三) 丹心録

國家の現状、
それは村中によれば、
國體理想に背反せるものであった。
彼らのもの見る眼は
そのすべてが
國體観念、國體の理想にあった。
この理想にてらされる邦の姿は
「 國體破壊 」
の 現狀であったのである。


軍閥 大谷啓二郎著 から  


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