あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

大岸頼好の士官學校綱領批判

2017年09月04日 08時30分57秒 | 大岸頼好


大岸頼好

土曜から日曜にかけて、
大岸頼好が和歌山から上京してきた。
このころの大岸の上京っぷりは、旅装を解くとか宿泊するとかというよりも、
飄然ひょうぜんときて草鞋わらじを脱ぐといった方が、ピッタリするようであった。
今度の上京の目的は、やはり上部工作であったようだ。
「 士官学校の綱領を、あなたはどう思いますか 」 ・・< 註 >
大岸は、夜遅く帰って 一杯傾けながら、例によってとっぴょうしもないことを言い出した。
「 そんなのあるんですか、見たことも聞いたこともあれませんですね 」
「 ありますとも・・・・・・その 綱領の中に  
 『 皇室の殊遇を 辱かたじけのうするが故に忠誠を励まねばならぬ 』
という意味のことが書いてあります 」
「条件付き忠誠ですね 」
「 そうです。へたをするとこれが明哲保身、事なかれ主義に堕していきます。
また、これが、エリート意識を助長して、軍の横暴が頭をもたげてくるようになります。
そういう悪風がちかごろの軍の中に見えてきているように思いませんか、
あなたはどう思いますか 」
「 全く同感です 」
「 教育総監閣下は、あるいはまだこのことにお気付きではないかもしらません。
どうです、士官学校の綱領改正意見として、あなたから持ち出してみては・・・・。
第一師団長柳川閣下も、申し上げれば わかってもらえるかただと思います 」
「さっそく、やってみます 」
大岸は ときどき ナゾめいたことをいう。
今夜もまた、
相当なパンチを私はきかされた。


大蔵栄一 著 

二・二六事件への挽歌 から
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< 註 >

『 陸軍士官学校教育綱領 』  昭和七年 ( 1932年 ) 改正
・・・冒頭の部分、抜粋・・・
陸軍士官学校教育ノ目的ハ、帝国陸軍ノ将校ト為ルベキ者ヲ養成スルニアリ
抑々将校ハ、軍隊ノ楨幹ノ軍人精神及軍紀ノ本源ニシテ、マタ一国元気ノ枢軸タリ
故ニ、本校ニ於テハ、特ニ左ノ件ニ留意シテ教育スルヲ要ス
一、尊皇愛国ノ心情ヲ養成スルコト
二、軍人タルノ思想ト元気トヲ養成スルコト
三、健全ナル身体ヲ養成スルコト
四、文化ニ資スルノ知識ヲ養成スルコト
以上示ス所ハ、実ニ本校教育ノ要綱ナリ
教育ノ任ニ当ル者ハ、奮励其ノ力を竭つくシ、至誠其ノ身ヲ致シ、教授訓育、両部、
互ニ相連絡シテ一体ト成リ、以テ教育ノ完成ヲ期スベシ
・・・後略・・・


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