あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

常盤稔少尉、兵との別れ 「 自分たちは教官殿と一心同体であります 」

2019年06月18日 18時21分27秒 | 野中部隊

隊長護衛兵として
二九日
事態が重苦しくしている中で、
十一時頃
常盤少尉が急に全員集合を命じ、
おもむろに訓示をした。
その内容は出動以来の成り行きと、
今日までの苦労を感謝する意味のものであったが、
最後に、
「 愈々お前たちと分かれることになった。
俺は別の所に行って残された仕事をやらねばならんから 堀曹長は全員を指揮して聯隊に帰るように 」
と いった。
常盤少尉
日頃 父と仰ぎ
絶対信頼をもって服従してきた常盤少尉と今更どうして別れることができよう、
絶対にできるものではない。
「 教官殿、自分たちは別れません。教官殿が行かれる所ならどこでもお供いたします 」
「 自分たちは教官殿と一心同体であります。絶対に別れません 」
「 今まで一切を投げ出して教官殿と行動を共にしてきました。
今別れたら自分たちはどうなるのですか、どうか最後まで行動させてください 」
「 教官殿とは生死を誓いあった我々であります。今更別れるとは一体どういうことでありますか 」
隊員たちは悲痛な声をあげて常盤少尉の翻意を促した。
教官の為なら死んでもよい、
今日まで面倒を見てくれた間柄は、
親子以上の強い絆で結ばれているので絶対に断ち切ることはできないのだ。
兵は皆泣いた。
泣き叫び、号泣し
常盤少尉との別れに反発しながら自らの胸中を赤裸にブチまけた。
常盤少尉はしばし感慨にふけっていたが、
思い出したように状況説明や自分の立場などを述べて隊員に納得を求めたが、
やがて万感胸を打ち絶句した。
「 どうか 俺のいったとおりにしてくれ 」
常盤少尉もやはり人の子であった。
握りこぶしを 目にあて溢れる涙をおさえながら天を仰いで号泣した。
まことに悲愴の極みである

 二・二六事件と郷土兵 
歩兵第三聯隊第七中隊 二等兵・金子平蔵 隊長護衛兵として から