写真:磯田道史著「武士の家計簿」
昨日は暖かで気分の良く、それであればもっと良い気分になろうと映画館へ向かいました。観たのは「武士の家計簿」。ご存知、磯田道史著のベストセラーの映画化で、期待通りの出来に大いに笑い、そしてホロっとして2時間を過ごしました。
もっともここで取り上げるのは映画の出来でなく、原作者の磯田道史茨城大准教授の才覚です。軽やかでユーモアたっぷりの語り口、読み手をぐいぐい惹きつける論理展開。専門の基礎情報をしっかり固めた上での、「遊び心」が駆使された本にすっかり舌を巻いたものでした。
こうしたしたたかな才能を持つ人は極めて稀でしょう。しかし私には二人の人物の名がすぐに思い浮かびます。
一人は東大名誉教授となった建築史の藤森照信工学院大教授です。「明治の建築計画」といった骨太の著書を著す一方、路上観察学会などと称したグループを立ち上げ、赤瀬川源平や南しん坊らとともに、人心を惑わかせてきた人物です。
二人目は国際日本文化研究センターの同じく建築史の井上章一教授です。「霊柩車の誕生」から始まり、「造られた桂離宮神話」「美人論」「パンツが見える」などと一見、人を食ったような著書を出し続け、世間を騒がせている人物です。
この両人には、NIRA(総合研究開発機構)時代に知己を得ました。京都の四条畷のクラブで、何が話題であったか忘れましたが、初めての出会いながらとてつもなく盛り上がったことを覚えています。そして「ああ、こんなユーモアと知性を持つ人間が世の中には居るんだ」と感心したのです。もう20年以上も前になるでしょうか。
「武士の家計簿」の映画は、図らずもこんな貴重な人間関係まで思い出させてくれました。もっともっと気分が良くなった小春日和の一日でした。