毎年の事ですが、8月に入ると終戦記念日に合せて幾つかのドキュメンタリー番組が放映されます。NHKの「兵士たちの証言」シリーズや米国制作の太平洋戦争映像には、私たちが知ることの得なかった人間の悲惨さや、軍隊や官僚組織の持つ絶望的な限界が示され、文字通り釘づけにされてしまうのです。
倉本聰の脚本の終戦ドラマスペシャル「歸國」がお盆の14日の夜に放映されることには、特に期待していました。戦争で命を落とした兵士の英霊を乗せた列車が、未明の東京駅に到着する。英霊たちは限られた時間、それぞれの愛する者を訪ねていく。そして戦後の日本は本当に豊かか、幸せとは何かと問う。題材もシチュエーションもさることながら、何と言っても脚本が倉本聰なのでしたから。
過日この「歸國」を舞台で見て、はらはらと涙させられたものでした。しかしそれとは違い、この2時間半のドラマは何とも苦痛でした。うわずった演技に鼻白むことが多かったのです。母親の死をパソコンで処理するように扱う息子役の石坂浩二の演技の軽さや、気負いばかりが先行の上官役の長淵剛の空回りぶりにはとくに興ざめでした。
せっかくの倉本聰の珠玉のセリフも、学芸会のような役者たちのせいで、無念な出来となりました。演出の鴨下信一の失敗というべきかもしれません。
そうしてみると、生の人間が語る生の証言や言葉というものは、何とも重みのあるものです。物書きの端くれをやっているつもりの私自身、つくづく創作することの怖さと難しさを味わわされた、後味の悪いお盆明けでした。