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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・297『尻くらえ人形と飲茶の出店』

2025-04-15 11:11:54 | 小説4
・297
『尻くらえ人形と飲茶の出店』 胡盛媛中尉 




「え、准将がいたんですか!?」


 地下トンネルの見回りから戻ってきた大統領は「元気にしていたわよ(^_^)」と付け加えて准将とのツーショット写真を見せてくださる。

「立派な軍人さんですねぇ」

 人への感想は褒めるところから始める殿下。

「わたしの上司だった方です。退役なさってからは連絡も取れなかったんですけど、お元気な様子でなによりです」

 もう縁の切れた方なので、わたしも当たり障りのない感想を言う。退役された時に「家まで送ってくれ」と言われたらどうしようかと思ったんだけど、さすがにモンゴルでのしくじりを気にされて、そういうことは無かった。

 准将の奥様は先々代の大統領の外孫で、父が生きていたころ二三度お目にかかったけど、父に対しても格下の人間を見るようで、ちょっと苦手だった。

「ちょっとお友だち感出すぎかなあ(^_^;)」

 画面の大統領はとびきりの笑顔で准将の方に首を傾げ、接触はしていないけど、距離は二センチほどしか離れていない。准将は職業的なポーカーフェイスを決める寸前の微妙なアタフタ感が出ている。もし、何も知らない高校生なんかに見せたら「年甲斐も無く好きな女の子とツーショットになって、心臓バックンバックンのクソ親父。キモイ!」と答えが返ってきそう。

 写真のことしかおっしゃらないけど、大統領の狙いはよく分かる。

 准将は北京のあちこちで起っている日貨排斥運動の中心的人物だったんだ。

 それがまんまと大統領自身に居所を掴まれて、年甲斐感もなく感丸出しのツーショットを撮られた。もう北京で事を構えることはできないでしょうねえ。准将が日貨排斥運動の中心的人物だったのにも驚いたけど、それを見抜いて手を打っていく大統領もなかなかのものだと殿下と顔を見合わせた。

 自分の素性を思い出せない殿下だけど、こういう政治的な機微や分析は十分回復されているように思える。

 その日は、午後から北京管区の警察やら軍警の司令官たちが瀛台(えんだい)に顔を出した。

「いやあ、瀛台の地下になにやらあるとは思っていましたが、それを利用して市内を警邏されるとは思いませんでした(^_^;)」

 そう言って軍警司令は『脱帽人形』を出した。南海広場の露店で売っているマスコット。台座に付いているポンプを握ると右手で帽子を取って頭を下げる。なんだか「まいった!」とか「申しわけありません!」とお詫びしているように見える。

「うん、なかなか可愛いわね。じゃ、お返しにこれをあげるわ」

 大統領が取り出したのは『尻くらえ人形』。脱帽人形と同じシリーズで、ポンプを握るとオジサン人形が尻まくりするという人を食った人形。

「アハハハ、それは大統領の勝ちでしたねえ(´∀`)」

 五人こなしたところで休憩にした大統領がお話になって、殿下は面白そうにお笑いになった。

「軍警司令がくれたのは、ちょっと手を加えてみたの」

 大統領がポンプを押すと帽子を脱いだ頭に面従腹背の四文字が現れた。

「僕たちも行ってみましょう」

「え、警邏にですか!?」

「ハハ、まさか。南海の露天ですよ」

 殿下は心得ておられる。記憶を取り戻すことに無理はしない、焦りもしない。だけど、何もしないわけではない。時間をかけ、ほんの半歩、ほんの一歩前に出る努力を怠らない。
 乾鎮の公邸に居る時も、尊宅さんの蜜柑の実からマーマレードを作ったし、巻雲が出たと言っては「それじゃあ、いっそ北京で秋の空を見ましょう(^▽^)」と言い出したのは大統領だったけど、それに気軽に答えて瀛台にやってきたのは殿下に賛成のお気持ちがあったからだ。ここに来てからも、広場で月餅を買って話題を提供してくださる。

 月餅をお買いになったのは、広場のほんの端っこの出店だったけれど、今度は奥にまで踏み込んでみようとされている。

 
「年末には、まとまったオモチャを施設にプレゼントしに行くとおっしゃってましたからね。そのお手伝いになれば……というのは言いわけで、僕もずいぶんと関心があります」

「フフ、わたしも、いくらでもお付き合いしますからね」

 入り口近くの月餅屋さんには目礼でご挨拶。店先には、北京第一高校の生徒さんたちが群れている。たぶん中間テストが終わったところなんだ、みんなで月餅パクつきながら南海のほとりを散歩するんだ。その邪魔になってはと気配りされている。

「飲茶の露店が出てますよぉ」

「ああ、いいですね。月餅もそうですが飲茶も種類が多いです、突撃しましょう!」

 速足で飲茶の露天へ、大股でノシノシ歩かれる。これは、本気で飲茶とかがお好きなんだ(^_^;)。

「おお、露天だけど、メニューは多彩ですねえ、いやいや、お腹にはキャパシティーがありますからねぇ……ムムム、フーちゃん、いっしょに悩みましょう!」

「はい!」

 わたしも飲茶と点心の3Dサンプルに目をやる。

 小籠包 焼き小籠包 餃子 海老餃子 肉まん 海老肉まん チャーシューパイ 大根餅炒め 金魚ハーカオ ポテトフライ ゴマ団子 黒ゴマ団子……

「アハハ、フーちゃん睨み過ぎです」

「アハ、お昼ご飯も食べなきゃいけませんからね、注文できるのはお茶の他は四五品です!」

「え、五つも食べられるんですか!?」

「え、あ……(#'∀'#)」

 まずい、お岩食堂で大食いの習慣がついてしまってるんだ。こっちに来てからは自粛してるけど、抜けるような秋の空と殿下のご回復が嬉しくて、つい本性が出てしまった!


 え!!?


 その時、殺気のこもった視線を感じた!


 軍人の本能で振り返ると、奥の方の出店からこちらを睨んでいる、睨まなければ相当の美少女。その突き刺さるような視線が飛んできた!

「退避します!」

「え、なんで?」

 殿下の疑問に答える余裕も無く、殿下の手を引っぱって瀛台にとって返した!

 

☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 少将           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

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