千早 零式勧請戦闘姫 2040 

31『「森に行くよ」「え、今から( ゚Д゚)?」』
黒ウサギは学校に住み着いている。
ウズメが張った結界に時間魔法をかけ、ウサギは一時間だった結界の効能を一年に伸ばしたのだ。伸ばしたうえで結界の中に潜り込んだ。ウズメは黒ウサギの魔法攻撃を学校に及ばせないために結界を張ったのだが、その中に飛び込んでしまえば、ウサギは攻撃魔法を使えない。生半なことでは結界の外にも出られず、ウサギは完全に封じられてしまうのだ。
――ゆっくり炙り出してやればいい――
ウズメは思ったが、黒ウサギは、新一年生に化けたり操ったりして物理攻撃を加えてくる。一昨日はスクナヒコナを勧請して書架の隙間に落ちた図書カードを拾ってやった。すると隙間から出たところで危うく踏み潰されそうになった。女生徒の一人はウサギが化けた者だったのだ。
依り代の千早は気が気ではない。
「ねえ、どうすんのよ……」
カバンにぶら下げたマスコットに問いかける千早。日ごろのウズメは身の丈5センチあまりのマスコットに宿っている。
「こんな調子でやられたら、わたしはともかく、他の生徒に犠牲者が出るよ」
『知らないわよ。そんなことより、お昼ご飯をしっかり食べておきなさい』
「ウウ、食欲なんかないわよ……(-_-;)」
そう答えた千早だが、お昼の学食では丼二杯とラーメンを平らげた。
「ウフフ、やけ食いかしら~」
トレーにきつねうどんを載せてウサギが通り過ぎ、あやうくのどに詰まらせそうになった。
放課後、図書館当番の貞治を置いて一人正門を出たところでウズメが話しかけてきた。
『桜の木を見てごらんなさい』
「え、もう葉桜だよぉ……」
気乗り薄に振り返ると正門脇の桜だけが微妙に光っているように見える。
『この桜はモバイルバッテリーみたいなものよ』
「え?」
『ウサギに感づかれるから、歩きながら……』
「うん」
『あいつ、少し知恵が回るようだけど、所詮は二級の妖。外から充電してもらってる。あの桜は結界の外と内に半分半分枝を伸ばしてるから、あそこから妖力を補充してるのよ。そして……あの桜に補給をしてるやつが居る』
「そうなの!?」
『うん、十中八九ね。森に行くよ』
「え、今から( ゚Д゚)?」
『そうよ、千早が意外なんだから、他の者に知られることもないわ』
「あ、お昼をあんなに食べさせたのは、このためだったの!?」
『企んだわけじゃないけどね』
エッチラオッチラ自転車を漕いでいくと、辺境伯の城(民俗資料館)の駐車場に農協の車が停まっているのが見えてきた。
「あ、田中さんの車だ!」
仕事熱心な田中は、こんな辺境まで営業に来ているのだと感心する千早だ。
なんだか懐かしく、駐車場にまわって覗き込むと、助手席に見慣れない女物のスプリングコートが畳んで置かれていた……。
『新入社員でしょ、研修兼ねて連れてるでしょうね』
「あ、うん、そうだろうねぇ(^○^)」
中年の域に達しようとしている田中は未だに独身だ。こういう状況を目にすると幸多かれと祈ってしまう。やっぱり、神社の巫女だけのことはある。
『さ、それよりも森の妖。行くよ、自転車はここに停めて行こう』
「う、うん」
自転車に鍵をかけると、千早は深呼吸をして森に向かうのだった。
☆・主な登場人物
- 八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
- 八乙女挿(かざし) 千早の姉
- 八乙女介麻呂 千早の祖父
- 神産巣日神 カミムスビノカミ
- 天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
- 来栖貞治(くるすじょーじ) 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
- 天野明里 日本で最年少の九尾市市長
- 天野太郎 明里の兄
- 田中 農協の営業マン
- 先生たち 宮本(図書館司書)
- 千早を取り巻く人たち 武内(民俗資料館館長)
- 神々たち スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
- 妖たち 道三(金波)
- 敵の妖 小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)