上砂理佳のうぐいす日記

「夏への扉」展では暑い中、たくさんの方にお越しいただき誠にありがとうございました!★

スケートの翼に乗って

2006-04-14 | 05-06 コンペとショー
「ダイアモンド・アイス」関西TV版のフィナーレは、もちろん静香ちゃんだった。
青い衣装。イナバウアーでグルーッとカーブを描く。柔らかな腕が羽のよう(推測ですが、モロゾフに指導を受けてからの静香ちゃんは、腕の動かし方がよくなったと思う)。
もう飽きるほど見ているのに、私は何度も何度も繰り返し、食い入るように画面を見つめてしまった。この関テレ版はカメラアングルが良く、解説も余りうるさくない。そのせいもあってか、「多分、今季のしめくくりになるであろうYou raise me up」という事もあってか、何か陶然とした感じさえ受けた。

萩尾望都さんの漫画でバレエものがいくつかあるのだけど、中に「感謝知らずの男」という1冊がある。
「レヴィ」という少年ダンサーが主人公で、バレエ学校を卒業し、丁度「これからさあ!世の中に出ていくぞー!」というお年頃。踊る日々の葛藤や、恋や友情や人間関係が、優しい視線で繊細に描かれている。
レヴィには精神病院に入院しているお兄さんがいるのだけど、心を病んでいながらもどこか清らかで無垢な感性を持つ兄のことを、彼はとても気にかけている。
バレエ団に入り、初の海外公演に出るレヴィを兄は励ます。
「ああ、おまえは“バレエの翼”に乗って、世界へ飛んでいくんだね。どこまでも飛んでいくんだね」
…昔の漫画なので多少セリフ違ってるかも…でもこの「バレエの翼に乗って」という所が好きで好きで、ずっと心の中に沈潜していた。
バレエダンサーならば、「バレエの翼」さえ持っていたら、世界中に飛んでいくことが出来る。
歌い手ならば「歌の翼」。
バイオリニストなら「バイオリンの翼」。
スケーターならば「スケートの翼」。
精神病院に閉じこもっている兄から見れば、ダンサーとして自立した弟のレヴィは、どんなにまぶしくきらめく存在に見えたことか。「翼」が自由の象徴に見えたに違いない。

ああ、遂に静香ちゃんも「翼」を手に入れたんだね…。これからこの大きな翼に乗って世界中を飛ぶんだね。
私はそんな事を思わずにおれなかった。
もし仮に、若いマイズナーが五輪で素晴しい演技で金メダルを獲ったとしても、同じようには思えなかっただろう。「そこに至るまでの蓄積」が少ない選手には(少なくともそう見える選手には)、衝撃はあっても感慨は抱けない。「すごいなあ」とは思えどそれ以上のものは無い。
長い長いあいだ、小さな湖をグルグルと周回して泳いでいた白鳥が、ついにその翼に力を蓄えて一気に飛び立ったかのような。私には彼女の姿は、そんなふうに見えた。
一連のフィーバーが治まり「次へ」踏み出す時期が訪れて、やっと「金メダルだったんだな~」と、しみじみ実感したことでありました。
コメント (4)
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