「DAISUKE TAKAHASHI」の名がコールされて、会場またまた「ウォーッ!」と大歓声。
私も懸命にバナー(ボロですが)を振って叫びます。
出ていく大ちゃんは「行くぞ!」というイメージでした。昨日のSPの「なんとなくフワァ~」とポジションについた様子とは違ってみえました。
もう、やるしかありません。
私の悲愴な決意とは裏腹に、オルゴールが、♪♪♪…と、のどかに流れ出すという。この不思議なギャップ。
最初のストロークはスケートが良く滑ってる。大丈夫!大丈夫だ!
4回転は、跳んだ瞬間「いける!」と思ったのですが(要するに練習通りだと思った)、回転の最後の方でやや軸が傾いたので「!」と思った瞬間、片手をついていました。「キャー」とも「ワー」ともつかぬ悲鳴が上がりましたが、すかさず「頑張れ!」拍手。
この時の私の感触は「助かった~」でした。ただひたすらに「助かった」。
転倒でなくて良かった…基礎点9点から-1で8点。よしよし。あれほど緊張してた癖に、結構私は頭は冷静だったりするんです(笑)。いえ、上から見てても、踏み切り+高さ+回転は充分だったから、大きなマイナスイメージは無かったの。
次のアクセルが問題だ…ところがこれがサイッコーに美しく決まって、大きな拍手。そのお陰で、すぐ次のスローパートの美しい部分が、クッキリ鮮やかな輪郭を描いて迫ってきました。私がジャッジ側だったせいもあるけど、今までの「オペラ座」で、一番美しく感じたというか。元々、あの“抱きしめる”振付が大のお気に入りだったので、なんとも言えぬ幸福感に満たされるのでした。
2個目の3アクセルも美しく成功。みんなここで「ホッとひと息」モードになったんではないでしょうか(笑)。序盤のミスの印象を払拭するアクセル2連発が、結果的にTESにかなり貢献したと見ました。美しかったよ~。
サーキュラーはちょっと切れ味が無かったような…大ちゃん、この時点でもう疲れてたんだね…(インタビューより)。やっぱり「緊張すると、いつもより早く疲労のピークが来る」という、荒川発言はホンマやったんやー。
スピンはNHK杯よりはずっと良くなっていたけど、ややトラベリング気味の箇所もあり。これも緊張から来るものか(スピンはユニバFSが一番OKと思いますが)。もう全てのエレメンツに「頑張れ頑張れ!」と念を送る。ランビやジュベは私が押さなくても勝手に動いてくれるんだけど、大ちゃんはもう永年の癖で「私が念力で動かしちゃる!」状態になるのでした(笑)。
あっというまに後半の「5連発」に突入!
お客さんも良くPGを解ってる人が多いので、「ジャンプ・カウントダウン」を、固唾を呑んで見守ります。特に3ループ前の緊張は、場内、気持ちは一致していたでしょう(笑)。しかし、今日はループのランディングもOK。大ちゃんは、焦らず慎重に、一つ一つを跳んでいたようでした。
ジャンプが決まる度に高まる拍手の音。
ラストに向けて気持ちがだんだんと高揚していきます。
「滑り」と「踊り」が一致した、流れのある超自然体ストローク。その中で高いジャンプを跳んでいく!
「The point of no return~」の、切なくも美しい旋律に乗りながら、大ちゃんはまさしく「戦って」いるのでした。
大会直前の「一緒に戦って下さい」というシンプルなメッセージが、私の頭の中をずっと駆け巡ります。「わかったよ!戦うよ!」同じことを思っていた人も多かったのではないでしょうか。
「オペラ座の怪人」のファントムの葛藤と、大ちゃん自身のこれまでの長い長い葛藤が、二つの影のように重なり、「なんとかして助けなくてはならない!」と思わせられるのでした。これまで積み上げてきた事の全てが、このフリーの4分半に詰まっているのでした。
3サルコゥも無事着氷!大きな歓声で「待ってました」なストレートラインステップへ。
あの時の観衆の「ウォーッ!!」はね。
ヨソ様ブログで色々な表現がなされていますが、本当に本当に凄かったです。
TVでは残念乍ら全ては伝わっていない。あれの何倍も何倍もすさまじかった。
月並みだけど、まさしく「地鳴り」「嵐」のような大歓声で、私も便乗して(笑)「大ちゃん、頑張れー!」と叫びまくりました。
大ちゃんは「もう、一滴も力が残ってねえー!死ぬー!」と叫んでいるかのようでしたが、「あと少しや!やるしかないやろ!」と、とにかくその背中を押す押す。会場のお客さんが一体となって、大ちゃんを表彰台へと押し上げているのでした。「上がれ!行け!」と。
あれほどの大歓声を受けたら、もう死んでも滑りきるしかなかろ。点数や順位もブッ飛んだ境地があそこにはあって、東京体育館に巨大な「頑張れ!!!」の念が充満しているかのようでした。
演技後、満場のスタンディング・オベーション。騒然とした中を花束が飛び交ってるんだけど、よく覚えていません。気がついたら、スクリーンの中で大ちゃんが泣いている。驚きました。皆も驚いている。まだ騒然としている。
演技後、泣いているのは初めて見たよ…今まで良い時も悪い時も涙は見せなかった。その瞬間、この世界選手権にどれ程の思いがあって「この瞬間」に賭けてきたのか、誰に解説されなくとも解りました。「あー。凄まじくプレッシャーかかってたんだなー。重くて重くて死にそうだったんだなあ。」と。
思えば丁度一年前の大阪のシンポジウムで「バンクーバーで金メダルを狙っていますが、その前にまず、1年後の東京でメダルを獲ります。」と発言していて、「大ちゃん~。威勢がいいのはOKだけど、余り自分で自分にプレッシャーかけ過ぎちゃ駄目だよー」と思ったものです。
その後もずっと「メダルを獲ります」発言は続き、頼もしいやら不安やらで私も混沌としていましたが、きっと、「強情でも」公の場所で自分を鼓舞し続けなければ、あっという間に崩れ落ちてしまう。そんなモロさが、ずっとずっと大ちゃんにはあるのでした。
だから、「終わった。やり遂げた。」その安堵で「素」の部分に戻ったのだろうと思いました。あれはやはり、胸が締め付けられる光景でしたよね。
やっぱりこの人は「強い人」などではなくて、「強くなろうと頑張っている人」なのでした。その辺の「普通に弱い人」の部分が、私を一番ヒリヒリさせるんだろうな。
騒然とした会場の空気はまだまだ収まらず。
正直、どういうジャッジが下されるのか未知数でしたが、私はもう「これだけやったら順位はどーでもいい!」という境地に至っていました。NHK杯の時と同じ。大ちゃんに関しては「未知数」が多すぎる。
高いTESが出て場内はまた「おおーっ!」と大拍手。これ、帰って録画見たら、西岡アナは「80点台に乗るかどうか!?」と言ってるんですね。TVではミスに焦点が当っている感じになっているのでちょっと驚きました。80点は乗るよ、そりゃ。4回転以外のジャンプは今日は全てスムースだったもの。
PCSも「双璧の王者」と遜色なし。総合点でランビを上回り「2」と出た時に、「表彰台決定!」を、みんな悟り、またまた歓声と拍手が鳴りやまず。
私はスクリーンの順位を見つめていたので、モロゾフ、歌子ママと「三位一体」状態で抱き合っているのはその時は解りませんでした。あれは泣けました。やっぱり「背中に王冠」ジャケットを着てたんだね。モロゾフ。
なんだか、夢を見ているような酔っぱらっているような。
熱気と歓声が場内に充満していて、その余韻でおかしくなってしまいそうでした。