3月4日

 アンナ・カヴァン/安野玲訳『眠りの館』を読んだ。
 
 一篇一篇、息を詰めてしまう。凍てて美しくグロテスクで、どこまでが夢でどこからが異様な幻視なのか…と眩暈しながら。
 アンナ・カヴァンの作品群に魅了されて久しいので、Bの孤独もAの憂鬱も既に馴染みのようだった(例えばリジャイナがいてガーダがいて)。
 硬く閉ざした心の強張りも、絡みつく不安の感触も、私の中でひりりと懐かしいままだ。

 “一刻の猶予も許されない状況で、わたしは新しい夜の魔法の使いかたを編み出しました。夜の時間の魔法で、昼からの避難場所として頭のなかに小さな部屋を作ったのです。とはいえ、ときおり虎が羨ましく思えました。(略)そんなときは、深い傷から血が流れるように、気弱な愛が苦しいほどにこの身からあふれるのを感じたものです。”
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