森見登美彦さん、『有頂天家族』

 『有頂天家族』、森見登美彦を読みました。

 “花鳥風月をまねるのも風流だが、やはり一番味があるのは人間をまねることであろう。そうやって人間の日常生活や年中行事にどこまでも相乗りして遊ぶのが、なんだか妙に面白い。このやむにやまれぬ性癖は、遠く桓武天皇の御代から、脈々と受け継がれてきたものに違いなく、今は亡き父はそれを「阿呆の血」と呼んだ。” 88頁

 すこぶるに面白くて、がつがつと読んでしまいました。ご本人のブログではかなり以前から、「毛深い子」という通り名で予告されていた新刊ですが、「なぜ毛深いの…?」と素朴な疑問を抱いておりました。ですから「狸」の話と知ったときには思いっ切りずっこけました。狸かよ! ぽんぽこぽんかよ! …それってどんなんじゃ。

 物語が滑り出す冒頭からしてすでに、そう来ますか…と膝を打つほどオモシロそうな設定が明らかになり、私はその魅力に屈しておりました。“人間と狸と天狗の三つ巴”が展開されるですって? オモシロそう! “天狗は人間を拐(かどわ)かし、人間は狸を鍋にして、狸は天狗を罠にかける”ですって? また巧いことをいう…オモシロそう! …そのようにして私は、作者の術中にあっ気なく嵌り、毛深き狸どもに人間やら天狗やらが入り交じっては繰り広げる、この荒唐無稽な物語を存分に堪能することとなったのでは、ありました。

 物語の主人公で語り手でもある下鴨家の三男矢三郎には、三匹の兄弟と懐深き母上がいます。あまりにも偉大だった父上は、数年前に不帰の狸となっておりました。偉大な父親を失った、“その血を受け継ぎそこねた、ちょっと無念な子供たち”と評される4兄弟と、その子供たちの素晴らしさを信じきった母上との麗しき家族愛よ。 
 …という話になるわけです。主人公たちが狸であるにもかかわらず、まさしくこれは男の子たちの物語だなぁ…と思いました。父親と比べたら出来の悪い4兄弟だけれど、偉大な父親を憧れ続ける長男の一途さとか、引きこもりの次男の優しさとか、オモシロ主義の三男の自由さとか、甘えん坊な四男の純真さとか。結局皆、男の子。ちょっとマザコン気味に母親を大切にしているところも。

 京都を舞台にした設定のディテールも凄く凝っているし、洒落てると思わせずに洒落てるところが本当に堪らないです。
 矢三郎の恩師でやさぐれ天狗の如意ヶ嶽薬師坊(通称「赤玉先生」)は、赤玉ポートワインが何よりの大好物。そういうちょっと脱力気味の設定もオモシロいのだけれど、設定だけで終わらない仕掛けがちゃんとあるところが、流石はもりみんでありました。小物使いと独特の言葉遣いで、独自ワールドを創っちゃうのが本当に巧みな作家ですね。狸のことは“毛玉風情”とか、“阿呆の血”なんてのもありました。
 (2007.10.2)

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