『白と黒』は今日19日(火)が第36話。
彩乃(小柳ルミ子さん)を見殺しにしたと恨みを持つ聖人(佐藤智仁さん)が父・和臣(山本圭さん)に毒入りワインを飲ませ、倒れる和臣、駆けつけた礼子(西原亜希さん)と章吾(小林且弥さん)、どうなる?聖人逮捕か逃亡か?で終わった18日の35話が、本来なら金曜日に来て週末を跨ぐのが常道だったような気も。オリンピックに限らず大きなスポーツイベのため週中に休止が入ることもこの枠、稀ではないのですが、前半最大のヤマだっただけに、若干のちぐはぐ感が生じてしまいました。
救急搬送された和臣は意識不明の重態も一命は取りとめ、章吾は警察に事情を報告に、確信を持って倉に立ち寄った礼子は、果たして警察を待ってひそんでいた聖人に「彩乃さんはそんなことをしても喜ばない、彩乃さんはあなたとお父さんの和解を望んでいたのに」「お母さんを見捨てたお父さんよりも、あなたは酷いことをしたのよ、あなたにも未来があったのに、自分の手で摘み取ってしまった」と詰り嗚咽する。「俺のために泣いてくれるのか」と礼子を抱きしめる聖人。倉の戸口には、警察へ行かなかった章吾が見つめていた。
…ドラマ的にはここですっぱり三人のシーンは打ち切って、速攻聖人自首→連行、取り残される礼子、と行ったほうがよかったですね。これに続く章吾×聖人の防具なし真剣フェンシング~礼子「章吾さんは負けるつもりで闘ったのよ、全身で謝罪して、あなたの生き方を正そうとしているのがわからないの?聖人さんはここにいてはいけない人よ、出てって」のくだりは要らなかった。いや、聖人の危うさに惹かれながらも、正しくあらんとする章吾につく礼子の決断を示したシーンとしては、要らなくはないまでも、説明的過ぎて全体が間延びしてしまった。
2人の俳優さんは相当頑張って練習されたようですが、明らかにフェンシングアクションが付け焼刃で、このスポーツの持つ貴族性やストイシズムが身体の線や動きから匂い立って来ない。太田雄貴選手の予想外の活躍で、“本物”のワールドクラスのバウトがかなり大量に映像で流れた直後なのもお2人には不運でした。
思い返せば、礼子と聖人が“運命的に惹き合う、でも許されないカップル”として切々と胸を打ったのは、3話で章吾一葉の関係を疑ってひそかに悩む礼子に聖人「あんた、おもしろいな。…おもしろいよ」と、12話で一旦章吾のもとを去ろうと決めた礼子に聖人「あんたがいないと、俺…つまんねぇよ」のときがピークで、その後抱擁したりキスしたりするたびに、むしろどんどんどうでも良くなっているような気がする。
なぜか。「あんたとなら人生をやり直せそうな気がする」と言う聖人は、時には激しく時にはしんみりと、恋する男らしい起伏を見せていますが、礼子のほうがどうにも低体温というか、当初から“一人(=章吾)キープ”の体勢を崩しておらず、“封印していた情熱が外から徐々に加熱され、融けていまにも発火しそうになる”理性型優等生女性の危うい上昇曲線が伺えないことが盛り上がらない原因ではないでしょうか。一葉や章吾への不信、愛人生活の彩乃に嫌味を言うなどちらちらと“黒”部分を覗かせ人間的な彫琢は見せてはいるものの、一貫して“お利口さん”のレールを踏み越えない。
物語発端時の礼子は、男女の恋愛感情などに何の重きも置かず、もちろん異性を好いたこともなく、計画と計算だけでキャリアも人間関係もコントロールできると信じて疑わず、「私の科学者としての自立出世プランにマッチした相手」としか章吾との結婚を考えていない頭でっかちのイヤな女として描いておいてもよかった。昨年の『金色の翼』の反省からか、ヒロインを中途半端に“普通の女性視聴者の反感を買わない、努力家の良い子ちゃん”に造形したのが裏目に出ている気も。
ちぐはぐと言えばシーン割りもそうで、聖人の刑が確定し一葉は留学に発ち和臣はリハビリ…という礼子・章吾結婚後の3年の時間経過を示す映像に、彩乃亡き後の無人の“青の館”の室内、施錠された玄関の2カットが挿入されましたが、妙に“扱いが重い”。小柳ルミ子さんの入退場があまりにスピーディーだったせいもあり、青の館が36話までの物語の或る部分を象徴する“懐かしい場所”だったような気がしないのです。
このドラマ、全64話と決まっていますから、36話のこの時点でこの程度のテンションでは、最終話までに大きな盛り上がりは望み薄かもしれません。最終話まで、帰宅後転げるように録画再生せずにいられない吸引力を保った昼帯ドラマは、ほぼ例外なく30話台までに決定的な1stクライマックスを迎えています。
明日20日の37話から3年後篇=第2部となりますが、恐らく今週一杯が“ラストチャンス”でしょう。
今日のストーリーでうまいな、味だなと思ったのは、毒に倒れた和臣の扱い。死んじゃうの?聖人は殺人犯?と思ったら「命だけは助かりました」と章吾。命“だけ”?植物状態に?と思ったら、警察に向かいかけた章吾にベッドから手を伸ばしてうわ言のようにひと言ふた言。「後遺障害がひどい」と章吾が聖人に言うからどの程度?と思ったら、聖人逮捕「1ヶ月後」の字幕が出ると無言の車椅子姿でテラスに。『金色~』の迫田さん化?と思ったら、章吾礼子に家政婦・路子(伊佐山ひろ子さん)3人がかりの扶助で在宅リハビリに励むワンカットの後「三年後」では『美しい罠』最終話の沢木槐風片手ステッキで原語も明瞭。全員(←うち1名月河)ちょっと安堵、かすかに拍子抜け。
教授がどの程度のダメージなのか、それによって聖人の罪状、量刑も決まるし…という観客の関心、不安を見透かしつつそこに沿って徐々にベールを持ち上げて行くような語り口。こういうの好きです。このテクニックがヒロイン礼子像の描出に生きていればなあ。