イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

老後偽(にせ)ん万円 ~お化けの蔓延~

2019-06-17 20:28:06 | ニュース

 今月3日公表の金融庁金融審議会報告書に端を発した “老後二千万円不足”問題、張本人の金融庁トップでもある、失言王としてつとに名高い麻生太郎財務大臣が「政策と違う」「報告書として受け取らない」と言ったおかげでますます天高く炎上していますね。梅雨時の空が炎の熱気でカラッと乾燥してくれればいいのですが。

絶対延焼してこない対岸から眺めている分には火柱も気分がいいものですがね。

 月河は最初この報告書の見出しを新聞で見たとき、てっきり「金融庁の、長期政権への復讐だな」と思いました。

 官僚主導を嫌い万事“官邸主導”で人事権も切りまわして押し切る安倍-麻生-菅体制に、ついに金融庁が謀反を起こし「なんとか参院選負けさせようぜ」「衆参同日選になったらもっと一石二鳥」「安倍退陣に追い込んで、あわよくば野党連合の無知蒙昧政権になったら、我ら賢い官僚様天下の返り咲きだ」とばかり、わざわざ“老後不安を煽る要素てんこ盛り”のアナウンスを、選挙前のこの時期にぶつけてきたのではないかと。

 同審議会で起草~とりまとめに携わった専門家の皆さんも「主意が伝わらず不本意」「“貯蓄から投資へ”を促す目的だったのに」と鼻白んでいるとの報道ですが、真相はいざ知らず(知らないのかい!)たとえ月河が妄想するほど露骨に漫画チックな時の政権への悪意は無かったとしても「老後」「不足」「赤字」、そして「(リスク込みの)分散投資による」「現役時代からの」資産形成・・なんて、年金コンシャス世代をナーバスにさせずにおくまいとドシロウトが考えてもわかるワードをこれでもかと並べて、あっけらかんと一般紙に載せてしまう無神経さは、やはりメイドイン霞が関官僚ならではだったと思います。

 月河にとっては今シーズン残りGⅠ連戦連勝でも二千万は何万マイルの彼方だし、“女性60歳”は目と鼻の先とはいえ、その時点で“65歳厚生年金加入”の配偶者を有している可能性が顕微鏡レベルに極小なので、そもそもアナザーワールドなのですが、この報告書なるものの何がやりきれないって、すべてを“平均値”、それも“金額の平均値”で、綺麗に言えば抽象化して固めてあるため、「65歳まで働いて年金受給者となって、その後20年(=85歳まで)、ないし30年(=95歳まで)生きる」という人生を、いったいどのような時間として考えているのかさっぱり見えないことなんですね。

 95歳と、“点”でとらえれば95歳でしょうが、たとえば94歳から95歳までの一年間、三百六十五日が、どんな暮らし、どんな春夏秋冬だと、この報告書を作った人たちは考えたのでしょう。何を見聞きし、何に触れ、何を喜び、何を悩む時間か。暮らしとは一万円、十万円とおカネを費ったり貯めたりすることではありません。目を開けて耳を澄まして何かを感じ、考え、歩いたり走ったり、声を発したり、物を作ったりする時間の積み重なりが暮らしです。65歳から三十年間というなら、年金を受給しようが貰いはぐれようが、春夏秋冬が三十回、来て去ってめぐっていくことになります。

 月河宅には毎度おなじみ高齢組が二名いるので高齢者の知人は多数です。年金受給前はそれこそ老後資金計画もあれば投資信託や株買うかなんかも話題になりますが、受給開始から二十年ともなると、暮らし、生活の最大のテーマは病気・持病の悪化、白内障、難聴、骨折、歩行困難、介護認定、そして認知症です生活時間の大半がこのどれかもしくは複数との付き合いです。喜びも悲しみも悩みも、食べ物を口に入れて噛んで呑み込むのも、息吸うのも吐くのも脈打つのも、病気と要介護と認知症次第。どう慣れ、なだめ、折れるところは折れながら屈服はしないでやり過ごしていくかが、生きるということのほとんどすべてです。

 もちろんそうでない人も大勢いるでしょう。年金受給二十年超えても現役時代とほぼ遜色ない体力で歩き回り、同じように遜色ない友人知人とスポーツや旅行や習い事に行きまくり、現役世代とデスクを並べて仕事をし、何のお荷物にも笑い物にもならず、頼りにされリスペクトされている人も、月河高齢家族の周辺にはいないようですが、全国レベルではかなりいるはずです。

 病気介護認知症ワールドの人にも、遊びも仕事も現役並みの人にも、一人一人ずつに一年三百六十五日春夏秋冬があり、それぞれに触れるもの見聞きする物があり、喜び考え悩みがある。それが二十年、三十年積み重なっていくのが、人が生きると書いて人生です。

 今般の報告書には人が生きていません。あるのは金額のみです。一か月に食費何万何千円、光熱費何万何千円、文化教養費何万何千円・・という、ショベルカーで掬ってきたような、何処の誰とも知れない顔のない名前もないサンプルを、さらに平均値というチカラワザのローラーかけてなぎ倒して、蒸留して抽出して圧縮して凍結乾燥させた、もはやサンプルの原型すらとどめない、何処にも存在しない抽象の数字の列挙です。

 人間がいなくて、人生が無くて、おカネの額の数字のみ。それも実在しない抽象。これは“報告書”と銘打ちながら、何も報告していません。お化けです。血のかよわない、息もしない、体温も、脳も神経もない化け物です。

 こういう物は一言で言って「目が腐る、耳が腐る」です。関心持つ価値無し。関心持ったら持ったところから腐る。

 或いは金融庁の目論み通り(目論んでないって?)見事、参院選で与党ダダ負け、ダダ負かしの起点になるかもしれませんが、こんな血も肉もない数字のお化けで民心が動揺して政権が転覆するとしたら、“一強”なんて一時期持ち上げられていてもその程度のもんだったということでしょう。

 ネットの辺境の弱小泡沫無名ブログですから世間にはなんの影響も宣伝効果もないでしょうが、月河のここでは今後いっさいこの報告書なるものに触れません。汚らわしい。塩まいておきます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

テレビ朝日5夜連続『白い巨塔』 ~モン-ブラン(白き高峰)の星~

2019-06-07 19:06:49 | 夜ドラマ

 6月に入ったのにいきなり5月に遡る話ですが、テレビ朝日開局60年5夜連続スペシャルドラマ『白い巨塔』1。

 文庫で全5巻、1960年代当時の週刊誌連載で正編1年9か月、続編10か月余りにわたる長尺をたったの5夜(5月22日~26日)。5“夜”だから当然、朝、昼はやらないわけです。夜だけで5日。当たり前だ。

 こりゃもう刈り込みまくって原型ギリギリの、作者山崎豊子氏がご存命だったらぶちゃむくれて叩き出されて塩まかれるレベルの失礼千万なお粗末脚色になるだろうな・・・・と怖いもの見たさで視聴始めてみたら、これが意外と締まった、外科医モノだけにそれこそ“刺さる”、良作だったものですからいやもうまったく世の中わからない。恐れ入りました。

 まず、連続ドラマ各局軒並み苦戦中のこのご時世に、5夜連続、週一ペースの5話連続で5週間ではなく、水曜日から日曜日に毎晩5日続けるという放送のフォーマットが(何週間もにわたるゴールデン枠取りのほうが編成上難儀だからなるべくしてこうなった側面もあるでしょうが)“技あり”でした。

 連ドラに大ヒット作が出なくなっている理由の一つに、“今日見た話の続きを、一週間待つことができない客が増えた”ことがあると思う。

 長期にわたって好調なNHK朝ドラは、今日の続きが明日か、遅くとも明後日には見られる。週一放送で安定した数字をとっているタイトルはたいてい一話完結で、今日の事件は今日解決し、一週間後には別の事件、別のゲスト人物で新しい話になる体裁です。

 自分がユーザーでないので身をもって断定はできませんが、やはりスマホ動画の影響が大きいのではないでしょうか。数分間だけ画面に集中していればいい、冒頭の数秒か十秒間でガッと引き付けてワーッといってパッと終わる投稿動画を渡り歩く日々の視聴者には、一週間なんて空いてしまうと、如何に引きの強いストーリーだったとしても、他の話題コンテンツで興味関心のスペースが埋まって、忘れられたり諦められたりしてしまうのです。

 もちろん高齢者にとってはさらに、一週間後の同曜日まで絶対生きていないと次どうなるかわからない、5週間ボケずにいないと結末が見られないよりは、5夜だけ頑張れば見届けられる作りのほうが圧倒的にありがたいに決まっている。

 ・・・・冗談はさておき(冗談かよ)、今版の財前五郎役は岡田准一さん。親友にして好敵手の里見脩二役は松山ケンイチさん。ともにNHK大河主演俳優で5夜連続スペシャルの主役としちゃ位負けしない豪華さですが、待て待て、今回は時代劇メイクも、鬘も甲冑も衣冠装束もなし、ベビーフェイスの素顔じゃいかにも若すぎない?巨塔=因習と権勢争いに満ちた国立大学医学部の教授の座を窺う役には、演技力以前に見た目のカンロクがコレどうなのよ?と危惧した向きも多かったでしょうが、こちらもまったく心配ご無用だった。さすがに選ばれてオファーされるだけのことはあり、求心的に整った顔立ちなうえにガラが小さくいや増しに若く見える岡田さんは“気障(キザ)でスカして万事に様子ぶっている”、ときどき微妙にイッちゃってる目をするのでいまいち正義のイメージがない松山さんは“医学生然として青くさく空気が読めない”という、それぞれ演じるキャラの解釈切り口一点突破で見事に5夜を成立させ切りました。

 とりわけ、原作では「長身の偉丈夫(いじょうふ)」とはっきり描写されている財前役を公称身長169㌢岡田さんが演じるについて、“身長問題”への演出上の対処が堂にいっていた。

 第1夜冒頭、滝沢名誉教授(小林稔侍さん)喜寿祝賀パーティーの客入れシーンを持ってきました。会場入口で愛想笑いお迎えは鵜飼医学部長(松重豊さん)と第一外科東教授(寺尾聰さん)。通用口から厳しい顔で現れた岡田財前(←この略称お武家様みたい)、東教授に「(主賓の名誉教授が)“来られない”と・・」と耳打ち。滝沢名誉教授という人物はかねてむらっ気で内輪では有名らしく、聞いた東「またか」。即、傍らの鵜飼に「出席しないと仰ってるようです」と伝言ゲーム。聞いた鵜飼「財前くん!ご機嫌を損ねるような事でも言ったのかね!」

 ・・医学部大御所コンビの、上に弱くてビビりで世間体上等な体質がこの1シーンでも伝わるわけですが、注目すべきはこのオヤジふたりが囁きかわしている間、一歩後ろで財前が、左手を頭上に上げて、続いて右手を肩の高さに上げて、手のひらを顔に向けてヒラヒラ交通整理の様な動きをしている。そのあと「そうそう、君と君だ」というように小さく頷くので、あぁ、東と鵜飼と話をするから客迎え係を代わってくれと呼び寄せたんだなとわかる。

 そして、次のカットで鵜飼が「半年前から準備をしてきたのに・・キミの責任だよ!」と財前を詰るその前列に、飛んで来て代わった迎え係が並んで立っているのですが、これが、若輩財前が手信号で呼びつけられるとは思えないような頭髪具合のご年配二人。

 これだけで、岡田財前がどれだけこの若さで要責を担いブイブイ言わせているか目で見てわかる。

 後ろでは東「鵜飼先生、説得しましょう」と通路を控室に急ぐ二巨頭。先導するのが財前です。何が堂に入ってるって、東教授役寺尾聰さんは1947年生まれ176㌢、約四十年前に自作詞作曲『ルビーの指環』で音楽賞を総なめにしたグラサン姿をご記憶の向きもあると思いますが、この人団塊世代には珍しい長身。鵜飼役松重豊さんに至っては1963年生まれ188㌢とアスリート並みの規格外ノッポ。

 輪をかけて、控室で白スーツに旭日章磨いて準備万端なくせに「会場を案内されたとき誰も私に気づかなかった」と蒲田行進曲の銀ちゃんみたいなダダをこねて顔にペインティングなんかしてる名誉教授役小林稔侍さんも、1941年生まれ御年78歳でありながらこれまた世代的には規格外の180㌢。

 我らが(誰らがだ)岡田財前、ヒストリック・カーのロールスロイスやメルセデスベンツに囲まれたダイハツミライースみたいなヴィジュアル状況でありながら、機転が利き弁が立ち、先を読んでの立ち回りのクレバーさで切り抜ける切り抜ける。ダダこね名誉教授には演歌歌手ばりの、顔サイドでコブシ握るアクションつきで大説得する。

 切り抜けが巧過ぎて逆に敵を増やし心底からの味方を減らしていることまでは気がついていない、愛人ケイ子(沢尻エリカ様)の評価「・・腕がよくて、男らしくて、自信家だけど、ちょっとおめでたいところがある」通りの財前。この形容、現代の沢尻さん世代の女性は関西人でも使わないのではないかと思いますが、“自覚がない”“勘違い”、或いはいま風に“オレ様”を、ネガティヴなニュアンスを込めつつ皮肉に言い表した“おめでたい” という表現は言い得て妙。とにかくこの冒頭で、ノッポ白髪オヤジ3人を両翼につけてセンターフォワードをやり切って見せたせいで、以降の回診シーンであろうと手術室シーンであろうと、“若見え”“低身長”“貫禄不足”は何の問題にもならなくなりました。

 月河と高齢家族一味が、5年前の大河ドラマを完走したので岡田准一さんの演技力にあらかじめ一目おいていたせいもあるかな。今版の監督も大河見ていたのか?と思う場面もありましたね。第2夜、長時間の手術で(財前の計算通り)ダウンした東を教授室に見舞う場面で、東が差し出した右手を握手かと思って財前が握るとグイッと掴み寄せられた所では『官兵衛』ウォッチャーなら全員「オマエの左手は何をしているのだ!」とツッコんだでしょう。寺尾さんは『官兵衛』では徳川家康役でした。

 岳父・財前又一(小林薫さん)が招集したお座敷、医師会長(岩松了さん)と市議(山田純大さん)が障子を開けて入って来る前に、サッと脇に控える立ち居の素早さも見事で、高齢家族2は「財前だけ黒田家だね」と感心していました。第1夜で東に「(鵜飼学部長が診断ミスした患者を)手術させてほしい」と懇願する場面で、欧風の喫茶ラウンジの椅子をスイッと脇によけて土下座する動きもびっくりするほどスムーズ。やはり時代劇で鍛えられるとこういう所に違いが出るものなんですね。

 今版の財前は、原作の昭和40年代前半とは様変わって同じ消化器外科でも食道~胃ではなく肝・膵・胆のスペシャリストと設定され、ここは原作同様自分の専門畑である部位の癌に侵されて倒れるのですが、時代も令和に変わったことだし、そろそろ“死なない”終わり方の財前にならないかなと思って見守ったのですけれど、おいたわしや岡田財前。

 財前が死の床で医師としての思いを記した絶筆、ドイツ出張土産と言って里見に渡したのとお揃いのMONT BLANCのペンだったのが切ない。二本並べて、ホラお揃いですよと見せる様な場面はいっさい無いのですが、第4夜、裁判で財前に敵対する原告側の証言をした里見が覚悟を決めて退職届を書くときにケースを開けるとMONT BLANCのロゴが見える。MONT BLANCと言えばフランス語で白い巨塔ならぬ“白き高峰”、そして白い☆マークがシンボルです。

 引き出しの中に他の筆記具もあったのに、わざわざ財前からの土産で退職届を書くところに里見なりの決別の意思が見て取れる。

 そして時移り財前の死後、“神の回想”のように財前が絶筆を書いている姿が映ります。すでに利き手の右手にペンを持っても握力はなく、左手を重ねて一字一字絞り出すように運んでいるのですが、指と指の間からキャップトップの白い☆が見えて、あぁ里見にプレゼントしたのと同じ・・とわかる。

 書き終えたところに里見が入ってきて、心ならずも一時対立した二人は元の親友として、微笑んで穏やかなアイコンタクトを交わすのですが、カットの見かたひとつで“財前を送ったあとの里見が見た幻影”なのか、もう一日前の時制で“絶筆を書いた後、意識を失う前の財前が見た幻影”だったのか微妙になっている。

 視聴者としては里見先生!ペン見てペン!気づいてあげて――!と思ったところで提供ベースの巨塔ロングショットになって終了。

 ・・・腱鞘炎持ち月河の経験上、ペンが握れないときは万年筆じゃなく2Bか3Bの丸軸の鉛筆がラクなのになー・・とかそういう小姑の様な余計なお世話は無しにしときましょう

 細々食い足りないところを挙げるとキリがないものの、最初に触れたように“5夜連続”はドラマとしては当節ギリギリの容積で、6夜だったらもっと踏み込めた、描き込めたのにと思わないではないけれど、日曜に完結させる前提での6夜となると水曜スタートではなく火曜スタートになり、これはもうやる前から「木曜でダレて客が離れるな」「離れた大方は金曜に戻って来ないな」と予想がつく。

 月河の非高齢家族も、「エリカ様と(財前の政略妻・杏子役)夏帆ちゃんの活躍が少なかったな」と惜しみつつ「金・土・日を二週続けたらよかったんじゃないか」と言っていましたが、そうなるとやはり“一週間待たせる”ことになり、苦戦する週一連ドラ界と同じ轍を踏む可能性が高い。

 満点は付けられないがフォーマットも内容も、演者の演技も、よく練ったし攻めたと思います。「怖いもの見たさ」なんて大変ご無礼を申しあげました。でも岡田財前の活躍暗躍はもっと見ていたかった。スピンオフ来ないかしら。本編のキャストが豪華すぎて作れないか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする