イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

行けえーーー!

2010-12-28 22:43:22 | 競馬

ジャパンC降着明けのブエナビスタが差し切りきっていれば、有馬記念にふさわしいきれいな復活劇になっていたのでしょうが、そうならないというところが、逆に、実にこの年のラストGⅠとして象徴的な幕切れになりましたな。ローズキングダムの取消といい、競馬の神様が「わかりやすいスターホースなんかつくるもんか、感動の結末になんか誰がするか」みたいなね。

134着揃って、3歳の強みで55キロ。年下坊主たちとは言え男の子と同斤では、牝馬のビスタにちょっと不利だったかもしれません。

月河は「有馬だからキーワードは“ラスト”」で押してこうと思い、来年2月定年を迎え今回が最後の有馬記念となる池江泰郎調教師のトゥザグローリーをワイドでからませたところまでは結構ヒット(71124.3倍)だったと自画自賛してるんですが、「同厩舎2頭出しは人気薄から狙え」というどっかのバカの戯言をこんなときに限って思い出して、角居勝彦厩舎の、ヴィクトワールピサではなくルーラーシップのほうを厚く行ってしまったため、結局トータルで行って来い。

池江ジュニア・泰寿厩舎の、ドリームジャーニーではなくトーセンジョーダンのほうを重視したのも、着眼としては悪くなかったものの(自画自賛)、手を広げすぎ。こういう失敗は来年に引きずらず、さっくりフォゲッタブル。

しかしそれにしても、13着まで外国人騎手騎乗馬という結果もいささか複雑ですね。アンカツアンミツウチパクに岩田、小牧といった地方競馬からの参戦組がひと通り“安定勢力”化してしまうと、ここ一番の勝負師!的なキャラの、破壊力を感じさせる日本人騎手は本当に見当たらなくなりました。

伸びしろを感じさせるのは3年目の三浦皇成騎手ぐらいでしょうか。彼の場合、競馬界によくある、“家族・親族が競馬サークル”という出自ではなく、普通のスポーツ少年が数ある種目の中で“競馬”を選んでなった騎手ですから、何と言うか、乗りがピュアなんですよ。“競馬汁(じる)”で煮しまっていない、とでも言いましょうか。デビュー当時からそこそこの完成品だった、たとえば武ブラザーズや福永祐一、横山典弘、柴田善臣騎手らの若い頃とはどこか毛色が違い、そこに未知の魅力がある。お行儀の悪い騎乗やいただけないレースもたまさか見受けられ、まだ出来不出来がはっきりし過ぎですが、ヘンにアベレージのまとまった乗り役にならないでほしいとも思います。

日本人で、いかにもメイドイン競馬学校といったたたずまいではない、危険な香りの鉄火場男(女でもいいけど)の参戦を、来年は切望したいものです。

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元・8時半の男

2010-12-25 20:56:53 | テレビ番組

24日放送の『てっぱん』OPの“メリークリスマス!”ヴァージョンは良かったですね。このシーズン、NHK朝ドラを(セミ)レギュラー視聴している自体、個人的にも家族的にもここ何年もなかったことなのですが、リアルカレンダーのクリスマスイヴと、劇中のクリスマスイヴ、きれいにシンクロしたのも軽く驚きました。下半期の、大阪放送局の朝ドラは毎作、クリスマスネタ、年末年始ネタをストーリーに織り込むのが恒例なのでしょうかね。

前作『ゲゲゲの女房』なんかは、結構、猛暑の季節に、布美枝ちゃん(松下奈緒さん)の大根干しや風邪引きネタ、あるいはクリスマス出産話をやっていたし、しげるお父ちゃん(向井理さん)もかなり年代が進むまであの赤茶色の穴あき貧乏セーターを着ていた気がしますが、あちらはあまり季節はずれ感はなかった。とにかく、額に入れた一反木綿の絵が動くワールドでしたからね。

OP映像のまるいお好み焼きがクリスマスリースになる演出も、ベタだけど、意外な意外性がありましたよ。円形つながりってだけですけどね。“皆を幸せにする、まるーいお好み焼き”は、設定からしてあかりちゃん(瀧本美織さん)の大目標でもある。お正月のしめ飾りとなると、なんか全体的に紐状というか、細長いイメージだけど、クリスマスリースはやはりまるーいイメージ。障子・格子戸・唐紙の引き戸文化と、ドア文化の違いかしら。

7年ほど前まで、クリスマスまではクリスマスリースとして飾れて、その後パーツを23つチェンジすれば正月飾りになるヤツをだいぶ長いこと保存して毎年繰り越して使っていたのですが、縁起物をそういうことしちゃうと、悪いモノも年を繰り越してしまうから良くないそうですね。そう言えば、部屋の内装変えをしたついでに処分したその年の暮れに宝くじが当たったっけ。五千円だけど。その代わり有馬記念が全ガミだった。タップダンスシチーが飛んだんだったかな。まぁ終わったレース蒸し返しても仕方がおまへん(なぜ関西弁)。

『てっぱん』クリスマスエピソードも、浜勝の神田さん(さすがにまだまだロッキーポーズが似合う赤井英和さん)が引いた福引の特賞・温泉ペア券を奇貨として、あかりの意地ッ張り正月営業宣言→初音お祖母ちゃん(富司純子さん)へ「一緒に旅行せん?(千春さんの墓参に)尾道へ」初音さん「ご案内よろしゅうに」のめでたしを軸に、駅伝くん(長田成哉さん)と根本コーチ(松田悟志さん)の和解と再チャレンジへの決心、尾道のお父ちゃん(遠藤憲一さん)お母ちゃん(安田成美さん)の“一瞬ラブラブ”化などを織り交ぜた、最近のこのドラマの中では弛みの少ない、飽きさせない一週間だったように思います。ベタさの匙加減でしょうか。昭和4050年頃代の、雑誌『なかよし』辺りのクリスマス特大号では必ず一作は載っていた“貧乏な頑張り屋さん少女の、家族と友情クリスマス”ものを思い出させる味わいでした。あったんですよねぇ、あの頃、この手の人情話が盛んに。“クリスマス”ってイベントのイメージ自体が、“西洋風金持ち”を直球で連想させましたから。

あかりちゃんは、初音さんに借金返済途中とは言っても“おのみっちゃん”は一応繁盛しているし、尾道実家の鉄工所も不況の中まあまあ回っているし、決して貧乏暇なしではありませんが、「高価なプレゼントや着飾ったディナーより、心の通い合う家族・友人近隣仲間と信頼を再確認し、楽しく囲む手料理がいちばんのご馳走」といったところに着地させると、日本人としてはきわめて胃の腑におさまりのいいジングルベルストーリーになるらしいのです。

今週、要所で再三、尾道家族と大阪陣営との橋渡し(て言うか触媒)役をつとめたのが、イエス・キリスト様とは対極のはずの仏教住職・隆円さん(尾美としのりさん)だったというのもナイスな転帰でした。

まさかの既婚バツイチカミングアウトに続いて、ライブ会場での「好きやから!」ナマ宣言で一瞬場内を震撼させた根本コーチ役・松田悟志さんの嵌まり役ぶりにも最近驚いていますね。月河にとっては松田さんと言えばいまだに『仮面ライダー龍騎』のナイトこと“なんちゃら山”蓮なのですが、ネイティヴ大阪弁をさすがのナチュラルっぷりであやつる松田さんを、朝ドラという舞台で観られてよかった。最近、別の必要があって『龍騎』の録画を数話分再見したばかりなのですが、“若い盛りの頃スポーツ三昧で、現役引退してからは若手の世話焼き三昧でアラサーシングルアゲイン”にふさわしい、いいリアルさの体躯の厚み・緩み増し具合だと思います。体育教師ジャージが似合う感じというか。

もっと言えば、“嫁に愛想尽かされて逃げられた”設定がこんなに似合う人とは思わなかったもんでね。ホント、朝ドラの“良き所帯くささワールド”は意外な人から意外な味を引き出しますな。

あと、祝日だった23日、『てっぱん』明けのニュース森本健成アナが830分…」と言いかけてから、「…815分になりました。」と言い直してた。わはは、祝日担当の多い森本アナのこれ式の言い間違い、月河が実況目撃しただけでこれで二度目ですぞ。朝ドラが15分繰り上がって、平日は『あさイチ』、土曜は『週刊ニュース』が続くので、815分がニュースになるのは、祝日編成のときだけ。こういうときのニュースは、森本アナの担当になることが多いんですよね。

でも絶対日数的には圧倒的に少ないから、森本さんもなかなか「朝ドラ明けは815分」が“体内”に定着しないんだろうな。次は来年の110日(成人の日)あたりかしら。森本さん、練習しといたほうがいいですよ。

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ほの字

2010-12-21 20:34:46 | 

SUNTORY新ジャンルの京都謹製シリーズ、かほりの贅沢を先日店頭で発見。

“かり”という表記を見て反射的に連想するのは“シクラメン”“竹田”か、はたまた“鳥居”かという問題はさておき(………………)、

ネット上のニュースリリースで発売告知を見かけたのが10月でしたから、11月発売の余韻の贅沢と、記憶が混じってお試し済みみたいに思い込んでたんでしょうな。

こちらは127日発売。例によって限定醸造なので、ヘタしたら店頭から消えてるところでした。ぎりぎりセーフ。

 新ジャンル既発一般ラベル比、熟成期間1.5倍長をうたっている同シリーズ、今回の売りはそれプラス“ネルソン・ソーヴィン種”という、ホップの中でも世界年間生産量中約0.03パーセントしか産出されていない稀少種を使用、とのこと。同社公式によると「白葡萄様の香りが特徴」だそうで、品種名を聞いただけでカベルネ・ソーヴィニヨンを連想しますよね。ワインなら“白(ブラン)好き”には看過できない企画ではありませんか。

 注いでみると、泡質は普通の新ジャンルですが、液色が淡めで、いかにもブランな、ビアンカな感じ。ひと月前の“余韻の贅沢”が、ちょっとビール系としてはそれこそ「色モノ?」と思えるくらい濃色だったので、イメージとしては新鮮感がありますね。

 味のほうは…うん、見た目通りの、イメージを裏切らない出来映えですよ。ビール系界の“白(ブラン)”という感じ。甘くちとか、濃厚とかの座標ではなく、“華やか”で“爽やか”。

そうですね、“ビール風味のシャンパン”、あるいは“シャンパン気分で飲むビール系”とでも言いますか。なるほど、それもそのはず、原料麦芽もフランス・シャンパーニュ地方産のそれを主に使っているそうです。

土壌が一緒だと、麦も葡萄も味が似る?というわけではたぶんなく、原材料の発泡酒・スピリッツのブレンドを、“シャンパンをイメージして”構成していったらこうなったということでしょうね。

発売をぶつけてきたシーズンがシーズンだし、女性主導の軽いノリの、マンションパーティー向きのお味です。おっさんたちオンリーで仕事の話グチグチしながら飲むのにはくっきりはっきり向かないと思います。

ビール本来の“ドライ”“ほろ苦(にが)”にこだわる人には、なんかアルコール入り炭酸ジュースみたいで物足りなく感じられるかもしれませんが、ちゃんと麦芽の味はするし、最近の新ジャンル新発ラベルにありがちな、こねくり回した人工感がないのは、個人的には気に入りました。

同社の、京都謹製“贅沢”シリーズの中では、これがいちばん好きかもしれません。“贅沢”というネーミングを、“リッチ”とか“本格”“濃い”と翻訳せず、女子のラメ入りスパンコールキラキラファッションのような“パーティー的華やかさ”と因数分解したところが、なかなか潔いと思うのです。

ただその、何だ、メインの売りであるところの、ネルソンソーヴィ何とかのホップのかほりに関しては、あまり強い印象がなかったなあ。鼻が不調だったのかしら。

そう、微妙な香りを楽しむという意味では、つまみに、あんまり味の濃いアジアンエスニックものとか、思いっきり生臭い海産干物系とかは持ってこないほうがいいかもしれませんね。

味はほぼいけるとわかったので、もう一度、今度はかほり重心で試してみたいものですが、まだ売っているかな。

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思い出すは『疑惑の家族』

2010-12-19 19:51:29 | 朝ドラマ

1ヶ月ほど流し見プレイにしていたら、『てっぱん』ものすごい勢いでゆるドラマ化していますな。とにかく何でも「“味”“料理”“一緒に食事”で丸くおさまる」週末。この、骨の髄まで“どシンプル”な因数分解っぷりは、いっそ潔い。

「一緒に旨いモノでも食べましょう」が営業でも社内コミュニケーションでも、ご近所付き合いでも、ちょっとテンション低めなナンパにでも、歴史的に汎用されている日本社会ですから、「ひとつテーブルを囲んで舌鼓打ち合えばみんな仲良し、悩みも吹き飛び幸せ気分」は、永遠に当たらずとも遠からずの正解近似値なのかもしれません。

…ただ、朝800台、朝食どき、支度どきピークの最中に、TV画面の向こうでも年じゅう料理して試食して「食べよっ」「おいひー」ってやってると、どうもヘンに彼我の境界線が曖昧になり、どうでもよくなってくる。ここのところ画面に対する集中力も、冒頭ユニークで楽しみのひとつだった劇伴音楽鑑賞も、4割くらい体温低下したことは否めません。

劇中の圧倒的なエンゲル係数ならぬ“食”係数に比べると、当初重要だったはずの“音楽”“トランペット”は最近めっきり影が薄いようです。食は生きとし生けるもののベーシックな本能。美味しいものを気心の知れた人たちとわいわい食べれば誰でも多少なりとテンションは上がるでしょうが、音楽に関しては、これだけ有形無形に巷にあふれ返る時代でも、演歌だロックだジャズだのジャンルを超えて“音曲舞踊のたぐいが生来苦手”“そういうものが無いところへ行きたい”という人はいるものです。

あかりちゃん(瀧本美織さん)の生母である千春(木南晴夏さん)にトランペットを買ってやり、彼女が音楽に目覚めるきっかけを結果的に与えたことになる初音お祖母ちゃん(富司純子さん)も、「あの子が楽しそうに音楽の話をするのが、正直、苦手やった」と述懐していました。音楽単体がまるっと縁なしだったら、そもそも娘にトランペットをプレゼントしようと思いつきもしないでしょうから、あるいは初音さん、音楽が苦手というより、音楽に触れてから母親の自分が思いもよらなかった個性を見せ、才能と意欲をふくらませるようになった娘の成長ぶりに違和感をおぼえて、「苦手やった」と表現したのかもしれない。

もちろん母親として受け入れがたかった事どもの中には、千春さんが音楽とトランペットを通じて交流を持った(後にあかりの父親になったのかもしれない)未知の男性の存在もあったことでしょう。

“食”“美味”“料理”の普遍的安全パイっぷりに比べて、“音楽”はドラマの食材としてかなり骨っぽく難物と思われます。音楽を聴いたり演奏したりさえすれば、老若男女あらゆる境遇のあらゆる人が楽しく幸せになるわけでは、実際ないのですからね。

あかり役の瀧本さんは、“(音楽教育は未だしだけれど)聞く人を元気にするトランペットを吹く”という設定に沿うべく、撮影入り前からかなりのレッスンを積んでいる様子です。もちろんアフレコでしょうが、劇中、吹くシーンはすべてアテ振りではなく、本当に吹いているそうですよ。新人瀧本さんの頑張り相応に、“音楽”がちゃんと活きるお話になるといいですが。

いまのところ、瀧本さんのトランペットやかつお武士浜勝社長役・趙珉和さんのトロンボーン、加奈ちゃん役朝倉あきさんのユーフォニアムより、いちばんハラハラするのは岩崎“そしてなぜか”先生(柏原収史さん)の指揮棒振りだったりしますが。

…とは言え、音楽家の中で、自分で音声を発することのない唯一のポジションが指揮者ですからむつかしいっちゃむつかしい。楽器奏者役なら、練習してうまくなる、正しく美しい音程、音色を出すということができるけれど、指揮者役は、どうすればそれらしく見せることができるのか。

病気療養から復帰のニュースが心強い、小沢征爾さんのDVDでも観て、真似て真似て真似まくるのみか。そしてなぜか(↑↑↑ここで記事タイトルへ↑↑↑)。

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結局、金なんだろ

2010-12-18 15:58:48 | 世相

クレジットやローンの多重債務者には、実は金づかいの本当にルーズな人、ずぼらでだらしない人は少なく、どちらかというと几帳面でまじめな人のほうが多い、という話は何度か聞いたことがあります。

あてにしていた収入が入らずあるいは足りないまま返済期日が迫ると、「どうしよう返せない、返さなければ」と焦り、返済のためだけにさらに借金を重ねる。そちらの期日が迫るとまた借りる。そうこうするうちに、自前の収入では一生かかっても返せない額にまで債務がふくらんでしまう。

とことんずぼらで無神経な人なら、「返せ返せ言われたって、無い袖は振れないもん」「返せませんが何か?」と開き直るから、かえって多重債務を背負うこともないそうです。

『相棒 season 98話(実質7話)“ボーダーライン”の元・派遣社員柴田(山本浩司さん。『ゲゲゲの女房』では今回と対照的な、嫌味な税務署員に扮しました)も、ある意味そういう、真面目さでみずからの首を絞める悲しき多重債務者と似ていたような気がします。

「食えませんが何か?」と開き直って、恋人の部屋に転がり込むなり兄に泣きつくなりしていれば、あるいはいっそ門前払いを食わせた相手に暴力のひとつもふるって警察に突き出されてでもいれば、とりあえずの一夜の宿と、先の見通しにつながる示唆や出会いも望め、最悪の結末を迎えずに済んだかもしれないのに。

「何としても就職して自立を」「人にぶらさがって迷惑かけて生きたくない」にこだわった不器用な廉直さ、どこか“硬度”のイビツな潔さゆえに、あてどない報われない自助努力のハムスターホイールに嵌まり込み、やがてはみずから墜落する結果になってしまいました。

転落死体の解剖結果の中の、胃の内容物にまず右京さん(水谷豊さん)が食いつくところはseason 3“書き直す女”を思い出させ、“失われた足跡のトレース”ものとしては、season 5“イエスタデイ”にも相通じるものが。「食えるようになろう」として、結果的にはどんどん食えなくなっていった柴田の、死までの11ヶ月。視聴途中で「食べ物を万引きして隠れ食いしていたから、右京さんから不審がられるような内容物構成になったのか?」「悪いヤツに犯行現場を見咎められて脅され交戦の結果転落?」とも思いましたが、明らかになった真相はもっとずっと痛ましいもので……

右京さんらの捜査の過程で、派遣切りカムフラージュや労基法違反の名ばかり請負土建会社、免許偽装の盗品故売商、偽装自己破産や不法入国隠しのための名義売買、違法ではないが本人確認せず書面だけで契約するため、何の温床になるかわからないコンテナレンタル業、生活保護費圧縮のため困窮者の見極めもせず年齢で前捌きする福祉事務所など、弱者・敗者に徹底的に冷たく、なおかつ隙あらば食いものにしようとさえする現代の歪み病んだ社会の端々が明るみに出ました。柴田はそこまで読んで期待してあの挙に出たわけではなかったかもしれませんが、彼の死も無駄ではなかったとせめても思いたいものです。

“ここで何とかできてさえいれば”の最大のターニングポイントだった、実兄への相談場面がいちばんせつなかった。事実上の休職を何度かはさみながらもどうにか2年間契約雇用を得、やっと正社員に取り立ててもらえるはずだったイベント会社からまさかの雇い止め、お為ごかしに紹介された転職先もブラック派遣で収入は激減、一時しのぎでも少しは融通してもらえないかというギリギリの相談が、なんと寒空の1月の夜の公園砂場です。

兄は勤めから鞄を持って帰宅途中。実の兄なのに、自宅に上げてもらうことすらできない。

兄も、実の弟として窮状を気づかう情(じょう)が皆無なわけはない。しかし大卒時就職氷河期で定職に就けず、10数年非正規雇用を転々として慢性的に金欠のまま30代半ばに達した弟を連れ帰り面倒みてやるのは、他人である嫁や、(あるいはお受験期かもしれない)子供たちに顔向けならないという、兄には兄なりのプライドや恥の観念があるのです。まして実母(「おふくろが入院したときにも顔見せないで…」の台詞あり)を同居させ、おそらくは嫁に介護させてもいる。

あるいは柴田自身、高齢で(たぶん)病気持ちの母親に、“いい年をして食えてない自分”を見せたくないと思っての夜空の公園相談だったのかもしれない。そっちのほうが、もっと痛いなあ。

兄の口から特命コンビと捜一トリオに語られるこの回想場面のあと、薄皮を剥いでいくように明らかになる悪辣な裏社会システム、冷たい役所対応、食えないゆえに冷え切っていく恋人との関係などより、最も切実に映りました。

劇中でも出てくるように、公的生活扶助はまず“親族・縁戚がいるならまずそっちに頼ってから”という順位づけになっています。助けてもらえる“身内”が誰もいないことが明らかになって初めて生活保護申請もできるという話。

しかし実際、困窮者の立場になると、親兄弟ほど助けを求めにくい相手はいないくらいなのです。困窮している姿をいちばん見られたくない相手だし、いちばん迷惑をかけるのが申し訳ないと思う相手でもある。

真相解明後、「(柴田本人と、周りの他者たちとの)どちらかが“本気で”手を差し出していたら、このような結果にはならなかったんじゃありませんか」「残念ですねぇ」とつぶやいた後、珍しく神戸くん(及川光博さん)を“たまきさんのところ(=花の里)”に誘った右京さん、「ちょっと、暖まりたい(気分)ですね」と速攻応じた神戸くんともども、当夜の一献は柴田の鎮魂のために傾けたと信じたい。

すでに起きてしまった事象どもを推理推理で追いかける、犯人追跡捕り物サスペンスも特にない淡々とした叙述のエピソードでしたが、たとえば“違法ではないけれど問題含み”のレンタルコンテナ会社社長が聞き込みの間じゅう熱っぽい顔にマスクで、しきりに鼻をかんでいたり、特命コンビと入れ違いに事務所から出て行った従業員も背を丸めて咳き込んでいたり、柴田が(ブラック派遣とは知らず寮付き転職と信じて)引っ越した後のアパートを案内する女性管理人が「さむ~」と震え上がっていたりなど、“いろんなところに底辺が覗く”感を随所に垣間見させる演出も秀逸でした。

年の瀬にボーナスのちょっぴりもない、当方の身に沁み入るようなエピの中にも、神戸くん→捜一トリオ「ギブアンドテイクでいきません?さっきのアパート大家さん情報がこちらのギブです(←左手ポッケで右手でギブモーション×2)」→右京さんが芹沢くん(山中崇史さん)の腕グッ!(←“失敬、掴みやすいところにあったもので”みたいな)など、微苦笑寸劇も要所にまぶしてある。劇場版ⅡはDVD化されてからレンタルという、月河のいつもの運びになりそうですが、『相棒』、10周年を迎えてますます磐石です。

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