イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

被ってる被ってない

2013-10-30 01:20:31 | 再放送ドラマ

 BSプレミアム朝715~の枠では、『ごちそうさん』に一週遅れで、『ちりとてちん』の再放送も始まっていますね。本放送が200710月~083月期。『瞳』の前作、『芋たこなんきん』の2作後。月河にとってはまるっと朝ドラ空白期にあたっていて、たぶん本放送では1話も見ていないはずです。 

いや、途中、もう後半戦に入った頃だったか、五木ひろしさんが本人役で出演されていた回だけはちらっと見たような。ヒロイン(貫地谷しほりさん)が高座で、五木さんが来場しているのに気づかず五木さんのモノマネ(似てない)を演っているという、それはそれは寒い場面。上方落語家を目指す落語好きヒロインという設定だけは知っていましたけれども「この程度か、浅っ」「笑えねっ」が正直な感想で、中途乗車でも続きが見たいとは思えませんでした。
 

月河よりはるかに朝ドラ歴が古い(何歴でも古い)高齢家族は、昭和43年放送で森村桂さん原作の『あしたこそ』でヒロイン(藤田弓子さん)の結婚相手役だった米倉斉加年さんを懐かしんで、序盤は本放送から結構見ていたようです。米倉さん『あした』当時は33歳、劇団民藝の気鋭の若手としてご活躍の頃。『ちりとて』本放送時には73歳だったはずですが、場面によって高校生の孫を持つ年相応のお祖父ちゃんにも、もっと仙人的な頑固職人にも、逆に青年のようにみずみずしい感性の落語ファンにも見える素敵なオールド俳優さんになられました。『鬼平犯科帳』の蛙の長助も哀愁と可笑し味にあふれていて良かった。しかし『ちりとて』では9歳の喜代美に「これからはぎょうさん笑え」と言い残して、1週で他界退場。
 

高齢家族も本放送のその後は、ほどなくチャンネルを合わせなくなっていました。「噺家に弟子入りするところ辺りまでは見てたけど、お弟子さんたちがみんな個性が強すぎて(見ていて)疲れる」と言っていたように思います。
 

今般の再放送で、真っ白な状態で改めてアタマから視聴してみると、貫地谷さんの若手(当時)離れした安定のコメディエンヌぶりと、母・糸子役の和久井映見さんの美声(地味ながら歌手活動歴長し)は秀でているものの、どうも、どのシーンにも“困りごと悩み事やトラブルの種を仕込み過ぎ”なきらいがあり、朝ドラとしては喉ごしスムーズさに欠けるかなと思えたのですが、喜代美が大阪に出てきた3週、転がり込んだ先の、伝説の噺家役で渡瀬恒彦さんが登場して地合いが一変しました。
 

なんだろう、このSP感。もといスペシャル感。有り難味指数の一挙ストップ高。俳優としての渡瀬さんが格段に贔屓なわけではないのですが、気がつけば、十津川警部でもなくおみやさんでもなく、世直し公証人でもタクシードライバーでもない、さらには警視庁捜査一課9係長でもない渡瀬さんを見るのはほとんど初めての月河がいるわけです。
 

気がつけば、ってどこまで何も気がついてなかったんだって話ですが、この10数年来、被り物をかぶるように、出来上がった“キャラ”に“扮して”いるのではなく、普通にドラマの“役”を普通に“演じる”渡瀬恒彦さんを、月河は一度も見たことがなかったという事実が、この『ちりとてちん』再放送で初めてわかったのです。こんなにキャリアの長い、主演作もヒット作も数々ありそのほとんどが豪華予算の超大作で、しかも兄上まで大物スター(=渡哲也さん)という強力な背景を持った、押しも押されもせぬ有名ベテラン俳優さんを、月河は申し訳ないほど長く放置してきたのです。放置と言って悪ければ、まともに芝居として鑑賞して所感を持ち論評することを忘れていた。平日昼間や土曜午後や民放BSの再放送で何十作も空気の様に慣れ親しんできた顔と声なのに、俳優としての渡瀬さんがどんな芸風なのか、演技は達者なのか大根なのか、明るいのか暗いのか、重厚なのか軽妙なのか、何も把握してないし、何のイメージも持っていなかった。
 

ですから第3週は草若師匠が何を言っても何をやっても、十津川警部もしくは鳥居警部もしくは夜明元警部補もしくは・・(以下略)がコスプレか、潜入捜査か何かしているように見えてしょうがありませんでした。
 

ヒロイン貫地谷さんの朝ドラ適性は文句ないし、屈折した暑苦しさと痛快な荒削り感とを兼ねそなえたヒロイン兄弟子にして運命のお相手役・青木崇高さんもすでに味を出していますが、月河にとってはこのドラマ、“演技者としての渡瀬恒彦さん”自分内デビュー作に決まり。

 現時点ではうらぶれやさぐれ酒浸り借金まみれの草若師匠も、いずれ噺家らしくちゃんと着物姿で高座で一席ぶつ場面も来るに違いありません。その頃はコスプレに見えなくなっていることを願いますが、となると“どう”見えるのでしょうか。多くの普通の俳優さんを見て普通に言うように「この役に嵌まってる、嵌まってない」を、渡瀬恒彦さんに言える時がもうすぐ来る。ある意味楽しみになってきました。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“警部ドノ”も命名

2013-10-27 01:52:25 | 夜ドラマ

 NHK朝ドラらしく、出番の多くない脇役にも、個性的で芸達者感ある俳優さんが贅沢に起用されている『ごちそうさん』 

そもそも通天閣=悠太郎くん(東出昌大さん)が、め以子(杏さん)宅=開明軒に下宿するきっかけを作った帝大級友・近藤さん役の石田卓也さん、天下の(?)通天閣との比較の錯覚で実際以上に小柄に見えますが、先週の『相棒12初回SP“ビリーバー”(1016日放送)でよく似た人が出ていると思ったら思いっきり同一人物でした。しかも思いっきり犯人役だった。『ごち』ではいまのところ、出てくるたび制服制帽姿ですが、現代衣装で改めて見ると浅黒肌で三白眼で目ヂカラさんで、わりとイッちゃってる系の犯人向き顔なのね。フィルモグラフィーによると『仮面ライダーウィザード』にもゲスト出演されていたそうで、えっえっえっ??と録画を遡ってみると希望饅頭篇の、悪でもゲートでもない一般人の若手和菓子職人役でした。刈り上げ短髪に白帽白衣。学生服もそうですが職業ユニホ的なものが滅法似合う人でもありますね。衣装次第で化けやすいというかね。
 

今作で演じる近藤さんは、もっぱら悠太郎の、め以子製豪華日替わりおむすび弁当を羨ましがる担当かと思いきや、まじめ過ぎ朴念仁過ぎる悠太郎に“世間一般目線”をときどき思い出させてやる役割も果たしています(ヤッコさんがドンズバ気づくことはまずないのですけれど)。今日(26日)放送の「バカだろオマエ」は飾り気ない男同士の善意に満ちていて秀逸だった。うら若きシングル異性同士、一方が一方にひたむきに好意を傾けていて、周囲から見れば特別な思いが歴然なのに“思われている当人だけが気づかない”って、本当にあるのかな。わざわざ進路相談に来た亜貴子さん(加藤あいさん)すら、初対面のめ以子の手のひらの“毎朝おむすびヤケド”を診察して「熱々やねぇ・・」と一発で見抜いていたのにね。
 

放送前の公式ネタばれ、と言うよりむしろ普通に番組紹介ベースで“ヒロインは大阪へ嫁ぎそこから本題”とわかっているので、第3週の納豆アレンジ案件からいずれ近いうちのご成婚までは迂回っぽくて早送り推奨になるかなと思っていましたが、まさかのライバル?出現と女友達たちからのエール、何より母親イクさん(財前直見さん)の出しゃばらない、でも温かい目配りなども描かれて、思いのほか味のある第4週でした。
 

近藤さんも前途有望(か?)な花の帝大生なのだし、三人娘の残り(残りって)のどちらかとくっつきませんかね。控えめだけど向学心旺盛な、教師志望の民ちゃん(宮嶋麻衣さん)などお似合いだと思うのですが。文学少女でちょっと早熟?な金満令嬢・桜子さん(前田亜季さん)は栞の君との件がもう少し尾を引きそう。
 

『相棒12』と言えばその初回SPでいきなり、おなじみ捜査一課トリオ唯一の妻帯者・三浦刑事(大谷亮介さん)リタイアという衝撃展開が来ました。大腿部のジャックナイフ刺創が予想外の深手で一生杖が手放せない身体になり、現場を愛する三浦さんは内勤転属の慰留をことわって依願退職の道を選んだのでした。まさかの(おい!)警部補試験合格と係長昇任の直後で、逃走した容疑者(しかも皮肉なことにメイン犯人には程遠い格下小物)を三浦さんひとりで全力疾走追跡という、シリーズ中いまだかつてない絵柄に、不吉な予感はよぎったのですが。
 

三浦さんフィーチャーのエピソードといえばSeason 5の“せんみつ”が代表的ですが、脇役に徹した回でも、数多くはない台詞でぴりっと話を締めたり味を出したりいつもしてくれました。Season何だったか忘れましたが、“天才の系譜”“還流”“最後の砦”“暴発”など、三浦さんの台詞や立ち居で深みが出た場面はいくつも思い出せます。血気にはやりがちな後輩の伊丹刑事(川原和久さん)を“大人代表兼アニキ役”としてフォローしたり宥めたりガス抜いたりするときに特に精彩を発揮しており、退職の意思を告げられた伊丹が病室の外で号泣した心境もうなずける。
 

意外と次の回にもさらっと顔を出して残務整理とかしててくれないかなと思ったのですが23日放送の“殺人の定理”では本当に捜査一課“コンビ”に減員していて、あぁやっぱり三浦さんもう出ないんだ、としんみり実感。
 

“せんみつ”からは放送時期ベースでもう7年。窃盗常習犯・槙原(平田満さん)が同郷・三浦さんの諫めに心動かされてめでたく出所更生し、地元岐阜に帰って温泉を掘り当てていたら、三浦さんも湯治で足が治り復職・・なんて無理かな。安楽椅子探偵ならぬステッキ探偵なんてキャラもお似合いと思うのですが。
 

でも、まずは長年お疲れ様でした。これからも捜査一課と、ついでに特命係を見守ってやってください。
 

・・・とホロり感慨にひたっていた矢先、25日フジテレビ系放送の、それも特命係OB・寺脇康文さん主演『警部補・佐々木丈太郎』で思いっきり犯人役の大谷亮介さんに遭遇。まるで“三浦刑事リタイア”を待ってのオンエアみたい。たとえば特撮ヒーロー役を一年間なり演じると、その間は小さいお友達ファンの夢のため、同時期の別の作品で真逆の汚れ役は引き受けないといったことはありますけどね。三浦さんにもいろいろ大人の事情があったのでしょうかね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いい杏配

2013-10-21 02:14:28 | 朝ドラマ

 てなわけで多少辛口ウォッチングでスタートした『ごちそうさん』ですが第3週(1014日~)でめっきり良くなってきました。あんだけ背高ノッポでパリコレ体型で迫力ファニーフェイスの杏さんがどんどん可愛く見えてきているし、東出昌大さんの通天閣=悠太郎も、気がつけば味出し系の茫洋ノッポさんになっています。

 東出さんは12日(土)放送の土曜スタジオパークで杏さんと一緒に番宣トークしていましたが、素は一見の印象よりもっさりしていないというか、結構軽妙でトボけた、おもしろいキャラしている。なんとなく、役者として定着する前のARATAさんにも似た、捉えどころのないピュアさと、いい意味の不気味さが混じっていて意外に化けそうな気もしてきました。なんたって190センチ近いタッパにあの素朴な太眉童顔のギャップは大きな強みになるはずで、なぜ朝ドラより先に仮面ライダーかスーパー戦隊の“敵か味方か謎のキャラ”で来てくれなかったのかと惜しまれます(まだチャンスはあるね)。

 
迎え撃つ(?)杏さんはといえば「明治生まれの大正女学生設定に拘泥しないで自然体で」という演技指導がされているらしく、衣装こそ着物袴に長靴でも、挙措は現代の女子大生と変わらず、“作り込みました感”の無さがいまのところとてもいい方向に出ているように思います。高身長・大柄を“女子力の低さ”に重ねてコンプレックスに思う妙齢子女は昔も今も少なくないはずで、杏さんのざっくばらんな演技が女性視聴者の「あるある」「いるいる」「わかるわかる」につながっている。

 
しっかり画面を見ているとやはりパリコレ体型の痛し痒しというか、TVフレームの中で長い四肢を持て余すようなところも見受けられるのですが、アップになったときの顔芸が思いのほか闊達で、型にはまった美人さんタイプではないのですけれどとにかく見飽きない。

 
何より杏さんが朝ドラヒロインとして有利だと思うのは、忙しい時間に背中で音声のみ視聴でも、台詞の声がきちんと前に出て聞こえるということです。何を言ったか明瞭に聞き取れるし、聞いて思わず画面に向き直って見たい気持ちにさせる力もある。

 特に朝ドラの場合、放送時間フルに画面に正対していられない“ながら視聴”のウォッチャー比率が高いですから、声の聴きやすさ、注意喚起力はきわめて重要です。前作『あまちゃん』の能年玲奈さんも、演技力限定ではまだ発展途上でふにゃふにゃしていましたが、台詞を言い出すとちゃんと“ヒロイン”として前に出て聞こえました。存在感や“華”の有無で言えばヒロインと同格でも良かった橋本愛さんや足立梨花さんらはここがもうひとつで、台詞を発したとき他人物たちの声の地合いに混じってしまうのです。これ以前作を思い出してみても、ヒロインオーディション最終ラウンド惜敗組と思われる“ヒロイン親友”や“ライバル”役に充てられた女優さんたちは、やはり微妙に声がこもり気味だったり、ガスガスしゃがれ気味だったりしたものです。

 杏さんにとっては、演技キャリアの中で昨年の大河ドラマ『平清盛』での若き日の北条政子役が大きな財産になったかもしれない。あまり絶賛の評は聞かれませんでしたが、第1話の登場シーンからすでにして声に迫力があり、誰この人?とアップになるのを待つような気持ちにさせました。

 『ごちそうさん』でひとつだけ不満を言うとすれば、NHKの各種番宣・番組紹介でも、出演俳優さんの各所でのトークでも、“推しフレーズ”が判で捺したように「美味しそうなお料理がこれからも続々出てきます!」というところでしょうか。関係ないでしょうが、そんなことドラマに。ドラマがおもしろくなるかどうかに。

 「ロケ地の美しい風景」だの「有名デザイナー誰某による豪華衣装の数々」だの「愛くるしい子役さんの癒し笑顔」だのを売りにされるのと同じ。本末転倒でしょうが。

 「美味しそうな料理続々」がテレビドラマにおいてセールスポイントになり得るのは、“美味しい料理を美味しそうにプレゼンしたり、食べたりするシーンが数多く出てきて、それによっておもしろさがパワーアップする筋立てになっている”場合だけです。極端な話、“まずくてしょうがない料理をまずそうに食べる場面がアクセルになって、そのたびストーリーが快調に進展する”ドラマならば、「まずそう料理続々」だって立派にセールスポイントになり得る道理です。

 逆に、看板通りの「美味しそう料理」がこれでもかと連チャン披露されたとしても、“料理を見せるたびに話が止まる”ような構成になっていたら、まるっきりの“逆セールスポイント”です。

 「美味しそうな料理」の絵をひたすら、たくさん見たいなら料理番組やレシピサイトに行けばすむ話。料理・食がテーマでありメインモチーフなドラマなのはもう耳にタコができるほどわかりましたから、「美味しく食べるたびに、もっと!おかわり!ぐらいの勢いでおもしろくなっていくお話です!」ぐらいの修辞は使って推してほしいものです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

杏も応もなく

2013-10-10 01:42:36 | 朝ドラマ

 『あまちゃん』がめでたく完結して、樹液が結晶して琥珀になるように“固体”になり、さぁこれで心ゆくまで掘り下げたり引っ掻いたりできるぞとワクワクしているところですが、その前に早くも次作『ごちそうさん』930日からスタートしていて、否応なく目に飛び込んでくるわけです。 

7日から第2週に入り、いままでのところ手堅い作りはしていると思いますが、見逃せないと思わせる求心力はもうひとつ。
 

大正11年の仲良し女学生3人組が並ぶと、前田亜季さんと宮嶋麻衣さんは一応「“女優さん”が“ドラマの芝居”をしている」ように見えるけれども、ヒロイン=杏さんだけはどう考えても「“モデルさん”の“コスプレコント”」に見えてしまう件、これはもう予測されたことなのでよしとしましょう。あれだけプロポーションが日本人離れしていると、どんな衣装でどんな舞台装置に放り込んでも突出してしまう。杏さん本人には何の落ち度もなく、ひたすらキャスティングした側の責任。オファーした以上覚悟はあるはずです。
 

1週の6歳め以子(豊嶋花さん)のイチゴを求めて大冒険譚といい、2週の「ヤな奴転じて気になるあの人」といい、シロウトでも先の見通せるわかりきった展開に尺を割きすぎで、意外性が皆無に近いことも、まだ咎め立てするのは早急に過ぎるかもしれない。
 

2週から登場の帝大生悠太郎(東出昌大さん)とめ以子の会話シーンも大いに問題含みです。二人とも、演技の危なっかしさが同じ程度なので、見ててハラハラし通しで萌える暇がない。前代未聞の朝ドラ2作連続出演となった東出さんは、『あまちゃん』の80年代大吉っつぁん役のほうが何倍も輝いていたと思う。こういう、棒立ち系の大根くんには、バカとハサミ同様に使いようがありまして、キャラで押し切れる役に充ててやれば驚くほど精彩を発揮することがあるのに、押し切れるキャラに役が造形されてないから辛いのです。
 

関西出身で帝大建築科に学ぶ悠太郎は“小理屈天然”くんですから、こういうキャラを輝かせるには、そばに直球さわやかくんか熱血くんを置くのがいちばんいいのに、それが不在。

 スーパー戦隊がなぜ何十年もレッドとブルーで、去年も一昨年も今年もレッドとブルーでいろんな設定の物語を回せて来られたのか、考えればすぐわかることなのに。朝ドラにありがちな“ヒロインありき、何がさておきヒロインありき”で人物を配置するからこうなる見本。

 

まぁお話本体に駄目出すのはもう少し見守ってからでいいと思っていますが、いちばん気になるのは台詞のはしばしに時代感が稀薄なことです。

 
1週め、お寺の供物のイチゴをめ以子の一計でまんまと手に入れた源太(屋島昴太さん)たち男子悪ガキ「これそもそも食いもんなのかって話になってよ」は、ガキの背伸びっぽくてまだ微笑ましい部類でしたが、2週め女学生め以子が教科書の『枕草子』の一節に食いつき「そういう事(=平安時代の“イチゴ”は木苺のことだと)は清少納言さんちゃんと書いとけ、って話よね」はいただけない。め以子は健康的で天真爛漫だけれども女らしい慎ましさに乏しい、という描写の一環であるにしてもです。
 

「食いもんじゃねぇかもって、○○が言い出してよ」と言わず、あるいは「ちゃんと書いといてほしいわよね」と言わず「~って話」とあたかも一般論であるかのようなひとクッションを置く語法は、誰が何をどうしたのズバリ断定・きっちり限定を避ける日本流の婉曲表現のひとつですが、たとえば『あま』で上京デビューの夢が途切れ俄かヤンキー化したユイ(橋本愛さん)が「ハタチまでにデビューできんのかって話じゃないですか」と春子(小泉今日子さん)に自嘲ギレするナポリタンシーンならまったく違和感がない(「デビューもできずにハタチ過ぎちゃったらどうしようって、私、すごく焦ってるんです!」とユイ本当は言いたい)けれど、設定大正ロマン時代の高等女学校生が発すると一気に嘘くさく、物語世界が軽薄になり、いやがうえにも“コスプレコント”感が増してしまう。

 ドラマは台詞で大半造形され、受信されていくのだから、台詞の細部から設定の時代の空気感を立ちのぼらせていくことはいくらでもできるし、いやしくもドラマならばやらなければならない。お茶の間視聴に心地よい非日常感、別世界感をプレゼントするのが、報道にはできない、バラエティにもできないドラマの役割のひとつだと思うのですが。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

来てよ その日を飛び越えて

2013-10-06 02:06:09 | 朝ドラマ

  遅ればせにもほどがありますがいまさらながら盛り上がりましたですねぇ『あまちゃん』最終回。 

わくわく、ドキドキという点では925日(水)の、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子さん)ついに禁断のナマ歌ライヴ披露!急遽駆けつける影武者春子(小泉今日子さん)!袖ヶ浜ならぬステージ袖へ、走る春子がいつか80年代春子(有村架純さん)になり太巻(古田新太さん)がバトンタッチしたワイヤレスマイクの電池が吹っ飛んで!・・のシークエンスがピークだったかもしれませんが、土壇場になってどさくさばたばたと何かが決着し大団円づいてしまう結末ではなく、半年走って、行きつ戻りつして、それでも走り続けて「第1話の出発点に戻った」という終わり方は、本当に潮風の吹きゆく窓を開け放ったような解放感に満ちていました。
 

ただキツネに化かされたみたいにぐるっと回って元に戻ったわけではありません。

 地理上は同じ地点でも、望む風景、肌に触れる空気は大きく変わった。
1985年、地方の時代を喧伝されかりそめの興奮に沸く北鉄開通式の日、18歳の春子が母に背き東京を目指して去った北三陸駅は、2012年、地元アイドルとして震災復興の旗手となったアキ(能年玲奈さん)&ユイ(橋本愛さん)=潮騒のメモリーズが東京から、各地から多くのファンと復興サポーターを招び込む駅に生まれ変わったのです。
 

海開きの71日、3年ぶりのお座敷列車でのパフォーマンスを終えたアキとユイが、未復旧の区間の線路に下りて走り出す。翌年の全線復旧を待つホームに「この先へ!」の手書き横断幕が見えたときには大げさでなく胸が震えました。思えばこの約半年、アキちゃんだけでなく劇中の北三陸の人たちのなりわい、喜怒哀楽をTVのこちらで見守るとき、通奏低音のように2011311日になると・・」の思いが横たわっており、神様でもない自分がそれを知っていて、劇中の人たちにそれを告げてあげるすべがないことをずっと申し訳なく思っていた。あと2年で、1年何か月で、“その日”が来る・・と、間然するところのない小ネタやギャグやスベり芸にウケながらも、原罪のように胸のどこかに疼くものがあったのです。
 

アキちゃんユイちゃんが「この先へ!」の横断幕を突き抜けて走り出したとき、やっと心の底から、「もっと前へおいで、ここへおいで、いま君たちが走っているそこより明るく、希望の多いここへ」と笑って手を振ることができた。20127月にいるアキちゃんたちはアベノミクスを知りません。当然消費税率上げも知らない。そんなこたぁ知らなくていいのですが、東京五輪招致や、ウィリアム王子に長男誕生や、東北楽天マー君23連勝も知らない。「今でしょ」も、倍返しも知らないし、9か月後に始まる朝ドラがそれはそれは面白いことも知らない。

少しだけ過去にいる若者たちに「知らないことを知りにおいで」「見においで」と、未来から胸を張って言える幸せ。
 

遠い昔、母・春子が青春ツッパリの日々に、あてどない苛立ちをこめて「海死ね/ウニ死ね」と書いた堤防の白線を、軽々と踏み切って、いつかの夜その母と並んで歩いた灯台の道からユイとともに潮風の彼方を仰ぐアキ。鉄路にも、海にも、故郷にも人生にも「この先」がある。無限に未来はある。
 

アキたちが立つ海と、TVのこちら側のせせこましい空間が、ひととき“開通”して地続きになったような、彼女たち彼たちと同じ空気を吸い同じ風の匂いを感じることができたような、至福の最終回視聴体験でした。ありがとうアキちゃん、ユイちゃん、ありがとう北三陸。ありがとう鈴鹿さん、ありがとうハートフル。 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする