すごいものを見せられました。陸上男子100メートルのボトル、じゃなくてベルト、じゃなくてボルト選手。
世界新9秒69。破った従来レコード9秒72の保持者も彼ですから、何のことはない自分で自分の背中を追いかけて、かわしてゴール、みたいなもんですね。
昔の松田聖子さんの曲に♪ I will follow you 翼の生えたブーツで~ というフレーズがありましたが、まさにシューズに羽根でも生えていたかのよう。五輪ファイナリスト8人、ワールドトップクラスの選手ばかりコマを揃えているのに、彼だけ別の重力圏にいました。
ゴール前すでに、ゴーオンゴールドじゃないけど「ブレイク限界!」という感触があったから、あのヒゲダンス風フォームになったんでしょうな。正味集中して突き抜けていたら、どんだけ縮めたかと空恐ろしくなります。
昨日の記事で、パワーストーンを媒介にした“宇宙との一体感、地続き感”回復の貴重さについて書きましたが、ヒゲダンス風になる前の、“一瞬の百分の一”ほどの時間、この人は確かに“宇宙が走らせてくれてるオレ”を体感したのではないでしょうか。
ところで、陸上や競泳など、スピード=タイムの“短さ”を争う競技の場合は、記録が“良い”“良くなった”場合は「縮める」「詰めた」でいいんでしょうね。案外な結果に終わった場合は「記録は“伸び”ませんでした」ではなく、「ふるいませんでした」「平凡な記録に終わりました」。
逆に同じ陸上でも高跳びや幅跳び、投擲競技など“数字が大きいほうがいい”種目だと、良いときに「伸びました」「伸ばしてきました」。
一方、一夜明けて女子マラソンは、圧勝のトメスク選手より、2位ヌデレバ選手のスタミナとクレバーさが脳裏に焼きつく結果となりました。スタジアムに入ってからの周春秀選手とのデッドヒートはなかなかの見応えでしたよ。競馬の“勝とうと思って動くと、動いた分だけ負ける”を地で行く感。スタジアムに入ればスタンドの圧倒的な声援を意識して、中国選手は必ず前に出る。その瞬間を虎視眈々と狙って、それまでは絶対に自分からは仕掛けないと決めていたんでしょうね。
見事にはまって、一度銅になったのが銀に戻ったけど、「でも、前にもう1人いた」。
日本勢は22歳中村友梨香選手が、二番手集団から大きく置かれずにどうにか踏ん張ってくれたのが救い。直前棄権した野口みずき選手は、出ていれば当然全選手の目標にされただろうし、いまにして思えばかなり早い時期から“落とし所を探って”の高地トレ早期切り上げ、帰国入院公表だったんじゃないかという気がします。土佐礼子選手は、昨日今日突然発生した外反母趾じゃないんだから、野口選手がどうしようが関係なく、“撤退する勇気”を持つべきでしたね。ちょっと放送に耐えないというか、モザイクでもかけたいような絵ヅラになってましたから。
例によってラジオで、アナログTVの音声だけ聞いていたんですが、放送席解説の有森裕子さんの独特の低テンションがおもしろかった。終盤、スタジアム“鳥の巣”が選手の視界に入ってからのコース形態が、鳥の巣外周を半周ぐらいして、一度折り返してから初めてスタジアム内に入って行く格好になっていることを「“入りたいんだけど…”という感じなので」と表現していました。わはは。『星のフラメンコ』みたいじゃないか。現役時代のレースは、“静かに白熱し”“最後に赤い炎を噴く”ストイックなイメージだったのですが、解説者としては、なんか飄々としておられますな。
久しくお顔見ないけど、あのこぢんまりかわいいご主人はお元気かな。便りがないのは良い便りというやつかな。