イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

頓知彦一

2009-07-31 20:48:19 | 夜ドラマ

“家族を描かない家族ドラマ”というところでしょうか、『任侠ヘルパー』4話(730日)。

最大公約数的な、所謂“まともな”家族が一組も登場しないことによって、逆に、家族の大切さ…と言うより、人間が、とりわけ現代の日本人がどれだけ“家族依存”であるか、正にも負にも家族に呪縛された存在であるかを浮かび上がらせるドラマとなっています。

親や祖父母やきょうだいのみならず、いとこやハトコも取り混ぜて年中わいわい卓袱台でメシ食っては笑ったり怒ったりキャッキャとやってる類いのドラマがことのほか苦手な月河、こういう、“家族を描かない”ことで“家族”の重さを浮かび上がらせるドラマを、「オマエ、実はひそかに待望してただろ?」…と思いもかけず告げられた思いです。

 前回第3話、“親切でも、介護が済むと帰ってしまうヘルパーさんより、虐待されてもずっとそばにいてくれる家族がいい”と言い、身体中アザだらけにされながら「孫は悪くない、本当はいい子だ」と孫の名を呼び続ける老人に続いて、今話は家族に寄りつかれず(夫は死別、娘2人はともに嫁いで音信なし。2人いるから、しかも息子じゃなく、息子の嫁でもなく娘2人だから、2人とも寄りつかない…というのは意外によく聞く話)、愛想のいいボランティアヘルパーに金銭を詐取されていながら「詐欺だっていいじゃない、優しくしてくれたんだから」「また来て欲しいけれど、(詐欺が露見して)もうここに来てくれないなら、せめて(逮捕されず)逃げ切ってほしい」と言うナツ(島かおりさん)。「悪いのは放ったらかしにしている家族のほう」「(金銭詐取は)面倒みている私がもらう当然の報酬」と豪語する詐欺ヘルパー・綾(山田優さん)。

詐欺は働いたけれど、もとは父親が公認介護施設を営み借金苦で過労死したのを目の当たりにしていた綾は、“制度に縛られず高齢者が本当に喜ぶことを存分にしてあげたい”という純粋な動機もちゃんと持っていて、詐取した金銭は親の債権先の鷲津組に吸い上げられる被害者でもありました。しかも“カモ”呼ばわりしていたナツから巻き上げた後一目散には逃げず、約束した亡きご主人の墓参りを果たしていたところを彦一(草彅剛さん)とりこ(黒木メイサさん)につかまりました。

綾を“タイヨウ”に連れ帰って、行方を案じていたナツたちの前に突き出した彦一が「詐欺師なら、感謝されたまま逃げんじゃねぇよ」「騙して逃げるなら憎まれろ」「許してほしいと思うなら、ちゃんとスジ通せ(=詐欺だったと認めて謝れ)」と言う、その論法がいいですね。“純粋な動機をいま一度思い出して、詐欺なんかしない優しい綾さんに戻りなさい”とは言わないわけです。ここらが“任侠”“極道”ならばこその、裏返った倫理観、スジ観。

彦一が綾を本格的に怪しみ出したきっかけも、綾の行き届いた愛嬌ぶりから、1話で自分が別の老婦人をカモっていた頃の我が振りを思い返して“似てる”と感じたことから。自分を正義で真っ当だと思っていないからこそ、彦一は人の悪意が読み取れるのです。

描写的にはナツも、綾に手玉に取られたかわいそうなだけのお婆ちゃんではなく、リハビリすれば歩ける身体なのに車椅子にしがみつき墓参を頼むなど“わがままを聞いてくれさえすればと甘え放題”な、老人独特の利己的ないただけなさも微量備えており、綾だけを一方的に悪にしなかったのも効いていました。

 先日27日の『SMAP×SMAP』ビストロに、松平健さんとともに加藤清史郎さんも来店していましたね。ウチの高齢組のように、完全に清史郎くん目当てで視聴している向きも少なくないと思うのですが、彼が扮する涼太が、大人たちのメインストーリーに振り回されたり容喙したりしてお涙を頂戴するのではなく、ちゃんと涼太なりの子供の世界での悩みや困難を生きていて、しかもそのサブストーリーがメインと並行シンクロしているところがこのドラマ、実に好感が持てます。

涼太が学校でいじめに遭っているのは、母親の晶(夏川結衣さん)が介護事業で社会的に目立つ立場におり、“高齢者相手に悪どく金儲けしている”と(たぶん同じ母親族から)陰口されているからなのですが、彦一の「遠足は家に帰るまでが遠足、仲直りするまでがガキの喧嘩」というクチの荒いアドバイスを受けて、涼太は仕返しパンチを見舞って負傷させた級友の家を訪ね。不器用ながら「ごめんな」のサインを送ってめでたく和解を果たします。しかもいじめられ鬱積が爆発しての仕返しパンチは、2話で「なんでやり返さねぇんだよ、プライド無ぇのか」と彦一にハッパかけられて海辺で特訓した成果でもあり、「殴れば殴った分、自分の手も痛む」ことを初めて知った涼太。介護をめぐるメインストーリーからは独立して(でも接点は持ちつつ)、涼太の幼いなりの成長が描かれているのがさわやか。

もちろん『天地人』の与六人気に便乗がてらの起用なのは見え見えなんですが、清史郎くんの、ほかの子役さんでは出せないいちばん良い表情が、要所でちゃんと出るように脚本が書かれ演出もされている点、お見事としか言いようがありません。多忙な母が、誕生日プレゼントに立派なグローブを買ってくれて破顔しかけたものの、“これでキャッチボールしたい!…けど相手がいない…”と気づいて表情を曇らせる瞬間など、演出するほう、されるほうともにお見事過ぎて心憎いほど。

エンディング間近、先方の母親からの電話で涼太が謝りに行ったことを知った晶に優しく微笑まれて、オレンジジュースを手にドギマギ、つっつっつ…と自室に帰る歩き方のかわいいこと。月河も思わず高齢組とともに「かわいー♪」とバカになりそうになりました。野菜はほとんど、果物もあらかた食べられないとビストロSMAPでカムアウトしていた清史郎くん、ジュースならいけるのね。

先週のゲスト、鬼畜孫・忍成修吾さんほどではないけれど、美人ナイスバディ詐欺ヘルパーに扮した山田優さんもかなりのナイスキャスティングだったのではないでしょうか。お世辞にも演技派のイメージはないものの、持ち前の容姿で“エゴ派手系”悪女役は得意としているし、何より“巧緻な頭脳派”感や“本当はかわいそう”な雰囲気が微塵も無いのが、このキャラに関してはヒットでした。PCにカモ老人のデータ入れて一生懸命企んではいてもアタマ隠してヒップ隠さずみたいなところ、墓所で彦一&りこに追い詰められて開き直る場面にしても、ふてぶてしいはふてぶてしいんだけど“ワルさが単純”。偽名がレイコにカオリにアユミって、発想がどこかキャバくてミズっぽいのも山田さんが扮する詐欺師役にふさわしい。

ぶっきらぼうだがスジを通す彦一を、任侠くんとは知らずにひそかに好意を持つグラマー新人ヘルパー晴菜(仲里依紗さん)、「男の趣味わりいな」と冷やかしつつ自分も彦一が気になるりこ、だんだん激しくなる晶の頭痛と物忘れ。そして晶がめまいの拍子に偶然抱きついて見てしまった、彦一の胸の彫り物。準1話完結ワンテーマを扱いながら、「この先、この次、ここんとこどうなるんだろう」と思わせる引きをテンコ盛りで、久しぶりに54分が短く、CMが長く感じられる、次週が待ち遠しく感じられる連続ドラマが出現。

『つばさ』が戦隊のノリだとしたら、『仁ヘル』の“読後感”は『仮面ライダー555あたりと似ているように思います。全体的にはダークでヘビーでグルーミー、葛藤と“謎引っ張り、疑問引っ張り”に満ちていて、爽快さや明快さとはいちばん遠いところにあるドラマに思えるのですが、レギュラー・ゲストともにそれぞれのキャラや背負っている設定モチーフがいちいち嵌まっていて、何がどうでも結末まで見届けずにいられない。

任侠チームの嫌味インテリ担当・六車(夕輝壽太さん)の、確信犯的に“狙ってムカつかせる”佇まいなど、『555』のカイザ草加のようでもあり(下の名前も同じ“雅人”)、ラッキークローバー・センチピード琢磨のようでもありますね。

綾を呼び出し詐取金を上納させる鷲津組の若い衆役で、『白と黒』の小林且弥さん再び登場。今話は台詞はありませんでしたが、ポケットに両手を突っ込んで、あの長身がナチュラルに百済観音みたいにS字をなす格好が実にヨコシマな雰囲気でいいですな。1話では彦一をフクロにする場面があったけど、全体的にふにゃっとして“ガチの喧嘩では強いのか弱いのかわからない”感じもいい。ビビッド原色の、サテン系のツヤあり気障キザシャツも相変わらずよくお似合いで。

ちょっと首をかしげたのは、彦一らに促されて綾がみずから詐欺を認め警察に出頭した後、鷲津組が彼女をシノギの手先に使うことをやめてくれるよう、彦一が鷹山(松平健さん)に直訴、鷹山も応じて鷲津組の偉いさん(山田明郷さん)に一席もうけて話をつけてくれたように見えた終盤のくだり。彦一がサシで鷹山若頭にものを申せる立場なら、タイヨウで研修“させられる”には及ばないのでは。

タイヨウが鷲津組なり、マル暴警察に目をつけられるようになるのは、隼會としても都合が悪いからということなのかな。彦一ら若い衆レベルでは、鷲津組と聞いただけで緊張感がはしるようだけれど、上のほうは是々非々で、結構話が通じるようでもあり。

“任侠”というウラ倫理観が軸をなしているからこそ新鮮なお話なので、上下関係や敵対の図式に関しては、ある程度がんじがらめなほうがいいのではないでしょうか。

どうなるかな最終話。「あんた案外お節介だな、死んだ兄貴に似てるよ」と、自分にとって唯一無二の存在だった男性を引き合いに出してまで遠回しに彦一への思いを覗かせるりこに幸あれと、同性としては思いますが、あまり恋愛方面にハッピーな展開は用意されていなさそうなドラマでもあります。

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孫にも意匠

2009-07-30 00:48:45 | ニュース

麻生太郎さんという人、総理大臣就任前から、“頭がいい”“切れモノ”タイプではないし、さりとて“性格や人柄が良さそげ”にも見えないものの、とりあえず総理経験者の孫ではあり、“毛並み・育ち”だけは良いだろうと、世の中大方は思っていたと思うのですが、どうやら致命的に言語センスのない人だったようですね。頭脳がどう性格がどうっていうんじゃなくて、ものがわからない、カンがはたらかないにもほどがある。

「働くしか才能がない」はないでしょう。“才”の一字取ったら、「能がない」になるもの。高齢者でなく、若いミュージシャンや漫画家だって、「アンタは音楽しか能がない」「漫画描くしか能がない」と言われたら結構キレますよ。

と言うより、選挙控えて“アゲて”行かなきゃならないときに「~しか~ない」というベタネガティヴな修辞がすでにアウトですわね。「元気な高齢者は働くしか才能がない」と言わずに、「元気な高齢者のいちばんの才能は、働く、勤勉である、これこそ一生すりへらない最高の才能です」となぜ言わないのか。

80(歳)過ぎて遊びを覚えても遅い」と言わずに、「人間80歳、新しい遊びを覚えるのもいいが、80年の人生分つちかってきた“勤勉さ”で輝く、社会に貢献する、お爺ちゃんお婆ちゃん物知りだね、頼りになるね、ありがとうと若い人に喜んでもらう、お爺ちゃんお婆ちゃんのような仕事のできる人に、ボクも、私もなりたいと言われる、これ、ゴルフやゲートボールや社交ダンス習うより、何倍も楽しい80歳だと思いませんか」と言ったらどうだったか。

これくらい、言葉やスピーチのプロでもなんでもない、ドシロウトの月河でも速攻思いつきます。演説って綺麗事でも、多少大ボラでもいいんですよ。聞いててなんらかの“アゲ”があれば。

毛並みのいい麻生さん、何だかんだで現職総理大臣、日本の国でいちばん偉い人なわけです。モノは言いようだということを、教える人がどうして周りにひとりもいないのでしょう。

教えて教えられるもんじゃないってんなら、せめて、「こうれいしゃは、はたらくしかさい…」まで言った段階で、「ヤバい!」と察知して、後ろから羽交い絞めにして、あの角度のついたおクチにサルグツワかまして黙らせる俊敏な“逆シークレット・ポリス”はべらせておくとかさ。野放し失言垂れ流しさせて、後ろで指さして笑ってるような卑怯な真似しないで、何か防護策、救済策、政府与党の皆さんも「頼りないけど選ばれた人だ、あのボスが失脚したら、オレらも失業だぞ」ぐらいの危機感持って考えればいいのに。そういう、身命を賭してくれる真剣なブレーン、ガーディアンが身近に誰もいない時点で、やはり麻生さん、総理のウツワじゃなかったんだなぁと思うのです。

『夏の秘密』43話。蔦子さん(姿晴香さん)の期待通り、リフォーム依頼の顧客(←蔦子旧知の車椅子の娘さん)と打ち合わせのためあの下町を再び訪れた紀保(山田麻衣子さん)の“友がみな我より偉く見ゆる日よ”的な状況でした。

一年を経て、柴山工作所は借金を克服し工員も増員して新工場の落成待ち、フキ(小橋めぐみさん)はその社長におさまり、伊織(瀬川亮さん)は新人工員の指導にあたっている。自殺未遂・不起訴の後「仕事が見つからない」と嘆いていた引きこもり博士・柏木(坂田聡さん)も技術開発担当として工作所の一員となり、宅建主任試験に合格した雄介(橋爪遼さん)は家業を継いで「若社長」と呼ばれている。

皆が前に進み、輝きを増しているのに、自分だけがあの日、亡き母の犯した罪と憎しみに震えた日のまま凍りついている。龍一の求婚にこたえ結婚することもできず、さりとて婚約解消も受け入れてもらえず、アトリエ主宰でありながらデザインも描けなくなって、パートナーの杏子(松田沙紀さん)に申し出られるままひそかに代筆させている。

紀保にはすべてが、“ガラスを隔てた輝き、笑いさざめき”に見えたことでしょう。あたかも拘置所に囚われて、窓から外界の太陽を見ているように。

工場の将来やネジのことを語るときだけ心底からのポジティヴさを垣間見せるものの、“本当は幸せ全開じゃないんだよ光線”をひたひたと放ちながら紀保を気遣い注ぐ伊織の眼差しも切ない。この43話が、いままででいちばん“哀切なラブストーリー”らしかったように思います。

振幅が大きくては成立しない役を、“イン/アウトコーナーの出し入れ”で表現する、瀬川亮さんの静かな力量に日々驚いています。同年代近似期デビューの俳優さんたち比ではタッパで目立つほうではなく、顔立ちのパーツも小作りめで決して“表面積”が有利なタイプではありませんが、“すべてが順風で動き始め、過去は振り返らないことにした、でも…”のイエスバットが、これだけ見せられる人とは正直思わなかった。あるいは『夏の秘密』、何年か後に、真っ先に“瀬川亮さんのドラマ”として想起される作品になるかもしれません。

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月が運んだレモン

2009-07-29 00:26:09 | 昼ドラマ

昨日(28日)の記事で、KIRINコクの時間の味を「バックスクリーン直撃満塁弾ほどではないけど、走者一・二塁で右中間抜いて打点1なお一・三塁ぐらいのカタルシス」と書いたら、知人から「右中間抜けたらバッターランナー二塁まで行けるだろう」と、まことにもって空気読まないご指摘をいただきました。

最終的に一・三塁にとどまる程度の味だと言いたいなら、“右中間”じゃなく“ライト前”とすべきではないか、ならば一塁に止まっても正解だ」とのこと。

ちなみにこの知人はコクの時間を飲んだことがありません。飲んでもいないそのクチで言うわけですよ。空気読まないにもほどがあるでしょう。

流れで喩えたまでだから別にいいじゃないか。右中間だって捕ったライトの体勢と肩がよくて、打者走者の足が並み以下で、一塁コーチが弱気だったら一塁に止まることだってあるだろうによ。しかも“一・三塁”に落ち着けたことによってだ、「“一塁走者が本塁欲張って3アウトになったような”味ではない」という含みも持たせてるじゃないかよ。だから野球好きはケツの穴が小っさ…じゃなくて、えーと、臀部の開口部がスモールでござりまするなと申し上げたてまつるのでござりますよ。

…マンドラ坊や(@マジレンジャー)か。

あと、昨日“復刻してほしいビール系飲料”に、KIRIN良質素材を入れようか迷ったのですが、魅力だった点のうち少なくとも“清冽さ”に関しては、コクの時間に十二分に引き継がれているので、ノドから血が出る勢いで復刻を切望するほどでもないかと思い、入れませんでした。飲む人によっては、コクの時間が売りにする“コク”を、“不要な酸味”と感受し、「これなら良質素材のほうがましだった」と思うかもしれない。月河も、味に関しては良質素材の“甘寄り”な、リキュールっぽい軽快さも憎からぬものだったと思いますが。

いちばん魅力だったのは、“夏向け商品なのに敢えて赤”をチョイスした缶パッケージデザインですね。このラベルが棚から消えて一年以上経ちますが、いまだメインカラー赤の装いでデビューする新ラベルは出てきていませんね。春~夏季リリースの商品はやはり冷凛感のある金・銀色が主調のようですが、良質素材のような、地色いきなりの“赤ベタ”はかなり目立つはずです。どこか試しませんか。もちろん中身も美味しければなお良し。

『夏の秘密』は昨日41話で峰ひとつ上り終えて、見える風景が変わったようです。死を選ぼうとした寸前を伊織(瀬川亮さん)に抱き止められた紀保(山田麻衣子さん)が、自身を運命に捧げるように静かに一線を越える成り行きもさることながら、事後の朝、先に目覚めた伊織が、まだ眠っている(ふりの?)紀保のハイヒールを揃えてやる場面がよかったですね。悪い男なら、あそこで靴は隠すものです。紀保が“自分と結ばれたこの地点”にとどまっているとは、伊織ははなから思っていない。

まあその舌の根もかわかないうちに、42話の“一年後”に再会しているわけですが。“最後に顔を見たのが、一線を越えた夜の月の光の下”という男女の、お天道様の光での再会はぐっとくるものがあります。それにしてもあの階段上を通りかかった男性、あんなに大量のレモンを抱えていたのは、週刊ザ・テレビジョンの表紙の撮りだめか。妻も愛人も妊娠中ってことか。

おもしろいなと思ったのは、紀保と伊織のひそかな惹かれ合いを早い段階で察していたと思しき、浮舟女主人の蔦子(姿晴香さん)の言動ですね。元芸者で、駆け出しの頃良家の御曹司との許されない恋を経験している女性でもあり、“婚約者がいても、他の異性に告られていても、一度点火した男と女の思いは止められない”とばかり、紀保・伊織それぞれにそれとなく、特に紀保には、赤裸々に焚き付けるような発言も一度ならずありました。

月の船が水平線に去った早朝、伊織から連絡を受けて(ここでいちばん最初に、職場である柴山工作所のフキではなく蔦子に連絡する伊織の心理も切実なものがありますが)「(昂奮して変調をきたしたという)お母さまの具合はどう?心配してたのよ…紀保さんも一緒なの?なぁんだ、そうだったの」と“事成れり”を読んだような応対で、電話が切れた後「紀保さんのこと、もう離すんじゃないのよ」と独り言を言っていたにもかかわらず、“一年後”の42話では「かれこれ一年になるかしら」と紀保のアトリエを訪れ、「龍一さん(内浦純一さん)はお元気?結婚なさったんでしょあれから」とシレッと訊き、紀保が「勉強(と冷却期間)を兼ねていまニューヨークに」と答えると「そうだったの?てっきり結婚なさったとばかり」と、紀保の浮かない様子を窺うような素振り。

元・花街の女性だからというわけではなく、この人の恋愛観・男女関係観は不思議に自由で、“離さない”イコール“他の男と結婚させない”ではないし、もちろん“相思相愛の幸福な成就”イコール“結婚”でもないようなのです。「伊織さんとはもう会わない」という紀保の“誓い”には否定的だったにもかかわらず、思う相手と事を果たした後、もともとの婚約者との婚約を破棄するでもなく、さりとて秘め事は秘め事のまま嫁ぐでもなくいる状態は、蔦子さんとしては“想定内”のよう。

婚約もしくは結婚していても、“心まで売り渡すわけではない”というのが信条なら、「牢につながれた囚人であっても魂は自由であり得る」と言ったマルクス=アウレリウスのようではありませんか。これでは牢につなぐ=結婚する側はたまったものじゃないですね。でも、演じる姿晴香さんのほどのよい浮き世離れ感(プーの弟・護を「人様の物に手を出した」と伝法にも庖丁持って追いかけた、祭りの夜の場面が効いていました)のせいで、蔦子さんにはあまり海千山千の性悪感がありません。嘘偽りや二枚舌腹芸を習い覚えずに育った令嬢・紀保に“余計なことを吹き込んでこのババア”と観ていて舌打ちしたくなる苛立たしさもほとんど感じないのです。

この一年、紀保とは会っていなくても、伊織はずっと柴山工作所で働き、夕顔荘に寝起きし、浮舟のお隣さんのままだっただろうに、「せっかくつかまえたのに、紀保さんから離れてはダメじゃない」と煽った様子もなさそう。でも、たぶんフキ(小橋めぐみさん)から頼まれたのであろう白無垢のドレスへのリフォームを紀保に依頼しに行くということは、もう一度紀保をこの下町に呼び戻し伊織と接点を作るためなのは明白です。

柴山工作所の街金対策で龍一が来訪したときの表情や会話からして、蔦子は龍一についても、紀保たちが知らない情報を持っているのかもしれない。伊織母(岡まゆみさん)の現況ぐらいは小耳挟みで凡そ察しているとしても、紀保母と伊織父との顛末など詳細かつ正確に聴取理解している描写はないにもかかわらず、確信をもって紀保・伊織のカップリングを押そうとする姿勢は、“何か知ってて魂胆がある”というより、もっと自由で透明(無色ではないにせよ)、そして不思議にふわっと低重力です。

昼帯の長尺さ、狭い人間関係の中での濃密な情念世界に、黒沢映画『乱』の狂阿弥のような、こういうカスミを食ってる的自由人キャラはひとりは是非必要ですね。たとえば昨年の『白と黒』などは、こうした人物がいなかったから、ただでさえ狭い物語世界がなお息苦しく広がりを欠いた。それらしい予感をまとって登場、動き出した人物は複数いたのですが、いずれも早めに退場したり、存在感を“地上的”にシフトしていきましたから。蔦子さんには最後まで透明感を保ち続けてもらいたいものです。

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マツはいないのか

2009-07-28 00:39:53 | CM

昨日(27日)の記事タイトルは、KIRIN“コクの時間”ファンとしては若干毒が過ぎたでしょうかね。いやホント、製品は美味しいんですよ。嗜好品ですから、あくまで好みですけどね。ここ1年ほどで試飲の機会があった発泡酒・新ジャンルの中では、バックスクリーン直撃の満塁ホームランというわけではないけど、“走者一・二塁で右中間抜いて打点1、なお一・三塁”ぐらいの適時性、カタルシスはある作品だと思います。少なくとも、他社の競合品SUNTORY金麦Asahiあじわい(ともに07年発売、現行販売中)くらいには“越冬”サバイバルしてほしいラベルです。

製品“本体”はまったく問題ないのですが、TVCMキャラの内田恭子さんの、全体的に美人さんでお洒落さんではあるのだけれど、ホレ、睫毛マスカラ限定で、どげんかせんといか…いや、あり得な…いや、トゥーマッチにドラスティックであるな、ということを言わんとして、あのタイトルになったのでした。悪気はないかんね。“ホップの真実”も期待してますんで。

 …そこでまぁ全体的にフォローというわけではありませんが、今日は“復刻してほしい、お気にだったビール系飲料”を思い出して挙げてみました。

 ①:まずはKIRIN“ハニーブラウン”2003年春、近場のローソンで初見。結局量販店やドラッグストアでの展開には(少なくとも当地では)なりませんでしたね。純ビールよりナチュラルに“甘”が勝つのが発泡酒の美点でもあり泣きどころでもあるのですが、このラベルは、原料にオレンジの花の蜂蜜を使うという“逆マジック”で、そこをまるっと“フレッシュ”という魅力にしました。純ビールを飲むとどうしてもつまみに塩辛いもの、味の濃いものが欲しくなるのですが、これはそういうことがなく、単体で飲んでも、天ぷらや寿司でない、煮物中心の和食の前に飲んでも美味しいと思えました。パステルというかクレパスで描いたようなパッケージデザインも大好き。ぜひあのデザインのまま復刻を。

 ②:同じくKIRIN“やわらか”。小岩井乳業と提携の乳酸菌を発酵に使い、alc.4.5%とソフトな口あたりを実現したという触れ込みで、こちらは04年の晩秋ぐらいにやはりローソンで初見。この年末はどすんと発熱を伴う風邪を引いて、M1アンタッチャブル優勝や紅白のマツケンサンバを臥せって視聴するような状況だったため、年明け“リハビリ”のようなノリで飲み始めたのですが、いま思えば“発泡酒入門”としてビギナーに勧めたかった。

発泡酒と言えば悪くすれば“ビールまがい”で、風味や芳香に関しては「ビールより薄くて当たり前」と思われがちですが、“ビールにはない、発泡酒だからこそ”の芳香も実は存在するのであって、「ビールは好きだけど、発泡酒なら、たとえ少々安価でもノーサンキュー」という人は、“薄さ”を嫌うのではなく、むしろこの“発泡酒独特の芳香”が、「ビールと似て非なる」がゆえに嫌っていることが多いのですね。

ビールにはない発泡酒独特の芳香とはどんなものかというと、良くも悪しくも“青臭い”んですね、発泡酒って。ホップ由来の香ばしさ単体とは、ちょっと違う。ビールの古典的なホップ香が“果実っぽい”としたら、“草っぽい”香りなんですよ。

これに慣れられないと、「だから所詮発泡酒は…」な人になるし、慣れて「これはこれでいけるね」と思えた向きは、「安くて美味しい、発泡酒ウェルカム」な人になるわけです。

KIRINやわらかは、この“発泡酒独特の草っぽさ”が、商品名通りやわらいでいる。乳酸菌発酵由来のほのかな酸味が青臭さを消す方向に働いているのか、もともと芳香の強くない原料配分なのかはわかりませんが、発泡酒“飲まず嫌い”の人のための“デビュー作”推奨として貴重なラベルだったと思います。09年夏、最近発泡酒市場もめっきり“コク”“本格”志向にシフトしてきているので、いま再発されてもトレンドではないかもしれないけれど、だからこそあえて。

③:SAPPORO WDRY(ダブルドライ)。新ジャンルの中では、いまでもいちばん好きですね。これを上回るラベルに、後にも先にも出会ったことがない。本州では最初からあまり展開されていなかったらしく、来訪した知人に軒並み珍しがられましたが、飲ませると全員好評でした。軽いんだけど、甘くないんですね。新ジャンルにつきものの“泡質”の粗さ、消えやすさもほとんど気にならなかった。出回っていたのは07年夏~冬の、正味半年ちょっとで、SAPPORO“麦とホップ”に新ジャンルの主力を移したため市場から消えてしまいました。このWDRYがひと夏で消えて、“麦とホップ”は2回目の夏を迎えている理由はまったくわかりません。やはりTVCMの出稿数、有名タレントを起用しなかったことが響いたのかしら。“やわらか”の項でも書いた通り、新ジャンルもさっぱりすっきりより、コクやコシや飲みごたえを重視する方向に、市場が08年から完全シフトしたということなんでしょうかね。

④:SAPPORO雫(しずく)〔生〕。これも、発泡酒持ち前の草っぽさおさえめなのが魅力でした。かつ“やわらか”と様変わって、マイルドでありつつほどほどふくよかなコクもありました。やはりなぜ廃番になったのかわからないシリーズですね。宮藤官九郎さんのTVCM起用も新鮮でしたが、せっかく起用するなら、「ただ旨そうに飲んでグラスをしげしげと見つめるだけ」じゃないヤツを脚本演出してもらえばよかったのに。

⑤:アサヒぐびなま。。(←“。”が重複しますが原文ママ、悪しからず)これは月河自身より、非高齢家族が気に入っていました。WDRYではさっぱりし過ぎで、同じ新ジャンル価格ならやや引っかかりのある味のこちらのほうが「買いでがある」と好ましかった様子。月河もWDRYが消えた08年春以降は新ジャンル内のネクストベストとして結構贔屓にしていました。マンガチックで脱力なデザインロゴが最後まで疑問だったけど、飽きない味であることは確かです。

ちなみにAsahiは発泡酒・新ジャンルで、どっかり重厚長大風味な“本生ゴールド”とか、ゲテモノとしか思えない“新生3(スリー)”など、ほとんど迷走に近い振り幅をさらしていましたが、爽快さ・さっぱり感こっくり飲みごたえ感、あと価格志向≒お手軽飲みやすさという三角関数を、いちばん深く考え抜いて(or考え過ぎて)いるメーカーさんなのかもしれません。

……ここらへんのラベルが復刻したら、6缶パックひとつずつ買って、一晩ずつ“ローテ飲み”してみたいですね。「なぜ廃番になったか」に思いめぐらしつつ。発泡酒新ジャンル、やはり流行りもの廃りものだから消長が激しいのは仕方がないか。

(商品によっては公式サイトが削除されているので、発売前の広報記事など、極力、商品概要とコンセプト、あとパッケージ画像のあるところを探してリンクを貼りましたがこれもご容赦を)

さてNHK『つばさ』に、紀菜子叔母さん(斉藤由貴さん)の夫として、長瀞川下り船漕手の富司(山下真司さん)登場。山下さんの“アナクロ暑苦し筋肉バカ男”キャラのセルフパロディは、もう堂に入っていますな。しかも“トミー”ってあなた。

こういう方向性の芝居って、志が高くない分、役者さんにはラクちんかしら。照れてやりにくいかな。でも自分の中に“得意キャラ”があるってのは役者として幸せだと思うのです。山下さん、だいぶ額が広くなった(よって顔面積が縦に長くなった)けどまだ向こう5年ぐらいはどこへ行っても「『スクール・ウォーズ』の泣き虫先生、好きでした」と言われ続けられそう。『太陽にほえろ!』のスニーカーは“殉職しなかった”分印象が薄くて終わったけど、それもかえって幸いしましたね。

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酷の時間

2009-07-27 06:51:41 | CM

812日(水)発売の岩本正樹さんによる『夏の秘密』オリジナル・サウンドトラック、本やCDDVDはできるだけ長い付き合いの地元の本屋さん、レコード屋さんを利用したいと思い6月に予約済みですが、ネットの通販サイトではもう収録曲数・タイトルも告知されているようですね。

“群青のシルエット”

“星屑の夜空”

“わき上がる雲”

“ガラス越しの空”

“湧き水”

…と、いつもながらにイメージ喚起力豊かなタイトル揃いです。

サウンドトラックCDで“誰某(←劇中役名)のテーマ”“○○ ~バージョンⅠ”“同 ~バージョンⅡ”“同 ~TV size”なんていう企画書まんまみたいなタイトルが並んでいて、ドラマオンエア時惹きつけられた旋律でも改めて聴く気が失せることがたまさかありますが、岩本正樹さんのこの昼帯枠劇伴は、じっくり聴ける時間がないときにジャケ裏のタイトルだけ読んでいても心が潤います。

35話冒頭、街金と成功裡に交渉し終え笑顔のフキ(小橋めぐみさん)と伊織(瀬川亮さん)を囲んで下町ご近所さんがささやかな祝宴を持った場面で流れた、メインテーマのカントリー風味なヴァージョンが、少女たちのフォークダンスのようでとても好きだったのですが、収録されているかしら。

ドラマ本編は24日(金)放送の40話で紀保(山田麻衣子さん)が伊織と訣別、龍一(内浦純一さん)によって伊織と自殺したみのりの本当の関係も明らかになった、ここからが物語の正念場でしょうね。

“ドラマが始まる現在時制以前に、既に起こってしまっていた(かつ、起こっていたという事実自体が叙述上伏せられていた)ことが、物語の現在進行を左右する”構成、特に昼帯で毎度毎度あるけど、どうにも視聴していて白ける話だ…と以前ここで書いた記憶がありますが、今作、伊織とみのりが周囲の他人たちからは“親密な相愛の恋人同士”と見られていたものの、実は事情あって生別した兄妹だったという真相に関しては、IORIMINORIのファーストネーム相似から観客にも早い段階で知れるだろうと製作側も“想定内”だったはず。こんなに名前の響きが似た他人同士のカップルなんて、“名前の響きが似ている”こと自体が作中でなんらかのネタになるラブコメでもない限りあるもんじゃありません。

えーーッ兄妹だったんだって!というだけでは、観客そんなに驚かないだろうことはじゅうぶん織り込み済みで、この先の展開は用意されているはずです。

 伊織みのりは兄妹、紀保の母は伊織の父の仇、伊織の母は紀保の父の何か(何だ)。…そんな事どもなんかに、ドラマの幕が開く前から観客に何の了解取りつけもなく裏でごそごそ決まっていて「実はこうでした」なんて後出しジャンケンみたいに提示された既定事実なんかに、人物の情念のベクトルが拘束されることなく、次の地平に突き抜けるストーリーが待っていなくては、ここまでの石垣の積み上げが何の意味もなくなります。さぁハードル上がった。

さてとっ、最近三日にあげず消費中のKIRIN“コクの時間”の新ヴァージョンTVCM、今日(26日)は昼間も酒類のCMオッケーな日曜、TVで初めて見ましたが、暑さ本番を迎えて“インドア篇”なのはいいとして、内田恭子さんの睫毛とマスカラが、ますますもって“どげんかせんといかん”レベルになっていますな(古いな)。

昔、「睫毛の上に煙草が乗る」を売りにしていた女性歌手がいて、バラエティでやって見せたりしていたものですが、そのうち、「コクの時間の缶が乗る!」ぐらいやりそうな勢いです。

そう言えば、「額のシワにハガキが挟まる」ってやってたのは誰だっけ。たけし軍団の松尾伴内さんだったかな。「パフェのチェリーのヘタに舌で結び目を作れる」ってのは…西村知美さんでしたっけ。河合奈保子さんでしたっけ。…つまんないことばっかり次々に思い出すな。

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