なんだかきいたふうな言い草になりますが、開会式の歌声少女は、録画でも一見しただけで「ナマ歌じゃないな」と思いましたよ。同じ所感の人、少なからずいたと思う。
PA使うにしても、あれだけの大きなハコに行き渡る絶唱してるとき、人間はあんな貼り付けたような妖精スマイルじゃいられません。イタリア辺りの、二重アゴのオペラ歌手みたいになるのが普通。
「顔が一番の少女と、(歌)声が一番の少女を選んだ」が主催側言い分らしいですが、あの顔、普通に気持ち悪かったと思いますがね。もう彼我の“美”“可愛”意識基準の相違を言っても始まらないですね。あの国とはね。
今日(14日)の放送でいちばん、と言うより唯一ウケたのは、男子体操個人総合で韓国かどこかの選手のゆか運動の演技前「ゆかではこの前(のラウンド?大会?)は、ワザを忘れて走り抜けるような場面がありましたが」と実況アナが言ったこと。だはは、やっぱりあるんだ。役者ならセリフが、歌手なら歌詞が、ダンサーなら振り付けが、ワンフレーズ、ワンシークエンス現場ですぽっと抜けちゃうって、ベテランでも、準備万端でもたまさかあるとは聞いていますが。でも、ゆか運動、止まるわけにいかないから走り“抜け”ちゃうんだ。
それとも、走り抜けてしまってから「アレ、いまんとこ何かワザやるんじゃなかったっけ、違ったっけ」って脳裏をかすめるのかな。そんなこたあないか。冨田選手の吊り輪やドイツ・ハンビュッヘン選手の鉄棒のように、ゆかは“落下”のリスクはないけど、代わりに“走り抜け”の恐怖があるわけなのだ。
内村航平選手が接戦の中、メダルなるかの鉄棒での「コールマン(←はなれワザ。高難度らしい)、つかめ、つかんだー!」も瞬間風速的にはかなりキテましたね。つかまない、つかむとき、つかめば、つかめ。活用表かって。
北島選手100平での終盤「落ち着けっ!」もすでに“名実況のひとつのカタチ”として評価定着しているようではあります。アテネ体操での刈屋“ポエマー”富士夫アナの「新月面なんちゃらかんちゃらは、栄光への架け橋だ!」のように、事前に“これこれこんな状況になったら、これを使おう”と“引き出しに仕込んで”おくタイプの実況ではなくあくまで現場ノリの実況。このほうが、それこそSPEEDOがある分“名”実況感がより優ると月河は思いますがどんなもんでしょう。一歩間違えば失言、“やらかしちゃいました実況”→「不適切な表現お詫びいたします」に変じる可能性の緊張感を、TVの此岸で共有できる点でも、月河はこちらのほうが好きで、つい期待してしまいますね。
再放送の『その灯は消さない』は第32話。当地の再放送枠がいつの間にか火~金の週4回になったので、なかなかスムーズに進まないような気がしていたのですが、資料によれば96年本放送時は全62話だったこの作品も、折り返しを過ぎたことになります。
それにしても律子(吉野真弓さん)が川合(大橋吾郎さん)をめぐって、継母・智子(坂口良子さん)とガチンコ対決を選ぶとは思わなかった。もう少し、もわもわ温っためるかと思っていたのですが、家族ドラマの体裁はとっていても、東海制作昼ドラですからね。もっと疾走感、振り幅があってもよかったぐらい。
憧れの室長のご家庭のためにとのエクスキューズつきで、律子の意中の彼氏=川合が智子と学生時代こってりワケありなことを調査ご注進した惑星・役員秘書桂子(麻生真宮子さん)も料理屋個室で「…ごめんなさいィ」とわかりやすく崩れてきた。
普通の家庭なら、娘が恋愛・結婚コンシャス年代になる頃には母親はオンナとして“使いきっている”はず。娘からすれば、母の“オンナ部分”を消費して自分がオンナになってきたという意識があるから、心のどこかに“父は多少機嫌をそこねても、母には喜んでもらえる結婚(花嫁衣裳姿、嫁入り道具選び、孫誕生イベント等を含む)を”と願う気持ちがあるものです。それが逆に、「年収や出身校が低めだけど、お母さんなら、愛想よく攻めさせれば人柄をみてくれるかも」と“つけ入る隙”扱いになったり。つらいところです適齢期娘のお母さんって。
『その灯』の堀口家は、律子がオンナ全速全開した時点で、智子のオンナが終わっていない。
と言うか、“解凍”されてしまった。家族の体裁をとってはいるが、智子と藤夫・子供たちの“人生曲線”“女性曲線”は不連続。世の中に、一方が子持ちスタートの再婚家庭はたくさんあると思いますが、堀口家の悲劇は、突き詰めれば若い後妻の智子がひとりだけ別の時間軸を生きている(或いは川合との再接触によって生き直しはじめた)ことに尽きます。
川合との結婚前提交際を認めさせるにも、律子は“わけあり感”を当初から放っていた継母を早くに相談相手としては見放し、父・藤夫単独で引き合わせ了解とりつけるという、常識の真逆を行く荒技に出たものです(桂子の極秘調査報告で思わぬ不首尾に終わりましたが)。
「あの人もオンナなんだわ」と律子が察した瞬間、律子にとって智子は“母”たり得なくなったのです。
かつてのNHKキャスター宮崎緑さん似の“ダッ○ワ○フ”風美人・吉野さん演じる“オトコの味覚えちゃった温室お嬢さん”律子と、ここへ来てややお顔の肉付きアップ気味なのが気になるちょいワル中年・大橋さんの川合が、いつまでたっても“逆風でも結ばれてほしいお似合いカップル”に見えてこないため、「なんか無理スジなことでごちゃごちゃしてんな」というツカえがいまだ付きまといますが、このドラマ、前にも書いたように、随所に“昭和の残照”が垣間見えるから再放送視聴として興趣尽きないということもあります。
夫子供未帰宅の、無人の食卓を台布巾で拭く夕食前の主婦・智子とか、酒を過ごして帰った藤夫に「あらあらパパ、ダメですよこんなところで寝ちゃ、健ちゃん(=長男)、ちょっと手かして」とか。
今日放送の32話では、智子が「娘と別れて」相談のためとの名目で川合とホテル?の疑いを秘め職場でもうわの空な室長藤夫に、稟議書を持ってきた社員が、室長席デスクの前で前に手組んで起立してる格好が、いかにも“昭和の尾骶(びてい)骨”という感じでした。さすがにもうないだろう、こんな会社、こんな社員、こんな議案の通し方。「すいません室長、ここにもハンコを」なんて。しかも室内、壁面天井までびっしり紙ファイル。背表紙見て手検索する女子社員。デスクにはブラウン管TVぐらいの巨大な箱型CRT液晶ディスプレイ。
時は平成8年、はじけたバブルになすすべなし“失われた10年”の真っ只中。どの場面でもどこか“化石した時間”の標本を見る思いです。