計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

たまには専門分野の話題も書いてみる

2013年10月30日 | 計算・局地気象分野
 私の専門分野は「工学的手法で局地気象にアプローチする」こと。要は数学や物理学をベースとした「数値シミュレーション」です。

 簡単に言うと、コンピューター上に地形などの”模型”をつくって、バーチャルな”実験”を行います。この「模型」の実体は、膨大な数の「計算式」で、これを「コンピューターの言葉」で書き上げます。そして、これらの計算を行うことで「実験」が進むわけです。


 コンピューターの筐体は、こんな(↑)感じです。この中に地形や大気の模型を作り上げていきます。


 地形はこんなイメージです。このような地形に、大気の温度分布と風の条件を加えます。このようなバーチャル模型のことを「数値モデル」と言います。この図はあくまでイメージで、その実態は3次元の数値データと莫大な数の計算式です。これをコンピューターの言葉である「プログラミング言語」で記述していきます。


 さて、計算が始まりました・・・。3次元空間を膨大な数のマス目に分割して、その一つ一つについて、そこでの大気の速度や温度などを計算していきます。これには時間がかかるので、その間は別の仕事に専念する。

 計算が終わると、流れ場のイメージが3次元の数値データ(数値の集合体)の形で出力されます。これを人間が見てもわかるように「可視化」します。

 例えばこんな感じ・・・

 (1)冬の季節風が比較的弱い場合のイメージ(クリックすると図が拡大します)


 (2)冬の季節風がやや強めの場合のイメージ(クリックすると図が拡大します)


 (3)冬の季節風が非常に強い場合のイメージ(クリックすると図が拡大します)


 この後は計算結果が正しいのかどうか検証・・・という流れ。


 さて、この分野では、数学や物理学の理論、そしてプログラミングに関する高度な専門知識が要求されます。しかし、それだけでは不十分。さらに次の「二つの力」が必要になると、私は思います。

 一つは「現象や理論をきちんと理解し、認識する力」。これは当たり前と言われるかもしれませんね。数学や物理学の理論の専門知識を正しく運用する力と言っても良いでしょう。

 そしてもう一つ、「自分が理解した内容を、わかりやすく表現する力」。簡単に言えば「自分の頭の中に描いたイメージを、頭の外に絵として描く力」と言っても良いでしょう。

 なぜなら「シミュレーション」とは、コンピューターの中に「模型」をつくってバーチャルな「実験」をすることであり、その「模型」は、自分の理解したイメージを頭の外に取り出した「表現」だからなのです。「自分の頭の中だけの理解」だけではなく、「外に取り出して理解できる」ものでなければ、そもそもコンピューターにはわかりませんよね。つまり、模型をつくる人は、単なる「技術者」ではなく「表現者」でもあると思うのです。
コメント
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