計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

モデリングの二つの考え方

2008年04月20日 | お天気のあれこれ
 一般的に「モデル」と聞くと、雑誌の表紙やグラビアを飾るファッションモデル等を連想する方が少なくないでしょう。ところで「モデル」を辞書で引いてみると・・・

(1)型。模型。見本。
(2)手本。模範。
(3)絵画・彫刻・写真などの素材となる人や物。
(4)文学作品などの素材となった実在の人物。
(5)ファッションモデルの略。

 理系の皆様は、この他に「自然現象を模式的に表現した形」の意味も加わる事でしょう。例えば、物理現象を模式的に表現した形も立派な一つの「モデル」です。これまでにも述べてきたように、物理現象の理論的な考察とは究極的には「分解する事」と「組み立てる事」に帰着します。物理学で学ぶ様々な現象に関する知識は、分解した時の部品(現象要素)の候補であったり、またはその部品を組み合わせるための指針です。

 数値モデルはその現象を再現する模型(モデル)をコンピュータの中に数値的に表現するようなものです。モデリングに際しては、大きく二つの方向性があります。それは、複雑な現象を複雑な状態のまま解く事を目指すのか、それとも与えられた現象を簡単化して解く事を目指すのかです。いずれにせよ、本質的な基礎理論が変わる事はありませんが、諸般の条件設定が異なってきます。

 前者の立場(複雑なまま解く)はより複雑な条件設定を必要とします。実に様々な部品を同時に連立して解いていくものです。また、局地風の流れも複雑であり、風のプロファイルなどを基に境界条件を設定しようにも複雑すぎて表現は難しいものです。実際のプロファイルを見ていると、例えば、上空は西風である一方下層では東風、といった具合に下層と上層で風の流れが逆向きになる事も少なくありません。分解と組立ての視点に立てば、複数の異方向流れが多重構造を形成している場であると考える事が出来るでしょう。

 一方、後者の立場(簡単化して解く)はより簡単な条件設定を必要とします。局地気象のある特定の現象の予測・解明を行うに当たっては、本当に必要な部品は何なのかを明確にし、それらを組み合わせて独自の理論を構築する事を目指します。局地風に関しても、全体的な流れの特徴を抽出し、その特徴を模擬した簡単な流れを新たに構築する事で、局地気象の再現を試みるのです。

 そのどちらがより良いのかを一概に断ずる事は出来ません。それはモデル構築の目的と手段、そして投入しうる設備やコスト、人員等の様々な設定条件が絡んできます。モデルを構築して何を実現したいのか、その根本的な問いかけに対する答えを真剣に考えてみる事が重要でしょう。

 ただ単に、安価なコストと手軽な操作により、超高速計算による高時空間解像度と高予測精度を誇る超精密・超精巧数値モデルが実現できる事は理想でしょう。もはや言うまでも無い事です。しかし、現実問題として見た場合にこれは無理な相談です。このような理想と現実の狭間に立って、その両者の折り合いをつけながら、限られたリソースと条件の中で最適な解決策を探っていく事は、技術者の使命です。
コメント (2)
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