温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

天ヶ瀬温泉 共同露天風呂 薬師湯

2013年01月26日 | 大分県
 
久大本線の特急「ゆふ」に乗って天ヶ瀬駅へやってきました。駅前から温泉街が広がる天ヶ瀬温泉は別府・湯布院と並んで大分県の3大温泉地の一つなんだそうですが、前2者に比べればはるかに知名度が低く小規模で地味な存在と言えそうです。九州以外の方で、天ヶ瀬と聞いてお分かりになる方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。



真上を国道210号の高架が走る特徴的な駅舎には駅員さんが常駐しており、念の為に湯めぐりする前に予め窓口で切符を購入すると、この上ない笑顔と明るい口調で対応してくれました。駅は外来客がまずはじめに接する玄関口であり、その土地に対する第一印象を左右しますが、この駅員さんのお陰により、私の中において天ヶ瀬に対する評価は早くも最高ランクへ急上昇です。


 
駅舎には観光案内所も併設されており、通りに面したところには温泉を引いた手湯や足湯が設けられていました。当地はゆずの産地なんだそうでして、それぞれの湯にはゆずが浮かべられていました。寒い冬にゆず湯へ入ると体の芯まで温まりますが、こうして観光客の目に触れやすい施設にゆずが浮かべられていると、その鮮やかな黄色い果実を見ているだけで温かくなりますね。



駅に近い橋の上から温泉街を眺望しました。玖珠川の流れに沿って両岸に20軒弱の温泉旅館が甍を並べています。また、この川岸に混浴の共同露天風呂が点在しており、今回はそれらをハシゴしてやろうという腹積もりなのであります。



同じ橋の上から上流側左岸を拡大してみました。川に沿った道路の下、ちょうどバスが走っている直下に張られている茶色いテントがわかりますか。


 
共同露天風呂の一軒目は、橋の上から見えた茶色いテントの「薬師湯」であります。道路から階段で河原に下りましょう。


 
コンクリで護岸された河原に石組みの浴槽がひとつ据えられ、頭上をアクリル波板が簡単に覆い、周りを茶色いテントで囲って目隠しにしているだけの、至って簡素な露天風呂なのであります。しかも混浴なのですから恐れ入ります。周囲の目隠しですが、入浴中の眺望を考慮して一部分は川に向かって目隠しされていませんので、そこからお風呂が丸見えです。河原を散歩している人がいたら否応なく視界に入ってきますね(^^)



「入浴料百円」とテントに直書きされています。「円」の右の棒が妙に右下へ長く払われているのはなぜかしら。


 
その100円は荷物を置く店の左側に固定されている金属の赤い箱へ投入します。脱衣エリアはと入浴エリアとは簾一枚が垂れ下がっているだけで、他に視線を遮るものなし。男でしたら着替えているところを見られたって痛くも痒くもないでしょうけど、女性にはちょっと厳しいかもしれませんね。女性の方には着替え用ポンチョの持参をおすすめします。



開放的でワイルド。いい露天風呂じゃありませんか。
お風呂にカランなんてものはありませんので、備え付けのケロリン桶(3つあり)で湯船のお湯を直接汲んで掛け湯します。河原にある無人の露天風呂ですが、地元の方の熱心な管理のおかげで、脱衣エリアも浴槽周りも、更には湯船の中も、ワイルドな環境にあるとは思えないほど綺麗に維持されており、実に気持ちよく利用することができました。この手のお風呂にありがちな浴槽内のヌメヌメは全くありませんでしたよ。


 
お風呂の山側、つまり道路の法面には、周囲に駆動音を響かせているポンプ小屋があり、そこからパイプを通じて浴槽へと源泉が供給されています。湯口のお湯は熱いものの直接手で触れる程度の温度でした。



お湯は無色透明ながら僅かに硫黄で白く霞がかってるいるようにも見えます。その見た目から想像される予想を裏切らず、湯面からは火山ガス的な硫黄臭とタマゴ臭を足して2で割ったような明瞭な硫化水素臭が漂い、タマゴ味と砂消しゴム的な味(つまり硫黄的な味)、そして重曹的なほろ苦さと石膏的な甘さが感じられました。ご覧のようなお風呂ですから加温循環消毒とは無縁な放流式の湯使いであり、訪問時は加水すら行われていない完全掛け流し状態でした。人によってはちょっと熱く感じる温度かもしれませんが、私の体には丁度良い湯加減であり、とってもオープンな露天風呂でタマゴ感溢れる掛け流しのお湯をノビノビと堪能させていただきました。



あまりに気持ちよかったので、ついつい自画撮りしちゃいました。本当にいい湯だ…。
駅から徒歩で10分も要さないほど近いのに、こんな開放的で野趣溢れる露天の温泉に入れるんですから、有難いことこの上ありませんね。


温泉分析表見当たらず
(含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉)

久大本線天ヶ瀬駅より徒歩約7~8分
大分県日田市天瀬町桜竹 地図
0973-57-2166(日田市観光協会天瀬支部)
日田市観光協会HP

9:00~22:30
100円
備品類なし(ケロリン桶が3つのみ)

私の好み:★★★
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久留米市田主丸 笹の湯

2013年01月25日 | 福岡県
 
九州7県の中でも福岡県は温泉資源に乏しいエリアですが、久留米周辺には意外と良質な温泉施設が点在しており、しかも掛け流しを謳っている施設も少なくないため、私が福岡で所用がある場合にはちょっと時間を作ってこの界隈へ足を伸ばすことにしています。今回は久留米から久大本線に乗り換えて田主丸駅で下車してみました。ホームではデカい河童がお出迎え。先代林家三平の「どーもすいません」みたいなポーズを決めているこの河童くんは、色合いといい下膨れの体型といい、どこか不健康そうで気味が悪い…。


 
仔細はよくわかりませんが、どうやら田主丸は河童伝説の地なんだそうでして、ホームにいた先程の河童はその伝説に基づいて建てられていることは想像に難くありませんが、竹下内閣時代の「ふるさと創生一億円事業」として地元の工業高校の生徒がデザインして造られたこのキッチュな駅舎も、当地の河童がモチーフになっているんですね。



ちなみにこの駅では、昨今貴重な存在となった補充券や常備券などが販売されており、マニアの間ではつとに有名な話ですが、私も手書きの切符には惹かれてしまうので、この日実際に用いる切符(補充片道乗車券)を一枚切ってもらいました。今回購入した区間ですと通常は金額が予め印刷されている常備券での発券となりますが、窓口の方に一言お願いすれば画像のような手書きの補充券で発券してくださいます。


 
田主丸からは吉井~久留米を結ぶ路線バスの久留米駅行へ乗り換えます。この路線の一部は駅前にも経由しますが、本数が少なくてちょっと不便であるため、駅前からまっすぐ北へ伸びる道を7分歩いた国道210号上にある「田主丸中央」バス停へ向かいました。西鉄バスはSuicaが使えますから、東京圏で暮らす私にとっても使いやすくて便利です。


 
「唐島」バス停で下車。目の前の「川会小学校前」信号そばには今回の目的地である「笹の湯」の看板が掲示されていました。


 
信号から長閑な田舎道をまっすぐ南下します。やがて巨瀬川に架かる橋を渡りますが、その橋の親柱には「昭和9年」と彫られていました。戦前の橋が現役なのかと感心したくなりますが、古いのは親柱だけで、他の構造物はすっかり新しいものに更新されておりました。



その橋を渡ると左手の路傍に社会福祉法人の名前とともに「笹の湯」の名称が記されている看板が立っています。ここでは看板の左手から土手沿いへ伸びる道ではなく、看板の右手から分岐する道を進みましょう。土手沿いの道ですと裏手に出てしまいます。


 
バス停から徒歩10分で「笹の湯」に到着しました。平屋建てで比較的新しそうな建物です。この施設は知的障害者などを支援する「社会福祉法人八千代会」が運営しており、温泉も広大な敷地に設けられた支援施設「田主丸一麦寮」の一角を成すもので、「笹の湯」の建物内では「レストラン田永」や「パン工房むぎっ娘」など飲食関係の営業も行なっており、以て障害者の自立を促進しているんだそうです。実際に温泉の受付窓口やパンの販売カウンターでは障害者の方々が元気いっぱいに働いていました。一麦という名称から察するに、会のホームページを拝見しても特に明確な紹介はありませんが、おそらく新約聖書の「一粒の麦」を意味しているんだろうと思われます。


 
とても丁寧な対応のスタッフに案内され、浴室へと向かいます。脱衣室も清掃がよく行き届いており清潔で綺麗です。洗面台は4面設置され、ドライヤーは2台用意されています。備え付けのロッカーは無料で利用でき、大きなバックパックでもすんなり入っちゃう容量がありました。


 
大きなガラス窓が嵌められている浴室には、石板敷きで8~10人サイズのゆとりある浴槽がひとつ、そしてシャワー付き混合水栓が6or7基設置されています。湯船のお湯は42~3℃といったところ。加水加温消毒循環が一切ない完全掛け流しの素晴らしい湯使いです。



ごく一般的な造りの浴室の中でどうしても突っ込まざるを得ないのが、隅っこに佇む石のカッパくんです。上述のように田主丸は河童に縁がある土地なので、浴室に河童の置物があっても何ら不思議ではないのですが、その格好がド変態なのです。右肩に魚籠を掛けているのはいいのですが、なぜか左手は不健康な中年男性の如く水平角度にエレクトしたオチン●ンを持ち、乳首をビンビンに立たせて、まるで自慰行為をしているかのような姿勢で、つぶらな瞳でこちらを見つめているのです。河童だから良いようなものの、これが人間だったら即座にお縄ですね。眼をクリクリさせて本能むき出しな行為に及んでんじゃねぇよ、このエロガッパめ!
足元の台座にはガーゼが被せられ、そこから比較的熱い源泉が供給されているのですが、湯船に入って湯口から吐き出されるお湯のフィーリングを確かめるべく、そのカッパに近づいてみますと、まるで大砲のようなカッパくんの息子が眼前に迫り、今にもぶっかけられそうな恐怖感に襲われてしまいました。AV女優の心境が多少は理解できたような気がします。
ちなみに「笹の湯」のHPを拝見すると、女湯には故富永一郎氏の漫画を彷彿とさせるボインのカッパが佇んでいるんだそうですよ。


 
下ネタ、大変失礼いたしました。
さて屋外に出て露天風呂へ。広い日本庭園の中に3人サイズの岩風呂が配せられ、湯船には屋根が掛けられています。いつもなのか、あるいはこの時だけなのかよくわかりませんが、お湯の嵩が浅くて寝そべらないと全身浴できませんでした。岩肌が湯面と接するところではオレンジ色の析出が線になって付着しています。


 
岩の間からお湯が注がれ、反対側の浴槽縁で口を開ける塩ビ管から排湯されてゆきます。こちらのお湯も完全掛け流しですが外気の影響を受けるためか内湯よりは若干ぬるめであり、鮮度感も内湯の方が断然明瞭でした。

さてさて肝心のお湯に関してですが、やや橙色掛かっているような薄い山吹色に笹濁り、湯華の浮遊は見当たりません。非鉄系の金気と土気そして重曹の味、そして薄っすらとした非鉄系金気臭が感じられます。分析表には硫化水素臭と記載されていましたが、今回私の臭覚では確認できませんでした。金気と土気を含みながらスベスベとした浴感を有するこちらのお湯は、前回まで取り上げていた山形県肘折のお湯にちょっと似ています。



露天風呂の奥には滝の落ちる池が静かに水を湛えています。晴れている日には彼方に耳納連山の稜線が広がっているんだそうですが、残念ながらこの日は悪天候のため望めませんでした。

さすが福祉関係の法人が運営しているだけあって、感心させられるポイントがありました。その中の数点を列挙してみますと…
・入浴着の着用OK。乳がん手術後などで他人に傷跡を見られたくない方でも気兼ねなく大浴場を利用できる。
・障害者手帳の提示で半額。
・下足場にて館内用スリッパに履き替えるのですが、退館時には使用後のスリッパを棚下のカゴに入れて使い回しをしないようにしている。神経質な人でも安心して利用できる気の利いたシステム。
などなど。福祉施設だからこそこうした細かな配慮が可能なのかもしれませんが、決して大規模な設備を導入するわけでもなく、ちょっとした運用の工夫をするだけでどの施設でも実施可能なサービスですから、是非他の温浴施設でも「笹の湯」と同じようなシステムを導入していただきたいなと思った次第です。素っ頓狂な変態カッパくんには笑ってしまいましたが、源泉かけ流しの良質なお湯が楽しめる、弱者の目線に立った優しい配慮が嬉しい温泉施設でした。


ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 52.9℃ pH8.3 200L/min(動力揚湯) 溶存物質1.77g/kg 成分総計1.77g/kg
Na+:610mg(97.39mval%),
Cl-:550mg(64.76mval%), HCO3-:470mg(32.15mval%),
H2SiO3:43mg, HBO2:59mg,

久大本線田主丸駅から西鉄バスの「久留米駅」行、あるいは久留米駅か西鉄久留米駅から西鉄バスの「田主丸駅前」「吉井営業所」「浮羽発着所」などの行き先(20・23・25番)に乗って「唐島」下車、徒歩10分
福岡県久留米市田主丸町竹野631-1  地図
0943-73-0828
ホームページ

10:30~20:00 毎週月曜および第2日曜定休
500円(毎月3がつく日は半額。詳細はHP参照のこと)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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肘折希望大橋の(仮)開通直前に、路線バスで豪雪の肘折温泉へ行く

2013年01月24日 | 山形県
※当記事にて記載されている内容は、肘折希望大橋が開通する以前(2012年12月下旬)の状況をレポートしたものです。
2013年1月現在、肘折へ向かうバスは通常通り温泉街まで運行されています



2012年の4月から5月にかけ計8回に及んで山形県大蔵村の肘折温泉を襲った土砂崩れは、温泉街へアクセスする県道をも寸断させ、それから半年以上もの間は途中で片側交互通行を強いられる狭隘な迂回路を通行しなければなりませんでした。
一般的な車でしたらその迂回路を通り抜ければ肘折へ辿り着くことができましたが、車体が大きく且つルートが固定されている公共交通機関の路線バスはそう簡単に迂回することはできません。では路線バスを利用する場合はどのようにして現地へ向かったのでしょうか。実際に私がバスで現地へ行って参りましたので、その様子を簡単にお伝えいたしましょう。

なお土砂崩れの状況に関しては国土交通省東北地方整備局のプレスリリース(PDF)を御覧ください。


●往路

肘折温泉への路線バスは新庄駅前から発着します。停留所で待っていると、車体の上にうず高く雪を載せたバスがやってきました。図体のデカイ車体に乗り込んだ客は私一人だけ。着席するや否や、運転手さんが「どちらにお泊りですか」と尋ねてきたので、「六助さんです」と答えると、運転手さんは「肘折では代行車に乗り換えていただくことになります。いまその代行車の方へ連絡しますから、一緒に宿の方にも送迎に来てもらうよう伝えておきますね」と代行車の手配を兼ねて無線で宿へ連絡してくださいました。
乗客が少ないので、温泉へ向かう客が乗っている時だけ代行車を動かすのでしょうけど、お宿の方にも連絡してくださるとは思わず、本当に助かりました。



この日は晴れたり吹雪いたりを小刻みに繰り返す不安定な天気が続き、駅でバスを待っている時には仰げた青空も、バスが大蔵村へ入ってゆくと数十分前までの天気が嘘のように吹雪いて、車窓の視界を頻りに遮ります。


 
大蔵村は典型的な豪雪地帯であり、その積雪の凄まじさは全国ニュースでもしばしば歳時記のような取り上げ方で報じられますが、この日もバスが走る国道の両側にはバスの車高を上回るほどの雪が壁をなし、切り通しのような状態になっていました。



坂道を登っている途中、後輪(つまり駆動輪)からカラカラと異音が聞こえてきたので、バスを止めて運転手さんが確認したところ、なんとチェーンが切れていました…。



チェーン切断というアクシデントのために予定より20分ほど遅れて終着点へ到着(上地図の地点)。
バスは肘折トンネルを抜けたちょっと先の、左折すれば寒河江方面、右折で肘折温泉街、直進は行き止まりとなる十字路まで行きますが、そこから先は進めないため、山交バスの代行車へと乗り換えます。


 
バスの代行車だからそれなりの大きさの車が用意されているものと思いきや、「どうぞどうぞ」と係員に案内されたのは、ななんとなんとレンタカーの軽ワゴンでありました。ちゃんと代行車と掲示されており、諸々の説明や時刻表まで貼ってありますので、「客が一人だけだから軽ワゴンでいいや」という判断ではなく、恒常的にこの車が使われていることがわかります。なお代行車のハンドルはバス会社の社員ではなくヘルメットを被った工事作業員が握っていました。



代行車は温泉街まで行くのではなく、温泉街へ下りてゆく仮設階段の上までのわずか数百メートルを乗せてくれるだけ(上地図の地点)。そこから先は自分の足で進むことになるのです。なぜならば、その先こそ斜面崩落現場であり、且つ「肘折希望大橋」の工事中で全面通行止めだったから。そんな短い距離なら歩いても問題無さそうなのですが、雪で幅員が狭くなっている上に工事車両が頻繁に往来するため、徒歩ではとっても危ないのです。


 
「歩行者通路」の看板の前で軽ワゴンを降り、仮設階段を下って行きます。バスの運転手さんの連絡がきちんと届いていたおかげで、お宿の方がここで待っていてくださいました。階段のステップはアルミなので多少滑りやすいのですが、しっかり雪掻きされているので、よそ見さえしなければ滑ることはありませんでした。



下りきったところから階段を見上げてみますと、結構長くて高低差もあることがわかります。私はバックパックを背負っていたので何ら支障なく歩けましたが、キャリーバッグ等ではこの長い階段を重い荷物を持ちながら上り下りしなきゃいけなかったわけですから、苦労なさったお客さんも多かったのではないでしょうか。
なお画像左上に見えている構造物は、この時点で工事中だった「肘折希望大橋」です。むき出しのH鋼が梁に使われていることからもわかるように、まだまだ供用までは時間を要しそうな状況(だとこの時点では思っていました)。


 
現地で湯めぐりの途中、「肘折いでゆ館」の駐車場から工事中の橋を眺めました。崩落現場を避けるように架けられるS字の橋によって崖上と温泉街が結ばれるのであります。吹雪いているというのに、工事は休むことなく進められていました。


 
日が暮れて真っ暗になっても槌音は止みません。一刻も早い開通を目指すべく、24時間体制で作業が続いていました。現場は照明で煌々と照らされているため、宿の窓からでもその様子がよくわかりました。
そういえば上2枚の画像のアングル、某ブログでも拝見したことあるぞ…
(おことわり:意図して真似たのではなく、偶々同じアングルになっちゃったんです)

私が「若松屋村井六助」に投宿したちょうどその日、公募していた橋の名前が「肘折希望橋」に決定され、宿の帳場にはその旨を記す手書きのメモが置かれていました。


●復路
 
さて湯めぐりを楽しんで一晩過ごした翌朝、復路のバス時刻に合わせてお宿をチェックアウトして、車で階段の下まで送迎してもらい、そして前日下ってきた仮設階段を昇ってゆきます。この日は風も雪も止んで穏やかな陽気でしたから、目の前に並ぶ何台ものクレーンはそれぞれがエンジンを唸らせフル稼働していました。


 
階段の途中で見下ろすと新しい橋桁の上に多くの人工が集まり作業が鋭意進められていました。作業員は地元のみならず全国各地から集めたそうでして、その中の一人にお話を伺ったところ「一日も早く開通させるため正月返上で作業する」とおっしゃっていました。



アームを天高く伸ばしたクレーンの向こうに、肘折のカルデラを形作る周囲の山々が美しく望めます。普段は静謐に包まれる一帯も、この日は活気あふれる槌音とエグゾーストノートが辺りに絶え間なく反響していました。



階段を登りきりました。ここから往路と同じ軽ワゴンの代行車に乗車します。


 
国道が寒河江方向と温泉方向に分岐する十字路で軽ワゴンを降ります。その先では路肩の雪壁に車体を寄せてバスが待機中でした。工事も佳境に入っていたためか重機類の搬出入が非常に多く、上画像撮影後にバスは何度か動いて重機に道を譲っていました。



往路と同じく客は私一人。


 
前日の吹雪が嘘のようにクリアな視界が車窓の向こうに広がっていました。自分で運転するとよそ見ができないので景色を楽しむこともままなりませんが、バスでしたら心置きなくひたすら車窓をじっくり眺められますね。



途中で国道の除雪に伴う交通規制に出くわしたため、定刻より20分遅れて新庄駅前に到着です。


以上が2012年12月下旬(クリスマス後)の状況でした。温泉街では「橋は1月4日に仮開通」とアナウンスされていましたが、現場を目にした私の実感では、あと1週間しか無いのにとてもじゃないけど間に合わないだろう、と首を傾げざるを得ませんでしたし、現地でも同じような声が聞かれました。しかしながら、そんな予測を見事に裏切って、まさか12月末に繰り上げ開通するとは!
 山形新聞2012年12月31日付「「肘折希望大橋」が開通、関係者が渡り初め」
大晦日という本当にギリギリのタイミングで仮状態ながらも年内開通にこぎつけたのであります。とはいえ今春に予定されている本開通に向けてまだまだ工事が行われますが、ひとまず安定したアクセスが確保されて地元の方はホッとされたのではないでしょうか。関係者の皆様のご尽力には頭が下がります。温泉街を歩きながら目にした湯煙は、実は作業員の男たちの熱き体から上がった汗だったのかもしれません。

冒頭でも申し上げましたが、現在路線バスは以前のように温泉街の真ん中まで運行されていますので、当記事で取り上げたような代行車や仮設階段を使うことはありません。ご安心を。

・肘折温泉ホームページ(アクセスに関する情報あり)
・山交バスホームページ
・山形県道路規制情報
 (肘折に関係するのは県道57号です)

コメント (2)
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肘折温泉 若松屋村井六助 後編(本館浴室・別館浴室)

2013年01月23日 | 山形県
前編「若松屋村井六助 前編(お部屋・「幸の湯」)」の続きです。


●本館大浴場

続いて本館の浴室へ行ってみましょう。


 
肘折らしく湯治宿としての側面もあり、浴場入口の前にはコインランドリーが設置されており、実際に利用しているお客さん(いかにも湯治中らしくクタクタとしたシャツを着ていたので、おそらく別館の宿泊客でしょう)もいらっしゃいました。またその傍にはなぜかぶら下がり健康器やエアロバイクなど昭和の健康グッズも置かれていました。洗濯が終わるまでの間はこれで時間を潰すんでしょうか。



畳敷きで足元が爽快な脱衣室。整然とした清潔な室内は、老舗旅館としての矜持の体現でしょう。洗面台は3基設けられ、棚も一つ一つが大きくて使いやすい造りです。


 
浴室の戸を開けた途端にアブラ的と言うべきか、何かが焦げているような香ばしい薫りが鼻をくすぐってきます。
室内は「幸の湯」と同じような重みと風格を漂わせる趣きで、壁は木造、腰板と床は黒っぽい石板貼りで、ダークな色調の建材を用いているためにシックで落ち着ける雰囲気です。小文字の"b"をカクカクさせたような形状の大きな湯船がひとつ据えられ、肘折らしいちょっと熱めのお湯が張られていました。
後述するように、こちらでは組合2号を含む4つの源泉をブレンドしており、2号泉の影響で濁りが強く槽内の様子が見えにくいためか、ガッチリとした手摺りが真ん中に屹立しています。床や浴槽の縁は目地を中心に赤茶色に染まっていました。なお"b"の右下に当たる横に広い部分は浅くなっており、更にその右側の縁からお湯がオーバーフローしているのですが、この常にオーバーフローが流れている箇所はトドになるにはもってこいでした。



洗い場にはシャワー付きのカランが4基設けられています。



浴槽の一番奥にある三角錐の石からお湯が注がれています。館内表示によれば組合源泉の2・3・4号、そして自家源泉(村井源泉)を混合して使用しているんだそうでして、オロナミンCを連想させる黄土色系の笹濁りを帯びており、濁り方の濃い2号泉が混合されているものの、室内が暗くても底がうっすら目視できるほどの透明度がありました。またブレンドの混合割合に依るのか、熱いながらも他の混合源泉より体への当たりが幾分マイルドであり、2号の金気感と強い温まりはもちろんのこと、3号や4号らしいトロミやツルスベ浴感もあり、肘折の各源泉の特徴をいいとこ取りしたような、一回で何度も美味しいアソートパッケージのようなお湯でした。


●別館浴室
 
最後に別館のお風呂にも行ってみましょう。館内の案内に従い、2階の渡り廊下で銅山川側の別館へ。



炊事場などいかにも湯治場らしい設備の前を通過。


 
階段で浴室のある1階へ。明るくて上品な旅館然としている本館とは異なり、こちらは薄暗くて鄙びており、いかにも湯治宿といった風情です。暖簾を潜って中へ入ると、脱衣室は棚があるばかりの質素な造りでした。



浴室もかなり渋い佇まい。真っ暗だったので自分で照明を点けました。女将曰くこちらはあまり使っていないそうですが、たしかに私の訪問時は床がカラッカラに乾いており、少なくともここ数時間のうちで先客が使ったような形跡は見受けられませんでした。とはいえ室内に据えられている浴槽はそこそこ大きく、そのサイズは7~8人といったところでしょうか。


 
シャワーは2基設置されているもののこの時は故障中だったため、もしシャワーを使いたければ本館のお風呂を…とのこと。


 
湯口は壁から突き出ているパイプ(画像左or上)と浴槽隅の岩(画像右or下)の2本あり、いずれからもアツアツのお湯が絶え間なく浴槽へと落とされていました。入浴客がいようといまいと、惜しげも無くお湯が掛け捨てられているところは流石が肘折です。こちらも本館と同じ混合泉なんだそうですが、2号泉の特徴がよく現れているようであり、金気が明瞭に感じられ濁りも強く出ていました。

館内で3つのお風呂を湯めぐりできちゃうので、それだけでも充分に宿泊する価値があるのですが、その中でもやはり自家源泉100%の「幸の湯」(前回記事参照)は館内の他のお風呂のみならず肘折全体で捉えても白眉と言って過言ではない宝石のような存在であり、たとえ全身が茹で上がってしまうほどお湯に浸り続けたとしても、この「幸の湯」だけは無理をしてでも何度でも入りたくなるほどの魅力と魔力を持った素晴らしいお湯でした。


組合2号・3号・4号源泉+村井源泉混合
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 55.6℃(貯湯槽) pH6.3 溶存物質2331mg/kg 成分総計2910mg/kg
Na+:587.6mg(82.24mval%), Ca++:55.1mg(8.85mval%),
Cl-:627.0mg(54.9mval%), SO4--:162.4mg(10.51mval%), HCO3-:674.8mg(34.38mval%),
H2SiO3:121.6mg, CO2:579.3mg,
(平成22年7月2日)
源泉温度が高いので山水を加水

山形県最上郡大蔵村大字南山496
0233-76-2031
ホームページ

シャンプー類あり、本館大浴場にドライヤーあり

私の好み:★★★
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肘折温泉 若松屋村井六助 前編(お部屋・「幸の湯」)

2013年01月22日 | 山形県
 
今回の肘折における湯めぐりでは、旅館「若松屋村井六助」、通称「六助」さんで一泊お世話になりました。正式名称が長いためか、お電話でも現地でもお宿の方はこの通称を名乗っており、温泉街でも通称で難なく通じてしまいます。ロクスケといっても永六輔じゃありません。


 
渋めな外観に反して館内は民芸調の装飾で鮮やかに彩られています。ロビーでは朝にセルフでコーヒーがいただけるんですね。



鉢の中では金魚が遊泳中。


 
今回案内されたお部屋は4階の一室です。館内にはエレベータがあるので上下移動はとっても楽ちん。
こちらのお宿はプランによって階層が異なっているんだそうでして、今回泊まった4階のお部屋にはエアコンとトイレが完備されていますが、3階と2階はエアコン無しでトイレは共用とのこと。
窓の外ではお向かいのお宿の屋根上で雪下ろしの真っ最中。



お食事は部屋出しなので、他の方に気兼ねなくのんびりいただけました。と言っても肘折希望大橋が開通する前のアクセス状況が宜しくない吹雪の日に伺ってしまったため、この日の宿泊客は私以外にもう一組しかいらっしゃらなかったようです。今回は3ランクある4階の料金プランのうち最もリーズナブルなプランをチョイスしたのですが、それでも焼魚・刺身・煮物・おひたし、そして口に入れるだけで蕩けてしまうとっても柔らかい牛肉のお鍋など豊富な献立が御膳の上に並び、しかもツヤツヤに輝いた白いご飯が薫り高くて本当に美味しく、大食感な私でも充分にお腹を満たせ、ご機嫌の余りに舌鼓を打ちまくりました。
なお朝食もお部屋出しですが、そちらは撮り忘れちゃいました。


●幸の湯
 
今回こちらのお宿を選んだ大きな理由の一つがこの「幸の湯」の存在でした。肘折温泉で湯めぐりしていると、多くのお宿および入浴施設が組合源泉を単独もしくは混合して引いているため、どうしてもこの組合源泉という大きな壁にぶち当たってしまいます。ブレンドしている源泉の違いこそあれ、巡ってゆくにつれて入浴できるお湯はいくつかのパターンに収斂されてしまい、次第に湯使いの違いや浴室の造りの相違を見出して楽しむといった方向性を進まざるを得なくなります。
そんな肘折にあって自家源泉を有しているお宿は非常に貴重な存在なのですが、この「六助」さんもそのひとつであり、貸切風呂「幸の湯」でその自家源泉100%のお風呂に入ることができるのであります。浴室名は昭和33年6月にこちらを利用した高松宮様が命名したんだそうです。私は中学から大学まで東京目白にキャンパスを構える菊の御紋に縁のある学校に通っていたためか、普段は同窓会のハガキを見ずに捨てちゃうほど愛校心の欠片もないのに、地方で皇族関係のものと遭遇するとどうしても気になってしまう妙な癖があります。


 
扉にぶら下がってる木札が「どうぞお入り下さい」ならば入浴可能で、裏っ返して「入浴中」だったら他の方が利用中。



綺麗で手入れがよく行き届いている脱衣室。洗面台は設置されていますが、ドライヤーの備え付けはありませんので、もし使いたい場合は次回取り上げる大浴場へ。


 
木造の浴室からは重みと風格が醸しだされています。腰板や浴槽など水回りは石板貼りです。窓を開けたら格子越しに温泉街のメインストリートが目に入ってきました。洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基取り付けられており、もちろんシャンプー類も完備です。


 
長方形を斜めに切ったような台形の浴槽は2人サイズ。二段に組まれた石の湯口からトポトポと源泉が落とされています。上述のように自家源泉である村井源泉100%のお湯が注がれ、完全掛け流しという喜ばしい湯使いです。夜間に利用したので色に関してははっきりわかりませんが、ほんのり黄土色を帯びているようにも見えるものの、底がはっきりと見える程に無色透明であり、その透明度は肘折屈指かもしれません。多くの施設に引かれている2号泉のような浴槽の縁などへの析出や赤茶色の付着も少なく、明らかに組合源泉とはかなり性格を異にしています。

お湯を口にすると甘塩味と薄出汁味、そして炭酸味が感じられ、金気もありますがかなりマイルドです。他源泉より炭酸味が強く、肌にうっすらと細やかな気泡が付着します。やや熱めだがトロトロした感触がとても心地よく、ツルスベ感もはっきり伝わり、出ようと思っても出られない後を引くなんとも言えない極楽湯でした。

今回の宿泊では夕食前に1回、就寝前に1回、そして起床直後に1回、計3回も入ってしまいました。この「幸の湯」は本当に湯浴み客に幸福感をもたらしてくれますね。素晴らしいです。


村井源泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉 43.0℃ pH6.2 溶存物質1853mg/kg
Na+:469.4mg, Ca++:40.9mg,
Cl-:454.6mg, SO4--:112.9mg, HCO3-:538.2mg,
H2SiO3:110.4mg, CO2:632.2mg,


次回へ続く
コメント (6)
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