温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

肘折希望大橋の(仮)開通直前に、路線バスで豪雪の肘折温泉へ行く

2013年01月24日 | 山形県
※当記事にて記載されている内容は、肘折希望大橋が開通する以前(2012年12月下旬)の状況をレポートしたものです。
2013年1月現在、肘折へ向かうバスは通常通り温泉街まで運行されています



2012年の4月から5月にかけ計8回に及んで山形県大蔵村の肘折温泉を襲った土砂崩れは、温泉街へアクセスする県道をも寸断させ、それから半年以上もの間は途中で片側交互通行を強いられる狭隘な迂回路を通行しなければなりませんでした。
一般的な車でしたらその迂回路を通り抜ければ肘折へ辿り着くことができましたが、車体が大きく且つルートが固定されている公共交通機関の路線バスはそう簡単に迂回することはできません。では路線バスを利用する場合はどのようにして現地へ向かったのでしょうか。実際に私がバスで現地へ行って参りましたので、その様子を簡単にお伝えいたしましょう。

なお土砂崩れの状況に関しては国土交通省東北地方整備局のプレスリリース(PDF)を御覧ください。


●往路

肘折温泉への路線バスは新庄駅前から発着します。停留所で待っていると、車体の上にうず高く雪を載せたバスがやってきました。図体のデカイ車体に乗り込んだ客は私一人だけ。着席するや否や、運転手さんが「どちらにお泊りですか」と尋ねてきたので、「六助さんです」と答えると、運転手さんは「肘折では代行車に乗り換えていただくことになります。いまその代行車の方へ連絡しますから、一緒に宿の方にも送迎に来てもらうよう伝えておきますね」と代行車の手配を兼ねて無線で宿へ連絡してくださいました。
乗客が少ないので、温泉へ向かう客が乗っている時だけ代行車を動かすのでしょうけど、お宿の方にも連絡してくださるとは思わず、本当に助かりました。



この日は晴れたり吹雪いたりを小刻みに繰り返す不安定な天気が続き、駅でバスを待っている時には仰げた青空も、バスが大蔵村へ入ってゆくと数十分前までの天気が嘘のように吹雪いて、車窓の視界を頻りに遮ります。


 
大蔵村は典型的な豪雪地帯であり、その積雪の凄まじさは全国ニュースでもしばしば歳時記のような取り上げ方で報じられますが、この日もバスが走る国道の両側にはバスの車高を上回るほどの雪が壁をなし、切り通しのような状態になっていました。



坂道を登っている途中、後輪(つまり駆動輪)からカラカラと異音が聞こえてきたので、バスを止めて運転手さんが確認したところ、なんとチェーンが切れていました…。



チェーン切断というアクシデントのために予定より20分ほど遅れて終着点へ到着(上地図の地点)。
バスは肘折トンネルを抜けたちょっと先の、左折すれば寒河江方面、右折で肘折温泉街、直進は行き止まりとなる十字路まで行きますが、そこから先は進めないため、山交バスの代行車へと乗り換えます。


 
バスの代行車だからそれなりの大きさの車が用意されているものと思いきや、「どうぞどうぞ」と係員に案内されたのは、ななんとなんとレンタカーの軽ワゴンでありました。ちゃんと代行車と掲示されており、諸々の説明や時刻表まで貼ってありますので、「客が一人だけだから軽ワゴンでいいや」という判断ではなく、恒常的にこの車が使われていることがわかります。なお代行車のハンドルはバス会社の社員ではなくヘルメットを被った工事作業員が握っていました。



代行車は温泉街まで行くのではなく、温泉街へ下りてゆく仮設階段の上までのわずか数百メートルを乗せてくれるだけ(上地図の地点)。そこから先は自分の足で進むことになるのです。なぜならば、その先こそ斜面崩落現場であり、且つ「肘折希望大橋」の工事中で全面通行止めだったから。そんな短い距離なら歩いても問題無さそうなのですが、雪で幅員が狭くなっている上に工事車両が頻繁に往来するため、徒歩ではとっても危ないのです。


 
「歩行者通路」の看板の前で軽ワゴンを降り、仮設階段を下って行きます。バスの運転手さんの連絡がきちんと届いていたおかげで、お宿の方がここで待っていてくださいました。階段のステップはアルミなので多少滑りやすいのですが、しっかり雪掻きされているので、よそ見さえしなければ滑ることはありませんでした。



下りきったところから階段を見上げてみますと、結構長くて高低差もあることがわかります。私はバックパックを背負っていたので何ら支障なく歩けましたが、キャリーバッグ等ではこの長い階段を重い荷物を持ちながら上り下りしなきゃいけなかったわけですから、苦労なさったお客さんも多かったのではないでしょうか。
なお画像左上に見えている構造物は、この時点で工事中だった「肘折希望大橋」です。むき出しのH鋼が梁に使われていることからもわかるように、まだまだ供用までは時間を要しそうな状況(だとこの時点では思っていました)。


 
現地で湯めぐりの途中、「肘折いでゆ館」の駐車場から工事中の橋を眺めました。崩落現場を避けるように架けられるS字の橋によって崖上と温泉街が結ばれるのであります。吹雪いているというのに、工事は休むことなく進められていました。


 
日が暮れて真っ暗になっても槌音は止みません。一刻も早い開通を目指すべく、24時間体制で作業が続いていました。現場は照明で煌々と照らされているため、宿の窓からでもその様子がよくわかりました。
そういえば上2枚の画像のアングル、某ブログでも拝見したことあるぞ…
(おことわり:意図して真似たのではなく、偶々同じアングルになっちゃったんです)

私が「若松屋村井六助」に投宿したちょうどその日、公募していた橋の名前が「肘折希望橋」に決定され、宿の帳場にはその旨を記す手書きのメモが置かれていました。


●復路
 
さて湯めぐりを楽しんで一晩過ごした翌朝、復路のバス時刻に合わせてお宿をチェックアウトして、車で階段の下まで送迎してもらい、そして前日下ってきた仮設階段を昇ってゆきます。この日は風も雪も止んで穏やかな陽気でしたから、目の前に並ぶ何台ものクレーンはそれぞれがエンジンを唸らせフル稼働していました。


 
階段の途中で見下ろすと新しい橋桁の上に多くの人工が集まり作業が鋭意進められていました。作業員は地元のみならず全国各地から集めたそうでして、その中の一人にお話を伺ったところ「一日も早く開通させるため正月返上で作業する」とおっしゃっていました。



アームを天高く伸ばしたクレーンの向こうに、肘折のカルデラを形作る周囲の山々が美しく望めます。普段は静謐に包まれる一帯も、この日は活気あふれる槌音とエグゾーストノートが辺りに絶え間なく反響していました。



階段を登りきりました。ここから往路と同じ軽ワゴンの代行車に乗車します。


 
国道が寒河江方向と温泉方向に分岐する十字路で軽ワゴンを降ります。その先では路肩の雪壁に車体を寄せてバスが待機中でした。工事も佳境に入っていたためか重機類の搬出入が非常に多く、上画像撮影後にバスは何度か動いて重機に道を譲っていました。



往路と同じく客は私一人。


 
前日の吹雪が嘘のようにクリアな視界が車窓の向こうに広がっていました。自分で運転するとよそ見ができないので景色を楽しむこともままなりませんが、バスでしたら心置きなくひたすら車窓をじっくり眺められますね。



途中で国道の除雪に伴う交通規制に出くわしたため、定刻より20分遅れて新庄駅前に到着です。


以上が2012年12月下旬(クリスマス後)の状況でした。温泉街では「橋は1月4日に仮開通」とアナウンスされていましたが、現場を目にした私の実感では、あと1週間しか無いのにとてもじゃないけど間に合わないだろう、と首を傾げざるを得ませんでしたし、現地でも同じような声が聞かれました。しかしながら、そんな予測を見事に裏切って、まさか12月末に繰り上げ開通するとは!
 山形新聞2012年12月31日付「「肘折希望大橋」が開通、関係者が渡り初め」
大晦日という本当にギリギリのタイミングで仮状態ながらも年内開通にこぎつけたのであります。とはいえ今春に予定されている本開通に向けてまだまだ工事が行われますが、ひとまず安定したアクセスが確保されて地元の方はホッとされたのではないでしょうか。関係者の皆様のご尽力には頭が下がります。温泉街を歩きながら目にした湯煙は、実は作業員の男たちの熱き体から上がった汗だったのかもしれません。

冒頭でも申し上げましたが、現在路線バスは以前のように温泉街の真ん中まで運行されていますので、当記事で取り上げたような代行車や仮設階段を使うことはありません。ご安心を。

・肘折温泉ホームページ(アクセスに関する情報あり)
・山交バスホームページ
・山形県道路規制情報
 (肘折に関係するのは県道57号です)

コメント (2)
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