温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

濁川温泉 新栄館

2013年01月08日 | 北海道
 
地熱発電所があることで有名な北海道の濁川温泉には、複数の温泉旅館がカルデラ地形の中に点在していますが、その中でも明治期に開業したという鄙びた老舗旅館「新栄館」で立ち寄り入浴してきました。こちらでは温泉ファンにはおなじみな骨董クラスの混浴風呂があり、往時の湯治場の雰囲気を残すその浴室で昔日の湯あみを追体験したかったのです。建物は左側から浴舎、旧館、そして新館の順。新館といっても造られたのは1986年なんだそうですが…。



旧館・新館ともに玄関があり、どちらから訪っていいのかわかりませんでしたが、とりあえず今回は新館の玄関からお邪魔することにしました。館内には人がいる気配が無かったので、受付の呼び出しボタンを押すと、しばらくしてから禿頭のお爺さんが財布を片手にやってきて、私を確認するや、こちらからの問いかけを待たずに「お風呂? 入れるよ」と即答してくれたので、話は早い、料金を支払って上がらせていただくことにしました。
ご存知の方も多いかと思いますが、この新館にある浴室は女湯に設定されており、男性客は旧館と棟続きになっている混浴の浴舎を利用することになりますので、私はお爺さんの後をついて旧館へ渡り廊下を歩いていきました。


 
新館の帳場のカウンターには、お宿の雰囲気とは縁遠そうなVISAやJCBのロゴが! ここでもカードが使えるの?


 
廊下を歩いて旧館の玄関を横切ります。



画面が全体的に右へ傾いでいるように見えますね。私もこの廊下を歩いているときには平衡感覚がおかしくなりそうでしたが、画面が斜めになっているのではなく、建物自体が傾いているんですね。相当古い建物なのでしょう。話によれば、明治大正の頃は漁で大金を手にした漁師たちが賭博を打っていた隠し部屋もあるんだとか。


 
廊下で旧館を端から端まで抜け、その先の階段を降りて脱衣室へ。津々浦々、階段を下りて浴室へ行く温泉は大抵の場合は名湯ですね。ステップを一歩一歩踏みしめる度に、期待値がどんどん上がっていきます。
このお風呂は混浴であり、脱衣室には一応男女に分けるためのパーテーションがあるのですが、ご覧のとおりあんまり意味が無いようでした。


 
室内には木板に墨書きされた昭和10年の古い分析表が掲示されているのですが、そこに記されている湧出温度が摂氏156℃ってどういうこと?
なお、その下に壁掛けされている姿見には「函館 菊泉 林合名会社」という名前が入っていました。


 
混浴の浴室は明治時代から使われているんだとか。
室内には温度別に分かれた3つの浴槽がお湯を湛えていました。浴槽は岩をくりぬいて造られたもので、長い年月にわたってお湯が流れつづけているため、浴槽も床も赤茶を帯びた象牙色一色に染まっています。



さすがに古いお風呂の上屋は相当草臥れており、天井も梁もちょっと大きな地震があったら倒れちゃいそうなほど朽ちていました。


 
シャワーなんて現代的な設備がないかわりに、ホースで導水された水が貯められている冷水枡と、源泉が樋を流れてくる掛け湯枡があって、手桶で直接汲んで利用する・・・と言いたいところですが、お湯の方は篦棒に熱くてとてもじゃないがそのまんま掛け湯できるような状態ではなかったため、この時は湯船のお湯で掛け湯しました。



浴室の窓を開けると白い湯気を上げるコンクリートの躯体が目に入ってきました。きっと源泉井でしょうね。


 
その源泉から樋を伝って浴室の隅へダイレクトにお湯が流れこんでおり、お湯がちょうど室内へ入ってきた箇所に温度計を突っ込んでみると51.6℃という数値が表示されました。ここから樋は二手に分岐し、それぞれ浴槽や掛け湯枡へと注がれます。


 
左側奥の浴槽では40.8℃。源泉に最も近いにもかかわらず、投入量が絞られているためか、3つある浴槽の中では最も低い温度です。底には固形化した粉末状の温泉成分が沈殿しており、湯船に入ってみると浴槽の底に足跡がクッキリ残りました。


 
続いて右側奥の浴槽を計測すると43.1℃。やや熱めの湯加減ですね。



石灰に覆われた床を流れるオーバーフローは、まるで自然の川みたいな流路を形成しています。まさかこの流路は人工じゃないですよね。


  
樋を流れてくる距離が一番長い脱衣所側の浴槽は、3つの湯船の中でも源泉から最も離れているにもかかわらず、温度は46.0℃と最も熱くなっていました。流入量の多さが距離による温度低下をカバーできちゃうんでしょうね。



湯面には薄っすらとカルシウムらしき膜が浮かんでいました。お湯は薄いカナリア色で、透明と表現しても差し支えなさそうな程度に弱く濁っており、口に含むと薄い塩味にアブラっぽい味と正露丸のような薬草的な味が混ざり、そしてミント系のハーブみたいな清涼感を伴うほろ苦味が感じられます。臭覚面でも味覚と同じようにミント系ハーブのような爽やかでツーンとする軽い刺激があり、それと同系のアブラ臭が嗅ぎ取れました。基本的にはアブラ的知覚を有する食塩泉なのですが、そのアブラ感が鉱物系ではなくハーブオイルのような清涼感を伴うものである点が、他に例を見ない不思議な感覚でした。
昔日の湯治場風情を追体験できるのみならず、個性的なお湯を掛け流しで楽しめる、趣深いお風呂でした。とっても草臥れている浴舎なのでいつ倒れちゃうかわかりませんが、いつまでも温泉ファンを魅了しつづけてほしいものです。
この混浴風呂は基本的には男湯として利用されているようですが、私が退館しようとすると、熟年のご夫婦が入れ替わりでご一緒に旧館の浴舎へと入って行きました。ちゃんと混浴でも利用できるんですね。


温泉分析表は昭和10年のもの以外見当たらず
(おそらくナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉)

北海道茅部郡森町字濁川49  地図
01374-7-3007

8:00~21:00
400円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (4)
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